村澤が仲間になった
なぜか時間が進み、火曜日になった。そして「僕」は学校へ行くことにした。
「おー今日は学校来るんだね!」
身支度を済ませて家を出ようとすると、父が一言「時間は、進んだな」と僕に何か含みのある言い方で言う。確かに時間は進んだが、これで万事解決とはならない。しかしこれは明らかな前進であることは違いない。こうして月曜日から脱出した今日こそ、そのループの謎を解決するべきである。
学校に着くと、まず村澤から昨日の授業の進み具合いや宿題、またSHRでの連絡事項などを教えてもらう。こういう時に友だちのありがたみを感じる。しかし、クラスの陽キャたちはどうやら、その日中にLINEでノートの写真を送ってもらい、連絡事項と今日話したことを共有するらしい。部活の大会で公欠になった場合は、先生がそうするように指示をする。
「それで、今日の一時間目でこの練習問題の解説を―」
「おっはよー!昨日はどうしたのかと思ったよぉー」
朝の落ち着いた雰囲気を瞬く間に散らかして私こそが主人公だと言わんばかりの声で僕と村澤の会話に入ってくるのは、もちろんあの人だ。
「あれ?ムラッチと話してた?」
ムラッチというのはあの人がつけた村澤のあだ名だ。
「昨日の授業の話を聞いている。今は君と話すつもりはない。後で時間を作る。そうだ、村澤も是非一緒に話したいことがある。放課後時間あるか?」
「少しなら付き合ってやってもいいが、痴話喧嘩なら他所でやってくれよ。」
「ええー?私たち付き合ってるように見えちゃう?やっぱり?そうだよね!お似合いだよねー!」
「余計なことを言ってくれるなよ。はあ」
ため息をつくと程なくして朝SHRの開始を合図するチャイムが鳴った。
「それで話ってなんだ。」
「教室に残ってもらって悪いな。話っていうのは―」
とタイムループの話を切り出そうとすると、教室の電気が消えた。
「いいから、そういうのは。早く話したいんだよ。」
本当に子どもじみたことしかしないなと思いながら、きつめの口調で諫める。教室の前方の扉の隙間から見えるスカートと、その隙間から顔を覗かせる白い太ももに目を奪われながら近づく。扉を開けるとそこには、平真子が屈み込んでいる。
「そのー、実はね、あのっごめん!」
「待って、待って。僕が悪かったよ。ごめんね。知り合いかと思ってつい、怒鳴ってしまった。」
「ううん、こっちこそ中に誰もいないと思って電気消しちゃってごめんね。」
足元にはプリントが散らばっている。各クラスから集められた生徒会への要望書だ。
「平さんって生徒会だったのか。」
「う、うん、そうだよ。あ、これ、、、じゃ、じゃあね!」
「誰だったんだ。」
「隣のクラスの平真子だよ。教室に誰もいないと思ったらしい。」
「そうか、それで、その左手に持っているのはラブレターか?」
「ああ、これか?なんだろうな。分からないが、今はとりあえず二人で話をしよう。」
「そうだな、例の問題児は補習しているからな。」
「なんだよ、そうだったのか。早く言ってくれれば良かったのに。それで、話というのが、実は僕たちタイムループをしているんだ。」
「アイツと二人で俺を揶揄おうとしているのなら、さすがに俺も黙っていないぞ。」
村澤の表情は笑っているが、黒目が鋭い光を放っている。こういう知恵比べや頭を働かせる悪戯になると村澤の右に出るものはいない。
「違う。僕は本気だ。正確に僕が認識しているわけではない。でも確かに昨日を繰り返していた。僕にその記憶はないけど、あの人ならその記憶がある。あの人がそれを自覚しているんだ。だから協力してほしい。これは僕たち二人からのお願いだ。」
「おいおい、待ってくれよ。その話がもし仮に、仮にだ、真実であるとして、それならどして今日が来たんだ。今日がきたということは、タイムループから脱出したわけだろう。解決策が分かったから抜け出せたんじゃないのか。」
「それがまったく分からないんだ。あの人の話によれば、少なくとも僕たちは月曜日をループしていたが、昨日何らかの原因によってそこから抜け出した。そして今がある。何が言いたいか分かるか?」
「つまり、何も分からないのに、事態が良い方向へ進んでしまった。それがかえって状況を悪化させてしまっている。皮肉なことだな。」
「そういうことだ。勘でもない。当てずっぽうでもない。でも、答えだけは偶然当たってしまった。これでは、なんの解決にもなってはいない。」
「それで、俺に意見を求めたいということか。確かに、おまえの言っていることが事実だとすれば、それは看過できない。ただ、タイムループの証拠がほしい。」
「それは、僕だってほしいさ。」
「そうだな、まあとりあえず、半信半疑くらいである程度は協力しよう。何よりも興味がある。ただし、お前の話が嘘だった場合、一週間昼飯奢りだからな。」
「ありがとう。」
きっとRPGゲームではここで、「テッテレー村澤が仲間になった!」ってなるんだろうな、なんて考えながら教室の電気を消した。
村澤と学校を出て別々の電車に乗ってからリュックに入っている世界史の教科書を取り出そうとすると、何か紙が落ちる。拾い上げると同時に、平真子から手紙をもらったことを思い出した。中身を開ける。
突然ごめんね。ほとんど話したことないのに、こんなことを伝えるのは不自然だし驚くと思います。でも、伝えさせてください。
今度デートに行ってくれませんか
お返事待っています。 平真子