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稚作「宿命」について

作者: 田中教平
掲載日:2026/03/13

 

 早朝、四時。彼は前日、小説投稿サイトに小説を投稿したのであるが、エンターテイメント色濃い中で、彼は純文学の(と云って、明確に純文学になっているかは分からない)、私小説を投稿したものだから、一体どうなる事やらといった感を持って眠った。

 起きて色々その小説投稿サイトを眺めて、色々触れている内に、大まかな仕様が分って、そこに作品に対するアクセス解析、が設けられているのを見つけた。彼の書いた作品名は「宿命」と云った大仰なタイトルだったが、全く人生の半生を振り返ったものであったから、まあ良いだろうと思いつつ、薄茶を飲みながら、そのアクセス解析、の欄を開くと、六十名程がアクセスしてくれており、彼は驚いた。読まれてるじゃん。

 彼は自宅二階のキッチンに向かい、まだ飯が炊けていなかったので、その代わり、ヨーグルトに蜂蜜をかけて食べる事にした。

 キッチンのIHヒーターのすぐ隣には、マールボロのパックと、禁煙薬が置かれていて、未だ、彼が煙草をやめる決心、というものを、確固として持っているかというと、自身でも謎であった。

 試しにマールボロを喫ってみたが、やはり気分が悪くなる。そうしてこう、どうでもいいこと(どうでもいいこと?)を、彼が実際、書いているのは、こういったどうでもいい雑味の部分が、実はとても重要な事なのではないか、と彼自身考えていたからである。

 その、筋があればいい、筋があればいいのだけれど、それとは別に、この原稿を書いているのはともかく、「宿命」を読んで下さってありがとうという事を伝える意図があったし、読んでいない方にはお目汚しですけれど、一読していただきたい気持ちと、この二つに突き動かされて、キーボードを叩いている次第であったから、筋らしい筋も無い。

ちょっと、そんな事でいいのですかと彼は言及されそうであったが、しかし、彼は保坂和志さんの「書きあぐねている人のための小説入門」を読んで、ああ、なるほどね、いやこりゃ凄い、と感銘を受けたのであるが、その本には、そもそも小説の定義自体、作家が決定する、というか、疑いながら書いてゆくような旨、書かれていたと思う(うろ覚え)。

 そういう彼だったから、とにかく筋が無い状態で書き出してみる、そうして雑味を多く筆記してみる、といういわば実験というか、個人的な愉しみも、許されるんじゃないのか、ともかく自身にとっては長めの小説を完成させた後で。と思っていたのであった。

 彼は再度二階キッチンに向かうと、ネスカフェゴールドブレンドのコーヒー豆を粉砕、加工した粉と砂糖をサーモスのカップにぶち込むと、そこに冷水を流しこんで、一気に飲み干した。そうして、マールボロに火を点けて喫い、且つ禁煙薬を服す、という訳のわからない事を又行ったのであった。

 彼の妻は彼のそんな馬鹿な動向を知らない。グウグウ眠っていたのである。

 

 そうして、彼は、創作「宿命」について暫し考え、それは彼の半自伝的小説であり、且つ、この作を生む為に、相当の紙を無駄にしてきた事も加味すると、例えば、稲垣足穂が後の作品を全て処女作「一千一秒物語の注釈である」と断言したように、彼が今後書く一切も、「宿命の注釈」であって構わないと思ったのである。しかし、その「宿命」を書いている時に、ベースに、通奏するものとして彼が考えていたのは、稲垣足穂の作でも「一千一秒物語」ではなく、「弥勒」の方であった。

 青春のアラベスクから、破滅的な現在形。

 彼は実際、「宿命」も、東京篇、東京遁走篇の二部構成で展開するつもりであったが、論理的に小説を書きつめていく過程で、現代篇が必要であると、構成を再定義し直した。

 原稿用紙換算五頁でこの朝の事を記述しようと思ったが、ここで彼は紙幅がもうそんなに無い事に気づいた。

 彼は書く。

 繰り返しますが、稚作「宿命」を読んで下さってありがとう。そうしてまだ読んでいない方は、お目汚しですが、一読して下さるとありがたい。

「おはよう」

と、彼の妻が起きてきて彼に声をかけた。

そしてここまで書いた原稿を読みかえして、彼が如何に、自分が自己陶酔的であるか客観視して、ちょっとあきれてしまったのであった。

 その自己陶酔感がなるべく、薄まるように、彼は色々、工夫を試みたが、総じて、奇妙な文章になってしまった。

 そうして一段落つくと、彼は二階洗面所に、顔を洗いに向かったのである。


 

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