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正義の咎人≒罪喰らう虫  作者: エマ
正義の咎人
3/48

第三演 身勝手な正義



「あ〜、そいや質問なんだけどよォ。円卓の騎士最強って誰? あっ、別に答えなくてもいいからな 」


 ロクスはハンドルを回しながら、遠慮気味に疑問を投げた。

 最強は誰か。その質問にユフナは悩み、顎に手を当てた。


「戦闘でいえばモルガンですね、間違いなく。でも火力はアグラヴェイン……技量でいえばガラハッドでしょうか? すみませんまとめられなくて 」


「いや大丈夫だ。そもそも円卓ってのは、得意や不得意が激しかったもんな……ちなみに最弱は? 」


「たぶん僕です。人助け以外成功したことがないんですよね 」


「……お前で最低ラインか 」


 ロクスはエンジンに掻き消されるほどの声でボヤいた。


 話が終わる。そしてふと、ユフナは質問をした。


「ロクス、正義ってなんだと思います? 」


 ハウはチョコを食べながら無言。

 ロクスはハンドルを回しながらも、それに答えるために首をひん曲げた。


「そうだなぁ……例えばだ。すっげぇ悪い王様が居ました。だが革命によって捕らえられ、民衆の意見の元、無実の家族共々処刑されました。これは正義だと思うか? 」


 無実の人間を処刑するなんて正義とは言えない。

 反射的にユフナは首を振った。


「いいえ 」


「いやそれが正義だ 」


 ユフナの否定はすぐさま否定された。

 力強い、私怨がこもった声で。


「正義ってのは多数決なんだ。不満が多ければ悪、肯定が多ければ正義。正義は高潔なものを勘違いされがちだが、結局殺しや犯罪を正当化できるかどうかの話でしかねぇ 」


 車は次第にスピードを上げていく。


「……なら、正義の果てに平和はないんですか? 」


「あぁ。無い 」


 ハッキリと言い切るロクスは急ブレーキを踏んだ。

 吹き飛ばされるような浮遊感の後、静けさだけが車内に満ちる。


「万人を守る法がないように、万人を救う正義なんて物はねぇ。だからせめて……自分の手が届く範囲を救う。それが俺の正義だ 」


 話を終え、三人は車を降りた。


 場所は森の中。なのに道は普段使っているかのように整備されている。

 それは何者かが頻繁に出入りしている事を示していた。


「何もないですね 」


「どーせ義欠旧体(フォルセダー) で隠してるだけだ。あっ、目的言ってなかったな 」


 ロクスは人差し指を上げてハウたちの視線を集めた。


「目標は素材を入手すること。戦闘が目的じゃねぇ、危なくなったら引け。失敗しても命がありゃもう一度(トライ)できる 」


「目標の情報は? 」


「赤いスーツケース。あとクソ重い。目立つからすぐ分かるハズだ 」


「了解 」


「よし、じゃあ作戦開始 」


「よぉお前ら!!! 」


 空には満月が浮かんでいた。

 真珠のような白光も優しく人を照らしていた。


 だがそれは影が。月を遮る強大な槍が、すべての光を呑み込んだ。


虐殺にて平穏を(ブレイク・ルーン)


 蹴りによって放たれた槍は森を吹き飛ばす。

 未開の地を焼き払うごとく強引なそれは、平和を守る一人の騎士によって放たれたものだ。

 

「円卓の騎士 モルガンさんじょ〜!! さて騎士諸君!! 仕事の時間だ 」


 攻撃の余波により現れた、森に似つかわしくない巨大な工場へ。

 モルガンの指示により、騎士たちは木枯らしのような速さで進軍を始めた。


「……さて 」


 ひと仕事終えたモルガンはユフナを見た。

 問いを投げようとした。

 けれどそれは放たれた拳によって吹き飛ばされる。


 赤い義手の攻撃。ロクスは騎士の前に立ち塞がった。


「ハウ! 二人で行け 」


「分かった、行くよ 」


 ハウ達はすぐさま工場へ。

 ロクスはギリリと義手を軋ませた。


「足止めか? 」


「味見だ 」


『リミッター解除を確認 冷却残数 2 』


 仄暗い夜を白炎が照らす。

 夜に落ちた太陽のように、光が闇を満たしていく。


「最強とやら。どこまで通用するか試させて貰うぞ 」


「いいぞ。でもまぁ、俺の話も聞いてもらうぜ? 」


 発散された炎は分裂を繰り返し、絨毯爆撃のような拳がたった一人に降り注ぐ。

 その中を騎士は、目を眩ませながら歩いていく。


 スピードが速いのでない。

 ただ、効いてないだけだ。


「俺にはな、元カノが居たんだ。名前はリル、仕事名はランスロットだ 」


「あっ? 」


 放たれる炎の槍。

 それはモルガンに当たる瞬間に逸れ、森の中へ飛んでいく。


 爆ぜた炎は森すらも震わせる。

 だが騎士にとってはそよ風のようで、気に止める理由にはならない。


「そいつはまぁ色々と苦労しててな、家の重圧や自己嫌悪。酷い時は自暴自棄で酒がねぇとやってけねぇって感じだった。まぁ酒のおかげで俺は付き合えたんだが 」


「惚気かぁ? 」


 苛立つロクスを騎士は見ていない。

 彼が見てるのは過去だ。


「んでまぁ、そいつが辺境の戦争に出向いたらさ。子供を抱えて帰ってきた。最初は産んだのかと思ってビックリしたけど、そいつは戦争孤児だった。名前は聞いても答えなかった。だから二人で名付けたんだ、ユフナってな 」

 

「っ!! 」


 ロクスの動揺。

 それを潰すように放たれた蹴りは、的確にロクスのアバラを砕いた。


「ごっ」


「戦ってんだぞ? 気ぃ抜くな 」


 さながら蹴飛ばされた小石。

 血を吐き散らして吹き飛ぶロクスは、森の外へとはじき出された。


 火の推進力でブレーキをかける。

 気がつけば、目の前には騎士が居た。


 単純な話、吹き飛ぶロクスにモルガンは一瞬で追い付いた。

 それだけのこと。


「でまぁ、そっからひでぇんだよ。飯の食い方も知らねぇユフナに、アイツは付きっきりだった。彼氏の俺すら放ったらかしでな。平和とは何か、騎士とは何か、自分にとっての苦しみを楽しそうにユフナに話してた。俺に向ける笑顔とは違って、すげぇ妬けたよ 」


「愚痴りてぇなら酒場に連れてけよ。奢るぜ? 」


「遠慮する、禁酒中なんでな 」


 立ち上がるロクスを、モルガンは静かに見つめていた。

 余裕。お前など簡単に殺せるという、哀れみにも似た笑みを浮かべながら。


「で、ユフナはビックリするくらい強かった。トントン拍子で騎士になって、次のランスロット候補だった。でもそんな時、とある事件に巻き込まれてリルは死んだ 」


「……… 」


「家の中だった。扉は半開き、事件の関係者っぽい死体もあった。んでその家のご近所さんに話聞いてたらさ、一週間前にアイツは突入したらしい。半開きの扉もずっとそのままだった 」


「……死因は? 」


「たぶん脳出血。脳細胞ズタズタで……まぁ、裏ではよく見る死に方だったよ。んで解剖に立ち会ったらさ、面白い事実が発覚したんだ。アイツは発見二時間前まで生きてた、脳がぐちゃぐちゃの状態なのにな……笑えるよな。異変を持った人が通報でもすりゃ、助かったろうに 」


 モルガンは笑えると言った。

 その顔は笑っていなかった。


 鋭い瞳孔を見開いて、過去すべてを怨むような目で、何かを見つめていた。


「別にそいつらを怨んじゃいねぇ。誰しもトラブルには巻き込まれたくないからな。うん、別に怨んでねぇ。ただそれを見たユフナは迷い始めた。まぁ今ある規律のせいで助かったハズの家族が死んじまったんだ。そりゃ迷うよな 」


「話が見えてこねぇ 」


「あぁ悪い。つまりな、お前らの変な思想にユフナを巻き込むな。殺すぞ 」


 それは一際静かな言葉だった。

 ただわずかに盛れ出した殺意は、森中の寝ている動物すべてを叩き起こした。


「……変な思想か 」


 血を吐きながら、殺意を一身に受けながら、ロクスは肩を震わせて笑った。


「規律はいいよなぁ、目に見えねぇのに人を縛れる。法はいいよなぁ、間違っても、訂正されればそれで済む 」


「……お前の目的はなんだ? 」


「今、犯罪をしなければ生きられない子供が大勢いる。戦後だしな。それを騎士様たちは、犯罪者といって処刑しまくってる。まぁ犯罪の抑止力のためだ、例外は許さねぇのが当然。そのクソみたいな厳しさのおかげで、あの都市はずっと平和だ。あぁ悪い。つまりな 」


 笑みを消したモルガンへ。ロクスは飛びっきりの笑顔を見せた。


「その平和を壊す。犯罪の中でしか生きれない者が、子供が、正しさに潰されないように 」


 二人の言い分はお互い正論だ。

 だが守りたい者が決定的に違う。


 モルガンは社会と平和。

 ロクスは犯罪でしか生きれない者たち。


 それは交わることない平行線の討論だ。


「……騎士は面倒だ。全人類が正義を掲げれば国は滅ぶ。だから選定しなきゃいけねぇ 」


「選ぶのは守られてるヤツらだろ? 今苦しんでる人の意見はどうするんだよ? 」


「聞くさ、だが今の平和は崩されてはならない。犯罪は許されない 」


「それが手遅れだってつってんだよ!! 」


「万人を救うことなどできねぇ!!! 」


 失った者たちは笑みを消し、静かに見つめあった。

 そして先に口を開いたのはモルガンだ。


「平行線だな 」


「だから戦争がある 」


 気温があがる。

 数値にして150度。辺りの虫たちの羽根が燃え、眩い夜に炎が散る。


「大人らしく、白黒ハッキリさせようぜぇ!! 」


 そしてロクスたちは再び戦闘を開始した。




 


 

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