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第四話 危機

 

 ばさばさと、カーテンが揺れている。

 そこから顔を出したのは、小柄な体躯の少女だった。

 蒼い髪のショートカットを揺らす少女は眠たげな目で周りを見渡す。


「…………変。誰かいると思ったのに。鍵もあけられてたし」


 それから杖を突きだした。


「《索敵灯(サーチ・ライト)》」


 スキルの発動光が住宅街の一角を照らし出す。

 路地裏の影すら照らし出す光は、しかし、怪しい人物を見つけることは出来なかった。


「むぅ。そう遠くに行っていないはず」


 少女は不満げに頬を膨らませ、さらにスキルを発動させた。


「《欺瞞看破(デス・カモフラージュ)》」

「《暗闇排除(アン・モルス)》」

「《魔力感知(マナグラフィ)》」

「《魔具破壊(ウルス・ラグナ)》」


 上級スキルのオンパレードだ。

 ほぼ同時に四つのスキルが機能し、あたり一帯がスキル光に包まれる。


「わぁ、な、なに!? 何が起こったの!?」


「ちょ、か、彼女に貰った魔具時計が!! パリンて! パリンて!」


「お、おいお前、そんな顔だったのか!? 騙したな!? 結婚は取りやめだ!」


 住民たちが混乱の渦に叩き込まれる。

 眼下でとまどう彼らを一顧だにすることなく、少女はあたりを見回し、


「この私が見つけられない……? 悔しい。絶対負けない」


 呟き、彼女は言った。


「《スキル生成(・・・・・)》」


 少女の足元に魔法陣が浮かび上がり、突き出した杖から五つの光の玉が出てきた。光の玉は赤、青、黄、緑、紫の五色になっていて、五つが回転して一つになる。


「感知、索敵系スキルを一新。感情索敵付与、敵意パラメータを低値に設定。気配感知付与、伝説級感知付与、女神感知付与」


 少女が杖を振ると、太陽のような球が住居区画に浮かび上がった。


「融合完了。神技(ユニークスキル)世界の観測者(ラプラス・ゼイル)』」


 太陽の中心に目玉が浮かび、ありとあらゆるものを観測する。

 このスキルの前に晒されれば感情も記憶も何もかもが丸裸になるだろう。

 しかし──



「むぅうううう」



 少女は、ぷくう。と頬を膨らませた。

 飽きたように杖をほっぽりだし、叩きつけるように窓が閉められる。

 だんだんと窓から気配が遠ざかるさまを、五百(・・)()()()()()()()()()()オリバーは見ていた。


「あっぶねー……よりにもよってあいつが来るかよ」


 知り合いどころではない。

 今のは四英雄の一人、大賢者コル・セリエスだ。

 妖精族(ハーフ・リング)の彼女に掛かれば伝説級のアーティファクトも意味をなさない。


「つーか、住民の魔具壊してどうすんだよ……また苦情が殺到すんぞコレ」


 オリバーは頭を抱えた。

 魔王討伐の旅に向かう時にも彼女の無茶に振り回さされて後始末をしたのはいつも自分だった。謝り倒して慰謝料を渡して魔獣討伐を請け負って……と、始末に追われたことは枚挙にいとまがない。


 しかも、その実力が確かなのがタチが悪い。


 他者の認識に干渉する《虚空の指輪》など一瞬で見破られるだろう。

 そのスキルの効果範囲にいたなら、だが。


 スキル発動の一瞬前に離れなければ危なかった。

 ホッと息を吐くと同時に、魔神領域から無事に帰還で来ていたことが分かって頬を緩める。


(ま、元気そうでよかった)


 友と過ごした思い出が、脳裏を駆け抜けて。


(…………生きてること、知らせるか?)


 一瞬そんな思いがよぎるも、すぐに「いや」とオリバーは首を振った。

 彼らのことは大切な仲間だと思っているし友人でもある。

 だが、もしも自分が生きているが知られればせっかくの第三の人生が無駄になる。


 力を失っても元剣聖として何かと呼びつけられるだろうし、争いにも巻き込まれるはずだ。

友人たちには悪いが、こちとら三回目の人生なのである。美食家としての人生くらい好きに生きさせてほしかった。


(あいつらも俺の立場だったら絶対に同じことするしな。うん)


 そう考えると罪悪感もまったく感じなくなった。

 それよりも見つかるのは危険だという思いが強い。


 これ以上帝都にいるのは危険だと思いつつ、ステータス上昇のギミックを早く知りたい気持ちが勝った。


 いつもは行かない貴族御用達のケーキ屋へ赴く。

 平民姿で入ってもいい顔はされなかったが、金貨をちらつかせて上客だと認識されると対応が変わった。これだから貴族街のケーキ屋は気が進まないのだが、馴染みのケーキ屋には行けないのだから仕方がない。


「リンゴのタルト、いただきます」


 帝都を一望できる時計塔の上で購入したケーキをいただく。

 サクッとしたタルトの食感と甘酸っぱいリンゴの味がたまらなく美味い。

 タルトとリンゴの間に敷かれたクリームもほどよい甘さだ。


「美味い! 料理はアレだけどデザートはいけるな」


 生クリームや林檎をうまく使えば砂糖を使わずともいいものは出来る。

 充分に満足したオリバーが「ごちそうさまでした」と手を合わせると、


 《ステータスが上昇しました》

 《スキルを習得しました》


「お!」


 完食と同時に胸が熱くなり、ポップアップが浮かんだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 レベル:1

 名前:オリバー・ハロック

 天職:美食家

 種族:人族(ヒューマン)

 体力:F+

 魔力:F→E+

 敏捷:F

 幸運:F


 《技能(スキル)

 林檎連弾:魔力で林檎を生成し、矢のように飛ばして敵を攻撃する。


 《転職者特典》

 大いなる心眼:あらゆる欺瞞を見破り、対象のステータスを看破する。

 不可視の拒絶:日に一度、不意打ちによるダメージを無効化する。

 イルディスの加護:ステータスの成長速度が上昇する。

 在りし日の剣聖:月に一度だけ聖剣を呼び出し、剣聖の力を使うことが出来る。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


「お、今回はけっこう上がってるな。あとスキルも増えた……林檎を生成して攻撃? なんつーふざけたスキル……さすがイルディスがネタ天職とか言ってただけあるな」


 火の神官に聞かれれば卒倒するような口調(呼び捨て)で呟いたオリバー。

 さりとて、スキルがないよりはあるほうが良いのは事実だ。


「これで、ステータス上昇の謎は解けた」


 他の天職とは違い、美食家は美味いものを食べれば食べるほど強くなる仕組みなのだろう。だとすればなぜこれほど楽な天職が広まっていないかと不思議に思うが、こんなにも早くステータスが上昇するのはイルディスが押し付けた転職者特典とやらのせいに違いない。普通はこうはいかないはずだと自戒しつつ、オリバーは天を仰いだ。


「でもまぁ、ちょうどいいかもな」


 オリバーが美食家を選んだのは『美味いものを食べて好きに生きたい』からだ。

 四種族連合の命令で戦うこともなく、無抵抗の魔族を制圧することもなく。

 理不尽な上司の命令なんて一生きかず、悠々自適にスローライフを満喫するためだ。


 美味いものを食べて強くなれるなら、これ以上いいものはない。


 ──ただ、この国にオリバーが食べられる料理は少ない。


 帝都にいれば友や仲間に見つかることもあるだろう。

 要らない厄介事に巻き込まれるのは勘弁だ。

 思考をまとめたオリバーは鞄を背負い直し、帝都の出口に足を向けた。


「食べられるものを、探さないとな」


 この国──いや、この世界では前世のような料理は期待できない。

 にも関わらず、日本の記憶を持っているオリバーは今の異世界料理には満足できない。菓子ばかり食べていたら確実に病気になるから、これはなんとしても解決しなければいけない問題だ。


 そのためには道具類も揃えないといけないし、何より。


「まずは塩だ。この国の料理は味が薄すぎる!」


(さらば帝都、くそったれ英雄ライフ。俺の人生はここからだ!)


 足取りは軽く、彼を止めるものはなにもなかった。




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