第22話 「……ちょっとだけ」
「こういう作戦でどうですか?」
作戦の内容は、至ってシンプル。潮がストーキングする巴先輩をさらに尾行し、逃げ場のないところで僕と潮で挟み撃ちというものだった。
「悪くないんだが、本当にこれで上手くいくのか?」
逃げ足だけは、尋常ではない巴先輩だ。挟み撃ちだけで何とかなるのだろうか?それに、勘のいい先輩の事だから気付かれないかという心配もあった。
「こちらにはまず数に分がありますから。また、挟み撃ちするポイントも地理的優位を我々に与えてくれます。」
あまりに自信たっぷりに言うので僕は納得せざるを得ない。
「それに強力な助っ人をお呼びしました」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「強力な助っ人?」
「ええ。交渉に苦労しましたよ」
そう言って、放課後の人気のない教室に招き入れられた人物を見て、僕は驚いた。
「ユリア!?」
「ごきげんよう、礼。容姿端麗、頭脳明晰、品性高潔の強力な助っ人とは私の事よ!」
静かな教室がさらに静かになったような気がした。
「自分で言ってて恥ずかしくないか?」
そう言われて、ユリアはしばらく沈黙し、ぼそりと言った。
「……ちょっとだけ」
ちょっと照れてるユリアを尻目に僕は潮に小声で話しかけた。
「おい、なんであの女を助っ人なんかに?」
「仕方ないですね、説明しましょう。巴先輩があなたに付きまとうようになったのはいつ頃からでしたか?」
「えーと、ユリアが転校して数日後からかな」
「そうですね。それで着けられていると感じるのはどんなときですか?」
「……ユリアにちょっかいかけられているときが多いかな」
「そうなんです。それで僕はこう推理しました。君に付きまとうのはユリアさんが関係してるのじゃないかと。君はなんだかんだでユリアさんと一緒にいるみたいですからね」
潮の言葉になんとなく刺を感じなくもないが無視して話を聞いた。
「それで?」
「君とユリアさんを二人きりにしていれば、必ず奴は来るだろうと思いました。つまり、ユリアさんは彼を釣るエサですよ。それとさっきの作戦を組み合わせたら完璧でしょう?」
「確実性はグッと増した気がしたが、よくあの女が引き受けてくれたな」
「何でも『利害が一致した』と言ってましたが……何のことなんでしょうね?」
多分、ストーキングされるようになってから、襲撃できる機会がグッと減ったからじゃないかなと思った。
「いつまで男同士コソコソやっているのかしら?貴方たちもしかしてそういう……」
「バレましたか」
潮がテレながら答えた。
「お前、出鱈目を言ってんじゃねぇ!そこっ!蔑みの目で見るんじゃない!」
潮が咳払いを一つ。
「それでは、作戦を決行するに当たって質問は?」
「結局私は、礼と一緒に居ればいいだけ?」
「そうですね」
「ふーん。そんなのつまらないわね」
ユリアはそう言ってツンとそっぽを向いた。そう言われて困り顔の潮を尻目に僕はユリアに小声で話しかけた。
「一応、相手は一般人だぞ、大人しくしていた方がいいんじゃないか?」
「んー、でも居るだけなんてつまらないわ。何だか客寄せパンダみたいで」
「掟のこともあるし、ここは穏便に済ましてくれないか?この通り!」
そして、僕は頭を下げ両手を合わせた。何故こんなに卑屈にならなければならないのかは自分でもわからなかったが。
「仕方ないわね。」
そう言ってまたそっぽを向いてしまった。後々面倒くさいことにならなきゃいいがと思っていると潮が口を挟んできた。
「いつまでうら若き男女がコソコソやってるんですか?君たちもしかしてそういう……」
「バレちゃったわね」
ユリアが明らかに嘘とわかる顔でテレながら答えた。
「あんたも出鱈目を言ってんじゃねぇ!そこっ!情報料で儲けようという魂胆丸見えの顔すんな!」