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第32話 「……5分かしら」

 ユリアは居合抜きの構えからさらに低く構えると風が起きたのかと思う程の闘気を発した。その闘気に気圧されないよう低く身構えた。

 お互いに微動だにしなかった。

 耳がキーンと言うほど静かだった。

 ただ二人の間には闘気と闘気のぶつかり合いが激しく行われていた。

 動いたのは同時だった。

 僕は、攻撃を躱す事だけに集中していた。居合抜きは一撃必殺の技であるが、躱された時は大きな隙ができてしまうという諸刃の剣なのだ。それさえ躱すことができれば、一気に僕の方に勝負の流れが引き寄せられる。

 僕はもうユリアの間合いの中にいた。

 その時、鈍い光の線が僕の目の前を通り過ぎた。

 いつ、その剣撃が放たれたのか解らない位のスピードだった。

 あまりの速度のためか、剣撃の後には何かが焦げるような匂いがした。

 躱せたのは奇跡に近かったかもしれない。

 そのままユリアの懐に入ると、一瞬ユリアと目があった。躱された驚きと、自分の危機的な状況に気がついたような目であった。しかし、渾身の剣撃はすぐに次の攻撃には移れない。僕はユリアのがら空きの横腹に渾身の一撃をお見舞いした。

ボキャッ!

 鈍い音とともに「きゃっ!」と言う声が挙がった。そしてユリアの身体は、椅子や机が積んであるガラクタの山へ吹っ飛び、ガラガラと山が崩れていった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 僕は放った拳を突き出したまま、息を整える事に専念した。今の一撃で精神力を使いすぎたようで、思っていたより身体が疲労していた。

 ガラクタの山からユリアの綺麗な脚が見えている。

 動かない。

 やったかと思った瞬間、ピクッと反応があった。疲労のためだろうか、打拳が浅かった。一撃で決められなかったのは非常に痛い。そう思っているとユリアがガラクタを押し分け、よろよろと立ち上がった。

「ぐっ…や、やるわね……」

 脇腹に手を押さえながら苦痛に顔を歪めるユリアが不敵な笑みを浮かべた。その笑みに僕はゾクッと悪寒が走った。

「フフッ……手応えあったわ……」

 完全に躱したと思っていたが、酷い痛みを感じ左腕を見ると、パックリと斬られており、骨まで見えていた。そして思い出したように血が噴き出してきた。切れ味が鋭いので、撃痛が襲うまでに時間が掛かったのだ。酷い出血だ。これは動脈までやられたに違いない。

「……5分かしら」

 そう言って静かに再び構えた。

「いくら貴方の回復力が人並み外れていようと、それだけの出血ならば…5分で動けなくなるでしょうね……」

 そう言って、また鞘に刀を納めた。その構えは相変わらずの覇気を放っていた。僕の一撃を食らって相当のダメージを負っているはずなのだが、体の軸が全くぶれていない。勝機は完全にユリアに傾いている。これではさっきと同じことをしても、きっと失敗するだろう。僕には先の先を取らないと勝機は無い。

 再びユリアと対峙する。

 お互い体力を消耗しているようで、ユリアもなかなか動かない。

 時だけが過ぎていく。

 二人とも動かない。

 僕の血だけが流れ続けている。

 目眩(めまい)がしてきた。徐々に視界がぼやけてくる。

 やばい。

 このままでは、自動的にユリアの勝ちとなってしまう。

 そう思い、勝負を決めるべく動いたときだった。

 同時にユリアも動き出した。

 まずいと思ったがもう動き出してしまった。

 止められない。

 僕の拳が、ユリアの刀が、お互いを傷つける瞬間だった。

 僕の身体は宙を舞い、そのまま地面に落下した。

 ユリアの身体は壁に激突し、そのままズルズルと座り込んでしまった。

 僕たちは、お互いの攻撃によって吹っ飛んだわけではなかった。明らかに第三者の力が加わっていた。僕たちが激突する予定だった位置に誰かが居た。大柄な男だった。

「やあ、申し訳ない」

 聞き覚えのある声だった。その声の主を見て僕は驚愕した。

「えっ、なんであなたが……?」

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