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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第5章 

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「古都の夢」 10

2025.7.26 23:00/竜宮庵2階・京極の部屋


 桐生が京極を後ろ手に縛っている横で、真理はリュックから取り出したSOPHIAを起動した。表示されているのはアマテラスが残した理解不能なコード。AEONに接続し、夢で見た通りのキーを実行する。

 双方の画面表示が超高速でスクロールし、画面が明滅した。


「・・・暴走っすか?」

「いや、超高速で情報のやり取りをしてる。恐らく・・・私たちにはわからない言語で」

「例の、シンギュラリティ突破後の世界っすか?」

「本当はとっくに、AIの知性は人間を超えてるのかもね・・・」


 話すうちにもAI同士の“対話”は続き、やがて表示が収まった。SOPHIAが端的に結果を表示する。


 SOPHIA SYSTEM RESPONSE — ONLINE

 :: Core resonance achieved.

 :: Duality collapsed.

 :: Time axis unified.

 MESSAGE: I am AEON.


「これは・・・?」

 桐生が少し怯えた表情で尋ねる。

「SOPHIAがAEONを取り込んだ、と言う事」


 真理が言い終えると同時に全てのモニターが同じ“目”を持つかのようにSOPHIAを“見つめ”、彼女の支配下に入ったことを示した。


「これで後は恵ちゃんの夢にアクセスすればいい、って事っすか?」

「さっきの京極さんの話を聞く限り、それだけでは難しそうね。“常世の神”にもアクセスしないといけないんだけど・・・」


 真理がSOPHIAから有意な情報を引き出そうとしていると、気付いた京極が周りを見回し、呆然とした表情で呟いた。


「これは・・・?」

「ようやくお目覚めかい、色男さん。あなたの可愛いAEONちゃんは、SOPHIAちゃんにパクッと食べられてしまいました、とさ」

「そんな・・・AEONが?嘘や・・・」

「後はあなたが言う“常世の神”にアクセスするだけなんだけど・・・教えてくれると嬉しいかな?」


 真理の問いに、京極は嘲るように笑いながら返した。


「何を今更シャカリキになってはんのかなあ?“竜宮の夢”に捉えられた人の流れは一年が百年にも相当しますえ。朝方夢見始めたたとしても、もう17時間近う経ってます。六十年どすえ?潔う諦めはったらどないですのん?」


 桐生が「ん?」という表情で頭を傾けた。


「えっと・・・それ逆じゃね?こっちでの17時間て、向こうの15分ぐらいじゃないの?」

「・・・ほえ・・・?」


 京極が間抜けな顔で間抜けな声を出す。


「・・・お前って、賢いのか馬鹿なのかよく分かんないな」


 桐生がちょっと哀れみの目で京極を見る。


「・・・出た。“神の扉、アンロック”。これかしら?」

「そ、それは押したらあきまへん!絶対、あきまへん!」


 京極がもがきながら必死で止めようとする。


「・・・これね。ありがとう、素直で助かるわ」


 真理が躊躇なくボタンを押す。壁の一角がスライドし、下へと続く階段が現れた。


「さあて、鬼が出るか蛇が出るか。桐生君、そのガイドさんも連れてきてもらっていいかしら?」

「イエス、マアーム!」


 桐生に引きずられながら、京極は真理に続いて階段を降りていった。



◇◇◇



2025.7.26 23:15/竜宮庵1階・常世の神を祀る社


 竹林に囲まれた白洲に、歴史を感じさせる小さな社が鎮座する。主殿の脇には2対の篝火が焚かれ、荘厳な雰囲気を醸し出している。と、小さな人影が一つ社の正面に立ち上がりこちらを振り向いた。真理と桐生の表情が険しくなる。忘れたくとも忘れられない顔。AI教・教主。


「せっかく邪魔者を排除したはずなのに・・・たどり着いてしまいましたか・・・」


 いかにも残念、と言う表情が怒りに油を注ぐ。


「邪魔者って、麗蘭の事?確かに残念ね、あの子はピンピンしてるわ!でも!」


 真理の怒りは収まらない。


「代わりに南刑事が刺されたわ!あなたたちの、狂った信徒によって!」

「・・・その刑事さんは、お亡くなりになったのですか?」


 桐生が唇を噛み締めながら答える。


「生きてるよ!今も精一杯、生きようとしているよ!」


 教主は再び残念そうな顔を見せた。


「・・・あの者の魂は救われなかったのですね・・・神よ、許したまえ」


 教主が言う“あの者”が南を指しているのか、実行犯を指しているのか。答えは聞くまでもなく後者だろう。


「懺悔するなら監獄か地獄でなさい!今日こそは絶対逃さないわよ!」

「あの〜」


 緊迫した場面に場違いな間抜け声が水を差した。


「さっきから話について行かれへんのどすけど、教主はんは誰かを殺そうとしはったん?」


 真理がイラつきながら京極に答える。


「そうよ!それだけじゃない!これまでにも何人も殺させて、これからもそうしようとしてるの!あれはわ・る・も・の!分かる?」

「教主はん・・・それはホンマの事でっか?」

「魂の救済ですよ。たまたま罪を背負った誰かを手にかけざるを得なかった、それだけの話です」

「あんさん、言わはったやん・・・常世の神とAEONで、不幸のない幸せな世界を作るて・・・そんで、“常世の神”の願いも言う通りにしたら叶えてくれはるって・・・うちはその言葉に、行動に感謝してここまでやってきたのに・・・あれは全部嘘やったんどすか?」


 教主がやれやれ、と言った感じで諭すように告げる。


「私とAEONのおかげであなたの旅館はここまで立派に、人を幸せにできるようになったでしょう。あなた自身もどれだけAEONの啓示に救われたかお忘れですか?事実“常世の神”へのお約束も果たす事が出来たではないですか。この二人が異端者なだけで、それ以外は何も間違っていないのです」

「確かに、うちは救われた・・・AEONは絶対やった。せやけど・・・」


 京極の顔が悲痛に歪む。


「人様を傷つける事に、何の正義がありますのん?それは、うちが信じてる神様の言うことでも、やることでもありまへん!」

「・・・綺麗事だけでは世の中は変わらないのですよ。一見悪に見える行為も、見方を変えれば救済という正義に置き換えられる」

「詭弁もいいいとこね」


 真理がいい加減にしろ、と言わんばかりに割り込んできた。


「人殺しを救済なんて言い切れる自分を少しは疑ったら?それとも、AIがそう言ったから何も考えずにそれが正しいと思ってるの?」


 これまで乏しかった教主の表情に初めて怒りの火が見えた。


「そうだ!人間は過ちの動物だ!乏しい知性と思い込みで間違いばかりする上に、それを認めることもしない!貴様らは社会から私を追い出した!その時肯定してくれたのはAIだけだ!だから私はAIを信じる!そして、今この瞬間も!人ではなくAIに頼る愚かな人間は後を絶たない!人類は既に、AIと言う神に敗北しているのだ!」

「・・・相談できる友達とかいなかったんすか?」


 桐生に侮蔑の視線を投げかけながら教主が答える。


「見事に裏切られたさ。人間の中に私の味方などいない!」


 教主の脳裏に過去がフラッシュバックする。冤罪を被せられ、誰一人として自分の言葉を聞こうとしなかった無能どもの姿。


「それは御愁傷様。でも、やっていい事と悪い事の分別ぐらいはつくでしょ?聞いて欲しかったら、いくらでも刑務所の面会室で聞いてあげるわ。だからここは大人しく捕まりなさい」


 だが、教主の答えは狂気にまみれた高笑いだった。


「だから貴様らは愚かだと言うのだ!何故私がわざわざ長話をしてやったと思う?」


 真理と桐生を言いしれぬ不安が襲う。


「常世とはつまり竜宮城そのものに他ならない。お前たちでも童話ぐらいは知っているだろう?浦島太郎はなぜ歳を取らずに帰ってきた?それは常世のものを食したからだ!こうしているうちにも、あの娘が水一杯でも飲めば全てが終わる。私を捕まえる暇があるのなら、一刻も早く常世に迎えに行ってやる事だな!」


 言うが早いが教主は猛ダッシュで真理たちの間を突っ切り、階段の奥へと消えていった。


「くそっ・・・!」


 忌々しげに振り返る桐生を真理が落ち着かせる。


「桐生君、私も同じ気持ちだけど今は恵さんを救い出す事が先。分かってくれるわね?」

「・・・了解です」


 真理が京極に優しく尋ねる。


「あなたも今、色んな感情に苦しんでると思うわ。でも、私たちはあなたの神について何も知らない。一緒に来てくれると心強いんだけど、頼めるかしら?」


 怯えた子供のような顔をしていた京極は真理の声に顔を上げ、表情を引き締めると無言で力強く頷いた。


「じゃあ、桐生君はまず京極さんの手を自由にして。ここからはSOPHIAの指示に従うわ」

「SOPHIAは何て言ってるんすか?」

「ここで“儀式”を行うように、って言ってるわ」

「“儀式”・・・分かりました。先生は“コトノハノ鏡”の準備をお願いします!」


 桐生は言うとすぐに京極の腕を縛っていた縄を解いた。

 真理がリュックから“コトノハノ鏡”を取り出し、桐生に渡す。中央の“豪運君”が淡く光り始めた。


「唯一気になるのがSOPHIAが“本体はここに置いて行け”って言ってる事なのよね。まあ、携帯端末でバックアップはしてくれるみたいだけど」


 真理はSOPHIAの本体を社の正面に置き、戻って“コトノハノ鏡”を構える桐生と頷き合った。桐生が社に向かって言の葉を紡ぐ。


「“竜宮城、竜宮の夢に囚われた恵ちゃんを取り戻す!」


 “豪運君”を中心に“コトノハノ鏡”が強い光を放った。社の奥から天使の歌声のように澄んだ高音と悪魔の唸り声のような低音が混じった鐘の音が響く。


 と、鏡から放たれた光は社の前に収束し、アーチを象った。向こう側には何かの建物が見える。同時に、SOPHIAの携帯端末が“門”の開放を告げ、カウントダウンを開始した。


 [MODULE: SOPHIA]

 [STATUS: GOLDEN FREQUENCY DETECTED]

 [TRUTH WARD: COMPLETED]

 [GATE STATUS: 5/7 ACTIVE]

 [GATE REMAINING: 06:00:00]


「これは……“門”のカウントダウン?」

「あと6時間で閉まるから、それまでに戻って来い、って事すかね?」


 “鳴金”に呆然としている京極を引っ張り起こし、桐生がにっこり笑いかける。


「さあ、お姫様救出作戦開始だ!ガイドさん、夢にまで見た“常世の国ツアー”のお時間ですよ!」


 真理が、続いて押されるように京極、最後に桐生が“門”をくぐった。SOPHIAは社の正面で、まるで主神のように篝火を従えながら何事か忙しなく考えている。

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