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第9話 「んー。趣味?」

 僕は、眠い眼を擦りながらトボトボと学校に向かっていた。

 結局、一睡もできなかった。それでも朝は来る。

 とりあえず朝食を摂り、適当に頭を整え、フラフラと家を出てきた。母が僕の様子を心配してくれたが、大丈夫と強がりを言って振り切ってきた。気付けにドリンク剤を飲んでみたがあまり効果はないようだった。

 一日ぐらい寝てなくても平気な方だが、今回はドッと疲れが出たというか、重いものを背負ってしまったというか、精神的にやられていた。

 気がつくと僕は、その『重いもの』について考えていた。

 それは赤渡ユリアが許嫁という事実。

 綺麗な女性と許嫁の関係という状況を悦ぶことに(やぶさ)かではないが、問題はあの女に昨日だけでもう2回も酷い目に遭っているということ。どうみても僕を敵視しているとしか言いようがない。

 そんな女が許嫁。

 こんなことは誰にもばれないようにしなければならない。

 特に相備いずみには。絶対に。

 そう思い僕は深いため息を吐くと、一層気が重くなってくるようだった。

 ヒュッ

 次の瞬間、僕は真剣白刃取りをしていた。

 良く手入れされた日本刀だった。

 そして、その刀の持ち主は制服姿の赤渡ユリアだった。

 左手に激痛が走った。咄嗟のことだったので、挟むのに精一杯だったからだろうか。手から血が滴る。もう少し遅かったらやばかった。

「良く止めたわね。でもここは(かわ)す所じゃない?」そう言って、スカートがフワッとめくれ、綺麗な足を僕の脇腹に伸ばす。「これじゃあ次の攻撃が躱せないわよ」

「うぐぅ!」

 足を伸ばしただけの蹴りは、見た目よりも威力抜群だった。(スカートの中が見えたからという意味ではないからね。ちなみに、見えるのは痛い思いした僕だけの権利ですから、読者諸君は想像で補完してください。)蹴りを食らった僕は、あまりの威力に片膝を着いてしまった。その様子を見て、切っ先を僕の鼻先に向けた。

「貴方、油断しすぎじゃない?それとも手加減?」彼女は少し考えて言う。「それは平和ボケしているからかしら?それとも相手が女だから?もしかして相手が私だから?」

 突然の三択クイズ。答えは、1番か2番でよろしく。

「3番だったら私、貴方を殺そうと思っていたでしょうね」

 あれ?今し方、僕を殺そうとしてなかった?

 僕は息を整えるようにゆっくり立ち上がると、疑問に思っていることを聞いた。

「なんで昨日といい、今日といい僕に攻撃をしてくるんだ」

 僕がそう言うと、人差し指を口角に当て考える仕草をした。その仕草がまた妙に可愛い。但し、右手には物騒な物が握られているが。

「んー。趣味?」

 それはまた猟奇的な趣味をお持ちで。

 そんなことのためだけに、僕を襲撃するのか?っていうか、襲う相手は僕じゃないといけないのか?

 疑問は泉のように湧いてきた。どれを先に聞くべきか考えていると、今まで表情の変わらなかったユリアの顔が一瞬青くなった気がした。

「これで私は帰るとするわ」

 何かを思い出したようにそう言って、刀を鞘に収めた。そして、身を翻すと優雅に立ち去っていった。

「な、何だったんだ……?」

 僕は、ユリアの後ろ姿を唖然としながら見送っていた。

 ちょうどユリアの姿が見えなくなったとき、向こうから見知った顔が見えた。

 里桜と潮だ。

「おはよう。今日はまたサイケデリックなファッションだね。趣深い」

「この状態の僕を見てファッションと言えるのはお前だけだ、潮」 

「礼、頭ボサボサで、いろいろと血だらけだし、どうしたの?まぁ、切れているのは左手だけみたいだけど」

「今の僕の状況をわざわざ説明していただき、作者共々感謝しております。ってこういう場合、『礼!大丈夫!』とか、『救急車を呼んでくる!』とかそう言う対応が普通なんじゃないかな?」

「「だって礼だし。」」

「ハモるな!僕はそこまで超人じゃない!ケアルとか使えないし!」

「でも、もっと酷いときも平気そうだったしねぇ」

 そう言って、里桜は潮に同意を求める。そして潮は静かに頷く。

 押し問答していても仕方がない。とりあえず手当だ。

「とにかく止血したいから、ハンカチか何か持っていないか?」

「ちょっと待ってね」

 そう言って、里桜が鞄の中を探し始めた。

 左手の傷を今まで確認していなかったが、手のひらの皮が結構な範囲でベロンと捲りかえっており、文字通り皮一枚で繋がっていた。手のひらのスライスのできあがりだった。

「こりゃひでぇな」

 そう言いながら、皮を元の位置に戻してやって、里桜から借りたハンカチでギュッと縛った。

「さすがに血だらけじゃ学校行けないから服着替えてくる。先に学校行っててくれ」

 そう言うと潮が「わかった」と言ってさっさと行ってしまった。それを追うように里桜が駆け足で学校に向かって行った。

 僕は二人を見送った。

 彼らからしたら僕は不死身に見えるのだろうかと思いつつ。


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