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第30話 「とうとうこの時が来たのね」

 次の日。

 放課後に僕はユリアを探した。

 探すために校舎の中を走り回った。

 こういうときに限って見つからないのはよくある話だ。

 もしかしてトイレか?と思ったが、流石にそこに入るのは遠慮したい。

 数分後、やっと見つけたと思ったら、ちょうど図書室から出てくるところだった。ここの図書館は三階にあり、何往復もしていた。ユリアもハァハァと息を切らしている僕に気が付いたようで、一瞥をくれたが、すぐに目線をそらし僕に背を向け歩き出した。

 僕は逃げられまいとユリアの行く手を遮った。

 ユリアは僕をキッと冷たく睨み付けているが、何も話さなかった。僕が通せんぼしているのを無視し、さらに突っ切ろうとしたが、僕は慌ててさらに行く手を遮って言った。

「ちょっと話があるんだが」

「断る」

 久しぶりに聞いた声は、何ともぶっきらぼうなものであった。その間も何とも冷たい視線を向け続けていた。しかし、僕はめげずに言った。

「頭ごなしに断るなよ。大事な話なんだ。」

「だが断る」

岸辺(きしべ)()(はん)(※11)か!絶対それが言いたかっただけだろ!」

 シリアスなシーンが見事に砕け散る音がした。

「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」

「ジョジョネタはもういいから、ちょっと来い!」

 そう言って、おもむろに手を掴んだ。嫌がって振りほどくかと思っていたが、意外と素直に引っ張られてくれた。むしろ、強引に引っ張られた事に驚いているようであった。とりあえず連れ出してきたのはいいが、後の考えは何も無かった。とにかく、話しやすいよう人気のないところに連れて行こうと思った。

 それで着いたところは、たまたまご都合主義で見つけた廃ビルであった。ここはビルと言うよりも元工場と言った方が相応しい感じであり、長年放置されていたせいか埃があちこちに溜まっていた。しかし撤去されたのか機材がない分、広々とした空間が広がっていた。

「こんな所に連れてくるなんて、いかがわしいにも程があるわね」

 強引に連れてこられた先がこんなところではそう思われても仕方がないだろう。

「もし私を手籠めにするつもりならば、魔界から魔女狩りの王(イノケンティウス)を召還し、貴方を地獄の業火で焼き尽くすわよ!」

「いつからこの小説は魔法ファンタジーになったんだよ!」

「そげぶ!」(※12)

「科学サイドも無いっ!」

「それならいっそ巨神兵の方がよかったかしら」

「焼き払え!って違う!」

「ノリ突っ込みね。素晴らしいわ」

「評価の基準がわからない!」

「それで、私に何の用かしら。漫才するだけの用なら私、帰るわ」

「待ってくれ、久々だったからちょっと楽しかっただけだ。」

「で、何なのかしら?」

 そう言って、長い髪の毛を耳に掛ける仕草をして壁に寄りかかった。それは一応話は聞いてやると言う意思表示に思えた。

「あれから色々考えたんだ……」

「もしかして、その気になってくれたとか?」

「単刀直入に言うならばそうだ」

「ふうん、貴方が本気を出そうと思うなんて一体誰に焚きつけられたのかしら?」

 そう言われると言葉に詰まってしまった。特に理由は無いのだが、相備いずみの名を出すことは(はばか)られたからだ。

「察しはある程度つくけれども……まぁいいわ。」

 そして、不敵な笑みを浮かべた。

「それじゃあ、さっそく今お前と戦ってもいいか?ちょうどこの場所が使えそうだし……」

「あら、随分と積極的なのね。私、そういうの嫌いじゃないわ」

 僕はその台詞をOKの返事と受け取り、半身になった。ユリアは余裕なのか、まだ壁に寄りかかっていた。

「それにしても最近シリアス路線だけれどもそれでいいのかしら」

「いつもふざけた事ばかりやっているから、たまには真面目路線で行かないと読者に申し訳が立たないだろ」

「そんなメタな発言している時点で真面目とは言えないわね。第一、その路線は冒頭の方で漫才かましてた時点でアウトね」

 そう言って寄りかかっていた壁から背中を離した。その瞬間、

「いくぞ!」

 僕は不意を突いて一気に間合いを詰めた。いつも不意打ちをされているので心ばかりのお返しのつもりだった。僕は、ユリアに向かって拳を放った。しかし不意打ちはあっさりと躱され、そのまま後ろの壁を殴る事になった。拳が痛い。

「本当に本気になってくれたのね……ちょっと疑っていたわ」

 顔は笑っているが、目は笑ってない。

「……それにしても門田家の頭首になろうという人間の力は流石ね」

 僕が殴った壁には直径1メートルほどのクレーターが出来ていた。ユリアはそれを一瞥すると、鼻で笑った。

「とうとうこの時が来たのね」


※11 岸辺露伴 漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する人物。漫画家で、スタンド「ヘブンズ・ドアー」の使い手。彼の台詞「だが断る」は名言中の名言であると思っている。この短い言葉を名言に仕立て上げてしまう荒木氏の手腕は流石としか言いようがない。


※12 そげぶ 小説「とある魔術の禁書目録」の主人公上条当麻が言う決めゼリフの略。(そ)その (げ)幻想を (ぶ)ぶち壊す! →そげぶ!


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