9.魔女
遠征最終日の夜、シアンは他2人と離れて行動していた。
クトル「あれ?今日は一緒に動かないの?これじゃあ負けちゃうよ。」
ヴィオレ「昨日教官に競ってることがばれて禁止されたんだって。緊張感が足りん!ってね。」
クトル「まじかー、他チームは2勝なのにうちのチームだけ一勝で今日勝てなきゃ引き分けにできないって思ってたのにぃ。ぐやぢぃー。」
ヴィオレ「仕方ないよね。朝チームには弓使うカメリアいるし、昼チームはアイビーがカタパルトの要領で遠距離できるから不利だよね。ましてやメイズとサルビアのコンビ最強だし。」
クトル「くそー。やっぱり僕も遠距離できるようにならなければ。」
ヴィオレと二人きりになったため、クトルは以前から気になっていた「あのこと」を聞いた。
クトル「そういえばシアン君からヴィオレさんに向ける視線とか態度がいちいち鋭い気がするんだけど、…気のせいかな?」
ヴィオレ「あぁ、同じ高校だったからね。私が魔女って呼ばれてるの、高校のころから知ってるからかな?あんまりつるむことなかったはずだけど。」
クトル「え!?魔女!?何それ、ひどいあだ名だね。」
ヴィオレ「君、私がどんな人か知らないの?自分から説明するの酷だな。」
クトルはあの時気絶していたから知らないのである。ヴィオレは魔女と呼ばれる所以をすべて説明した。
クトル「今の話、ほんとなの?」
ヴィオレ「違うわ。って言っても誰も…」
クトル「やっぱり!君みたいな優しい人がそんなことするわけないもんね!僕誤解を解いてくる!」
ヴィオレはクトルの純粋さに驚愕した。
ヴィオレ「ちょ、ちょっと待って!呑み込みが早すぎて私が騙しているように見えちゃうじゃない!せ、せめて何があったか真相を語らせて。」
ーーーヴィオレの過去
ヴィオレは高貴な一家の生まれであり、その血筋には何をしても一流の才があった。それゆえ、子にも才能を求められる。
ヴィオレには4つ下の弟がいた。ヴィオレが6歳の時、弟が家具にぶつかり上から分厚い本が落ちてきているのを見つけたヴィオレは弟をかばった、つもりだった。頭から血を流しながら弟を新倍して顔を触ると、その皮膚はとても冷たく生気を感じられなかった。死んでいたのだ。
頭から血を流した少女、その隣には息を引き取った幼児が横たわっていた。意味の分からない状況であったがすぐに原因は発覚した。弟が息を引き取ったのはヴィオレの祝福が原因だった。「Lich」、魂を取り込むことができるが、奪うこともできる。運が悪く弟を守ろうとしたタイミングで発現してしまったようだ。
完璧を求められる家庭ゆえ、人殺しは認められなかった。それから家族から与えられるものは住居、資金援助だけになった。
高校時代、彼女の心の支えはクラブ活動のみだった。成績優秀、美貌も完璧であったが、完璧であるがゆえに妬まれた。そしてある疑いをかけられた。かつての女優の魂を取り込み偽りの美貌を得ている、と。
彼女はいつも一人だった。だから放送クラブでは居心地がよかった。誰にも干渉せず活動ができるからである。しかし、それもある日邪魔が入る。
お昼時、いつも通り放送をしていると放送室の扉が開かなくなり閉じ込められた。そしてあるところから火種が発生し、室内に二酸化炭素が充満した。これも全て同級生のいたずらであった。学内では祝福の仕様は禁止されている。それでも彼女のいじめは決行された。
ある程度時間が経ち扉を開くと、かろうじて意識を保っていた彼女がいた。植物の魂を取り込み酸素を作り出していたのであった。そして、喧嘩が始まった。1対15ほどの大劣勢であったが、その逆境に負けるほど彼女は弱くはなかった。喧嘩とは程遠い、一方的な蹂躙。主犯格の女子に最後の一撃を振るったとき、ある男に防がれた。
ーーー
クトル「え!?それシアン君なの!かっこいい。あ、ヴィオレさんゴメン!そんな感じじゃないもんね。ゴメン。」
ヴィオレ「いいのいいの。悪いのは私だし。
そしてね、一連の出来事が収束して、断罪が始まった。被害者であっても祝福を使用した私も含めての。学校側はねチャンスをくれたの。私の無実の証明、容姿を偽っていないかどうかの証明、つまり3つの魂を取り込めるかの証明をしてくれたら退学は逃してくれるって。でもできなかった。
…それでねここにいるの。退学しちゃったら進学も就職も拠り所ないからね。この力活かしてやろうって!」
微妙な空気が流れたのちクトルはあることに気づき、その方向を向いた。
クトル「この匂いは、山火事!?」
二人の知らないところである大きな歯車が動いていた。