12.壁は超えるためにある
宙には血しぶきが舞っていた。
しかし、それはリンのものであった。リンの拳はシアンの目の前で止まり、クロスカウンターのようにシアンの拳は相手の頬に突き刺さっていた。
リンは理解できていなかった。相手は加速の祝福、彼の加速では届かないスピードだったはず。
一方シアンは理解していた。自分の身に与えられた新たな特性を。
シアン(俺は1/2という値が嫌いだった。それは自分のコンプレックスであり、負の影響しか及ぼさないからだ。でも今は違う。俺は自らを乗り越えたんだ!)
今の一撃でよろけているリンに向けて見下ろすようにシアンは語った。
シアン「加速の壁は今、二種類存在する。新たな壁が作れるようになったんだ。その壁は一方から入るものの速度を二倍、反対から入るものの速度を1/2倍にする。」
彼の眼は覚悟から解放された眼に変わっていた。
シアン「なぜわざわざ教えてあげたと思う?これは舐めプだ。」
彼は指で数えながら喋った。
シアン「1、お前の理解力じゃ今言ったことの100を理解しないだろうから。
2、お前との差はこれで埋まった。いや、超した。
3、ここで倒すから。」
リンは憤って飛びかかってきたが、徐々に減速してシアンの前ではほぼ静止していた。隙だらけのリンに手加減なく加速の蹴りをくらわせた。
シアン(この減速の壁をうまく使えば、回転攻撃主体で動かなくて済む。
…感謝しないとな。このヒントを与えてくれたのはクトル、お前だ)
リンには大ダメージを与えれたが、一方でシアンにも蓄積されていた疲労やダメージが襲ってきた。
シアン(チッ、よりにもよって何で最終日だ。疲労がなけりゃ。このまま耐えてあとは2人に任せるか?いや、この戦いは誰にも知られないって決めたんだ)
シアンは一呼吸をおき、日の上ってきた空を見上げながら呟いた。
シアン「今日も昨日と同じ、何の変わりもない、いい日だ。」
リン「チガウッ!!オレガッ!コワァァァァス!!!」
減速させても多少威力の残っていたリンの拳に飛ばされたシアンだが、よろけながらも片足を地面にたたきつけ己を奮い立たせた。
リンは減速してその場にとどまっているようだった。
シアン「助走付けて欲しいってか?お前の希望に沿ってやる!」
大量の加速の壁を用意し、渾身の一撃を叩きこんんだ。
リンは村のある方まで飛んで行った。ある家に突っ込んで家主をたたき起こした。
村長「なんじゃなんじゃ!朝から一体、まさか、わしの座を狙いに来たのかぁ!ついに刺客が!ばあさん!
ん?これは。」
村長の前には気絶したリンが横たわっていた。
ヘロヘロと宿舎の方へと歩いていると、クトルとヴィオレに会った。
クトル「どうしたのその傷!?シアン君をここまで傷つけるとは!どこだ!出てこい!」
シアン「大丈夫、その猛獣なら倒した。だらか静かにしてくれ、頭がギンギンする。」
シアン(リン、これは俺の情けだ。まだおまえは誰も殺していない。改めることを願ってるよ)
手負いのシアンを運びながら談笑していた。
クトル「あの山火事はシアン君の?」
シアン「ああ、そうだ。そうするしかなかったからな。だいぶ遅かったぞ。」
クトル「まだ2つ同時には使えないからね、精進あるのみだよ。でもみて!こんな強い風が…」
シアン「だからうるさい。」
ヴィオレ「それにしてもこの傷の量、大変だったね。まさか最強さんがこうなるなんて(笑)」
シアン「お前だったら死んでたよ。良かったな、俺で。」
宿舎に帰ったシアンはメンバーのほとんどから小馬鹿にされつつ、応急処置を得て全員で「下界」に帰った。
数日後、無事意識を取り戻したリンは暴れ始めたそうだ。コロス、キルなど物騒な言葉を連呼していたため、そのまま元居た場所に戻れることはなかったそう。
その報告をプーリムづてに聞いたシアンは呆れていた。
シアン(情けをかけるだけ無駄だったか、はぁ)
各々様々な成長を遂げ、遠征を無事終えることができた。




