出会い
「はぁ……!はぁ……!」
「待てコラァ!」
十二月二十四日。
世間はクリスマスイヴで商店街やイベントで賑っていた。
そして私十王 風馬もイヴを過ごそうと思っていたが......。
現在、複数人の不良達に追いかけられている状況だ。
遡ること数分前。
「あの……私友達を待っているので……」
「イイじゃん!その友達も連れて一緒に遊ぼうぜェ!」
路地裏で女子高生が複数の不良達に取り囲まれている。
震えが止まらず持っていたカバンを強く握りしめ、この場を離れたい気持ちでいっぱいなのだろう。
「あのぉ~.......その子困ってますよ?」
「アァ?」
十王が一人の不良に話しかけると、一斉に取り囲んでいた不良達もこちらを睨む。
リーダー的存在の不良がメンチを切りつつこちらに近づいて拳を握る。
すると拳から炎を纏い、パチパチと火花を鳴らしつつ十王に話しかけてきた。
「おい、お前この能力が見えねえか?この拳を腹に決めたら燃え尽きて死んじまうぞ?」
「えっと……。戦う気はないんですけど……ぉっ!?」
炎を纏った拳を十王の顔面に目掛け殴りかかってくるも、とっさにしゃがんで回避し距離を取った。
するとかわされた不良は苛立ちを覚えたのか、十王に距離を詰めそのまま攻撃を続ける。
当たらまいと距離と取っていると自然に身体は逃げに変わる。
他の不良も女子高生をほったらかし十王を追いかけた。
「逃げんなコラァ!」
「逃げるっつーの!」
そして現在。
どれだけ走ったのだろう。
体力がもうほぼほぼ無いのにも関わらず、向こうはぴんぴんしてる。
ひざをつき息を整えるも、急に止まったため心臓がバクバクして止まない。
「やば……吐きそう」
「追い詰めたぞコラァ!」
炎を再び拳に纏い、十王に近づく。
笑みを浮かべつつ拳を強く握り、十王の顔面に殴りかかる。
十王の顔面に拳が触れた瞬間、炎が消えそのまま殴り飛ばされる。
「ぐっ……!」
「消えた?体力を消耗しすぎてコントロールがバカになったのかァ……?」
殴られた十王は静かに立ち上がり、鼻血を拭きつつその場に立ち尽くす。
その光景を見た不良は十王に近づきつつ、胸ぐらを掴む。
「てめぇ、カーストは?」
「……っ」
胸ぐらを掴んだ勢いで十王のポケットから学生証が落ちた。
カースト《E》。最底辺で最下位のランクで不良は更に苛立ちを感じる。
「はァ?カースト《B》の俺が雑魚の《E》に能力を……?」
「悪いが……俺は最弱な順位だ……だから割に合わねぇって言ってんだよ!」
胸ぐらを掴んでいる腕を掴み、片足で不良の腹に蹴りを入れた。
手を離し腹を抑える不良がギロっとこちらを睨み、こちらに向かって走ってくる。
「ぐっ……!」
十王が構えた時、あちこちからアラームが鳴り響いた。
どうやら監視カメラで今の状況を監視されていたらしい。
その瞬間、不良と十王に巨大な壁が出来た。
「ちっ、顔は覚えたからなァ!次会ったら覚悟しとけよ!」
「……」
歩いていく足音が段々小さくなっていくのが分かる。
完全に聞こえなくなってから十王は学生証を手に取りつつ立ち上がった。
「……ったく、いい事したらとんだクリスマスプレゼント貰っちまった」
ここは《超学都》と呼ばれる学園都市。
ここにいる生徒全員が超能力者という事もあり、一般人からすれば非現実的な光景が広がっている。
能力によって強さの順位……所謂『カースト』と呼ばれるものが存在しており、上位者が下位者を踏みにじる事だって当たり前だ。
そして私十王風馬は、カースト《E》。最底辺で最下位の能力者だ。
能力名は『デリート』。一見強そうな能力だが、能力を打ち消した分身体に負担がかかってしまう欠陥能力。
「つーか。神様は何で俺にこんなバカみてぇな能力をくれやがったってんだ。もっとこう、手から水とか目からビームとかだな……って考えても無駄か……」
十王は学生カバンを持ち、そのまま家に向かって帰っていく。
だが歩く度身体のあらゆる場所に痛みが生じる。
つまり、家に着く前には病院でぐっすりだろう、そのレベルだ。
作られた巨大な壁にもたれかかり、身体の倦怠感を回復させるために休む。
「はぁ……あ?」
パキッと壁から不穏な音が聞こえる。
十王はすぐさま重い身体を起こし、崩れても大丈夫な場所まで避難した。
つくづくツイていない。ふらふらになりつつ公園のベンチまで歩いていく。
歩く後ろでは大きい音を立てながら崩れる壁の音が聞こえた。
「普通に休ませてもくれねぇのかこの世界は……」
ーーー翌日ーーー
公園のベンチで座りながら眠ってしまっていた十王は強く吹く風で目を覚ます。
鈴の音が鳴り響き、雪が降り始めたクリスマス当日。
ベンチから立ち上がると、昨日の倦怠感はすっかり治っており動ける状態だった。
そして鳴り響くケータイ。出てみると担任から補修だから来いとのこと。
「先生からもクリスマスプレゼントかよ。風呂入ってねぇし一旦帰るしかね……」
時間を見ると午前八時二十分。
補修開始は八時半で学校までは二十分。
十王は寝起きの頭をフル回転させ、たどり着いた答えを口にした。
「よし、遅刻は確定だな」
カバンを持ち学校に向かっていった。
ーーー二十分後ーーー
「十王!遅刻だぞ!」
「すんませんでしたぁ!」
教室に鳴り響く担任の怒号と十王の謝罪。
教室を見ると補修を受ける生徒が十王含め二人だけだった。
しかも見慣れない女子生徒。うちのクラスにこんな人いたかと顔をしかめる十王。
「先生、この子誰ですか?」
「あぁ、彼女は冬休み明けに紹介する転校生だったんだが、うちのクラスの勉強をしておきたいと言っていてな。ちょうどお前が補修を受けるタイミングがあったから特別に講師しているんだ」
黒いボブヘアにどこか大人の雰囲気があるその子は立ち上がり、十王に挨拶をした。
「初めまして、私は転校生のグラン。よろしくね」
「グ、グラン?ハーフか何かか?」
「まぁ……そんなとこ、君は?」
「十王風馬、よろしく」
お互い挨拶をかわし、夕方までそのまま補修(特別講師)を行った。
「はぁ、結局こんな時間かよ」
「絶望的に頭が悪いんだね、君は」
「そういうセリフは仲良くなってからだろ!?」
通学路を歩いていると、超能力を使っている一般人を見てグランに話題を振る。
「お前って超能力あったりするのか?」
「……あるよ、あんまり見せたくないんだけどね」
「そ、そういうもんなのか?」
静寂が続くとグランは立ち止まり、十王に挨拶をした。
「じゃあ。私はこっちなので、また明日」
「?お、おう」
明日という言葉に引っ掛かりつつも十王は自分の家に向かって歩いていく。
『あんまり見せたくなんだけどね』
超能力をあまり見せたがらないのも少し不思議だ。
でも考えても仕方ない、今日はクリスマス。ショートケーキでも買って帰るかと思いつつ帰っていった。
グランは路地裏に隠れ、片耳を抑えつつ誰かと話し始めた。
「対象を確認しました」
〘よくやった、そのままそいつの能力を奪い取れ。喰蘭〙
「対象の人物は私が思うほど強くはなさそうです。ですので奪い取るのは簡単だと」
〘好都合だな、手短に頼むぞ〙
「承知、妖怪の名に泥を塗らぬよう、全身全霊を使い任務を遂行します」
通信が終わると路地裏から再び姿を現し、通学路を歩いていく。
この物語は超能と妖怪が入り混じり、一人の少年がカースト最下位から成りあがる話である。