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迷宮の魔王さま 改訂版  作者: 井戸端 康成
第一章 来訪と出会い
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第十三話 真っ黒神官シア

第十三話 真っ黒神官シア


 昼過ぎになり、けだるい太陽が迷宮都市を満たしている。その光をうっとうしく思いながら、魔王は自室の椅子で物思いに耽っていた。するとバタバタと足音が近づいてきて、部屋のドアがトントンとノックされた。


「魔王、入っていいかしら」


「構わぬぞ」


「そう、お邪魔しま~す」


 シェリカは部屋に入ると、わきに挟んでいた何か薄い紙を広げた。そしてそれを魔王に見せる。魔王はそれを見ると怪訝な顔をした。


「それは?」


「チラシよ、さっき作ったの。見てみて」


シェリカはそのチラシを魔王に差し出した。魔王はそれを受け取るとすぐにサッと目を走らせる。


「なるほど、良くできているな。だがこれには具体的なことが書いてないが良いのか?」


 魔王はシェリカに不安そうな目を向けた。シェリカが渡したチラシには色鮮やかな文字で『パーティーメンバー募集中! 詳しいことは一番通り八番地のシェリカ宅まで』としか書かれていなかったのだ。


「詳しいことを書こうにも、紙に書くような実績がないじゃない」


 シェリカはそう言ってふうっとため息をついた。魔王はたしかにそうだと言葉に詰まる。その魔王の様子にシェリカはニヤっと笑った。


「ま、そんなこと気にしないでいいわよ。チラシに頼れない分は私達が直接勧誘すれば良いんだから」


「たしかにそうだ」


 魔王は目を細め、微笑んだ。それにシェリカも頷く。そうして二人は話し合いを終えると、朝食を片付け、出かけていったのだった。


★★★★★★★★


 シーカーたちで今日も混み合うシーカークラン。その片隅にある掲示板に、シェリカと魔王はチラシを貼っていた。魔王がチラシを抑え、シェリカがその四隅をピンで固定していく。


「これでよし! さあ、勧誘しに行くわよ!」


「そうだな。だがどこへ勧誘しに行くのだ?」


「そうねぇ、まず最初は神殿かしら」


「神殿? どうしてそんなところへ行かねばならぬのだ?」


 魔王は露骨に眉をひそめた。神殿が嫌いな魔王にとっては死活問題だった。しかし、シェリカはそんな魔王を軽くいなした。


「まず必要なのは回復役よ。それには神殿の神官が最適なの。だからよ」


「それはそうかも知れぬが……。神官という人種は苦手だ」


「苦手って……。神官はたいてい良い人よ? すぐに仲良くなれるわ」


 シェリカはそれだけ言うと渋る魔王を引っ張って行った。その途中からは魔王も諦めたのだろう。ゆっくりとではあるが自分から歩き出す。


 そうして神殿へと向かって歩く二人。だがその姿を、クランに集まるシーカーたちの陰から見守る者がいた。


「いいわね……ユリアス様の計画通りだわ……。ふふふっ」


 闇色の傘を手にした妖艶な女は、その白く怪しい美しさを持つ顔を歪めて笑った。そのこぼれ落ちそうな豊満な胸元には銀のブローチが冷たく輝いていた。


★★★★★★★★


 昼過ぎという時間のせいか、人影も疎らな神殿。その中にシェリカと魔王が入ってきた。二人はそうそうに通路の端に移動すると、話し合いを始める。


「いい、優秀そうな神官を狙うのよ。ただし、あんまり偉そうに見える人はやめてね」


「ふむ、わかった」


「よし、じゃあ勧誘するときは……」


 シェリカは口に手を当ててじょうごのような形を作った。そしてそれを魔王の耳へと近づける。魔王の方も彼女の方へと頭を移動させた。だがその時、二人の後ろから不意に声がした。


「何をやっているの?」


 二人が振り向くと、後ろにはいつかの腹黒そうな神官がいた。彼女はどことなくだるそうに二人の顔を覗き込んでいる。シェリカが辺りを見回すと、神殿にいた人の大半がシェリカの方を見ていた。その恥ずかしさのあまり、シェリカは思わず顔を紅潮させる。


「たっ、大したことはないわよ!」


「ふふ、そう。ならかまわないわ」


 神官はにっこり笑って満足そうにそう告げると、神殿の奥へと去っていった。神官がいなくなるとシェリカと魔王は一息ついて、気を取り直す。


「恥ずかしかった……。さてと魔王、神官を勧誘するわよ。私があっちに行くからあんたはあっちで頼むわ」


 シェリカは魔王と反対側を指差していった。魔王はそれに深く頷いて了解する。二人は二手に別れて歩き出し、神官の勧誘を始めた。


「はあ……なかなか難しいわね……あんたの方は?」


 数時間後、シェリカがくたびれたような顔をして戻ってきた。力の抜けたような様子からして、勧誘は上手くはいかなかったようだ。それにたいする魔王もろくな結果ではなく、肩をすくめて首を横に振る。


「はあ……」


 二人の口から同時にため息が漏れた。あきらめにも似た停滞感が二人を覆う。不安だけが今の二人の友達だった。


「あなたたちまだいたのね」


 さっきの神官が二人に声を掛けてきた。声には少しの呆れと、何をしているのかという興味が多分に含まれていた。


「さっきの神官さん? 実は私達……」


 シェリカが神官の質問に自分達の事情の説明を始めた。龍が目覚めたこと、自分達がそれと戦うべく仲間を集めていること……シェリカはそういった事柄をある程度神官に話してしまった。


 すると神官は口元を抑え、くすくすと笑いだした。とても神に仕える者とは思えない底知れない笑いだった。


「くすくす……面白そうだわ。……そうね、シーカーって儲かるの?」


 シェリカが説明を全て終えたところで、神官はニタニタとしながらそう言った。シェリカはその質問に妙な顔をしたが、すぐに答えた。


「たぶん儲かると思うわよ」


「具体的にいくら?」


「週に三、四回探索して一回あたり七万から八万ルドかしら」


「……!」


 神官は蒼い目を極限まで見開いた。そして、懐からそろばんを取り出すと神業的な速さで弾く。やがてその計算が終わると、彼女は花が咲いたような満面の笑みで二人に告げた。


「私が仲間の話を引き受けるわ。私はシア、よろしくね!」


 その時、シアの目には大きくルドのマークが浮かんでいるように二人には見えた。



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