3.十人十色
食堂で円になり、険しい顔で中央のお菓子をつまんでいる不思議な集団がいた。
プーリム「こういうクラスで顔合わせした時の恒例行事、自己紹介をしてもらおうか。がしかし、趣味とか出身とからいらんぞ。興味ないからな。おまえらにはなんの祝福か言ってもうらぞ。」
その場にいる全員が嫌な顔をした。それもそのはず、祝福の情報開示は個人情報を漏らすことよりも避けたいことだからだ。それにプーリムの祝福は全員が熟知しており、プーリムには何のデメリットもない。だが、他人の祝福を聞けることは滅多にないことなので異を唱える者もいなかった。
プーリム「じゃあまず俺からだ。俺の祝福は知っての通り、「Paper」だ。紙を出すというシンプルな能力だが、敵を切り刻んだり、俺が出した紙に文字を写したりと使い方は様々だ。結局のところ、祝福は使う人に依存するってことだな!ガハハ!
…なんだお前ら。嫉妬か。じゃあ次!えー、おまえは、フアンだ!」
シアン「シアンです。」
隣でシアンの祝福を一番知りたがっている男の視線が痛いほど伝わった。
シアン「俺はシアンって言います。祝福は「Magnification」です。能力の概要としては薄い壁を出せます。この壁は目で見ることはできないかつ、ぶつかることもできませんが、この壁は通り過ぎた物体の速度を2倍にします。説明としては以上です。大きさとか重さとかは変えれません、速度だけです。」
シアンの発表が終わると隣から拍手が聞こえてきた。彼の顔は推理小説を一つ読み切ったかのように澄み切っていた。とこんな感じで誰かの発表が終わると1人の拍手が聞こえ、また一人が発表することを繰り返した。途中彼の拍手が耳障りと感じた男が彼に注意するまで。全員の自己紹介が終わると続けてプーリムが発言した。
プーリム「よし!みんな嘘はなかったな。俺は事前に全員の祝福覚えてきたからな!嘘つくような性悪がいなくてよかったよ。」
シアン(自己紹介させる意味あったか?性悪はお前だ。)
プーリム「じゃあ、これにて解散!これから二年間地獄のような日々が始まるからな、覚悟しておけ。あぁあと連絡事項として一週間後にこの「ぶどう組」の全員でトーナメントするからな、知っておけ。ちなみにメイズは参加せんぞ。こいつは戦闘向きの祝福じゃないからな。それじゃ!」
プーリムが直し忘れた椅子の配置を残りの9人で調整してから、各々の寮に戻った。寮は一クラス2部屋しか配られないため、男女で2つに分け、4人一部屋、5人一部屋の組み合わせで二年間を過ごさなければならない。寮に戻るや否やベットにダイブする子供のような男が2人いた。
カージナル「うほぉーい!俺ベットなんか初めてだよ!基本床だったからな!」
サフラン「俺は牢屋にいたからこんな柔らかいベット、グスン、感動するぜ。」
そこにはさっきまで険しい形相の男はいなかった。寮はお世辞にも良いと呼べる場所ではないがこの男たちにとっては贅沢なようだ。
シアン「おまえらそんなはっちゃけた奴だったか?」
サフラン「それはなぁ、同じ年代の女の子がいたら、なぁ?」
カージナル「なぁ。お前知らんだろ!男子校がどれだけ窮屈か!こっちは飢えてんだよ。」
サフラン「俺なんか牢屋だし!フン。」
シアン「前科持ちがいばんな。」
一方でクトルは一人の男に質問攻めをしていた。
クトル「君の、あの、「Reparation」ってやつ?代償がどうとか僕には理解できなかったんだけど、僕でもわかるように教えてくれない?」
サルビア「俺を殴ったらその痛みが何倍にもなって返ってくるって覚えとけ。」
クトル「なるほど!じゃあ一発殴っていい?いいでしょ!痛い目見るの僕だし!」
サルビアが許可する前にクトルは彼を殴った。クトルは宙を舞い、ベッドの上に着地しそのまま起き上がることはなかった。
サルビア(加減調節むずいとか自動発動とかあの時言ってたろ、聞いてなかったのか?でもこの純粋さ何かに利用できるか?まぁこいつ馬鹿だしどうでもいいか)
カージナル「あーあ、ベット選びっていう楽しいイベント残ってたのに。クトルはここのベットでいいか。」
サフラン「となると次のイベントは…」
カージナル「シアン!お前どの女が好みだったか教えろ!」
シアン(めんどくさ)
カージナルとサフランはこういう話が大好きだ。
シアン「俺はパス。恋愛しにここに来たわけじゃないんだ。」
サルビア「先言っておくが俺もパスだ。」
雰囲気は盛り下がったが2人は話をやめる気はなかった。
カージナル「アイビーいいよな。幼馴染感あって。「Rotation」っていう物体を回転させる祝福ってなんか、かわいいし。」
サフラン「あいつな、あのおかっぱ。ぶりっこぽそうで、なんか、いや。」
カージナル「…。あ!あいつもいいよな!メイズ!あの子の「Return」で傷口いやしてもらいてぇー。ついでに傷んだ心も。」
サフラン「あの糸目女な。あいつ目の前のお菓子にも目もくれずどこからか持ってきたトウモロコシ食っててきもいよな。」
カージナル「…。おまえ、やる気ある?牢屋暮らしで流行りなんもしらねーんじゃねーの。」
サフラン「そんなことないさ!この数日間、遅れをとならいためにもトレンドを滅茶苦茶勉強してきたんだからな!」
カージナル「もしかしてお前の推しってカメリアか?名前はかわいいけど、不愛想だし、「Prediction」だっけ?予知能力でなんでも見透かされそうで。浮気なんかも即バレだな。」
サフラン「浮気する前提ならお前恋愛向いてないぞ。俺はやっぱ、ヴィオレだよな!スタイル!容姿!多分祝福も最強!!」
カージナル「おぉ!!すげぇ。高嶺の花は難易度高いから鑑賞で我慢するってのが相場なのに!見直したぜ、おい!」
一応会話を聞いていた男が口をはさんだ。
シアン「あいつは止めておけ。噂を知らんのか?」
サフラン「今更この話に混ぜてほしいっても無駄だせ。お前は一度断ったんだ。」
カージナル「そうだそうだ!あー、でもオレヴィオレ狙うつもりないからその話聞きたいかも。」
サフランは少し悩んだがどんな過去を持とうが自分が抱擁してやろうと覚悟を決め、シアンに話を続けるよう頼んだ。
シアン「あいつの祝福は「Lich」。魂であればなんでも取り込めて自分の力に変換できる。力の増え方は掛け算方式で3つまで取り込めるが取り込んだ魂の祝福は使えない。例えば2倍の魂と5倍の魂を取り込んだら本来の力の10倍が出せる。」
サフラン「それは自己紹介の時聞いたよ。自由に出し入れできて、魂は人間に限らず動物や植物でもOKらしいな。」
シアン「あいつの魂の枠は常に一つ埋まってることは?」
サフラン「そ、それは初耳だ。」
シアン「取り込んだ魂の祝福は使えないが魂の特性や容姿は使うことができる。犬の魂を取り込んだら耳や尻尾を出せる。女優の魂を取り込んだら全く同じ容姿にすることもだ。
…そろそろ気づいたかもしれないが、ヴィオレは10年前に死んだ女優の若かりし頃と容姿がそっくりだ。おそらくその魂を取り込んでる。その証拠に魂のストックが一枠埋まってることと、3つ魂を取り込めるという証明ができない。容姿が気に入ってるなら手を引くことをお勧めする。」
サルビア「魔女がいるって噂は聞いてたが、そいつのことか?サフラン、"Don't Mind" だな。」
サフラン「う、うるせぇ!そんなに俺が軽い男に見えるのか!?」
口ではそう言ってるが明らかにショックそうだ。
シアン「それと、最強は俺だ。そこを間違えるな。」
サフラン「やっぱお前、嫉妬じゃね?ヴィオレに身長負けてるからか?」
シアン「口には気をつけろ。お前は最強を目の前にしてそんな口きけるのか?」
サフラン「一週間は待てん。今ここで、やるか。」
サルビア(ほんとガキばっかだな)
メイズ「萎えたね。」
アイビー「ね。」
メイズ「良さげな男いなかったね。」
アイビー「ね。もしかしたら、顔に出てたかも。」
女子部屋では同じような会話が繰り広げられていた。
アイビー「てか、うちらのクラス「ふどう組」って言うの?やばくない?」
メイズ「ほんと、幼稚園。他のクラスに「りんご組」とか「みかん組」なのかな?「とうもろこし組」がよかったな。」
アイビー「そこは普通果物縛りでしょ。」
そんな二人を遠めに見るカメリアの目は冷たかった。そんなカメリアにヴィオレは話しかけた。
ヴィオレ「そんな険しい顔して。何か不満なの?」
カメリア「私は普段からこんなのよ。それにあんたも顔厳しかったでしょ。」
ヴィオレ「私は、周りに流されるタイプだから。」
ヴィオレは恥ずかしさを隠すように呟いた。
カメリア「…そう。」
カメリア(なんそれ)