11.半端者
ここ最近で一番、森林はうねっていた、2人の争いを呼応するように。
シアン(戦いの基本!相手の祝福を予測すること。紋章は「H」。そして素早く切り裂くとこができる。わかってるのはそれだけ)
リンは勢いよくシアンに飛びつく。オオカミのように爪を使って腕を振り下ろす。それを冷静にさばき、腹に蹴りをくらわせた。
シアン(まだ祝福を使ってない。祝福を使ったら紋章が光るはずなのにそれがない)
一瞬リンの紋章が光ったのを見たシアンは警戒し、後ろに下がった。しかし、それは間違いだった。
一定距離離れたがリンは大した動きを見せていなかったため不思議に思ったが、右足に痛みを感じた。何かに引っかかれたように右足は出血をしていた。
シアン(これがあいつの祝福。いったい何をした)
初めて、敵対している人間と戦っているシアンだが驚くほど冷静だった。教え方は未熟だが、元プロから教わるものは着々と身についていた。
シアン(さっき後方に下がる際に通った藪に血がついてる。葉で足を切ったんだ。紋章の頭文字から推測するに「Hard」。物体を固くする祝福、触れたものに限らず、見たもの、それか一定範囲のものに作用する。つまり、俺の祝福との相性は、最悪)
リンは近くの大きな葉をちぎり、硬化させることで刃物を作った。
祝福を知ってしまったせいか、それからはシアンの圧倒的劣勢だった。むやみに自分の祝福を使い手足がズタズタになるのを恐れたからだ。その様子を見たリンも調子づき、勢いは更に増していった。
シアン(まずい。恐れるな!躊躇うな!相手にペース取られたらダメだろ。あいつはあまり賢くないからこうなると調子づいて止められなくなるだろ)
恥ずかしいほどに一方的なシアンは何故か模擬トーナメントの時のクトルを思い出した。立場が逆転した気がした。
でも、あいつは…
クトル「なめてたな。」
シアンは藪の中に飛ばされた。藪は硬質化し、身動きをとれなくなった。
屈辱的だった。情けなくなった。そして、一人では勝てないことが分かった、今のままでは。
シアン「Game Set、そう思ってるか。人間いつだって、止まったら次どうするか考えるもんだ。」
シアンは稼働範囲ギリギリで指を動かし、空にいくつか石を投げた、加速付きで。
シアン「俺は知ってる。固くなっても物体そのものの性質は変わらんってな。」
高速で落ちてきた小石は硬質化した葉に当たり、火花を散らした。辺りは一瞬で火の海と化した。
リン「グアァァァ!モリ!!モエルゥルゥゥゥゥ!!!」
シアン(当然、俺もこのままだと焼け死ぬ。一人だったらこんなこと実行に移さんかったがな)
山火事を見つけたクトルは多少動揺しつつも、巨大な雨雲を発生させた。
クトル「からのー、風ー!」
雨雲は風に吹かれて火事が発生している地点に動き始めた。
ヴィオレ「何なのあれ、行ってみる?」
クトル「行かなきゃ。はぁはぁ、シアン君かも。でも、ちょっと待って。強い風使えるようになったけど、はぁ、体力使うな。」
ヴィオレ「あ、でもこんな暗い中移動したら朝まで待つことになるかもね。教官に怒られちゃう。」
クトル「それなら安心して。見て!」
クトルの手にはコンパスがのっていた。
クトル「いつも持ち歩いてるから、どっちに宿舎があるか分かるよ。よし、体力回復。
行こう!!」
火災により木々や藪は燃え焦げ臭かったが、辺りは雨により大体の火の気が消えた。
リンが残りの木の消火活動に専念していると、腹に蹴りが入った。
シアン「さぁ次は、お前が考える番だ。」
シアン(風の威力強くなったな。おかげで多少の火傷で済んだ。それでいいんだ、クトル。少なくとも俺は、お前を認めている)
リンはかつてない怒りの表情を放火魔に向けた。
シアン「言いたいことがあるんだ。そんなに他人に森が傷つけられるのが嫌か。お前が葉を折ったことは棚に上げて。そんな半端な正義で俺に勝てると思うなよ。」
右手を握りしめ、振りかぶった。
シアン「それともう、躊躇わない。」
一進一退の攻防が続いた。どれだけ殴られようが、どれだけ切り傷が増えようが互いに躊躇いはなかった。先にどちらが音を上げるかが、この戦いの肝。
それは意外にも早かった。
シアン(やばい、出血が多くて、フラフラす…)
シアンに強烈な一撃が入った。刃が皮膚を切ることはなかったが、防いだ衝撃で滝まで飛ばされ、倒れた。力が入らない体に喝を入れて、滝壺の真ん中にある石に立った。向かいには同じく石の上に立つリンがいた。リンはとても息づかいが荒かった。
シアン(このまま、殴り合えば、確実に、負ける)
リンが痺れを切らして飛びかかってきた。シアンは反応が遅れたが、カウンターを放った。
加速しても到底間に合うスピードではなかった。
鈍い音がし、宙に血しぶきが舞った。




