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第1話「生きるって難しいよね、子供も大人も」

この物語を読む時は部屋を真っ暗にして携帯、又はパソコンのディスプレイに可能な限り顔を近付けて読んで下さい(嘘)


※この物語はエロ要素が一切ない至って健全な学園青春スポーツ物です(多分)

 ミッション01。正規のサッカー部からのボールを数個、強奪。それが僕に課せられた使命だった。

 フットサルやろうぜと浅岡が言い出したのは昼休み。それから放課後までの時間で他の仲間達を集めるのは不可能だった。その為、三人でこれからの計画を協議した結果のミッションだ。

 とりあえず、すぐに使える空気の入っていてそれなりのサッカーボールを手に入れて集まるかどうかも分からない後の仲間達の中心、主力になる為に早速練習しておこう。それが小早川さんの出した結論だ。流石、成績優秀者、頭の造りも優等生だ。

 まぁ、僕の通っている県立高校サッカー部は部員が十一人ギリギリでしかもまるでやる気の感じられないチャラチャラした集団だ。きっと『サッカーやってりゃ可愛いマネージャーとか来てモテんだろ』的なノリで集まったとしか思えない。そんな奴等からサッカーボールを強奪するのは容易い。はずだ。多分、かもしれない。

 ちなみに浅岡と小早川さんは学校近くの体育館を借りに行っている。 

 僕はノリノリな足取りで部室長屋に続く渡り廊下を駆け抜ける。

 途中、渡り廊下を根城にしているウェイトリフティング部のダンベルに躓いて派手に転んだのは内緒だ。

「お、松村じゃん。いつも一緒のアホ岡はいないのか?」

 サッカー部の部室のドアを開けると、同じクラスの坊主頭(恐らくサッカー部で唯一の真面目君)がパンツ一丁の姿でパイプ椅子に座っていた。

 しかしながらこんな所でまでネタにされて不憫な奴だ、浅岡は。

「あのバカはちょっとね。所でさ吾妻あずま、室内用のサッカーボール2、3個、都合してくれない? フットサル用のあるだろ?」

「はぁ? いや、何に使うのかは知らないけど別にいいけどよ。バレやしないだろうしな」

 持ち運びにも気を使ってくれたのかケースに入っていたフットサル用のサッカーボールを適当なサイズの袋に入れてくれた。

「サンキュ、これがないと始まらなくてさ。まさか室内で外のボール使うわけにもいかないしな」

「……なぁ松村。お前、またサッカー始める気になったのか?」

 また。と言った吾妻は当然、僕が昔サッカー少年だったことを知っているのだ。県のトレセン(トレーニングセンター制度の略称)でも何度か吾妻とは顔を突き合わせている。

 吾妻は地区トレセンどまりでナショナルトレセンまで行った僕と高校で再会して以来、熱心にサッカー部への入部を促していた。あまり過去の思い出を話すのは好きじゃないが、そうでもしないと吾妻は納得したかった。だから、僕は吾妻にだけサッカーを辞めた理由を説明したのだ。

「成り行き上な、まぁやるって言ってもお遊び程度だろうから問題ないさ」

「そうか。形はどうあれお前がまたサッカーをやる事を選んで俺は嬉しいよ、松村の才能が埋もれるのは勿体無いって」

 才能、か。僕の場合はそんなモノじゃない。

 僕は幼稚園の頃からサッカーが大好きだった。

 一生懸命練習した。

 小学校の頃のコーチはヘタクソでも努力すれば上手になれるが口癖だった。

 最初の頃はヘタで周りからよくヤジられていたけど、陰の努力を惜しまず、小学校五年生の時に初めてレギュラー入りをした。

 思えばその頃から周囲にも認められるようになり、中学校でも一年生でレギュラーだってもてはやされた。

 あの頃は本当にサッカーが面白くて仕方が無かった。ただ、サッカーが出来るそれだけで僕は良かった。

 けど、積み木を積み上げるのにどれだけ苦労しても崩すときは一瞬だ。何週間も掛けて並べたドミノが倒れるのはほんの数分と同じように。

 僕が積み上げてきた努力も一瞬で崩され、そして僕はサッカーを辞めた。

「なぁ、吾妻。サッカー好きか?」

「っ? 当たり前だろ」

「そうか。俺も好き『だった』よ。だけど、どれだけ熱を上げても冷める時は来る、人は変わってしまうんだ。生きるって難しいよな」

 怪訝な表情を浮かべる吾妻を尻目に僕はサッカーボールの入ったビニール袋を揺らし、わざと陽気な声を出して言う。

「じゃあ、サッカーボールは頂いた、また会おう明智君。フハハハハハハ」

 帰りの渡り廊下で今度はシャフトに躓いて顔面から転んだのは、本当に内緒だ。

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