第4話 「どう、今日のこの格好?」
待ちに待ったパーティーの日。
この日までに学校で相備いずみを何回か見かけてはいたが、今日という日は本当に待ち遠しかった。何故なら、彼女の制服以外の姿が拝めると言うだけでそれはもう素敵な出来事であったからだ。
僕は待ち合わせの場所で鼻息を荒くし、どんな姿を拝めるかを想像しながらぐるぐると回っていた。
そんな風に盛りの付いたゴリラのようにウホウホやっていると、不意に頭に衝撃が走った。
「ホント、妄想しているときは隙だらけね」
どつかれて現実に帰ってきた僕は殴られた箇所を撫でながら「おう、里桜か」と呟いた。
「ねぇねぇ、礼」
そんな僕を無視するかのように里桜が嬉しそうに聞いてきた。
「どう、今日のこの格好?」
パーティーということで着飾っている里桜はいつもと雰囲気が違っていた。明るい色は苦手だからとシックにまとめた黒いドレスはノースリーブで胸が大胆に開いており、左右非対称のヒダヒダのスカートは少しスリットのようになっていて、そこから伸びる健康的な足をエロティックに演出していた。少し肌寒いからと黒いシースルーのショールを背負っており、透けて見える肌がまたそそられる。いつものボーイッシュな格好と大人びたセクシーな姿とのギャップが僕の心臓をドキドキさせる。
「こ、これがギャップ萌えというものなのか……。」
と驚愕していると、
「これはこれは、里桜ちゃん。いつも可愛いけど、これはこれで趣があっていいねぇ」
やっと潮が来た。案の定遅刻だった。まぁこいつが遅刻してくるのはいつものことなので、集合時間を早く設定しているからいいんだけど。
とかく奴は何でもかんでも「趣」という言葉を使って片付ける。いや確かに今日の里桜は趣がないこともないけれど。主にリビドー関係ですが。
褒められてまんざらでもない里桜は「そうかな?デヘヘ」と締まりのない笑顔を浮かべていた。
「じゃあ、そろそろ行きますか」
そう僕は言っていつものお返しをするように里桜の頭をぺしっと叩いてやった。
赤渡家には僕の綿密な時間配分のおかげで、時間ぴったりに到着した。
そこは「○△×町奉行所」と看板がぶら下がっていそうな立派な門だった。
あまりに見事な門構えにどうしたらいいか戸惑っていると門番の者が僕の顔を確認したようで、すぐに門を開けてくれた。
中に入ると、この家のコンセプトは二条城ですと言われても信じてしまいそうな豪奢な日本庭園と日本家屋だった。それどころかむしろ二乗城と言う広さであった。庭を従者に案内されて歩いていたが、とにかく広い。しかし今回は、この屋敷には用はないようだ。さらに進んで屋敷を過ぎた離れに、この場所には似つかわしくない洋風の建物があった。それはまさしく迎賓館というような造りで、ここだけで観光名所ができてしまいそうな雰囲気であった。ポスト迎賓館の中に入った途端に豪華なシャンデリアに迎えられた。床にはフカフカの赤い絨毯が敷かれ、柱などはもちろん大理石、調度品はすべて「お高いんでしょう?」と聞かなくてもわかるものが揃っていた。会場に入ると、沢山の人が思い思いにドレスアップしてその美しさを競い合っていた。赤や青やと色とりどりのドレスが競演し花園のようであった。忙しそうに動き回るウエイターも洗練された動作に満ちていて美しかった。さしずめ花の間をひらひらと飛ぶ蝶というところだろう。この場所はまさに華やかさの坩堝であった。その中を僕たち(主に里桜が)は恐縮しながら歩いた。ここの主人に挨拶をするためだ。
赤渡家の主人が僕に気がつくと、満面の笑みでこちらにゆっくり歩いてきた。
「いやぁ、礼君いらっしゃい」
赤渡家の主人は、大柄な体格で、真っ白な髭を蓄えており、いかにも頑固そうで威厳のある顔つきであるが、柔和な性格でどうやってここまで財を築けたのかわからないくらい優しい。きっと権力を傘にしない人格者なのだろう。
「今日は、お呼びいただきありがとうございます」
僕はいつも通りの挨拶を交わし、里桜と潮の二人を紹介した後、ふと思ったことを聞いてみた。
「今日は何故こちらでのパーティーなんですか?いつもは京都でしているのに」
「君には言ってなかったかな?」主人はにっこり笑って言う。
「とある事情があってこちらに越してきたのだ。今日はそのお祝いというやつだ」
そのために二乗城とポスト迎賓館は造られたらしい。
「こんな田舎にわざわざ?」
「私は向こうのままで良かったのだがね……」
「そうなんですか」
何か深い事情があるのだろうが、あえて聞くことはしなかった。
別に主人に気を使ったわけではない。
すでに相備いずみの存在を探し始めていたからだ。
主人とのおしゃべりはそこそこにしておいて、彼女を見つけるためのレーダー「いずみんレーダー」を起動させた。
説明しよう!
「いずみんレーダー」とは、礼の脳内にある相備いずみを感知するためのレーダーである。使用するには、相備いずみマスターしか使えず、膨大な集中力を使用するため、命の危険にさらされることもあるのだ!
僕は発動させるために集中力を高めた。
「はぁぁぁあああ!」
僕の周りから放電された電気がパリパリと鳴り、青い光が僕を包み込んでいった。
「いずみんレーダー発動!」
そう言うと、青い光は拡散され、元の状態に戻った。今この状態が、感度MAX状態なのだ。しかし、この感覚だとまだ彼女はご降臨されていないようだ。
……とりあえず10行前ほどから僕の妄想(中2病)の世界であるので特に気にしないでいただきたい。
いつもならばここで、きつーいツッコミがくるはずだけど、潮と里桜の2人はどうしたかって?
愚かな僕には付き合いきれないと言うことで、潮は食料を貪りに、里桜はそれに嬉しそうに着いていった。もちろん里桜はそれまでにちゃんと僕の頭を5回ほどどつき、義務は果たしている。(そのうち1回は意識が飛びそうになった。)
そのとき、レーダーに反応があった。ピコーン!ピコーン!
「アルファチーム、目標を確認した。ターゲットは2時の方向に停滞中」
「ブラボーチーム、了解。接近を開始する」
そんなことを脳内再生しながら移動を開始する。
どんな格好をしているのだろう?
そう思うだけで胸が高鳴ってくる。
「スネーク、油断するな。任務に集中しろ」
大佐(CV:青野武)の声が聞こえてきた。
メタ○ギアのテーマ曲まで流れてきた。
テンションはもう最高潮。
もうすぐだ。
彼女に会える。