表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲海の国  作者: 赤亀たと
8/16

地上での夜

 森は暗くて静かでしたが、明るい街の方は良く見えました。テネリはどこからともなく黒いローブを取り出すと、私に渡しました。

「かぶって。髪と瞳の色さえ隠してしまえば、雲海の国の人だとはばれないよ」

 お礼を言ってそのローブを受け取りましたが、重苦しい黒色とは裏腹にとても軽い布でできているようでした。ローブを被ると、テネリが頷きました。

「うん。髪の色も瞳の色も隠れたよ。僕とおんなじ真っ黒だ」

 髪も瞳も真っ黒な自分の姿はちっとも想像できませんでしたが、目の前で笑うテネリを見て、きっと素敵なのだろうと思いました。

 私たちはそのままそこで火を焚いて夕飯を食べる事にしました。木の枝を集めて指示された場所に置いたら、なんとテネリの竜が火を吐いたのです。その火力の強いことったら。竜の向こう側にいたテネリの前髪が焦げるほどでした。テネリは笑いながら前髪の炎を消しました。

「この竜はデーラっていうんだ。僕の竜なんだけどね、飛ぶのは上手でも火を吐くのは見ての通りなんだ」

 デーラは自分が褒めちぎられたと思ったのか、誇らしそうに胸を張ってしっぽをぴんと立てました。赤いうろこが炎でみずみずしく輝いています。


 私はテネリのくれたパンと水で夕飯を済ませました。そしてお互いについて話したのです。テネリの家は、はやはり緑の村にありました。テネリは三日ほど前から竜達がお互いに唸り合うようになったと言いました。昨日の朝には竜達が争いはじめ、夕方には隣村に血の雨が降り始めました。夜には緑の村にも呪われた血の雨が降ってきたのです。テネリのお母さんは竜の炎で焼け死んでしまいました。お父さんもテネリをデーラに乗せて守りの魔法をかけてくれましたが、その途端に呪われた血の雨が激しくなりました。お父さんはデーラに飛ぶよう怒鳴り、テネリのお父さんは緑の村に取り残されてしまったのです。今も無事かどうかはわからないとテネリは話しました。お父さんがかけてくれた守りの魔法もすぐに破られてしまうほど、血の雨は激しいものでした。痛みと熱さに耐えながらテネリはデーラにしがみつき、気がつくと雲海の国にいたと言います。もちろん、彼はそこを霧の谷と勘違いしていましたが。そこで私がクライアの居場所を知っているかとテネリに尋ねると、残念なことに彼は首を振りました。

「ううん。もちろんクライアの存在は知っているよ。魔法使いの間でも有名だからね。でもやっぱり僕らもここ何世代かの間は誰も見ていないんだ。だから居場所はわからないよ。今となっては本当にいたのかって話だし」

 私とテネリは同時にため息をつきました。デーラもその様子を見て遅れてうなだれます。

「でも」

 テネリはふと顔を上げて言いました。

「古の木はどうだろう?ほら、太古の森にある古の木だよ。雲海の国には伝わってない?」

 私ははっとしました。

「竜の争いが鎮まった時、世界中にその根を広げたっていう木のこと?」

 そう言うとテネリが何度も頷きました。彼曰く、古の木ならクライアについて何か知っている可能性があるというのです。

「だからさ、古の木に会って話を聞けば、何かわかるかもしれないよ。なんて言ったって古の木はもうずっと生きているからね。僕らの言葉も話せるし、竜の言葉も、どんな言葉も話せるんだ」

 テネリが火の加減を見ながら言いました。デーラが火を吐こうかと喉元を赤く揺らめかせましたが、テネリがそれを手で制しました。

「それに、うまくいけば、竜の争いの止め方も知っているかもしれない」

「それはすごいわ」

 一気に道が開けた気がして私は思わず立ち上がりました。

「ねえテネリ。その太古の森はどこにあるの?」

 私達の間に流れたのは沈黙でした。私は再び座り込んで肩を落としました。テネリも俯いていましたが、再びはっと顔を上げました。

「街の時計台に行けば、地上の地図があるよ!そこで調べられるさ、きっと」

 テネリはそう言って街の向こうを指さしました。そこには確かに時計台のようなものが暗闇の中で光を放っていました。その手前をちらほらと魔法使いが飛んでいるのもわかります。私はつくづく、魔法が使えたらいいのにと思うのでした。そしたら今日だって雲海の国から飛び降りたりしないで、翼を生やすなり箒にまたがるなりできたはずなのですから。私がそんなことを考えていると、テネリがデーラに寄りかかりながら言いました。

「そうと決まれば明日の朝いちばんに行こう。でも今日はもう休もう。おやすみ、レイラ」

 穏やかに揺らめく炎を眺めながら私も横になり、テネリとデーラにおやすみを言いました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ