第十二話 仲間の必要性?
第十二話 仲間の必要性?
五十階層の龍の復活は、逃げ延びた四人のシーカーたちによって即座にクランに伝えられた。その噂はたちまち迷宮都市中に広まり、シーカーたちに騒ぎが広がる。その騒ぎの範囲には、シェリカや魔王も含まれていた。
「なんでも五十階層にいた龍が復活したそうよ……」
朝日に照らされたシェリカの家の食卓。そこでシェリカが困ったように切り出した。その顔はしょんぼりとしていて、元気がない。昨日、クランに張られた貼り紙を彼女は見たのだ。
だが、そんなシェリカの顔を見ても魔王はまったく動揺しなかった。そして彼はスープを一口啜るとシェリカの方にゆっくりと振り向く。
「大丈夫だろう。昨日の貼り紙にはすぐに対策をすると書かれていたではないか」
「確かにそうだけど……」
魔王の言う通り、貼り紙には確かに対策をすると書かれていた。だが、シェリカにはどうにも嫌な予感がしたのだ。それに、貼り紙にしても対策しませんなどと書くはずないのだから、あてにはならなかった。
シェリカが内心で不安になっている一方で、魔王はいつもと変わらぬ様子であった。温かいパンとベーコンエッグを行儀良く食べて、時折スープを啜る。しばらくして、それが無くなると、彼は探索の準備をするために部屋へと戻っていった。
そのまったくいつもと変わることのない超然とした態度に、シェリカは呆れたような感心したような不思議な気分になった。だが、そうして感慨に耽っているわけにもいかないので彼女も出掛ける準備をする。
こうして出掛ける準備をした二人は朝からクランへと出掛けていったのだった。
★★★★★★★★
シーカークランにあるクエスト専用のカウンター。朝からたくさんのシーカーたちが出入りしているそこで、クランの職員とシーカーたちが揉めていた。おなじみの受付嬢とユリアス率いる聖銀騎士団である。
「これは……一体……」
「書いてある通りですよ。なにぶん我々も忙しいものでしてね」
「しかし、これは……!」
受付嬢はさきほどユリアスから手渡された紙を手に憤慨した。そこには大きく『依頼辞退届』と書かれている。ユリアスたち聖銀騎士団は、クランの出した龍討伐の依頼を受けないつもりなのだ。
普通、このようなクランからの依頼は義務でこそないが引き受けるのが通例だ。それを突っぱねられたのだから受付嬢が怒るのも無理はなかった。
だがユリアスも彼女が怒ることくらい計算済みだった。彼女は口元を歪ませてにやりと笑うと、そのまま畳み掛けるように受付嬢へ話を始める。
「闘神祭まであとだいたい三週間。我々はその間、少しだって危険を冒すわけにはいきません。なにせ四連覇がかかってるのですからね。それくらいあなただってとっくにご存知のはずですよ」
「それはそうかもしれませんが……」
ユリアスの主張は筋が通っていた。そのため受付嬢は言葉に詰まってしまう。しかし、彼女はここで認めるわけにもいかなかった。ユリアスたちが辞退すれば、他のギルドも辞退するのが目に見えていたからだ。
なので彼女は険しい顔をしたまま引き下がらなかった。すると、ユリアスの顔がだんだんと険しくなっていく。そしてその迫力に受付嬢が押され始めた時だった。
「まったく……。とにかく無理な物は無理なのです。ちゃんと言っておきましたからね。それではみなさん、帰りますよ」
ユリアスは苛立たしげにそれだけ言い残すと、ギルドのメンバーたちを引き連れてクランから出ていった。そのあとには呆然とした表情の受付嬢だけが残される。するとその時、魔王とシェリカがクランの中に入ってきた。
「あら、どうしたの? ぽかーんとした顔して」
「あっ、シェリカさん! 実はですね……」
受付嬢は話かけてきたシェリカたちに事情をすべて説明した。するとシェリカの顔がどんどんと赤くなっていく。ユリアスたちの行動に怒っているようだった。
「あいつ何を言ってるのよ! 私がガツンと言ってきてやるわ!」
義憤に燃えたシェリカは、足を踏み鳴らしながらユリアスの元へと歩いて行こうとした。その顔は赤く額に何本ものしわが寄っている。どうやら相当腹に据えかねているようだった。しかし、そんなシェリカの肩を魔王の手が掴んだ。
「ちょっと何をするのよ!」
「そなたが怒ったところでユリアスは態度を変えないだろう」
「だからって放っておくのはダメよ! 龍は誰が倒すの?」
「ううむ……」
魔王は少しばかり困ったように頭を捻った。彼は顎に手を当ててしばらく考え込む。そして、魔王が考えたあげく自分で倒そうと思った時、シェリカが妙案を思いついた。
「そうだ魔王。私たちで新しくギルドをつくってさ、それでこの依頼を受ければ良いのよ! どのみち五十階層はいかなきゃならないんだし。魔王もいるし、強いメンバーを集めればきっとなんとかなるわ」
シェリカはそういう魔王と受付嬢を交互に見回した。受付嬢の方は顔が明るくなり、すぐに頷く。そして、遅ればせながらも魔王も頷いた。
「そうだな。今ここを仲間を作っておくと後々に役立つかも知れぬ」
「よ~し、決定。じゃあ早速メンバーを三人集めるわよ。ギルドは五人以上じゃなきゃ登録できないんだから」
シェリカは魔王それだけ言うと、さらに準備することがあるからといって家に帰っていった。魔王も受付嬢に別れの挨拶をするとシェリカのあとを追いかける。
こうして二人はギルドを結成するべく仲間を集めることとなったのだった。