第一演 平和な街
『今日処刑される物はこちらでございます 』
人がまばらに集まる店内に、こぽこぽとリズミカルな抽出音がひびき渡る。
ここはこの王なき国で一番平和だとうたわれる、円卓都市 一番通りで営業される喫茶店だ。
『終戦より八年。皆さま今日は平音記念の日です。どうか無理なく悪を滅ぼし、私たちの正義を実行しましょう 』
アナウンサーの声。
犯罪者の許しを乞うような鳴き声。
いつも通り、絞首台は三人の首をぶら下げた。
そして店の中にはのどかなバイオリンの音が響き渡る。
戦争が終わった国。
ここは平和な場所だった。
「今日で平和は店じまいだオラァ!! 強盗だ金出せぇ!!! 」
扉は凄まじい勢いで蹴破られた。
布を張りつけたような幽霊の覆面を被った二人組は、店に入るやいなや赤い義手を店員に向ける。
それは戦争で使われていた旧式兵器だ。
「はい金! レジ金ぜんぶ寄越せ!! さもなくばこう……殺るぞオラ!! 」
「考えてたセリフ忘れてるじゃん……ん? 」
兵器を向けられている店員。
その表情は光り輝くように笑顔だった。
「やったバイトが速く終わる〜!! はいどうぞ!!! 」
「えぇ…… 」
脅されるのを待っていたように、店員はレジ台をひっくり返して金を袋に詰めた。
その手際の良さに若干引く赤い義手の男。
けれど強盗であるがゆえに、彼は袋に手を伸ばした。
「はい、現行犯だ 」
声と逆巻く空気。
銃より放たれた高圧の熱風が、男をかすめて後ろの壁を消し飛ばした。
「ランスロット隊だ。俺が仕事の日に強盗に来たのは不運だったな 」
鎧と軍服を織り交ぜた隊服を着る騎士。
ネズミ相手に手榴弾を使うような、過剰すぎる威力の銃。
その二つを装備した高圧的な男は、店内の奥より身を乗り出した。
「銃の威力は見たな? 投降しろ。処刑部隊が来ないうちに判断してくれれば助かる 」
「「……… 」」
慈悲を向けられた強盗はニカッと笑いあうと、入り口でコーヒーを飲んでいた客をとっ捕まえた。
そう、彼は盾である。
「おらぁ人質ぃ!! 撃つなよ!? 」
「おまっ、ふざけんな!! 慈悲を仇で返しやがって!! 」
「慈悲でメシが食えるかってのバーカバーカ!! 」
「ばーかばーか 」
「忘れもんないな!? よし、じゃあなアバよっ!! 」
金を持った強盗たちは煙幕を放ち、店前に用意してた車で逃亡をはじめた。
もちろん人質も込みである。
「あいつ危ねぇな! 死ぬとこだった!! 」
焼けた覆面を剥ぎ、赤髪の男は窓からそれを投げ捨てた。
「うん。外してくれて助かったね 」
同じく覆面を脱いだオッドアイと白髪の女は、男の無事を安心しながら車のスイッチを入れた。
それと同時に、車の外装の色が変わる。
彼の名前はロクス。彼女の名前はハウ。
『幽霊ふわふわ強盗団』として義賊をしている。
彼らはこの都市で捕まったことは無い。
情報も容姿も確実に明かされているが、追っても必ず消えてしまう。
ゆえに幽霊義賊として名を上げている二人組みだ。
「う〜ん、そういやあの円卓の騎士は出てこなかったな 」
逃走中、ふとロクスは退屈そうに天井を見上げた。
「あの左遷されてきた人? 」
「そうそう! 正義感がつえーって噂だからさ、すぐに来ると思ったけど来てねぇな。なんか追加の情報あるか? 」
「さぁ? ここに来たばかりで情報が少ないから。分かってるのは珍しい空色の髪と黒い目と、身長が低いってことらしいよ 」
「少ねぇなぁ。これじゃあすれ違っても分かんねぇぞ? 」
「くしゅん……失礼。噂をされたみたいでね 」
後部座席から伸ばされた白い義手。
それは二人の首をガッチリと掴んだ。
バックミラーに映った人質。
それを見た二人は目を丸くさせた。
「空色の髪…… 」
「黒い目…… 」
「あぁそれと、身長は言わないで欲しいですね。気にしてますので 」
「ハンドルを右へぇぇ!!! 」
金切り声をあげたタイヤ。
二人は横転する車から飛び出し、一目散に走り出した。
「なんでなんでなんで!? なんで居んのキッショ!! 」
「張られてた!? 情報は散らしてたのに!? 」
「男女二人が通う店。昨日の祭りで賑わった通り。そこら辺を絞って待ち伏せてたんですよ。人質にされたのはビックリしましたけど 」
逆さ空に立つ人質。
だった男は、空から地面を見上げていた。
幼さが残る笑みは照れくさそうに。
けれど黒点のような目は、裁くべき罪人をしっかりと見つめている。
「知ってると思いますけど自己紹介。名はユフナ。仕事名は……円卓の騎士 ランスロット 」
そう、彼は都を守る者。
地に這い蹲る者が罪人なのなら、彼はその首を落とす断罪である。
「いいの? ここで戦ったら巻き込まれる人多そうだけど 」
「犠牲者を出す者が、円卓の名を名乗れるとでも? 」
ただ一度の問答。
ロクス達の額には、確実に冷や汗が増えていく。
「投降します? それともやりますか? 」
「……やって野郎じゃねぇかコノヤロウ!!! 」
「や、やるぞー 」
駆動音。ロクスの赤の義手に浮かんだ青い筋。
そして無機質な声が呟いた。
『『義欠旧体 起動します 』』
「ん? 」
空が揺れる。
生み出された熱はカゲロウを生み、炎の剣はユフナの八方を塞ぐ。
獲物を口の中に閉じ込めるような熱気。
だがユフナはひらりひらりと炎を躱した。
(旧式兵器……ここにも流れてたか )
義欠旧体 。
それは長い長い戦争で使われた血塗れの兵器。
現実に存在する自然現象。
それを科学力によって再現させる、効率よく人を殺す武器である。
「まぁ旧式とはいえ、兵器は兵器。被害が出る前に潰させてもらいましょう 」
空中は目を覆いたくなるような熱気で満ちている。
にも関わらず、ユフナは礼儀をわきまえるようにそっと袖を捲りあげた。
服の下から現れた義手。
義欠旧体が血を表す赤であれば、それは正義と同じ純白の兵器。
「理想幻体 」
それが起動された瞬間、ユフナの手には美しい指揮剣が現れた。
かつての英雄を模した剣。
鱗粉を振られたように輝く透明な剣。
名を、『水境断香』。
「ねぇこれ逃げた方がよくない? 」
「やっぱり? 俺も同じこと思ってたァ!!? 」
ロクスが立つ地面は切り抜かれ、小さな体は広大な空へと弾き飛ばされた。
そして感じた。吐き出してしまいそうなほどの、濃厚な殺意を。
「人体機能停止 」
「っう!! 」
閉じた拳と共に現れた千本の剣。
贈り物をお返しするように、丁寧に逃げ場を塞いだ剣の檻。
人を殺すには過剰な殺意。それが今、放たれた。
『リミッター解除 冷却残数4 』
対して、ロクスはリミッターを解除。
義手より吹き荒れた白炎が右腕に収縮。
「遺体無き葬儀 」
突きによって放たれた炎は、剣の檻を跡形もなく蒸発させた。
「……ふむ 」
熱波すら躱したユフナは顎に手を当てていた。
それは彼が考えている時の癖だ。
「逃げる気が無いのですか? 」
「あっ? 」
義手を冷却するロクスは苛立つように声を上げる。
「あなた達が本当に逃げたいのなら、今のを街に向けて撃つべきだ。街が壊れれば対応に回る。そうすれば逃げやすいでしょう? 」
「バーか! 街壊れたら盗めねぇだろ!! 」
「仲間がバカですみません…… 」
(うーん )
ユフナは迷っていた。
この街で犯罪を起こしたものは、確実に死刑である。
かといって目の前にいる二人は死刑になるほどの犯罪者でもない。
だが野放しも許されない。
「……仕方ない 」
騎士でありながら迷った挙げ句、ユフナは剣を犯罪者へ向けた。
彼は決めたのだ。
この罪人をどうするかを。
「……危な」
ハウの言葉。
それは建物を吹き飛ばす無数の爆音によって途切れた。
これはユフナの攻撃ではない。
ロクス達の策でもない。
ただの正体不明の攻撃だ。
(……他国の進行? )
「あぶねぇ!! 」
困惑するユフナ。
それを無視してロクスは走り出し、飛んできた瓦礫から通行人の少女を守った。
「大丈夫か? 」
「う……うん。ありが」
「っ!? 」
ロクスの背に赤い機械が迫る。
炎を使えば少女も巻き込む。
それを恐れ、ロクスは少女に覆いかぶさった。
「……ん? 」
少なくとも背骨はやるだろうと思っていた。
だが痛みはなく、ロクスと少女はいつからか空中に浮かんでいた。
「隊員に告ぐ。正体不明の襲撃アリ、民間人の避難を優先せよ。繰り返す、これは戦争ではない。民間人の避難を優先せよ 」
二人を助けたのは他でもない、罪人を裁くはずのユフナだ。
その目は、突如現れた四足歩行の赤い兵器たちに向けられている。
「街を守るのを手伝ってください。代わりにあなた達を街の外に逃がします。もちろん盗んだお金も付けますよ 」
突然の提案に、ロクスはハウの顔色をうかがった。
「いいの? そんなことしたら立場が危ういんじゃない? 」
「構いません。お金は円卓で保証できますが、命と思い出は壊れれば最期です。だから、お願いします 」
ハウは少し迷っていた。
言うことを聞いたからといって、外に逃がしてもらえる保証は無い。
この騒ぎのうちに逃亡を測ることが、どう考えても最善だった。
だが、
「よっしゃ乗ったァ!! 」
ロクスの心は最初から決まっていた。
その愚直で純粋な言葉に、ハウも嬉しそうな笑みをこぼした。
「私の能力は氷。ひとまとめにしてくれたのなら、被害を抑えられる。ロクスは」
「焼き尽くす!! 」
「だってさ 」
「了解。あっ、大丈夫ですよ。絶対に守りますから 」
震える少女に、ユフナは優しく声をかける。
そして静かに剣を振るった。
「近つ終幕 」
瞬きで起こる僅かな暗転。
ただそれだけの間で、地にはびこる機械たちは空中にひとまとめにされていた。
まるでこれから捨てられるゴミのように。
いや、ようでは無い。
これから燃やされる鉄くずども、ゴミと言わずになんと表現するべきか。
「臓器失血 」
「死者無き納棺!! 」
薄氷の檻がゴミを包み、火花を散らす白炎はロクスの手のひらに。
そして静かに、その手は合わせられる。
その姿はまるで、死者を弔うようだった。
「遺骨無き墓 」
街を呑む無音。
それは広がった静寂とともに、集められた機械たちを消し飛ばし、街中の窓ガラスもぶち壊した。
そう、街中である。
「……ロクス? 」
ハウの目は冷ややかなものに変わっていく。
「いや……火力ミスったというか。物分りのいい騎士に会えてテンション上がったというか 」
「でも街を守ることが条件だったよね? 」
ダラダラの汗がロクスの全身を冷やしていく。
そう、絶体絶命である。
街を守るということを破ったことによって、今。
ランスロットの名を持つ円卓の騎士が敵となった。
もはや逃亡できるかでは無い。
死ぬか生きるかの瀬戸際だ。
「罪人を発見 」
そのギリギリに立つ背を押すように、白の鎧を着た十六の兵士が現れた。
彼らは処刑隊。
対話などできない、罪人を殺すだけの騎士である。
「じゃあ 」
白い義手が二人の首を掴んだ。
死を覚悟する二人。それとは対照的に、ユフナは何かを託すような優しい笑みを浮かべた。
「さようなら 」
「「っ!? 」」
ロクス達は一瞬で消滅。ユフナは少女を抱きかかえたまま地面に舞い降りた。
「どういうおつもりで? 」
処刑隊であるにも関わらず、一人の兵士は問答する時間を与えた。
「見ての通り、逃がしました。あぁ抵抗はしませんよ……気をつけてね 」
「う……うん 」
少女の背を優しく押し、ユフナは義手を名残惜しそうに手放した。
それにどこか安堵するように、処刑隊たちは静かにユフナの両肩に拘束具をはめた。
そこには騎士の姿はなく、ただ両腕のない少年が捕まっているだけだ。
「さて、ランスロット…………いや、ユフナ・コルテ。何か言い分は? 」
あの義手も逃げる気もないユフナは軍法会議に掛けれていた。
彼の前に広がるは、形だけの平等を示す円卓。
十二の席に座るのは、円卓の名を関する騎士たちである。
「なにも。すべて処刑隊が見た通りです 」
「形だけでも悪びれることは出来ないのか? 」
跪くユフナの首に、冷ややかな剣が乗せられる。
そのドス黒い剣を握るのは、無数の傷跡を持つ、金髪の女性であった。
彼女はアグラヴェインと呼ばれる一人の騎士。
悪名高く、彼女が出向いた任務には腐臭と血なまぐささしか残らない。
そこまで言われるほど、彼女は異端の騎士であった。
「まぁまぁまぁまぁ、とりあえず剣下ろして茶でもしばこうぜ!! 死刑は良くても私刑は犯罪だからな!! とても宜しくない!!! 」
やかましく。そしてベラベラと喋る赤いロン毛の騎士。
彼の名はモルガン。
王無き円卓にて、最強なだけの騎士である。
「そんでランスロット……いやユフナは追放しようぜ 」
「……はっ? 」
わざとらしく顔を歪ませたのはアグラヴェインであった。
「追放? 処刑の間違いでは? 彼は穢らわしい盗人を逃がした。平等を掲げるのなら、平等に罪を裁くのが円卓でしょう 」
「あぁ平等だ! だが成果への優劣は存在する!! さっきの謎の襲撃もユフナが居たから街はほぼ壊されていない。というか前の戦争でも、ユフナが居なけりゃ騎士たちの半分は死んでた!! まぁつまり……雑魚に発言権はねぇ、黙って意見を受け入れろ 」
「……平等に反するのでは? 」
「意見を受け入れない者が平等を語るのか? とかいう俺も平等に反してんな!! 一緒に処刑されっか!? アグラヴェイン 」
「……チッ 」
モルガンのうざ絡みに、アグラヴェインは舌打ちを返す。
そして剣をおさめた。
「よーし異論無くなった! じゃあ多数決な〜。ランスロットの功績を踏まえて、ユフナの追放に賛成な者は? 」
ほの暗い部屋に10の手が上げられた。
最後までユフナの処刑を押していたのはアグラヴェインだったが、平等なる多数決の前ではその意見は無意味だった。
そしてユフナにかせられた要求は二つ。
「夜明けまでにこの国を去る。それまでに問題を起こせば即刻死刑……ですか 」
ただの義手をベットの上に落とし、ユフナは呟いた。
ここはこの国で一番古いホテルである。
円卓の慈悲か、または情けか。罪人であるハズのユフナは、監視の目もなく静かに夜を過ごせている。
「というかあれ、何が入ってるんだろ? 」
ふとユフナが手を伸ばしたのは、円卓を去る際に渡された古いカバンだ。
その中身は大量の金、質の高い衣類、護身用の小さな白銀のナイフ。
そして、血で殴り書かれた手紙があった。
それにはアグラヴェインと名が刻まれていた。
『私を怨め、私はお前の死を望む。罪人であるお前を私たちは許さない。必ず貴様の首を円卓の上に見せしめとしてやる。必ず殺す、私を怨め 』
「えぇっと? 」
ユフナは首をひねる。
そしてこう翻訳した。
『ごめんなさい。あなたを助けるにはこうするしか無かった。お金はみんなが出し合った物。あなたが決断したことは間違いではあるけど、私は否定しない。そして騎士として、再びあなたに会える日を待ち望んでいる。また会いましょう。その時があれば、私を殺してくれても構わない 』
そう。アグラヴェインが処刑に賛成したのは、形だけでも不満があると示すためである。
そうでなければ円卓上層部の秩序は機能しなくなる。
だから最後までユフナを否定し、怨まれることを承知で一芝居打ったのだ。
ユフナの罪を、追放処分にまで軽くするために。
尊敬し、敬愛するランスロットを逃がすために。
「……ほんと、真面目な人だなぁ 」
手紙を焼き、ユフナは足早にホテルから抜け出した。
これ以上迷惑をかけたくなかった。その一心で。
(さて、どこに行きましょうかね……あっ )
薄暗い道がつづく街。その脇道にユフナは逸れた。
「こんばんは。今日はランタンが必要な夜ですね 」
「誰だ? 」
血が散乱する路地裏には、ガタイのいい男三人が一人のやせ細った少年を囲っていた。
靴に付いた血、拳を染める赤。
リンチされていたのだろうとユフナは察した。
「まぁ……一般人です。ところで、こんな場所でリンチなんて度胸がありますね。犯罪者は処刑ですよ? 」
「何言ってる? コイツは俺たちの店から色んなもんを盗んだ犯罪者だ。俺らがやってるのは防衛だよ 」
「じゃあ通報すればいいでしょう。それだけで犯罪者は処刑されるし、盗まれた金品は国が返してくれる。まぁ、あなた方が犯罪者で無ければの話ですかね 」
その一言を境に、空気はピリついた。
「……今なら無関係な人間と思ってやる。さっさと失せろ 」
男たちはコートの下に手を入れた。
これ以上関われば殺す。その警告を前に、
(……はぁ )
ユフナはため息を吐いた。
彼らにじゃない。この現状にだ。
ここは路地裏だが人は居る。
だが誰も殴られる彼から目を逸らした。
それは悪いことでは無い。
誰しもトラブルに関わりたいとは思わないだろう。
だからこそ飽き飽きしていた。
放っておかれた被害者は、その間に死ぬことを。
死ねば何も残らないことを。
彼は体験していたから。
「……大丈夫ですか? 」
三人と迷惑をかけたくない気持ち。
その両方を蹴り飛ばしたユフナは、蹲る少年に声をかけた。
「大丈夫……です。見逃してください……これ売らなきゃ……ご飯が 」
少年の手には赤い兵器の破片が握られていた。
少年にはそれが価値のあるものだと思っているのだろう。
だがそれは旧式兵器の一部。
殴られ血を吐くほどの価値は無い。
「……それ、買いましょう。お代はこのカバンに 」
「えっ? 」
ユフナは半ば強引に、少年からその破片を買い取った。
「なんの騒ぎだ? 」
けれど間の悪いことに、そこにやってきたのは一人の騎士だった。
彼は喫茶店に居た男だ。
手には銃が握られ、それはユフナに向けられている。
「……隊長 」
「元ですよ。伸びてる三人は殺す前に尋問しといてください。それと後ろの彼に救護を。あのカバンは僕が譲った物です 」
「……逃げないんですか? その返り血、あなたがやったんですよね? 」
「えぇ。殺してはいませんけど 」
目を閉じ、いつ撃ち殺されても構わないと言いたげにユフナは両手をあげた。
それを前に、銃を持つ騎士は迷った。
シワを寄せ、歯ぎしりをし、銃を震わせても、その引き金を引けない。
「………………っ 」
ためらう半端な騎士。
沈黙の時間。
そして轟速の黒い車が騎士の背を吹き飛ばす。
「おごぉっ!!? 」
人を轢いて急ブレーキをかけた車。
その中からロクスが身を乗り出した。
「どけどけお馬のお通りじゃい!!!! 」
「それ轢く前に言うべきだよ…… 」
「てめぇ……ら…… 」
頭から壁に突っ込んだ騎士。
ユフナはそれすら助けようとしたが、伸ばした腕は赤い義手に掴まれた。
「本日二度目の拉致だオラァ!! 」
「えちょっ 」
ヒョイっと車に連れ込まれると、タイヤはギュルギュルとギアをあげて車を前へ押し出した。
ユフナはもちろん困惑していた。
その困惑に拍車をかけるように、前にいる二人はニカッと目を横に広げて笑った。
「「ようこそ幽霊ふわふわ強盗団へ!! 」」
「……なんで? 」
「団員不足! 強いヤツが居た! 以上!! 」
「あと頭も良さそうだしね。あっ、拒否権はないよ。新人は先輩の言うこと聞かなきゃね 」
「……はい? 」
「とりあえず俺たちのアジトに来いよ!! お前みたいなヤツなら絶対気にいるぞ〜!! 」
黒い車はさらにスピードを上げたかと思えば、そのままタイヤが宙に浮いた。
『リミッター解除 冷却弾数 2 』
そして爆音とともに、車は宙を走り出した。
「はぁぁ??? 」
「ハッハッハー!! 舌噛むなよ〜!!! 」
ロクス。ハウ。そしてユフナ。
この三人は後に、街の平和を瓦解させる者たちである。
不平等な正義を掲げ、平等なる正義を終わらせる犯罪者たちは、ここから始まった。