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不穏な空気(1)



十二月二十五日。

午後八時半。


ここ超学都のクリスマスイベントは大盛り上がり。

そんな中、十王 風馬(じゅうおう ふうま)はショートケーキを口にしながら録画していたドラマを見ていた。

十王は逆張りでガールフレンドは作れるけどあえて作らないだけいう悲しい生き物です。


「……もういらないな、甘いの食うと腹がいっぱいになるんだよなぁ」


ショートケーキにラップをして冷蔵庫に入れようと立ち上がった瞬間、ドラマの映像で生き別れたカップルがキスをする熱いシーンになる。

当然十王はそのシーンに見入ってしまう。


キス……キスするか……!?お!?キスするn━━━。


超大事な場面で突如寮のガラスが割れ、その破片がテレビに刺さり見事潰れてしまう。

映らなくなったドラマに十王は少し混乱していた。


「……コラァ!人様のガラス割って挙句の果てにはドラマの続きまで見せてくれないってか!?」


怒鳴りつつベランダに出て下を見てみると、そこには今朝会ったグランが立っている。

今朝の妖艶で大人びた姿とは違い、どこか吸い込まれそうな瞳をしながらこちらを見ていた。


「っ、アイツ……なんで?」

「こんばんわ」

「ガ、ガラス割ったのお前なのか!?」

「えぇ、邪魔な物だったので」


トンっと飛んだかと思いきや、十王が住んでいる三階まで軽く飛びそのまま着地する。

咄嗟に十王は後ろに下がるが、壁にぶつかり逃げる隙も無くなった。


「おまっ、ここ三階っ!?」

「失礼だが、その能力を貰う」


グランが目をかっぴらくと背後に黒く大きい口が出現した。

手を十王に向けた瞬間、その大きな口が十王に向かって飛んでいく。


「のわぁ!?」


十王は飛んで回避しそのまま口の方向を見ると、ベッドを食べていた。

鈍い金属音を立てつつ、タッピングをする口。

その口はグランの片腕に戻っていき、話し始める。


「君の能力、消能(しょうのう)を奪いに来た」

「はぁ!?消能って……!?なんだよそれ!」

「能力を打ち消す、君の力の事だよ」


能力……?奪う……?何言ってんだよこいつ……!

状況を理解出来ねぇ……!なんで俺の能力を奪おうとするんだ!?

十王は立ち上がるとそのまま玄関に行き、スリッパを履いて外に出る。


「逃げれるとでも?」

「くそっ……!」


再び口を出現させ、玄関に向かって飛んでいく。

玄関のドアを一瞬にして食らい、十王に向かって飛んでくるも、口は十王の前を通り過ぎた。

グランは指を下の方向に向けると、三階廊下から、一階廊下まで直下方向に食い始めた。

十王は走る道を強制的に断たれたのにも関わらず、下方向を見ていなかった為か、そのまま落ちていってしまう。


「だああああああ!!!???」


十王の断末魔とドスンと鈍い音が響く。

その音を聞いて、グランは口を戻し穴に近づいていく。

普通なら十王が最下層の床にぶつかり倒れている姿があるはずだが、十王の姿どころかぶつかった形跡も無かった。

グランは不思議そうにしつつも穴に飛び込み、最下層に着地し周りを見渡す。


「おかしい……あの一瞬で逃げれるわけがない。まさか二階に避難したのか……?」

「正解っ……!」


二階の寮に避難しており、近くにあった椅子をグランに放り投げる。

だがそれを簡単に巨大な口で食われてしまい、その後グランは何事も無かったかのようにこちらを見る。


「美味しそうに食べやがって……!」

「逃げ足は早い下等生物だな」


口を出現させ十王が立っていた床だけを食べ、そのまま一階の床に尻もちをつく。

あえて床だけ食べたのは、殺さずにする為だろうと思いつつその場に立ち上がる。


「改めて、君の能力をもらう」

「くそっ……!」


グランの後ろにいた巨大な口を大きく開け、手を前につきだした瞬間、巨大な口が迫ってくる。

十王は逃げるよりも自分の能力で打ち消せるのかを考えた。


俺の能力はあらゆる能力を打ち消し……その分身体に負担をかける欠陥品だぞ……!

今まで炎や電気とかいった自然現象的な能力は打ち消せたが、こんな異常な能力は分からない……!

打ち消せるのか……!?俺に……!?


考えているとどんどん迫ってくる口。

十王はその場で動かず、手を顔の前にクロスさせガードする体制を取った。


一か八か、俺の運に全てを賭ける……!!


歯と歯の間に十王が挟まり、食いちぎろうとした瞬間。

巨大な口が噛むと同時に打ち砕かれた。

歯と十王の間にある狭間に触れた瞬間に能力が働いた為、十王のダメージはゼロだった。


「……っし」

「き、消えた……!?私の能力まで……!?」


グランはその光景を見て唖然としていた。

今まで感じたことの無い、経験のしたことのない出来事に身体が動かなかった。

それと同時に十王は拳を握りグランに向かって走っていく。


「……はっ!?しまっ━━」

「うらぁっ!!」


グランの頬をぶん殴り、その場で崩れ落ちるグラン。

それと同時に十王も膝を付き身体の重さに苦しんでいた。


「くそっ……!普段の五倍ぐらい負担がぁっ…」

「……どういう、ことだ……!」


グランはそのまま力を振り絞って立ち上がるも、殴られた衝撃で脳震盪が起きており、フラフラな状態だった。

立ち上がってしまい、十王はピンチに陥る。


炎や電気等の自然現象に似た能力を打ち消した負担とは明らかに違い、異形な能力を初めて打ち消した為、信じられない程負担が身体を蝕んでいた。

だが身体は重くとも、口は動く。少しでも時間を稼ごうと十王はグランに話しかけた。


「……お前、能力が欲しいんだったよな」

「最初からっ、そう言っているだろう……!」

「お前がどこの誰かなんて知らねぇし、どこの刺客なんか知らねぇ。それに超能力の譲渡は基本禁止なのは知ってるはずだろ」


グランは口を出現させるも、今見た光景を思い出しすぐには襲いかからなかった。

十王も打ち消せることが分かった為動じはしなかったが、身体の負担を恐れる。


「君の能力はこの現世の物でもなく、我々妖怪の力でもない……狭間から生まれた力」

「何言って……?」

「妖怪の完全解放の為に……その力が必要。そして君のは超能力ではなく特別な力なんだ」


妖怪……?狭間……?


「妖怪とか狭間とか……!訳分かんねぇこといってんじゃねえよ!信じられるかそんなの!」

「無理もない、妖怪が現世に来たのは今日が初めてだからね」


十王は重い身体を精一杯力を込め立ち上がる。

もう一発同じ口を食らえば恐らく気絶レベルだ。


「打ち消した事は正直びっくりしたよ。だけど君は使い慣れていないんだろうね、その様子だと」

「舐めんなよっ……!てめぇをもっぱつぶっ飛ばせる体力はあるっつーの!」


強がる素振りを見せるが、十王は声も震えて体力も残っていない状態なのは誰が見ても分かる。

グランも呆れた様子で十王を睨みつつ、手を前に突き出す。

その瞬間、アパート全体からアラームが鳴り響きわたる。


「なに……!?」

「やっと鳴った……!」


アパートに設置されている監視カメラからアラームが鳴り響き、次々とアパートの廊下から壁が出現してくる。

勿論グランと十王の間に壁が出現し、少し混乱するグランだったが、すぐに巨大な口が壁を食い十王を探すもそこには既に十王の姿はなかった。


「……っどこに!?」


十王は壁が出来た瞬間、すぐにアパートの後ろに隠れ身の安全を測った。

身体が重い中どうやって逃げ切ろうかただひたすら考えるが、思考がまとまらない。


「……くそっ……とりあえず警察に……!」


足音を出した瞬間、グランがこちらを振り向き口を出現させ十王に向かって歩いてくる。

向かってきていることに分かっていない十王は前を向いて歩いていく。

こちらに近づいてきているグランの足音に気付いたその時、グランのパンチが十王の腹にクリーンヒットした。


「がはっ……!」

「能力その物は打ち消すことが出来るけど、物理的攻撃自体は効くようだね。じゃあ簡単だ」


落ちていた壁の破片を手に取り十王に近づく。

大きく振りかぶり動けない状態の十王に向け、思い切り殴りつけた。


……が、殴りつけたのはコンクリートの床。

遅れて右方向から風が吹き、グランの視線が自然に右を向いた。


そこにはかばんを背負いながら十王をお姫様抱っこしている女子高生が立っていた。

十王はその子の顔を見てハッと思い出す。

その子は昨日、路地裏で不良に絡まれていた女子高生だった。


「なっ……」

「昨日のお礼をしようと、貴方の学校に行って先生に教えていただいたんです……が、まさか二日連続で絡まれてるとは、呪いかなにかかかってます?」


十王を優しく下ろし、カバンを投げ捨てる。

部活帰りだったのか、彼女の制服の下にはスポーツウェアを着ていた。

その場で小さくジャンプし、準備を整える。


「待て……!そいつは普通の能力者じゃねぇんだ!」

「安心してください、私芦戸 光(あしど ひかり)、カーストは《A》ですから!」

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