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第十二話 主従契約



パチパチと、焚き火の爆ぜる音が響く。

火花が散るたびに視界が明るくなり、男の姿がぼんやりと現れては消える。


「──バー様。家──ては……」


「大丈夫──だ。──やれ」


話し声が意識を覚醒させ、サラマンディアは目を開けた。

見れば、そこには小さき者ども──人族の男と銀狼族の娘、小人族の少女がいる。


「あぁ、起きたか」


人族の男──名は確かオリバーといったか。

彼はサラマンディアを見上げ、に、と歯を見せて笑う。


「どうだ。美味いワインを飲んで酔いつぶれるのはいいもんだろ」


【貴様……なぜ妾を殺そうとしなかった】


サラマンディアは唸るように言った。

ニンゲンとは騙すもの。嘘をつく生き物だ。

自分が寝ている間に殺害を試みるくらいやっても何らおかしくはない。


だが、全身のどこにも打ち付けられた跡がない。

普段ならニンゲン如きの刃で傷をつけられるとは思わないが。

その刃を扱うのが剣聖であれば話は別だ。


(何度も殺し合ってきた。何度も戦った。妾とこやつの関係は、命を奪い合う仲のはず)


酔いつぶれていた時に攻撃されては、さしもの自分も……。

そんな思考を巡らせるサラマンディアに、オリバーは呆れたように言った。


「はぁ? んなことしてどうすんだよ。俺たち、もう呑み友だろ」


サラマンディアはきょとんとした。


【のみ、友?】


「あぁ。一晩、飲んで騒いでしたら、もう友達だろ。あと勝負のこともあるしな。殺すなんて無粋な真似するかよ。あと個人的に、剣聖時代から俺はお前のことを気に入ってんだ。お前、無抵抗の奴とか殺そうとしなかったしな」


【………………】


サラマンディアは黙り込んだ。

尻尾を激しく地面に打ち付け、翼を大きく広げる。


【グルル……妾が約束をたがえて貴様らを喰らうとは思わぬのか?】


「誇り高き竜がんなことするかよ。と、言いたいとこだけど、そこは賭けでしかなかった…………え? そんなことしないよな?」


不安そうにするオリバーに、サラマンディアは言葉を失った。


(この男は、確信もなく、妾を放置したというのか? あまつさえ友と呼ぶなど)


なんだそれは。馬鹿げている。

豪胆、無謀、蛮勇、そのどれでもあり、どれでもない。


嘘をつき、騙し、殺そうとするのではなく。

ただ酒を飲み、あのような口約束を愚直に信じて、守ろうとする。

それではただの、大馬鹿者ではないか。


【くはっ】


サラマンディアは噴き出した。


【くーっははははははははは! くーっはははははははははは!】


「な、なんだ。どうした?」


サラマンディアはひとしきり笑ったあと、納得したように頷いた。


【よかろう! 妾の負けを認める!】


「おぉ、まじか」


【先に酔いつぶれたのは妾じゃ。竜は約束をたがえぬ!】


オリバーたちは顔を見合わせ、ホッとしたように頬をほころばせる。

【だがっ!】とサラマンディアは翼を広げ、


【竜を下したのだ。その報償が命だけとあっては竜の誇りが許さぬ!】


「んん……? いや、俺は大人しくしてくれるだけでいいんだけど」


【否! それでは妾の気が済まぬ】


「じゃあどうするんだよ?」


決まっておるじゃろ。サラマンディアは笑った。


【従魔契約じゃ。妾はお主の臣下となってやろう】


「はぁ? いや、別に結構です」


【そういうな馬鹿者】


サラマンディアはおのれの指先を噛み、オリバーの元へ垂らした。


【飲め】







(従魔って言われてもなぁ)


目の前で垂れる血を見ながら、オリバーは内心で唸っていた。

ワイン勝負に勝ったことは喜ばしい。

むしろここまで想定通りと言えるが、そういえば勝負の結果を決めていなかったことを思い出す。


(俺としては、この場所を襲わなければそれでいいんだが……)


まさか何度も戦った相手に従僕になりたいと言われるなど、誰が思うだろう。

オリバーの困惑など知ったことかと、サラマンディアは爪を突きつける。


【早く飲め】


「ちょ、まだ頭が状況に追いつけていないんだけど」


【やかましい。いいから飲め。妾の気が変わらぬうちにな!】


牙をみせて威嚇されると、焦りが困惑を上回る。

左右を見ると、シェスタやイリナが不安そうにオリバーを見ていた。


(俺は美味いものを食って自堕落に過ごしたいだけなんだが……)


竜を従僕にしたら何がどうなるか分からない。

だが今、サラマンディアを敵に回してはいけないことは分かる。


「えぇい、仕方ない」


オリバーは口を開ける。

サラマンディアの血が体内に入った。

その瞬間、ドクンッ、と心臓が脈打った。

身体から金色の焔が噴き上がり、大いなる力が身体に流れ込んでくる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

レベル:1

名前:オリバー・ハロック

天職:美食家

種族:人族(ヒューマン)

体力:S→SSS

魔力:D→S

敏捷:D→B

幸運:F→C


技能(スキル)

林檎連弾:魔力で林檎の種を生成し、矢のように飛ばして敵を攻撃する。

塩の導き:塩を舐めると一定時間、方角が分かるようになる。

胡椒の権能:胡椒の蔓を触媒にして異次元空間に鞄を作る。十日間持続可能。

ブドウの祝福Lv1(ブドウを育てる時に魔力を注ぐと旨味が倍増し、育ちが良くなる)

ワインの加護Lv1:ワインによるアルコール摂取量を調整できる。



《従魔契約》

契約対象:焔王竜サラマンディア

従魔技能(スキル):焔王竜の加護(炎属性の攻撃を完全に無効化し、魔力として吸収する)


《転職者特典》

大いなる心眼:あらゆる欺瞞を見破り、対象のステータスを看破する。

不可視の拒絶:日に一度、不意打ちによるダメージを無効化する。

イルディスの加護:ステータスの成長速度が上昇する。

在りし日の剣聖:月に一度だけ聖剣を呼び出し、剣聖の力を使うことが出来る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うお、なんかめちゃくちゃスキルレベルが上がったんだが……!?」


「うむ。まぁこんなものだろう。これ以上繋がると貴様の身体が破裂してしまうしな」


「物騒だなおい。てかこれ、お前、こういうのはちゃんと前もって……」


竜の巨体を見上げようとしたオリバーはそこに誰もいないことに気付いた。


「阿呆。こっちだ」


聞き慣れない声が聞こえてオリバーは前を見る。


──そこに、裸の美少女が居た。


「ニンゲンの姿になるとは業腹じゃが、まぁ、主の姿と同じと思えば苦も減ろう」


燃えるような紅い髪をゆらめかせ、頭からは角が生えている。

荘厳な山脈のごとき、起伏のある胸をたぷんと揺らし、腰から下は──


「ぎるてぃ、でございます」


「いだぁ!?」


背中へ鞭のように尻尾をぶつけてきたシェスタが隣にいた。

オリバーは苦笑して、


「おいおい。なんだよシェスタ」


「失礼。足が滑りました」


「尻尾がだよな!?」


「一糸まとわぬ女の身体をじろじろ見まわすのはいかがなものかと思います。ご主人様。間違えました変態様」


「間違えてないけど!? なんで不機嫌なんだ!?」


「そんなに眺めたいなら私のを眺めてください! いっそ辱めてください! ご主人様の意気地なし!」


「無茶言うなよ!?」


「ふんっ」


と、そっぽ向いたシェスタだった。

秋の空のように変わる女心に翻弄され、オリバーはため息をつく。

それから全裸女のほうを見て、


「つーかお前も、さっさと隠せ。ちょっとは恥じらいを見せろ」


「何を隠す必要がある? 我が至高の肉体に隠すものなどありはせん」


「決め顔で言うな! いいから、その姿になるなら隠すところは隠せ! これ、主からの命令だから!」


「むぅ。命令ならば仕方ないか」


とりあえずオリバーは自分が羽織っていた外套を渡してやる。

外套を羽織った彼女を見て、オリバーは再び問いかけた。


「それで、お前は……サラマンディアなんだよな?」


「うむ。妾が従魔側ゆえな。主側に姿が寄せられたのじゃろう」


「そう、か」


「というわけで、改めて自己紹介しよう」


サラマンディアはオリバーの元へ膝をつく。


「我が主。オリバー・よ。我が名は焔王竜サラマンディア。五大竜の一角にして死と硝煙を被る者。ひと時の気まぐれにより貴様を我が主と仰ぎ、その命尽きるまで仕えると誓おう」


そう言って立ち上がり、サラマンディアは笑った。


「よろしく頼むぞ、オリバー」



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