第5話 「ガンくれてんじゃないわよ」
端的に言おう。
そこに彼女は居なかった。
「どうしたんだ!スネーク!応答しろ!スネェェェェェク!」
そんな気分になると思っていたが、僕は寧ろびっくりしていてそんな脳内再生のことなど跡形もなく消し飛んでいた。
そこには、美女が居た。
相備いずみに勝るとも劣らない美女が居た。
栗毛のサラブレットのような美しいポニーテールに、あどけなさが残るがキリッとした顔立ち、真っ赤なパーティードレスは、細いストラップだけで、肩が露になっている。
胸元まで開いているドレスからは、ちょうどいい胸の大きさと、悩ましい谷間がチラリズム。
その胸のところにレースが付いていて、そのまま背中に回り大きなリボンのように結ばれている。そしてリボンが羽のように見えて、さながら天使のようだ。
ストレートに伸びるスカートは靴を隠すほど長いが、タイトなスカートなので腰の辺りの美しいS字のカーブが、魅力的な魔のカーブになっていた。
大人の美しさと少女の可愛さを併せ持つ、二兎追ったら二兎得ちゃった的なズルさである。
まるでそこだけスポットライトに当たっているかのように華やかで煌びやかだった。
その女性が僕の横を通り過ぎた。
僕は彼女に見蕩れてしまっていた。
見蕩れていたのはどれくらいだろう。
5秒くらいだったかもしれないし、1分くらいだったかもしれない。
そのときの時間の感覚はきっと時空を超えていたに違いない。
そうしていると、ふと彼女と目が合った。
次の瞬間だった。
「ガンくれてんじゃないわよ」
鈍器のような言葉で殴られたように感じた。
次の瞬間、僕はそのまま床に倒れ込んでいた。
言葉で殴られたんじゃなかった。
本当に殴られていた。
振り抜かれた拳は、僕の顎を的確に打ち抜いていたのだ。
そのときの最後の記憶は、頬に感じるフカフカの赤い絨毯の感触と彼女の赤いドレスからチラリと見えるシックなワインレッドのピンヒールだった。