僕を惑わすキミ
僕には嫌いな人が沢山いる。自分で考えて行動できない人、責任感がない人、他力本願な人、融通がきなかい人、全部嫌いだ。その中でも特に彼女は厄介だ。出来れば今すぐに関係を絶ってしたいたいほど嫌いなのだ。
彼女の行動は僕にとって不可解で理解し難いことが殆どだ。あえてその行動をして僕を惑わし弄んでいるのではないかと考えてしまう程だ。例えば彼女は僕が他の子と話しているだけで嫉妬するのだ。しかし彼女は平然と他のヤツと話すのだ。しかも男と。僕には、「やめて」と言う割に自分はするのだ。理解出来ない。何故、自分が出来ていない行動を平気で他人に要求できるのだろうか。しかもその上彼女は僕の話を聞かない。聞いたとしても上の空で叱っても反省は口だけ。僕にはそんなことはできない。だから僕はいつしか彼女のことを《自己中心的》な人。と思うようになった。
月曜日は学校の方針で全部活が休みだ。なので、家でだらだら漫画でも読もうかと妄想していると彼女が横から足をかけて僕を転ばせてくる。すごく小さいことだがされるとなかなかムカつく。彼女が僕のそんな気持ちを汲み取ってくれるはずもなく元気ハツラツに
命令してくる。
「さぁ、放課後よ!付き合いなさい!」
嫌な予感がした。僕は即断ろうと立ちながら廊下へ向かう。普段は察しの悪い癖にこういうときだけは察しのいい彼女が遮ってくる。
「ダメよ、貴方は私に付き添う義務があるの
いいからついてきなさい!」
心底嫌だったが断りきれそうもないので小声で「そんな義務ねぇよ」と愚痴を言いながらついて行った。
連れてこられたのはバスで隣駅の中堅企業のショッピングモールだ。真剣に服選びをしている彼女を観察してみた。顔は黙っていれば悪くないしスタイルだって特別悪い訳では無い。スラッとして身長は女性の中では高い方だ。学校では低めの位置にポニーテールしている彼女だがいつの間にか髪を解いていた。結んでいたせいなのか軽く癖がついていて放課後だというのにほんのり甘い香りが風に乗って鼻腔をくすぐる。すると彼女はワンピースのようなふわっとした服を持ち悪戯に笑った。
「どう?」
いつもとは少し違う笑顔にギャップを覚え鼓動が早くなる。僕は反応が遅れた。
「ねぇ、どうなのよ」
「え、あ、いいと思うぞ」
彼女のことをこんなふうに思ったの初めてで少し自分で自分に驚いた。学校と外じゃ意外と変わるものだなと思った。その後は彼女が満足するまでとことん付き合わされた。
翌日、課外授業のとき彼女がグループのリーダーを務めた。とても円滑に回していて素直に凄いと思い僕は賞賛した。
「凄いな、リーダーできるなんて」
当たり障りのない感じに褒めただけなのに、彼女はご主人様に餌を貰えた犬の様に悦んだ。僕はつい『可愛い』と思ってしまった。友だちの僕が彼女にそんな感情を抱くのもましてや言葉にするのはもっと変だと思いぎゅと口を紡いだ。その後はいつも通りの自己中な彼女に戻った。
ある夏の日、彼女は僕を遊びを誘ってきた。家にいても暑く暇だったのでその誘いに乗った。誘われたのはDestiny Land(通称:ディスティニー)。大手テーマパークだ。油断すると見失いそうなほど人が多かった。暑いのによく来るなぁと他人事に思っていると僕の思考を見透かしたように彼女が言う。
「なにぼーっとしてるのよ、ほら早く行こう!
あのアトラクション乗わるよー!」
僕は後れを取るように後について行く。
何ヶ所か回ったあと食事を摂った。今日、乗ったのはコーヒーカップ、メリーゴーランド、など絶叫系はなにも乗っていないので僕は物足りなかった。
「絶叫系乗ろうぜ。あの、兎の物語のやつとか。」
すると彼女は
「え…あ、どうしても行きたい?」
「ディスティニーと言えば絶叫系だからできれば行きたいな。ダメか?」
もしかしたら彼女は怖いのが無理なのかもしないと思い気遣いつつ言った。
「べ、別に余裕だし!行こ!ほら!」
なぜか意地を張って強がってきた。面白くなり僕も悪ノリしてしまった。順番になり乗ると彼女はずっと下を向いて震えている。小動物のような『可愛さ』があり微笑ましい。あくまで客観的にだ。僕の私情とか好みではない。落ちる少し前になると彼女は予想外の行
動に出る。なんと僕の腕を力いっぱい両手で掴んできたのだ。見える景色に期待しに胸が高まったのか別のことで高まったのか解らなかった。終わったあとも彼女の拘束は緩まない。しびれを切らしたのと涙目の彼女を見て罪悪感に駆られた僕は言葉を選びつつ話しか
けた。
「ごめん、無理に付き合わせて。お詫びにほら、カチューシャとか食べ物とか奢るよ。」
彼女は一瞬で元気になりチュロスをねだった。彼女は小柄で細身なのだが男の僕にも劣らないほど食欲旺盛なのだ。すっかりご機嫌な彼女は今日はおろしている緩やかなウェーブのかかった艶やかな髪を耳にかけ一口チュロスを頬張る。なんともないありふれた光景に僕は何故か『ドキッ』とした。友だちではありえない感情が一瞬、僕の心を支配したのだ。さっきから僕はおかしい。《自己中》で嫌いな彼女に対して『可愛い』と思ったり『ドキドキ』しているのだ。きっとテーマパークに来て僕も気分が高揚しているからに違いないと無理に自分を納得させ遅くなりすぎる前に彼女と一緒に帰路についた。
晩夏、彼女が嬉し恥ずかしそうにかけてくる。いつもと違う感じの彼女。僕は何故だか嫌な感じがした。特に明確な理由がある訳では無いのだが出来れば話したくないと感じた。そんな僕をよそに彼女は口を開く。
「あの、ね。放課後話したいことがあるの。
部活ミーティーングで終わりだから待ってて
くれる?」
「うん、大丈夫。待っとく。」
Destiny Landのお誘いにこの流れ。言われるとはひとつしかないと確信した。このとき僕は柄にもなくハッピーエンドを期待してしまったのだ。物語の主人公はおろか村人①にすらなれない村人②の僕が。
放課後になり教室で彼女のことを待っていると足早に彼女が近づいてくるのがわかった。
「ごめん、お待たせ」
少し息を切らしながらそう言う彼女を見ると
「あのね、小林くんと仲良いじゃない?
どんな人か聞きたいのよ…」
僕は少し戸惑いつつ
「え、小林?良い奴だけど…どうした?」
「実は小林くんに告白されたのだけれどどんな人か分からないから返事迷っていて…だから一番仲いい人に聞きましょ!って思ったのよ!」
僕は愕然とした。まさか僕ではなく僕の友だちだったなんて。逃げ出したい気持ちを堪えてありもしない余裕を醸し出し続ける。
「それで返事はどーすんの?」
「付き合ってみる」
照れながら笑顔で僕を真っ直ぐ見つめる彼女を見ると胸が苦しくなった。自分でも苦しくなる理由が解らずイライラする。すると行き場のない禍々しい気持ちが零れ落ちてしまった。
「あっそ。てかいちいちこんなことで呼び出
すなよ。正直迷惑だから」
ハッとなり顔を背ける。気付いた時には口走っていた。僕は「おめでとう」の一言が言い出せなかった。言ってしまったらなんとなく負けを認めてしまう気がして。しかし彼女は下唇を少し噛みながら《可愛くない》笑顔を無理やり作り終えると
「そうだよね、ごめんね」
とムダに明るい口調でいう。そんな風にいわれたら僕が辛いじゃないか。僕は無言で教室を後にする。なぜあんなことを言ってしまったのだ、などと後悔しながらなんとなく大人気アプリのSNSを開く。
【僕の異性の友だちが恋人出来たって嬉しそうに報告してた。僕はどんな顔でその話を聞けばいいのだろう。】
と何気なく呟いてみる。そうするとすぐに反応が来た。
【それは嫉妬かな?】【青春だね笑】
最初は意味がわからなく怒りを覚えた。しかしすぐに心当たりがあることに気づく。僕は彼女に恋をしていたのだと。振り回すのが得意で自己中だけど彼女の明るさやときどき見せる別の顔にいつの間にか魅せられていたのだ。しかし今更気付いても後の祭り。彼女はいまさっき、僕の前で満面の笑みで付き合う宣言をしていたのだ。僕の色のない日々に幾多の色をつけてくれた彼女。思っているだけで行動に移さなかった。それどころかその気持ちにすら気付けなかった僕の末路。滑稽だと思った。やり場のない気持ちを胸に明日も生きていく。いつもより少し色のある世界を。
やっぱり僕は嫌いな人間が沢山いる。自分で考えて行動できない人、責任感がない人、他力本願な人、融通がきなかい人、全部嫌いだ。その中でも彼女は厄介だ。出来れば今すぐにでも関係を絶ってしまいたいほど嫌いだったのだ。
今は、好きな人も出来た。彼女だ。《自己中心的》でわがままが多い彼女だけど可愛くて犬のように人懐っこい。けれど彼女と二人っきりで遊びに行くことも相談相手になることも無いだろう。僕は未だに彼女を思い続けている僕が一番この世で大っ嫌いだ。




