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正義の咎人≒罪喰らう虫  作者: エマ
罪喰らう虫
21/48

第十一劇 全面崩壊カーニバル



 ルースが自警団に入って三日後。


 今でもクロウは監視の目を緩めていない。

 そのおかげか、ルースも大人しく情報収集に務めている。


 そう、大人しすぎる。

 その異様さがクロウにとって興味を引いた。


(お前はそんなタマじゃねぇ。何かやらかしてくれるんだろ? )


 ここは隠れアジトの一室。

 荒いスクリーンには、街中を歩くルースが写っている。


 暗い部屋の真ん中にはチェス台が一つ。

 クロウは16の黒い駒を操り、反対の盤面には白のキングがぽつんと孤立している。


 対局者(チェスプレイヤー)はクロウ。

 そして席にはつかぬは礼儀知らずのルース。


(監視は十分。さぁ、事を起こすために席に着け )


 監視はナガラを含め16人。

 一般人に似せた者も気配を消せる手練も混ざっており、ルース一人ではなにも出来ない。


 ならば仲間がいるとクロウは考えている。

 だがキングを動かせば最後、逃げ道を塞いでいる仲間(コマ)がその首を刈り取る。


 自分を殺すために動くも、逃げるために動くも。

 この檻の中で飼い殺しされるのも。


 クロウにとっては面白い展開でしかない。


「おっ? 」


 そして映像越しに、ルースとクロウは目を合わせた。

 それはゲーム開始の合図だ。


「やるか!! 」


『始めましょう 』


 微笑みながら首を傾げたルース。

 放たれた弾丸はその頬を掠め、それはすぐ後ろの壁にめり込んだ。


「撃ったのは誰だ? 」


 無線ですぐさま確認を取るクロウ。

 だが向こうも反応に困っていた。


「わ、分かりません。そもそも実弾を撃つなんて時代遅っ」


『バーイ 』


 報告が終わるよりも速く、ルースは手を振りながら路地裏に駆け込んだ。

 瞬間、クロウは出し抜かれたことを察した。


「……やられたな。全員可能な限り退避しろ、ルースを追うな 」


「……はっ? ボス、それは」


「雨が来るぞ、傘を差せ 」


 ルースが走った時、明らかに反応が速かった16人が居た。


 彼らの位置はバレたのだ。

 あの張り付いた笑みの暗殺者に。

 イタズラに雨を降らす、にくたらしい妖精に。



「……? 」


 ルースを追っていた調査員の一人。

 黒い髪の彼女は、頬に冷たさを感じた。


 ポタリと頬に落ちてきたもの。


 それは


「雨か? 」


 赤い雫だった。


遺雨ト証書(ベン・ニーア)


 弾けた調査員の頭。

 ぱらりと降り注いだ弾丸が、人を貫いたのだ。


「……奴か 」


 それを路地の影から見ていたナガラ。

 彼女の頭の中には一人の人物が思い浮かんだ。


「誰です? 」


「ヴィアラ・レル、『雨』の名を持つ暗殺者だ 」


 軽い発砲音と遠雷が弾けるような音。


 音速の跳弾は路地に隠れた獲物に迫るが、ナガラはゴミ箱の蓋でそれを弾いた。


「だが名が知れてる。殺り方も当然知られている 」


 しかしナガラにより弾かれた弾丸は、さらに空中で跳ねた。

 そして落雷と同じ軌道で落ちる弾丸。


 それはナガラの右腕を貫いた。


「っ!? 」


「止血します。動かないでください 」


 隣にいるスーツ姿の仲間は、すぐさまナガラの右腕に止血の処置を施した。


 弾丸はナガラの肉と骨。神経まで巻き込み貫通している。

 ナガラの右腕には感覚がない。


(跳弾で狙うなんてレベルじゃない……そもそも、人間が狙えるものなのか? )


 疑問の最中、今一度弾丸が放たれる。


 遺言を唱える時間は与えた。

 次に来るのは死だ。


「っ!! 」


 常識(ことわり)を無視した弾丸はナガラのすぐ側。

 止血しているスーツの男の胸を貫いた。


 それでも彼はナガラの止血を強行し、遺言なくその場に倒れた。


『ナガラ、生きているか? 』


「はい 」


 クロウからの無線。

 ナガラは仲間の死体の背を握りしめながらも、すぐに言葉を返した。

 

『すぐに逃げろ、分かったな? 』


「はい 」


 心を落ち着かせ、ナガラはすぐさまこの場を後にした。



「残りは15人かなぁ〜 」


 ライフルとショットガンが一体化した改造銃。

 それを支えながら、暗殺者(ヴィアラ)は太ももに巻き付けた弾丸をショットガンに込める。


 彼女は屋上に寝そべり、その銃口は空へ向けられる。


「……みっけ 」


 亜音速の弾丸がショットガンから放たれる。

 その次の瞬間、音速のライフル弾は放たれた弾丸にぶつかり跳弾。跳ね回り。


 遠雷のような金属音は空を鳴らし、弾丸は不幸な敵の頭へと落ちた。


「おっと 」


 転がり起きるヴィアラの顔に青い炎が迫る。

 先の銃声で居場所がバレたのだ。


「だから何〜 」


 横に転がるヴィアラは重々しいレバーを引き、散弾と狙撃銃(二種の再装填)を同時に済ます。


 屋上にいる敵は8人。

 空中に6人。

 ヴィアラは囲まれている。


 だが『雨』の前では、平等に濡れるだけの無力(ひと)でしかない。


「パァ〜ん 」


 二種の弾丸は地上に撃たれた。

 音速の跳弾は空中すべての頭を貫き、血で雨を降らした。


 散弾は二人の剣撃に防がれた。


「死ね 」


 地上に残った8人はヴィアラへ距離を詰め、統率された剣はその頭に振り下ろされる。

 だがふわりと後ろに回転したヴィアラは、足で重いレバー引いた。


 再装填は完了した。


「お〜こわっ 」

 

 金属音とともに分かたれた二種の銃。

 至近距離で放たれた散弾は2人を貫通。


 放たれたライフル弾は散らばる骨たちにぶつかり、軌道の曲がった弾丸は3人の頭を貫いた。


 残るは三人。


「死」


 迫る敵。


「遅いよ〜 」


 ライフルを捨てたヴィアラは、手首に隠したナイフで腹を刺す。

 その刃先。

 そこに空いた極小の穴からは、高圧ガスが放たれた。


 風船を膨らませ破裂させる。

 ヴィアラはそれを人でやった。


 あと二人。


「この」


 ヴィアラの背後に敵が迫る。

 その正面に穴の空いた死体が投げられる。


「っ!? 」


 仲間を切るのを躊躇った。

 その隙に穴へと差し込まれたショットガンの銃口は、敵へと向けられる。


 肉に銃身を差し込んだ時点で、ポンプアクション(リロード)は完了している。


「バァン。あと一人……は? 」


「フォルセダー、起動 」


 音速を越える抜刀速度。

 直前まで気配を消せる胆力。


「おや? 」


 死体に紛れていた男は、音速の刀身を振るう。

 だが金属音。


 左腕に阻まれた赤い刀身は砕けていた。


「なっ!? 」


「ざ〜んねん 」


 ヴィアラの斬られた腕の下は、赤い血の通わぬ機械だった。

 それで男の顔面を掴んだ。


「惜しかったね〜。花丸をあげるよ 」


「ごっ……あっわ!! 」


 鉄を折り曲げるプレス機。

 その隙間に人の頭を挟む。


 ヴィアラの左手の中では、そんな事が起こっていた。

 当然生き延びれる人はいない。


「……ん? 」


 ヴィアラの何かを察した。

 その瞬間に、遠くの方で派手な爆発音が響いた。


 その爆心地に居るのは踊り狂うビルフェルムだ。


「フェルムっち、あんまり派手に暴れたら計画が……あぁぁ 」


 死体を投げ捨て、ヴィアラは縋るように空を見上げた。

 とうぜん目も何処か遠い。


「頼んだよルース。この脚本書いたのキミなんだから、打ち切りは許さないよ? 」


 ヴィアラは血まみれの頬を指先で持ち上げた。

 その姿は悪しき妖精が人を喰い殺したように、美しくもおぞましいものだった。



(なんで走ってるんだ )


 銃声、爆音。

 街を地獄のように化粧する断末魔。


 その中心に向かってカナギは走っていた。


(俺はもう騎士じゃねぇ……独断捜査が見つかれば処刑されるだろうな。なのになんで……走ってるんだ )


 分からなかった。

 だがカナギの意思は体を動かしていた。


「……? 」


 爆心地に向かう途中、路地裏に人影が二つ見えた。


 一方は銃を。

 もう一方は鉄パイプを持ち、それを振りかぶっていた。


「っ!! 」


 カナギは反射でもう一方を庇おうとするが、振り下ろされた鉄パイプは人の頭を歪ませた。


 間に合わなかったのだ。


「ヒヒッ……死んだ? ねぇ死んだ? 撃たないで……痛いのヤダだから 」


 鉄パイプを握るのは少し幼さが顔に残る少年だった。

 彼は反撃を恐れ、死体の頭を何度も何度も叩きつける。


「あっ? 」


 残酷な人の目がカナギを見る。


「騎士だ……見たことある……俺は殺されそうだったんだ!!! あぁダメだ殺さなきゃ……反撃される 」


 それは狂っていた。


 それを殺しても誰も咎めないのに、カナギは動けなかった。


(何か事情があるんだろうな……目はおかしいし。人を殺して泣くなんて……俺はこの人を殺していいのか? )


 振り上げられる鉄パイプ。

 カナギは動かない。


 振り下ろされる。

 寸前、


「こんにちは 」


 ふふふと笑うルース(女性)が現れた。

 鉄パイプを握る男の真隣に。


 ルースが声を出すまで、誰も彼に気付かなかった。


「あっ!? 」


 驚く男の体は傾いた。

 その足を引っ掛け転ばせた女性は、倒れた男の首の上にぴょんと飛び乗る。


 当然、首の骨は()を上げた。

 

「どうも、お久しぶりですねお兄さん 」


 人を殺してなお柔らかな笑顔の女性。

 カナギはその顔を知っている。


「……あの時の。なんでこんな所に 」


「私も裏の住人ですので。ところでここは危ないですよ、少し隠れませんか? 」


「……あぁ 」


 優しく手を引かれるカナギは、そのまま路地裏に連れ込まれた。

 そして二人は決して綺麗とは言えない地面に腰を下ろす。


「ところで、その血は…… 」


「あぁ、えっと……撃たれちゃいまして。もうすぐ死ぬだけですよ 」


 悲しそうに目を細める女性。

 胸についた血は今なお広がり続けている。


 その演技を見破れるほど、カナギは冷静ではない。

 彼は考えることに疲れていた。


「そうですか……ならどうして逃げないんです? 」


「お兄さんがまた頭をぶつけそうでしたから 」

 

「……お節介ですね 」


 疲れたように空を見上げるカナギ。

 女性は足を閉じたまま、やんわりとその肩に手を乗せた。


「悩みを聞かせてくれませんか? というより、声を聞いてたいんです、その方が寂しくないですから 」


 カナギは口を噤んだが、女性の顔を見てその考えは変わった。


 息遣い、手の震え、目の動き。

 そのどれもが死にかける人の動きであったから。


 死にゆく人の頼みを断る人など、そう居ないのだ。


「……俺は騎士です。人を救うために、犯罪者を殺し続けた 」


「なら……敵ですね 」


「えぇ。でも今、分からなくなった。犯罪者にも人生があって、苦しみ悩む姿を見て……俺は正義を執行しているように見せて、ただ理解できない人を殺してただけなんだって、知ってしまった。どうしたらいいか分からない 」


「どうしたらいいか、知ってますよ 」


 女性は肩に置いた手を滑らせ、カナギの手を掴む。


「昔を思い出してください。あなたはどうして、騎士の道を目指したんですか? 」


 顔を近づけ囁く女性。

 カナギは言われるがままに過去を見る。


「どうしてこの道を選んだの? 」


 言葉に操られるように、カナギの意思は昔に戻る。

 それは子供の頃だった。


「昔……友達と遊んでた時、ボールが木の上に乗ってしまったんだ。みんな困って、大人を呼ぼうとしてて。でも俺は木に登った。それでボールを取って、友達に投げた。そして見下ろす友達はみんな……褒めてくれたんだ。ありがとうって、お陰で助かったって。それが嬉しかった、だから騎士を目指した。人を助けるのが喜びになったから 」


 一言で表すなら、彼は人を助けることが喜びとなったのだ。

 それに依存した。

 だから人を助ける正義の道に進んだ。


 彼は救済という快楽に溺れた一人なのだ。


「なら、もう一度沈めますよね? 」


「……えっ? 」


 ザワりと、カナギの首元には鳥肌が立つ。


「あなたは真面目な人です、自分が選んだ道を曲げられない。同じ道しか進めない。あなたは救うという快楽に溺れた人だから 」


「俺は…… 」


「さぁ過去を見て……あなたは今どうしたい? 何を感じたい? 何が欲しかった? ゆっくり、でも今。決めてみましょう 」


 カナギは迷う。

 けれど過去を見れば、自分がどうしたいのかはすぐに分かった。


 彼は救済に依存した。

 その依存が身を滅ぼしてしまいそうだと直感した。


 だからもう一度手を伸ばすのには、悪魔の後押しがいるだけだった。


「俺は人を救いたい 」


「どのくらい? 」


「全員だ 」


「なら、強くなればいいんですよ 」


 散々人を迷わせた悪魔は、心をくすぐる答えをささやく。


「強くなれば、誰でも救える。正しさをねじ曲げられる。あなたが望むものすべてを守れるほどに強くなれば、それで解決する。簡単な話でしょう? 」


 女性はカナギの胸ぐらを掴み、その体をグイッと寄せる。


「行動しなければ自分すら救えない。真面目で強欲なあなたは、満たされるまで走らないと助からない。そして強くなければ、誰も救えない 」


 花のように、蜘蛛のように。

 女性はカナギにキスをした。


 しかも口の中には生暖かなものを押し込まれ、


「!? 」


 カナギはそれを反射的に飲んでしまった。


「な、何を!? 」


「今のが毒だったら死んでましたよ? 」


「……あっ 」


 冷静になったカナギに対して、長い舌を垂らす女性はクスクスと笑う。


「こういう油断を乗り越えての強者ですよ 」


 女性は無理してニッコリと笑い、そのままカナギから体を離した。

 その足取りは外へと向かっている。


「さようなら、どうかあなたの欲が満たされませんように。あなたがすべてを背負う強者になれますように。これは私からの呪いですよ 」


「……はい 」


 死にに行く彼女をカナギは見送る。


 そして反対の道。

 自分が進むべき道を、カナギは進んだ。


 悪は欲に飢えている。

 正義も欲に飢えている。


 殺して満たすか、救って満たすか。

 正義と悪の差などそれだけに過ぎない。



 けれども、平等なことが一つ。

 絶対的な力の前では、どちらも虫に変わりは無いということだ。



「ふぅ……間に合ったか? 」


 右腕から血を流し続けるナガラは、辛うじてコントロールルームにたどり着いた。


 ここはクロウの秘密基地と呼ばれる、アジトの一つだ。

 カナギが連れてこられた場所でもある。


「私が……必ず…… 」


 ナガラの左手には、小さな紙が握られていた。

 そこにはこう書かれている。


『これは保険だ。お前が逃げ延びてくれると信用して、奪われるリスクを承知でこれを書いた。鳥は非力な存在だ、人を殺せる力はない。だが、高い場所から石を落とすことは出来る。さぁ、落としてやろうせ。邪魔をしたヤツらの頭に、作り上げた奥の手を 』


「えぇ 」


 ナガラは『イージス』を起動した。

 向かうは街中で暴れるヤツら。

 クロウの邪魔をするすべてを殺すために。


『ナガラ? なんでそれを動かしてる 』


「えっ? 」


 一手遅れた。


 通信のクロウは困惑の声を上げていた。


「通信を妨害(ジャミング)されてたんだ。で、どうしたんだ? 」


「ぼ、ボスがこれを動かせと紙に 」


「紙? 確かによく使うが俺は……なるほど。誰かに触れられたか? いつでもいい、触られた記憶を思い出せ 」


 ハッとしたように声はナガラに問う。


 汗がぽたりと落ちる空白の時間。

 ナガラの頭に映し出されたのは、右腕を止血してくれた誰かだ。


「止血される時の……あれは誰だ? 」


「ルースか 」


 血の気の引いていく感覚が、ナガラの足元に絡みつく。


 ナガラの腕を止血した者。

 あれは変装したルースだった。


 それに気が付かなかった事にナガラは心底恐怖した。

 だがクロウはこの程度の障害で止まるほどやわでは無い。


「気にすんな、まだ保険はある。ルースがいくら騒動をデカくしようがヤツは動けない。他のコマが、ヤツを邪魔している 」


 クロウにはまだ奥の手がある。

 ルースが自分を直接殺しに来ても対応できるように残しているのだ。


 だが、妙な点が一つ。


(ここまで事を起こして、なぜ動かない )


 クロウは既にルースを見つけている。

 だが彼は動く素振りを見せない。


 ただ街中で、コーヒー片手にのんびりしているのだ。


(ヴィアラとルースは無関係? いや有り得ねぇ、ならなんでナガラを動かした? 何が目的だ? 動けないんじゃなく動かない? そんな事をして何を…… )


『どうも〜、コーヒータイム中に失礼します 』


 突如として無線に乱入した声。

 それはルースの物だった。


 ナガラは硬直。

 クロウは腹を探るために声をかける。


「よぉルース、派手にやったな 」


『えぇ、コマを勝手に動かしてるごめんなさいね。それで、チェスは続けますか? 』


「あぁ 」


 空論のチェス盤。


 その上でルースは、ようやく自分のコマに手をかけた。

 だがクロウは焦らない。


(1マスでも動けば殺せる。常識(ルール)を無視して俺だけ殺しに来ても問題ない、それ用の策は用意してる )


 ルースの盤面には王が一人。

 その周りには見えない(こま)たちが居る。


 餌を待ち侘びるように待っている。


 動けば死ぬ。

 そんな状況で動いたルースは、指先で駒を持ち上げ、それを盤面外へと落とした。


逃亡成功(ステルスメイト)……引き分けです 』


 チェスの特別ルール。

 引き分けに持ち込む苦肉の策。


 それは王を盤面外へと逃がすことだ。


 それを実行したルースだが、ここで疑問が生まれた。


(そんな事をして、何になる? )


 ナガラは疑問に思った。

 遅れて意図を理解したクロウは、やられたと笑みをこぼした。


「なるほど、それがお前の策……いや、脚本か 」

 

 クロウの私室の扉が開く。

 そこには銃を持つ騎士、カナギが立っていた。


『チェスというゲームはおしまい。これからは生き残れば恥を、死ねば無価値を得る、現実というゲームの再開です。さぁ……頑張りましょう? 』


 鼓膜を貫くような警告音。

 それはナガラの右腕に付けられた、赤い首輪によって発せられた物。


(通報音? ……!!! )


 遅れてコントロールルームには、更なる警報音が悲鳴のように鳴り響く。

 アジト周辺に備え付けられたセンサーが反応したのだ。


 つまり、誰かがこのアジトに向かっている。


(やられた!! )


 コントロールルームのモニターには、はっきりと黒い人影が映っていた。



 古来。燃えるという原理が神秘とされていた頃の話。

 火と煙は母と子であると(うた)われた。


 煙は火を溺愛しているため、火が現れるたび煙が現れると語られた。


 煙を立てたくば、火を焚けばいい。


 円卓を呼びたくば、事件を起こせばいい。


「……アグラヴェイン。目的地に到着 」


 地上、荒野の上。

 歯車を回すフクロウと共に現れたのは、黒い血濡れの騎士だった。





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