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迷宮の魔王さま 改訂版  作者: 井戸端 康成
第二章 激戦、巨大龍
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第二十一話 開戦、巨大龍!

第二十一話 開戦、巨大龍!


 深層旅団の初陣の翌々日。今日も変わらず厳かな雰囲気のただよう神殿は、朝にも関わらず人で混雑していた。そしてその混み合う建物中央にある祈祷の間に、魔王たちの姿があった。


 ステンドグラスから差し込む朝日で大理石が白く輝き、中央にそびえる女神像が彼らを見下ろしている。八角形をした祈りの間は女神に見守られて、白い輝きに満ちていた。


 その神聖で引き締まった雰囲気に、魔王は仏頂面をしていた。そして、隣のシェリカを恨めしそうに見ている。


「もう帰っても良いか?」


「まだお祈りしてないじゃない。大きな戦いの前に加護神様にお祈りするのはシーカーの常識よ」


「ううむ……」


 シェリカは唸る魔王を放置して、女神像にお祈りを始めた。他の三人もそれに続いて祈り捧げる。この女神像というのは特定の神を表したものではなく、様々な神を象徴的に表すものである。そのため、四人が一緒にお祈りできるのだ。


 他のメンバーが全員お祈りを始めたので、仕方なく魔王も混沌神に祈りだした。固く目を閉じ、胸の前で手を組む。そしてしばらくの間、だまって心を無にした。


「終わり。これで良いわ」


 シアはそういうと身体を伸ばした。そして入口に向かって歩いて行く。魔王たちもシアに従って祈祷の間から出ていこうとした。すると、入口で良く見慣れたシーカーの集団とすれ違った。胸元に銀のブローチを輝かせるその姿は、紛れもなく聖銀騎士団だ。


「おやおや、シェリカさんじゃないですか。聞きましたよ、最近ギルドを設立したそうですねえ。まったくめでたいことですよ」


 ユリアスは口元を手で抑えて高笑いをした。その目は嫌みったらしく歪んでいて、底知れぬ不気味さを醸し出している。シェリカはそのユリアスの態度に露骨に顔をしかめた。


「そう、祝ってくれてありがと。……それは良いとしてユリアスはなんでここにいるの? あなたたちが神殿に来るなんて珍しいけど」


「いえいえ、今日は闘神祭の必勝祈願に来たのですよ。大会の一週間前から毎朝祈るのが私たちの流儀ですからね。むしろ、あなた方こそどうして神殿にいらっしゃってるのですか?」


「五十階層の龍と戦うから祈りに来たのよ」


 シェリカは重々しい声でそう言った。それと同時に彼女はユリアスに向かって剣のような鋭い殺気を送る。だがユリアスは大袈裟に驚いたような顔をしただけであった。


「ほう、五十階層の龍ですか。そういえば最近話題ですものねえ。あなた方が倒してくれるならありがたいことですよ」


「ほんと白々しいわね……。まあいいわ、忙しいからさようなら」


「そうですか、ならばご機嫌よう。勝てることを祈っておきますよ」


 シェリカは隣にいた魔王の腕を掴んだ。そして腕をぐいぐいと引っ張り、どたばたと床を踏み鳴らしながら神殿を出て行く。辺りにはユリアスたちだけが残された。


 残されたユリアスは脇に控えていた若い女の方を向いた。いつぞやの、魔王たちを陰から覗いていた女だ。今日も長い傘を手にしていた彼女に、ユリアスは笑いながらゆっくりと話し始める。


「計画は順調のようですね。後はあのシェリカが死なない程度に龍にやられれば計画完了。……アイリスさん、調整や準備に抜かりはありませんね?」


「万全です、まったく問題はありません」


「ほほほ、それはよかった。吉報を楽しみにしてますよ」


 ユリアスは目を細めると凍えるような笑みを浮かべた。そして祈りの間に向かってゆらりと歩き始める。そのあとをアイリスと呼ばれた女を筆頭にギルドのメンバーたちがぞろぞろと続いて行ったのだった。


★★★★★★★★


 ギルドや神殿のある場所から迷宮へと続く道の上。その石畳の迷宮へと向かうシーカーたちが激しく往来している。シェリカたちもそんなシーカーたちのグループの一つだった。


 シェリカは路上を無言でただひたすらに歩いていた。その口はヘの字に曲げられていて、目は引き攣りそうなほどである。どうやらシェリカの機嫌はかなり悪いようだった。


「もうっ、なんだか腹が立つわね! あいつはどうしてああも気味が悪いのよ!」


「落ち着け、良くあることだ」


「良くあることって……。そんなにはないわよ!」


「それは言葉の綾だ」


「むう……」


 シェリカと魔王のくだらない言い争いはなかなか終わらなかった。もっともそれは傍から見ていると微笑ましいレベルのものだったので、誰も止めようとしなかったのが原因であるが。


 だが、それも終わる時が来た。いよいよ五人が迷宮の前へと到着したのである。


「二人とも、迷宮に着いたわ。だから気持ちを切り替える」


「そうやで、ほらあれ」


 エルマが見慣れたモニュメントのような迷宮の入口を指差した。それはもうすでに目前に迫っている。しかしシェリカはどこか気恥ずかしそうに二人を見て言った。


「今、良いところなのよ。もうちょっとだけ」


「ダメ」


「ダメやで」


 シアとエルマはきっぱりと何のためらいもなく断言した。妥協するつもりは一切ないようだった。だが、その二人の様子を目にしてもシェリカはどこか残念そうな顔をしていた。相当に議論が白熱していたようである。なのでだろうか、シェリカと同じく魔王もまた微妙な顔をしていた。


「二人ともテンション低いで……。しゃあない、こうなったらうちのとっておきの方法で気分を盛り上げたるで!」


 エルマの目ににわかに炎が燃えた。彼女はそのまま手早くみんなに円陣を組ませる。そして、自分もその輪に加わって高らかに宣言した。


「龍を倒すぞー!」


 冷たい沈黙が訪れた。ここは人々の集まる広場の真ん中。エルマ以外の四人は恥ずかしくて口をもぐもぐとさせるのが精一杯だった。


 だが、ノリと笑いにうるさいエルマがそんな四人を許すはずがなかった。


「みんなノリ悪いなあ。ほらおーとかなんか言うてみ!」


「お、おー!!」


 エルマの勢いに押された四人は、まごつきながらも掛け声をかけた。威勢の良い声が広場に響き、高い空に吸い込まれていく。


 こうして五人は龍と戦う前に、わずかながら団結感を感じたのであった。


★★★★★★★★


 迷宮第五十階層。そこには異様な緊迫感が充満していた。岩や地面からむせかえるような猛烈な魔力が放たれていて、空気が澱んでいる。クリスタルで転移した途端に襲ってきたその魔力の波に、五人の緊張が張り詰めた。


 五人が忍び足で探索を始めると、すぐ目の前に圧倒的な存在感を放つ門があった。高さは人の背丈の五倍ほど、横幅はその高さの三分の二ほどの鋼鉄製の門だ。赤錆の浮いているその門の向こうからは、圧倒的な存在感が伝わってきていた。


「この門の向こうに間違いなく龍がいるわね。みんな、準備はいい?」


「もちろん!」


 四人の声が寸分違わず重なった。シェリカは頷くと、ゆっくり門を押す。すると門はシェリカたちの訪れを待っていたかのように何の抵抗もなく開いた。そしてついに龍が姿を現す。


 太古より続く大地を思わせるごつごつとした外殻に、氷よりなお冷たく光る牙。その目は研ぎ澄まされた刃のように冷徹で、哀れな獲物を逃さない。その山のような身体から吐息がこぼれるたび、迷宮の地面がわずかに揺れた。


 龍は目の前に現れた五人を一瞥した。そしてぱらぱらと砂や埃を落しながらのっそりとその巨体を起こす。すると……。


「グギャアアア!!」


 小癪な侵入者にたいして、龍の悍ましい雄叫びが大気を切り裂き、洞窟を壊さんばかりに轟き渡った。まるで哀れな獲物への死刑宣告だと言わんばかりである。だが五人はこれを聞くやいなや、龍へと向かって走り出した。


 こうして魔王たちと龍の戦いが始まったのである……。



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