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迷宮の魔王さま 改訂版  作者: 井戸端 康成
第一章 来訪と出会い
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第十五話 集まる仲間

第十五話 集まる仲間


 闇に沈んだ夜のスラム街。ヒヤリと風が吹き抜けるその真っ只中に、魔王たち三人はいた。三人とも、前方にいるサクラと大男の様子に視線が釘付けになっている。特に具体的には、竹光によって斬られたとおぼしき剣に視線を注いでいた。


「魔王、何が起きたのよ!」


「気をつかったのだな」


「気? でも気を使っても竹じゃ鉄を斬るのは無理よ」


「ふふふ、それがサクラにはできるのよ」


 シアが突然、魔王とシェリカの会話に割り込んできた。そしてさらに気味の悪い笑みをこぼす。そのシアの表情にシェリカは容赦のない目を向けた。


「どういうことなの?」


「サクラはああ見えて千年続く対鬼剣術の流派、北神星明流の継承者。愛用の『秋雨』でなら金剛石だって斬れると豪語してるほどの達人なの。だから気を纏わせた武器で剣を斬るぐらい、簡単なはず」


「へえ……。凄いのね……」


 シェリカは感心したように頷くと、サクラに憧憬にも似た眼差しを送った。その目は純粋で曇りはまったくない。


 一方、見られている方であるサクラの側には少し変化があった。呆然としていた大男が突然、サクラに詫びを入れてきたのだ。


「ゆっ、許してくれよ……なっ頼む! 」


 大男は地面に血がでそうな勢いで頭を擦りつけていた。その大きな身体が卑屈に小さくなっているのは、いかにも哀愁が漂っている。その背中は冷や汗なのか尋常でなく濡れていた。


 大男の情けない姿と言葉にサクラは何も言わずに竹光をしまう。その目は男に呆れたようだった。それに助かったと思った大男はサクラにヘイコラ頭を下げて走り去っていく。


「まったく。困った奴だ」


 サクラは肩をすくめてため息をつくと、酒場の中へと戻っていこうとした。そこでシアがサクラの肩を叩き、声をかける。


「サクラ」


「おおっ!? これはシア殿。……すまぬが金の都合はまだ……。酒場でのバイトの話が上手くいかなくてな……」


 サクラはシアに気がつくと申し訳なさそうに頭を下げた。さらに両手で拝むようにして、上目遣いでシアを見る。達人といえども、金を借りている以上シアにサクラは頭が上がらないらしい。


「今日は別にお金の催促に来たんじゃないわ。ほら、二人ともこっちに来て」


 シアはサクラに顔を上げさせると、魔王たちを呼んだ。サクラは近づいてきた魔王たちをきょとんとした表情で迎える。


「この方たちは?」


「私のシーカー仲間よ。今一緒にギルドを立ち上げようとしているの。こっちがシェリカで、こっちが魔王。仲良くして」


 シアは二人の紹介を簡単にした。それにサクラは納得すると、乱れていた着物を整えて自身も自己紹介をする。


「そうか。私はサクラ、東方から来た侍だ。修行の旅であちこちを巡っていて今はこの街でシーカーをしている……と言いたいところだが、荷物を全部盗まれてしまってな。見ての通り、迷宮にも潜れずその日暮らしだ」


 サクラはそういうと顔を俯けてしまった。嫌なことを思い出してしまったようだ。場が何となく気まずい雰囲気となり、四人は沈黙した。しばらくして、沈黙に耐え兼ねたシェリカが場の空気を変えるべく話を切り出す。


「……えーと、サクラさんだっけ。今、シアも言ったと思うけど私たち仲間を探しているの。あなた強そうだし、仲間になってくれないかしら」


「う~ん、困るなぁ……。今の私にはまともな得物すらない。こんな状況で仲間になっては迷惑をかけてしまう」


「迷惑なんかじゃないわよ! 高いのは無理だけど安い刀ぐらいなら用意してあげるわ」


「しかしそこまで世話になるのは……」


 サクラは押し黙った。首を前に傾けてウンウンと唸っいる。提案を受けるべきかどうか考えているようだ。だがそこで、魔王が囁きかけるようにつぶやいた。


「借りた物は返せば良い。だが、時は還らぬぞ。決断は早くすることだ」


 魔王の言葉が重々しい響きをもってサクラの心に染み入った。すると、サクラの目が変わった。そしてゆっくりと顔を上げる。


「……わかった。このサクラ、武士道に誓ってそなたらの仲間となろう」


 サクラはそう仰々しく宣言したあと、はにかんだような笑顔を見せた。三人もそれに微笑みで応える。


 こうして、また新たな仲間が増えたのであった。


★★★★★★★★


 迷宮都市の北地区。俗に富豪街と呼ばれるこの地区の端に、シェリカの家は今日も変わらず佇んでいる。シアもサクラも今日からこの屋敷に泊まることになった。しかし……


「ひどい……詐欺なの。富豪街の家なんて言うから期待してたのに……。とってもか弱い私にこんな劣悪な環境で暮らせというのね」


「す、すばらしい家だな! えっと……とにかくすばらしい家だ!」


 ボロボロの屋敷の様子に、嘘泣きをしてごねるシアに強張った顔で必死に褒めるところを探すサクラ。その様子に、シェリカは額に指を当てて呆れた。


「はあ、騒いでも家は立派にはならないわよ。ほら、さっさと入るわよ。いい加減あきらめなさい」


「むう……儲かったら手入れさせてもらうわ」


 きっぱりとした態度で言い切ったシェリカに、シアも膨れながらもあきらめた。サクラも若干の家の雰囲気に引き気味になりながらも、家の門をくぐり抜ける。


 その後、シェリカの案内した部屋にシアが恨み言を言ったり騒いだりしたが、サクラは慣れているのかこれといって文句を言うことはなかった。そのため、シア以外の三人はそれなりに平穏な朝を迎えたのであった……。



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