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迷宮の魔王さま 改訂版  作者: 井戸端 康成
第三章 開催、闘神祭
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第三十話 闘神祭、開始!

第三十話 闘神祭、開始!


 群衆の熱気の渦巻く闘技場前。その人波の中で、魔王たちはしばし呆然としていた。だがずっとそうしている訳にもいかないので、彼らは気を取り直すと受付へと向かう。


 受付にはすでに列が出来ていた。いかにもといった雰囲気のシーカーたちが並んで、次々とテーブルの上の紙に記入をしている。受付待ちのシーカーたちの数はざっと二十人ぐらいはいるだろうか。


 魔王はそのシーカーたちの列の最後尾に並んだ。するとシェリカたちは魔王から少し離れ、彼に向かって叫ぶ。


「良い、あんたは深層旅団の代表なんだからね! 大丈夫だとは思うけど、頑張るのよ!」


「そうだぞ、私たちの代表なんだからな!」


「サクラの刀がかかってるんやからな!頑張り!」


「勝たないと私が儲からないわ。だから頑張る」


 四人の声援には様々な思いが詰まっていた。それを聞き届けた魔王は四人に向かって軽く手を振ると、不適に笑う。


「もちろんだ、負ける気はない」


 シェリカたちは魔王の余裕のある顔を見ると、どこか安心したような表情になった。そして、手を振りながら闘技場に向かって去っていく。魔王は彼女たちが闘技場の入口に吸い込まれたのを確認すると、改めて前を向き直した。


「次の方、ご記入をどうぞ」


 そうして魔王が待っていると、順番はすぐにやって来た。彼は受付の黒服に呼ばれるとすぐに紙に必要事項を記入していく。さらさらと流麗な筆致で、魔王は記入を完了した。


 黒服は記入された用紙を確認するため自分の顔に近づけた。だが、その記入欄の名前と書かれている部分を見ると露骨に眉を歪める。


「プロイス・フリード……」


「魔王で良い。長いからな」


「そうですか。では魔王さん、あちらの選手入場口の方へお進み下さい」


 黒服は受付の奥の方向を手で示した。そこには確かに選手入場口と貼紙がなされた入口がある。すでに受付を終えたらしいシーカーたちは、続々とそこから中へと入っていた。


 魔王は黒服に軽く会釈すると、入口へと向かうシーカーたちの中に紛れていく。そしてゆっくりと、小さな選手入場口をくぐったのだった。


 魔王が受付を終えて闘技場に入った頃、シェリカたちは観客席に到着していた。しかし、数万単位であるはずの観客席はすでにかなり埋まっていて、空席はほとんど見当たらない。シェリカたちはそんな辺りを見渡して、しまったという顔をした。


「出遅れたわね。まさかこんなに早く集まってるとは」


「私は初めて来るが……。こんなに混むものなのか?」


「一年に一度の楽しみやからね。毎年超満員で立見が出るんや。……でも困ったなぁ、これじゃあ魔王はんの活躍が全然見えへんで」


 戦闘の行われる舞台が良く見える前方の席は、例外なく人であふれかえっていた。選手の応援にきたシーカーや一般の見物人の猛者たちが、激しく押し合って席を争っている。その戦いは時折、弾き飛ばされる人が出ているほどだ。


 さすがのシェリカたちもその白熱する場所取り戦争に参戦するのはごめん被りたかった。なので彼女たちは仕方なく後方の空いている席へと移動しようとする。


 だがその時、シアがとある集団を見つけた。その集団は熾烈な場所争いの中、巨大な岩のようにがっちりと席を確保して動かない。彼らは全員、十字架の描かれた長い帽子をかぶっていた。


 その集団を見た時、シアは何かを閃いた。彼女は前を歩くシェリカたちを呼び止めると、そっと耳打ちする。


「みんな、今いくら持ってる?」


「えっ、急に何よ。何するつもりなの?」


「いいから、いくらあるの?」


 シアは有無を言わせぬ迫力で言った。まるで目から炎が出ていそうなほどだ。その勢いに押されて、渋々シェリカたちは所持金の額をシアに告げる。


「……わかったわ、私は三万ルドよ。サクラは?」


「私は一万五千だ。エルマはいくら持っている?」


「うちは二万七千やで」


「それだけあれば十分ね。ちょっと行ってくるわ」


「あっ、ちょっとどこ行くのよ」


 シアはシェリカの静止を聞かずに、さきほどの集団のもとへと駆けて行った。そして彼女は、集団の中でも一際豪奢な帽子をかぶっている老人に話し掛ける。


「神官長、シアですが四つ席を譲って頂けますか?」


「かまいませんよ。ですが……」


 神官長は手を差し出して、親指と人差し指で輪を作った。彼はその輪をシアに向けると、わかっているだろうとでも言うような顔をする。するとシアも心得たもの、神官長の望んだ通りの答えを返した。


「一席あたり二千九百八十で」


「ダメです、三千九百八十です」


「三千三百、これでぎりぎりです」


「三千五百、これが限度ですよ」


「三千四百。これで目一杯です」


「……わかりました、お譲りしましょう」


 神官長は横にいた神官たちに目配せした。四人の神官たちはすぐに立ち上がり退出していく。シアは神官長に頭を下げるとすぐにシェリカたちを呼びに行った。


「みんな、一人三千四百ルドで席を確保してきたわ。ついて来て」


「えっ、ああわかったわ」


 シェリカたちは何がなんだか良くわからないままシアに続いていった。そして、神官長に怪訝な顔をしながらもお金を払って席につく。


 シェリカたちの手に入れた席は最前列だった。そこからは闘技場全体が見渡せて、舞台もはっきりと見える。舞台の四角いタイルのわずかな欠け具合が確認できるほどはっきりだ。


 シェリカたちは席に腰を落ち着けるとそこからの眺めに満足そうな表情をした。だがその後、彼女たちはシアを複雑な目で見る。


「良い席ねえ……。でもちょっと高かったわ」


「あれでも知り合い価格で格安なのよ。……それより見て、そろそろ開会式が始りそう」


 シアは舞台に向かって走っている男を指差した。彼は黒いえんび服を来ていて、シルバーの髪をオールバックにしている。さらにその額には『実況魂』と書かれた長いハチマキを絞めていた。


 男は円筒形をした魔法具を手にして、舞台の上に駆け上がった。観客席がにわかに静まり、男に向かって視線が一気に注がれる。彼は大きく息を吸って、肺を膨らませると割れんばかりの声で高らかに宣言した。


「お~ま~た~しましたァ!! ただいまより、第二百三十回闘神祭の開会式を開始致します!!」


「うおおお!!」


 闘技場が大歓声で揺れた。声はさながら津波のごとく、闘技場を飲み込んでいく。散々待たされた群衆たちは騒ぎに騒いで、闘技場の中は留めようのない興奮に覆われた。


 だがこの嵐のような状況の中でも、さすがプロというべきか黒服の男は動ずることなくプログラムの進行を開始した。彼は群衆のざわめきにも負けない良く通る声を、力一杯張り上げる。


「まずはこの闘神祭の運営委員長であるシーカークランの長、マルト様より開会の言葉をいただきます! それではマルト様、どうぞ!」


 黒服の男は後ろの貴賓席に目をやった。すると筋骨隆々とした熊のような大男が立ち上がり、舞台をゆっくりと踏み締めるように上がっていく。そして、彼が舞台の中央につくと黒服は魔法具をそっと手渡した。大男はそれをむんずと受け取り咳ばらいをすると、闘技場の岩にヒビが入りそうなほどの大声を出す。


「諸君! 今年も闘神祭がやって来た! 今年もハイレベルで歴史に残る闘いがここで繰り広げられるだろう! 君たちはまばたきすることなくそれを目に焼き付けてくれ!  それでは第二百三十回、闘神祭の開催を宣言する!!」


「うわあああ!!」


 闘技場が爆発した。群衆のもつエネルギーが弾けて、熱狂の嵐が吹き荒れる。見物人たちはみな顔を真っ赤にして、隣と肩を組みながら叫べるだけ叫んでいた。


 こうして闘神祭は熱狂と興奮の渦巻く中で始まったのだった。



 雰囲気を出そうとしたらなかなか話が進まない……(涙)



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