第36話 「あたしも初めて聞いたよー、そんなの」
「病み上がりの身体に廬山昇龍覇は流石にないですよね」
潮が珍しく僕に味方していた。
「第一、普通そんなの撃てませんって。ねぇ、里桜さん」
そうじゃないと里桜=聖闘人というまさかの図式が出来てしまう。
「じゃあ、天空×(ペケ)字拳(※13)の方がよかった?」
「そんなマイナーな技を持ってくるな」
あんな事があったのに、特に気にすることなく里桜は会話に割り込んできた。相変わらずの男気にあふれたサバサバ感である。僕はそんな性格の里桜が好きなんだが、如何せん暴力がなぁ……。
「じゃあ、ヨガフレイム(※14)とかはどう?」
「どう?ってお前、仮にそれが使えたとして、一体お前のキャラはどういう方向に行こうとしてるんだ?」
そう言うと、潮がチッチッチッと舌打ちしながら、人差し指を立てた。
「わかってないですね君は。知っていますか?最近巷では、里桜最強説なんてものが流れているんですよ?そんな噂が流れるくらいですから、案外出来るのかもしれないですよ?」
「何だよ、その『里桜最強説』ってのは?」
「あたしも初めて聞いたよー、そんなの」
「僕もだ」
潮はやれやれというような仕草を見せた。
「君は、強靱な肉体を持ち、常人ではない能力を持ってる」
「まぁ、そうだけど……」
「それじゃあ、そんな君を何度も何度も、これでもか!ってくらいKOしているのは一体誰なんだい?」
言い方がなんだか癪に障るが、無視して答えた。
「……里桜ですね」
「そう!そこから導かれる説が『里桜最強説』なのです!多少の事では死にそうにもない君を一撃の下に屠り去っている事が驚異なのですっ!」
「随分と力説してるが、全部お前がテキトーに考えただけだろ?」
「そこは『なんだってー!』とMMR(※15)並に言って欲しかったのですが」
「なんだってー」
「アホの子みたいな声出すなー!」
最後に里桜の鋭い右ショートフック、いや、ツッコミが入った。そうやっていつもの3人で他愛もない話に興じていると肩をトントンと叩かれた。
「門田君、先生が呼んでるよ」
そう言われてにこやかな顔でこちらに手招きしている大男が居た。僕は何となく察しは付いたが、里桜と潮には「何かな?」などと言って席を立った。
「どうしたんですか?」
ニコニコしながらその大男はボリボリと頭を掻いた。
「まぁ、この前の事でちょっと話したい事があるんだけど」
「そうだろうとは思いましたけど」
「ここでは何だから……ちょっと着いてきてくれないか?」
※14 天空×字拳 ドラゴンボールに登場するナムが使う必殺技。天高くジャンプし、手をクロスさせながら落下し、そのまま相手に突撃する技。子供心ながら、この技避けやすいうえに、相手が動けない状態ならそんな技いらないよねとか思っていた。私感であるが、この頃の天下一武闘会が一番おもしろかった気がする。
※15 ヨガフレイム 格ゲー「ストⅡ」に出てくる際物キャラ、ダルシムの技。口から火を噴くと言う全くヨガと関係のない技。一事が万事で、その他の技もヨガと全く関係がない。蛇足だが、奥さんが美人であったことにショックを受けた覚えがある。
※16 MMR ミステリーを扱った漫画で「MMR」とはマガジンミステリー調査班の略。眉唾物のミステリーばかりで、強引なこじつけが印象的な漫画であった。キバヤシとその仲間達の名言はAAでも有名になっている。