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正義の咎人≒罪喰らう虫  作者: エマ
正義の咎人
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第六演 皮持たぬ人



「ヒヒッ 」


 そこは紛争地域だった。

 人が当たり前に死に、死という感覚が身近にある場所。


 平和を知る者は異常と呼び、平和を知らぬ物には当たり前に映る場所。

 その中心に両腕のない少年は居た。


 珍しい黒い目を持っていた。だからクロと呼ばれていた。


「んチャ 」


 兵器による青い炎が落ち、爆風が人を肉塊に変える。

 それをクロは食べていた。


 両親は誰か分からない。そもそも彼は親という概念を知らない。


 自分より大きな存在は自分を食べようとしてくる。

 動かない物は餌。

 さっきまで動いてた物ほど美味しい。


 本能にも近しい認知。

 それだけを中心に、彼はぼんやりと生きていた。


「ア? 」


 それともう一つ。彼は知っていた。


「なんだ? 」


「ヒヒッ 」


 たまに出会う鎧を着た大人たちは、自分が欲しいものを持っていると。


 彼は水が好きだった。

 透明で、髪に着いた虫を落とせる液体が。


 分けてくれと言ったのなら、彼らは分けてくれたのかもしれない。

 ただ言葉を知らないクロは殺して奪うしか知らなかった。


 知恵がある者は善悪を語る。

 けれど知恵がない者は、ひたすらに自己を満たすために動く。


 彼は後者。略奪者だった。今日までは。


「美味しそうだね〜。キミがやったの? 」

 

「あぅ? 」


 叩き過ぎてボロボロになった血肉の海。

 ふんわりと香る新鮮な肉の匂い。


 その中で食事をしているクロに話しかけたのは、一人の騎士だった。


 彼女の伸ばしただけの黒い髪は、完全に両目を覆い表情が見えない。

 けれど唯一見える口元だけは微笑んでいる。


 彼女の名はリル。

 当時、ランスロットと呼ばれていた騎士だった。


「腕にナイフ刺してるの? 痛くない? 」


「ぅあ? 」


「言葉が喋れないの? それとも理解もできない? 」


「うぅぅぅ 」


「お腹すいてる? お姉さんのご飯あげようか? 」


 なんとなく危険だと察知したクロは、音もなく彼女の首を狙う。


 ここは戦場の地。

 生き残っている者は二択しかない。

 運がいいか。生き残れるだけの実力があるか。


 クロの場合は後者だった。


「んぅ? 」


 けれど敵は円卓。

 戦場で生き残るよりも、彼女たちから逃げる方がはるかに難しい。


「ありがとね。前髪うっとおしかったの 」


 首を狙った攻撃はリルの前髪を切り落とした。

 現れた瞳。クロを見つめる黒いタレ目。


 それは底なしの慈愛をふくむ、恐ろしいものだった。

 少なくともクロにはそう感じた。


「っ!! 」


 逃亡をはかるクロの足。

 それはふんわりと浮かびあがり、見えない何かに持ち上げられ、リルの硬い鎧にクロは包まれた。


「足、速いね 」


「ぐぎゃじゃがァァァ!!! 」


 慣れない圧迫感にクロら燃やされた虫のように暴れ回る。

 けれど動じず。リルは取り出したパンをその口に詰めた。


「その痩せ方、栄養失調だよ。とりあえず食べて 」


「うぇ 」


 小麦の香りとバターの風味。それをクロは異物と判断した。

 普通の人が美味しいと思う物すら食べられない子供。


 その姿に心を痛めながらも、リルはクロを離さなかった。


「隊長。離れてください 」


「んぅ? 」


 リルの背後には、白い鎧と兜をまとう騎士が居た。

 彼女の手には白い剣が握られている。


「生き残りは居た? 」


「いいえ。皆ナイフで首を裂かれ、子供の歯型がありました 」

 

「それで? 」


「……そいつが殺したんですよ! 子供といえ罪人だ!! 退け!! 」


「罪人ねぇ…… 」


 面倒くさそうに振り返るリル。


 その鬼迫。機嫌を損ねれば首が飛ぶほどの圧に。

 騎士は一歩後ずさった。


「この子は生きてただけだよ。食料もない紛争地で、頑張って生きた。それだけで罪人呼ばわり? 随分と上から目線だね 」


「そんな屁理屈」


「屁理屈? うん、そうだね。じゃあ私たちも罪人だ 」


「……はっ? 」


「平和のために何人も殺したよ? 殺しが罪なら、私たちも罪人でしょ? 罪人が死ぬべきなら私たちも自殺しなきゃね 」


 騎士が一歩下がる度、リルは二歩足を進める。

 言葉で逃げ場を塞ぎながら。ゆっくりと手を伸ばし、その顔を優しく掴んだ。

 けれどその気になれば、顔は紙のように潰される。


「……死なないの? 悪人を許せないなら死になよ 」


「私たちは……平和を守る騎士」


「他人に屁理屈は許さないのに、自分を正当化するために屁理屈をこねるんだ……ふふっ、面白いジョークだね 」


「私は」


「平等を重んじなよ。それとも、結局自分は助かりたい? 」


 恐怖のあまりに騎士は剣を構える。

 けれど円卓の前では、荒れ狂う大海に丸太で挑むほどに頼りのないものだった。


「……ふふっ。冗談だよ、そんなに怯えないで 」


 リルはパッと手を離す。

 騎士は踏ん張れずそのまま尻もちを付き、そのまま過呼吸を起こし始めた。


 恐怖。それが彼女の中に刻まれた。


「でも忘れないで。彼は死を前に抗っただけだから 」


 そうしてリルはパンを食べるクロの頭を撫でた。

 だがクロにとっては彼女らの言葉は分からなかった。


 ただ、なぜ殺さなかったんだろうと思っていただけだ。


「パン、落としちゃったね 」


「……うっ? 」


「まぁ手がないと食べにくいよね 」


 クロの口を周りを拭きながら、リルは自らの右腕を外した。

 それは白い義手。円卓のみが持つことを許される特別な物。


 それほどの価値があるものを、リルはなんの躊躇いもなくクロの右腕に取り付けた。


「違和感あるかもだけど、慣れたら楽だよ 」


 リルは優しく頭を撫でる。その瞬間に肥えた虫がクロの頬に止まった。

 クロはいつも通り弾こうとしたが、腕が長すぎたせいで自分の顔面を殴ってしまった。


「ぐぎゃっ!? 」


「わっ……大丈夫? 」


 クロの切れた唇は、白い義手の指先に優しく拭われた。

 それは確かな優しさだった。少なくともクロの親はそんな事をしなかった。


 肉欲しさに子供であった彼の両腕を切り落とした大人たち。

 食料を与え、傷を優しく抑えてくれた大人。


 そのどちらが味方かは、知恵なき彼でも理解できた。


「ただいま〜。随分なお出迎えだね 」


 クロを抱えるリルは騎士たちに囲まれていた。

 当然、彼女についての責任を言及するためである。


「任務完了ご苦労さまでした。それで? 任務の邪魔をしたことに何か言い分は? 」


「家族に伝えて。ざまぁみろって 」


「おいバカバカ!! 」


 金髪の騎士はすぐさま剣を抜いた。


 虐殺が始まる寸前、リルたちの間に落ちて来たのは赤い鎧の騎士だった。

 彼の名前はカルマ。騎士名はモルガン。

 円卓の騎士の一人である。


「俺たちは平和を維持する騎士だ。その中で殺しあって平和になるのか? 」


「……プライベートに口出ししたくありませんが、モルガン様。ランスロットへの対応が甘くありませんか? いくら恋仲とはいえ、そのような対応されては騎士たちへの示しがつきません 」


 金髪の騎士の言うことは正論だ。

 悪いものは裁かなければならない。そうでなければ法の意味は無いのだから。


「じゃあ処刑してどうなる? 犯罪者はきっと喜ぶだろうな。強い円卓の一人が内輪もめで死にましただなんて 」


「だから見逃せと? 」


「あぁ、平和維持のためには社会が必須だ。社会を回す重要な歯車が壊れちゃ意味がねぇ 」


 モルガンの言うことも正論だ。

 円卓の一人、ランスロットの変わりはそうそう居ない。


 その彼女が簡単に処されてしまえば、悪はおろか今ある平和すら壊れてしまいかねない。

 だがそれには腐敗の一面も含んでいる。


 両者ともに正論。

 ならばこれは。


「……分かりました 」


 名も無き騎士は剣を収めた。

 そう、正論のぶつかり合いは折れた方の負けだ。


「私が円卓に座れば、二人とも処刑にしますよ 」


「楽しみにしてるよ〜 」


「煽るなバカ 」


 波紋は広がったが、その場はとりあえず収まった。

 人が掃け、二人きりになったモルガンはやっと疑問に思っていたことを口できた。


「で、そのガキ何? 」


「引き取る。これから家族になるんだよ私たち 」


「……? 」


 クロは何も分からなかった。

 家族という言葉も、引き取るいう真意を。

 けれどモルガンだけはネズミを踏み潰したように嫌な顔をした。


「お前…………それは」


「解ってる。でも……見殺しにしたくない 」


「…………分かった。わぁったよ 」


 嫌な感情を飲み込んだモルガン。

 そんな彼とは対照的に、リルは満面の笑みを浮かべた。


「ありがと〜。じゃあ名前は何にする? というかこの子に名前ってあるのかな? 」


「いや……知らん。そもそも言葉わかんの? 」


「分かんないみたい 」


「……じゃあユフナにするか? 」


「…………うん 」


 リルは涙声を抑えながらも、抱きかかえた彼を上に持ち上げた。


 日差しに当たり、光に照らされる少年。

 それはまるで、産まれ堕ちた子供を祝福するようだった。


「ユフナ。今日からそれがキミの名前だよ 」


「……? 」


 けれど彼には名前という概念すら分からなかった。


 ユフナはその後、トントン拍子でリル達の家に引き取られた。

 血は繋がっていないが、彼らは家族になった。


「えぇっと……Peace。これで平和って意味だよ 」


 リルはユフナに読み書きを教えていた。

 文字の清書から意味まで丁寧に。


「……? 」


 けれどユフナは何も分からなかった。


「うーん、言葉が通じないってここまで難しいんだね 」


「それと、言葉が少ない場所で育ったからだろうな。こりゃもう時間をかけるしかねぇ 」


「だよねぇ〜。とりあえずユフナが言葉を覚えるまで禁酒だね私たち 」


「だな。目を離す訳にはいかねぇし 」


「……? 」


 勉強の時間が終わり、今度は食事の時間が始まった。


「ぐちゃぐしゃ 」


「あぁ……まぁそうなるよね 」


 当たり前というか、ユフナは口だけを使って獣のように料理を食べていた。

 それも野菜は避け、パンと肉だけをムシャムシャと。


「フォークとナイフ……は隻腕じゃ使えねぇか。切ってやらなきゃな 」


「ユフナ。こっちを見て 」


 その声にユフナは反応した。


 リルがフォークを使って食べる姿をしっかりと見つめるユフナ。

 そして彼はその真似をした。


「そっ。いい子だね 」


「成長は出来てるみたいだな 」


 リルたちは笑い、ユフナがこぼした食事を拭き取って食事を続けた。

 その姿は誰が見ても家族のようだった。


「ユフナ。今日のご飯何がいい? 」


 髪を結び、エプロンを着たリルはそうユフナに尋ねた。


「おぉユフナ。随分でかいの釣ったな 」


 川で魚釣りをするユフナの頭を、カルマは優しく撫でた。


「ただいま〜。疲れたよ〜 」


「今日は俺が飯作るから座ってろ。つーか酒飲んでいいぞ 」


「いいよ別に。二人で禁酒する約束でしょ 」


 帰宅したリルはそのまま椅子に座り込んだ。

 それにトテトテと近付いたユフナの頭は、リルの義手によって撫でられた。


 その感触がユフナは好きだった。


「でさ〜。今日の会議めんどくさかったんだよね。平和についてどうするかなんて大層なこと掲げちゃってさぁ 」


「お前が一番苦手なことだな 」


 三人で寝るベットの上で、少しだけ機嫌の悪いリルはそんな事をボヤいていた。


「そもそも平和を求めるってなによ。この国は平和じゃありませんって言ってるような物じゃん 」


「まぁ……確かにな。意味は無いとは言わねぇけど、意味があるとも言えねぇなありゃ 」


「平和ってなんですか? 」


「「……!?? 」」


 ふと、ユフナは喋り始めた。

 飛び起きた二人はすぐさま電気をつけ、薄いシャツだけを着るユフナに駆け寄った。


「えっ……喋れたの? 大丈夫? 」


「大丈夫? リル。モルガン……カルマ? パン食べたい 」


「とりあえず病院連れてくか!! 」


「うん!! 」


 急に喋り始めたユフナを抱え、二人は深夜の病院に駆け込んだ。


「えっと……多分ですけどね。それが原因だと思います 」


 医者が指さしたのは、ユフナが付ける白い義手だった。


理想幻体(アイディアル)。それには数万の騎士たちの遺骨や遺灰が使われている、理想を力にする理屈を超える異物です。もしかしたらリルさんの理想が具現化し、知識が流れ込んだんだと思います 」


「えっと、初耳なんだけど…… 」


理想幻体(アイディアル)自体謎が多いものですからね。その全貌は隻眼の狙撃手しかしりません。でも検査した限りでは問題ありません。記憶にない夢を見る程度で済むんでしょうが……彼はその……何かを学習できる環境に無かったからでしょうか。下手をすれば、人格を塗りつぶした可能性もあります 」


「何か問題が? 」


 ユフナの問いにみな苦い顔した。

 それも当然だ。一緒に暮らしている人形が喋り始めれば、誰だってこんな顔をするものだ。


「まぁでも、重要な病気じゃないってことか? 」


「前例がありませんので、経過を見てみないとどうにも 」


 首を傾げるユフナ。

 二人はしばらく考え込んでいたが、いち早くその頭を撫でたのはリルだった。


「まぁでも、喋れるようになったのは嬉しいよ。名前も読んでもらったことだしね 」


「まぁ……重症じゃなければいいか 」


「いいか? 」


「うん。じゃあ帰ろっか 」


 そうして三人は家に帰った。

 手を繋いで、家族のように、夜の道を楽しそうに。


「いぇーい、今日はお祝いだよ〜。久々のお酒だァ!! 」


 帰ってきたリルはすぐさまワインを開け、足をテーブルの上に乗せて飲んだくれていた。


「カルマは? 」


「ケーキ買い行ってくれたんだ〜。私の好きなラズベリーケーキ。ユフナも気に入ると思うよ 」


「ところで。平和って何? 」


 寝る前に聞いた言葉を、ユフナはずっと疑問に思っていた。


 彼は平和という言葉を知らなかったから。

 それに対してリルは、嫌なものから逃げるように遠い目をした。


「実現しないもの……かな 」


 テーブルから足を下ろしてリルは語る。


「平和を実現するとか平和が一番とか言うけどさ、みんなその気が無いんだよ 」

 

「そうなの? 」


「うん、例えば戦争がない事が平和だとしよう。じゃあ戦争を起こさないようにこの世すべての武器を壊しましょう。賛同する国はあるかな? いや居ない。間違いなくね 」


「どうして? 」


「武力というのは最終手段なんだよ。それを手放すなんて、普通に考えてできない 」


 酔いが回っているのか、リルは天井を見て嘲笑うように語った。


「じゃあ今度は格差を無くせば平和だとしようか。今まで頑張って地位や金を築き上げてきた人から全部奪って、今死にそうな人たちに全部与えましょう。賛同する人は居るかな? 居ないよ。平和にはなるけど不平等を産んでしまう 」


「だから平和は実現しない? 」


「そうだよ〜。平和を望む癖に、アレはダメこれはダメ。こうすればここに不平等が生まれるって叫び続ける。みんな平和が欲しいんじゃない。働くのが嫌だから寝るだけで給料貰いたいっていうような、都合のいい結果が欲しいだけだよ 」


 怨嗟を吐き出し、その乾きを酒で潤すリル。

 そして酒を吹き出し、慌ててユフナに土下座した。


「ごめん酔ってた!! ほんとごめんねこんなこと言われても困るよね!? 」


「別に? リルの話好きですよ。面白いし楽しいから 」


「……そう言われると照れちゃうなぁ 」


 リルは恥ずかしそうに前髪をいじり、酒をぎゅっと飲み干す。

 ふぅぅと長い息を吐き出すと、今度はしょぼくれたように顔をテーブルに擦り付けた。


「ユフナ……平和はこの世にないけど、幸せにはなれる。だから幸せになってね 」


「リルも幸せになってください 」


「も〜!! 話たてなのに口上手なんだから〜!! ……でも 」


 新しい酒を注ぎ、水面に移る自分に向かって微笑んだ。

 いつも作り笑いをしている彼女は、やっと本心からの笑みを浮かべた。


「私は今が幸せだよ。平和なんかにならなくても、この幸せが続いてくれるだけで十分 」


 世界平和は実現しない。

 けれど個人の平和は実現する。


 リルはその平和を、幸せを、噛み締めていた。


「おーすただいま〜 」


「おかえりカルマ〜!! 」


 ケーキを持って帰ってきたカルマに、リルは飛びついてハグをした。

 そんな二人を笑顔で見守りながら、ユフナはふと呟いた。


「僕……騎士になります。リルたちの平和を守りたい 」


 そうして彼は騎士となった。

 世界平和などは望まず、自分を育ててくれた人たちを守るために。


 人を救うのが好きだった。

 リルたちが笑ってくれたから。


 戦争に行くのもなんとも思わなかった。

 帰る家があったから。


 この戦争が存在し続ける世界。

 平和と謳うには程遠いこの世界の中。


 ユフナは幸せだった。



ーーー




「で。その後リルが死んだので、色々と分からなくなったんです。実現しない平和のために戦う理由も。事情のある犯罪者たちが無条件に殺される法も。罪悪感に駆られて自殺する騎士という仕事も。だから知りたくなったんです。世界平和は実在するのか。実在するのなら、それをリルに見せてあげたい……そのために今、僕はここに居ます 」


 語り終えたユフナは笑っていた。

 懐かしむように、けれど届かない過去へ手を伸ばすように。


 彼の動機は、死んだ恩人に平和を見せてあげたいというものだ。

 それは虚しく満たされない感情。

 少なくともロクスは。ユフナ自身もそう思っていた。


 けれどハレは、


「話が重いんですよぉぉぉぉ!!!!! 」


 半ギレアホテンションで叫び散らかしていた。


「なんでそんな重いんですか!? 私なんて玩具の代わりがフォルセダーだっただけで研究者やってるんですよ!! 場違い感ヤバいじゃないですかもう!!! もうほんとごめんなさいね!! あなたが幸せになることを願ってますよもう!!! 」


「……大丈夫ですか? 」


「とりあえずハレ、水飲んでこい。あと深呼吸 」


「はい!!!! 」


 興奮のあまり顔を赤くするハレは、ゼェハァと息を漏らしながら外に出ていった。


 やけに静かになった部屋の中。

 最初に口を開いたのはユフナだった。


「失望しました? 考え無しだなって 」


「いいや、むしろ自分の考えは必要だ。戦争が終わった後なら特にな 」


「……? 」


「戦争が終われば、今度は迫害や責任追及が始まる。その時に冷静な視点から見れるヤツは貴重なんだよ。それに、お前のことが少し分かった気がする 」


 ロクスは人の手をユフナの肩に置いた。

 少しでもその過去の苦痛を忘れられるようにと思いながら。


「今後は円卓と戦うな。辛いだろ 」


「いや平気ですよ。模擬戦とかよくやってましたし 」


「そういう訳じゃねぇんだけど……ん? 」


 苦い顔から一転。ロクスはハッとしたように義手を耳に当てた。

 義手から聞こえる微かな声。

 それはハレのものだった。


「……了解、ハレ。情報助かった。お前はもう休んでろ 」


 通信を終えたロクスはすぐさまユフナの方を向く。

 その表情は吉報を示す笑顔だった。


「裏オークションで大量のフォルセダーが出されるらしい 」


「つまり? 」


「総取りだ 」


 そうして二人は準備を始めた。


 正義や正論で着飾ろうと所詮彼らは強盗団。

 腹を空かせて盗品を喰らう、誇り高くも卑しい獣たちだ。

 



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