第33話 「邪魔をするつもりなんてさらさらなかったんだけどなぁ」
そいつは黒いロングコートに身を包んだ大男であった。ものすごい威力で僕らはぶっ飛ばされたわけだが、何をされたのか全くわからなかった。僕たちの速さとパワーについてくるどころか、それ以上の力だ。しかも不意打ちとはいえ、2人を相手に。そんな人間は僕が知っている限りでは片手で足りるくらいしか知らない。僕は、かろうじて意識があったが、今の一撃で全身がガタガタになってしまった。ユリアに至ってはピクリとも動いていない。そういう僕も、もうじき出血のため気を失うだろうが。
「手加減したつもりだったけど……ちょっと強すぎちゃったかな」
すでに夕闇が押し寄せてきていたので、パッと見では誰だか見分けが付かなかった。しかし、徐々にその正体がわかってくると、僕はただ驚くしかなかった。動かない身体を何とか起こし、絞るように声を出した。
「瀬鳥先生!どうして……?」
黒いコートの大男は、ばれてしまったかというような顔をしながら答えた。
「ああ、もうこうなったら仕方がないなぁ」頭をぼりぼりと掻きながら言った。「まぁ、なんていうか……簡単に説明すると僕はユリアお嬢様のお目付役みたいなものなんだけど、勝負の邪魔して悪かったね」
「……まさか、先生も僕たちと同じ……?」
「まぁ、端的に言えばそうだね。色々と複雑な血縁ではあるけれど」
そう言って笑顔で僕に向けた。その笑顔は学校で見るそれと全く変わらないものであったため、逆に現実的には思えなかった。
「本当は、君たちの邪魔をするつもりなんてさらさらなかったんだけどなぁ。流石に殺し合いになっちゃそうもいかなくてね」
「……」
僕は何も答えられなかった。確かにあのまま戦っていたらどちらかが死んでいてもおかしくない。いや、最悪二人ともという展開があったことは否めない。柄にもなく熱くなりすぎていた。止められても仕方のないことだと納得できる。
しかし、そんな過酷な状況で、先生は冷静に、何事もなかったかのように止めに入ってきた。一体何者なんだ?
「しかし、お嬢様をこんなに痛めつけるとは君もなかなかやるね」
ちらとユリアを一瞥して言った。ユリアが気絶したのはあんたのせいだろと心の中でツッコミを入れつつ、出血のせいで全身の力が抜けていき、身体がどんどん重くなっていくのを感じた。目がかすみ始め、瞼が重くなっていく。だがまだ知りたい事がある。気を確かに持とうと頑張ってみたが、どうやらそろそろ限界らしい。
瀬鳥先生は、気絶してぐったりしているユリアの方に向かうと、両手でユリアを抱きかかえた。ユリアの腕はだらんと下がっており、首も重力に逆らえず、自慢の髪は乱れ放題で、まるで生気が感じられなかった。
「君も重傷だから、すぐに手当しないとまずいな」
先生は黒いコートを脱いで地面に敷くと、そこにユリアを寝かせた。ユリアはすうすうと寝息を立てていて、大丈夫そうであった。その女神のような綺麗な寝顔を見て安心した。とたんに視界が暗くなってきた。
「ちょっと腕を診せてくれないか。こりゃ酷いな……って大丈夫か?おい、門田……!」
安心したからだろうか。僕の視界は真っ暗になり、記憶はそこでプッツリと途切れた