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第16話 「背中が曲がっとるぞ!しゃきっとせい!」

部活が終わり、帰る時間になった。

 ユリアは、相備いずみと一緒に帰るようで、僕はやっと解放された。

 精神的に疲れたので足取りが重い。トボトボ歩いていると、背中をバシッと叩かれる。

「背中が曲がっとるぞ!しゃきっとせい!」

 里桜が勢いよく言った。顔を見てホッとする。

「ああ、お前か。お疲れさん」

「お前かってなんですか。お邪魔虫さんですか」

「俺は見ての通り一人なんだけど」

「ええっ!妄想内彼女とかいたんじゃないの!?」

「意外そうな顔でいうな!」

「今日はホントにごめんね」

 里桜が急に謝ってきた。謝る機会を伺っていたのかもしれないが、会話的にはこれって伺ってないよね?

「もう怒ってない?」と、なんとも情けない顔をするので僕は里桜の頭にチョップを喰らわせた。

「ああ、怒ってないよ。但し、きちんとマックは奢ってもらうからな」

「はう。しっかり覚えてるのね。」

 しかし、下手な男より男気のある里桜は言ったことはきちんと守る奴なのだ。

「それでは仕方がない!支払いはまかせろー!バリバリ」

「やめて!」

「そうと決まったらマックへGO!」

 里桜のこういう時の行動力は見習いたいものである。

 そして約10分後。

「礼。ここって、マクドナルドじゃないよね?」

「知らないのか?ここは『マック斉藤のハンバーガー店』だ!」

「マック斉藤って誰っ!?」

「あそこで汗かきながら捻り鉢巻きした厳つい日系3世のおっさんだ!マッチョだぜ!」

 そこには筋肉質で色黒のむさ苦しいおっさんが、ふうふう言いながら一生懸命バンズにパテを挟んでいた。

「いやぁぁぁぁぁああ!」

「見た目はあれだがここは絶品なんだぜ!」

 こぢんまりした店舗にはお客さんが沢山いた。そしてテイクアウトの客も列を作りながら並んでいた。人気店であるのは間違いない。

「僕は、里桜に一番高いセットを要求する!」

「いくら?」

「1200円だ!」

「待った!」

 そう言って里桜は僕にビシッと指を差す。

「あたしはマクドナルドだと思っていたのよ!」

「異議あり!ちゃんと確認しなかった里桜が悪いんじゃないか?」

「うっ……!」

 下手な男より男気のある里桜は……(以下略)。

「もう、約束だからしょうがないわね」

「わーい!」

 はしゃぐ僕。

「子供かっ!」

 そんな漫才を延々と続けながら、僕たちはやっと順番待ちから解放された。

「ご注文は?」

「マック斉藤セット1つとハンバーガーセット一つ」

「あいよ!マック斉藤セットとハンバーガーセット一つづつね!テイクアウトかい?」

「はい」

 マック斉藤さん(39)は、忙しいのをものともせず、キラキラと汗を輝かせながら白い歯を見せて笑った。でも全然さわやかじゃない。

「今月のお小遣いがぁ」と泣きながら払う里桜に僕は嫌味を言いながら待つことにした。たまにはいじめてやるのも悪くないな。

 やっとこさハンバーガーを受け取り、僕たちは歩きながらかぶりつくことにした。

「こ、これは!」

 そのとき、里桜に電流走る!

「パテからあふれる肉汁はジューシーで、そこにシャキシャキのレタスと芳醇な甘さを讃えたトマト、濃厚な自家製ケチャップが溶け合い見事なハーモニーを造り出している!なんというハンバーガーだ!」

「マック斉藤、侮れないだろ?」

「高かったけど、これなら釣り合うわね」

 きっとマック斉藤さん(39)も浮かばれるだろう。

 あの素敵な笑顔が思い浮かぶ。

 食べ終わる頃には、今日朝歩いてきた堤防を歩いていた。

「礼、休み時間に来たあの美女との関係を教えて欲しいんだけど」

「なんで?」

「礼がいきなりあんな美人と仲良くなれるわけがないし、何かあるのかなって」

 さすが長い付き合いだけあって、勘が鋭い。

「……あの人、赤渡ユリアって言うんだ」

 そう言うと、里桜は驚きの表情を見せた。

「赤渡って、あの赤渡?」

「そう。それで今日、朝怪我しただろ?」

「うん」

「あれ、あの人にやられたんだ。昨日も夜中に襲撃された」

「ええっ!?でもなんか仲よさげだったけど」

「襲ってくる理由がよくわからないんだ。趣味だとか何とかで……でも敵視しているわけではなさそうなんだよな」

「……」

 里桜は何か考えている風だったが、何も答えなかった。

 僕も何か言おうと思ったが、タイミングを逃し、それからしばらく二人は何も話さずに歩くことになった。

 夕暮れの堤防は朝の風景と違って、風も冷たく、太陽は寂しげな光を川面に映し、朱色に染まった葦も風に翻弄されているように見えた。

 そんな風景を漫然と歩きながら見ていると、口を開いたのは里桜だった。

「あたしこっちだから、また明日」

 にっこり笑いながら手を振った。そして、身を翻すと小走りに行ってしまった。

 何か様子が変だなと思ったけれど、それは僕には関係ないことだろうと思った。


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