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「それで、どうしてこの話を聞きたかったのかしらぁ?」


リュドミラ先輩がイリーナにそう聞いたことで、そういえば元はそんな話の流れがあったことを思い出す。

リュドミラ先輩に向けていた視線をイリーナに向けて見れば、また顔を赤くして言い淀むイリーナからの答えを今度はゆっくりと待った。

やがて私とリュドミラ先輩からの視線に耐えかねたイリーナがぐっと目を閉じて、真っ赤な顔のまま蚊の鳴く様な声を絞り出す。


「ぁ、あのね。最近、ジャコブくんが私にとっても優しくしてくれてるような気がして…どうなんだろうなぁって思って」


おやぁ?プルーストの努力が功を奏してないか、これ?

あやつめ、最近は本当によくイリーナと一緒にいるところを見かけていたが…。イリーナ自身も、その変化を感じ取っていたようだ。

それにしても、照れてるイリーナも可愛いなぁ。


「それでアンドリ先輩はリュドミラ先輩に優しいから、分かるかなぁと思ったんですけど…」


はたしてリュドミラ先輩の話は参考になったのだろうか…。あれは他と比べられるようなものでは、ないと思う。

イリーナもそう思ったのか「ちょっと分からなかったです」と素直な感想を漏らしていたので、やはり参考にはならなかったらしい。

でもプルーストが具体的にどんな行動をしてるのかは、ちょっと気になるよねぇ。


「まぁまぁ、エヴのことは忘れて頂戴。よかったら何があったのか、聞かせてくれないかしらぁ?」


お、いいですねー。リュドミラ先輩の言葉に便乗するような真似はしなかったものの、内心で『そうだ、聞かせろー!』と野次馬のようなことを考えていた。

隠し事の出来ないイリーナはリュドミラ先輩に聞かれてしまえば、これまた素直に話してしまうことだろう。

決して催促するようなことはせず、黙ってゆっくりと待っていればイリーナはぽつりぽつりと何があったのかを教えてくれた。


「前にジャコブくんに、付き纏っちゃった時があったんだけどね。でも、このままじゃ迷惑なんじゃないかって思ったの」


あぁ、あれね。私がアドバイスしたやつ。あれが正しく、アドバイスになっていたかはさておき。

確かにイリーナがプルーストに庇ってもらったお礼として、やること成すこと全てを傍に行って手伝っていた時期のことを言っているのだろう。

それからと考えると、もしかして私いつの間にか恋のキューピッドをしちゃっていたのでは?


「それで。いつも通りに戻らなきゃって考えて、ジャコブくんにも謝って…」


イリーナらしいな。別に謝るようなことでも、ないと思うけど。


「それから、かな。ジャコブくんから話しかけてくれたり、ふとした時にわたしの隣にいてくれることが増えたような気がして…ねぇ、これって気のせいかな?」

「少なくとも私に対して、そんなことはないわね。普通よ」


プルーストとなんて基本的には放課後に顔を合わせるくらいのものだから、そうなのはイリーナだけじゃないかしらね。

明確なことも言えないので、とりあえず自分のことだけ言っておいた。

それにしても、なんて慎ましやかなアピールなのか。ちょっと押しが足りないんじゃない?

そう思ってしまうのはアンドリ先輩の話を聞いたせいであって、私の判定が狂ったわけではないと思う。

まぁもしアンドリ先輩のレベルで何かをやっていたとしたら、まずイリーナのお友達が動いて牽制しているはずだ。

それに引っかかっていないと言うことは、何の問題もない健全な範囲と言うことだろうな。

私の答えに赤い顔で「そうなんだ…」と呟いたイリーナは少し笑みを浮かべていて嬉しそうに見えた。

これは放っておいても、当人たちで勝手に何とかなるでしょ。エアリスと違って。

私としてはこんなに可愛らしいイリーナを堪能できたので、これを見られないプルーストざまぁって今のうちにマウントしとこ。


「そういう貴方は、恋に興味はないのかしらぁ?」

「私、ですか?」


なんか、ついでとばかりに聞かれてしまったなぁ。

私かぁ…。初恋とやらもまだな私が、それを聞かれたところで何か答えられるわけもないのだが。

リュドミラ先輩みたいに幼い頃からの付き合いがある子がいる訳でも…あぁ、でも辛うじて記憶に残ってる子ならいるな。

実はその子に初めて魔法を見せてもらって、それがあまりにも綺麗なものだったから感動して覚えているだけなのだが。

ただその子には、その一回しか会ったことがないし結局は魔法の印象の方が強すぎて顔も覚えていない。

うーん、服装的には男の子で間違いなかったと思うけど…。考えても、さっぱり思い出せそうにないな。

もしかして私の記憶の容量が小さいのでは?最近は前世のことを夢で思い出すこともあって、余計に昔の記憶を追い出されている気がする…。

何かきっかけでもあれば、思い出すのかもしれないけどなぁ。


「私はないですねー」


結局それらしいものを思いつかなかったので早々に諦めて、リュドミラ先輩にそう返した。ご期待に副えず申し訳ないね。


「あらあらぁ、本当にそうなのかしらねぇ」


本当にそうなんですよ?本人がないと言ってるものは、ないですねー。

リュドミラ先輩はうふふと笑っていたが、私からはこれ以上何も言えることはないので微笑み返すだけにしておいた。

久しぶりに人の恋バナをまともに聞いたが、たまになら面白いものだ。

話しているうちに昼の時間帯からは随分と遠ざかってしまっていた。こうやって座って話しているだけだというのに時の流れが速く感じる。

楽しいことっていうのは本当に早く過ぎてしまうものなのだなぁ。

午後からは明日アンドリ先輩たちが来ると言うことなので、せっかくだからお菓子でも作らない?というリュドミラ先輩の提案に揃って賛成した。

いいね、お菓子!前世の調理実習とかでは普通に作れてたし、今も問題なく作れると思います!

キッチンを借りて使用人たちに教えてもらいながら作れば、慣れないことに時間はかかったものの無事に焼きの段階まで行くことが出来た。

リュドミラ先輩は慣れているような手つきだったので、どうやらお菓子作りが趣味であることが分かった。

逆にイリーナは不器用な手つきで一生懸命に作っている姿が可愛かった。

何より漫画とかで見たことのある、何でそんなとこにに粉がつくんだろう?を素でやっている姿をみて1人で感動していたのは内緒だ。

ちなみに私はといえば、まぁ普通でしたね。はい。

焼くのは火加減などが難しいので、そこだけは使用人にお任せした。だから焼き具合は間違いなく完璧。

完成したのはクッキーだ。生でもなく焦げているわけでもない、ほんのりきつね色のクッキーから甘い匂いが漂って食欲をそそられる。

皆の分を一斉にに焼いたのだが、誰がどれを作ったのかが分かりやすかった。

一番きれいなのがリュドミラ先輩で、至って普通なのが私。そして、ちょっと歪なのがイリーナだ。

ここまで差が出るものなんだね。ま、材料が変わらないので、味はどれも変わらないのだけどね。

明日に残す分だけを取り分けて、残りはリュドミラ先輩が淹れてくれた紅茶と供に美味しく頂いた。


日も落ちかけて来たころに、夕食が出来たというので早めに夕食を戴くことに。

そこまでお腹が減っていなかった私は、少し食べただけで終わってしまったので申し訳ないことをしてしまった。

夕食の時間が終わってボードゲームでもしながら食休憩をしていると、お風呂に入る準備が整ったらしいことを知らされた。

どうやら客室の一つ一つに、浴室があって個人で入れるようになっているとのこと。

それなら私は私に与えられた客室に行って、いつも通りに入浴してきていいということか。

使用人が入浴のお手伝いを申し出てくれたが、丁重にお断りさせて頂いた。いつもだと1人で気楽に入るものだから、誰かにお世話されるのって慣れてないんだよね。

とにかく私はもう入ってこようと立ち上がりかけたところで、ぱちんと手を打ち鳴らす音でその行動を止めた。


「そうだわ!」


どうやらリュドミラ先輩が鳴らした音だったらしく、私たち2人の注目を集めたリュドミラ先輩が合わせた手を顔の横に可愛らしく添えて微笑んでいた。


「皆で一緒に入りましょうかぁ」


え、そんな大浴場まであるんですか?使用人は「そちらの方もご用意しております」と即座に答えたことに、私は驚いてそっちにも目を向けていた。

どうせなら広い場所で入りたいからと、別荘を建てるときに特注で作ってもらったらしい。凄いな。

まさかこの世界でそんな温泉のような入り方が出来るとは思っていなかった。それに今まで1人で入ってたから誰かと入るのが微妙に気恥ずかしい…。


「あの、ちょっと、恥ずかしい…」

「まぁまぁ」

「あ、いや。ま、待って下さい」

「さぁさぁ」


あれぇ?私の声が聞こえてないのかなぁ?

このままでは、リュドミラ先輩に押し切られてしまう!私がどうしようと彷徨わせた視線が、きらきらと目を輝かせて期待するように見上げて来るイリーナの視線と合ってしまった。

ダメなんだよ、あの目で見られちゃ…。曇らせるようなこと、したくないじゃないか。私は、若干の葛藤も空しく白旗を上げることとなった。

部屋から着替えを持ってきて再集合となったので、使用人に私が使うことになる客室を今日初めて案内してもらう。

鞄は特に何もされてない様子でぽつんと部屋に置かれてあったので、そこから着替えだけを取り出して部屋を出た。

この後はもう寝るだけだろうし、ネグリジェに何か羽織れるものを持っていこう。

私が最後に来てから、揃って大浴場に入った。まずは服を脱がなきゃいけないんだよね。当然のことだけど。

私が着替えを籠に置いて、脱ぐのを躊躇っていると2人は何の躊躇いもなく脱ぎ始める。

なんか、これだけ恥ずかしがってる私がおかしいような気がしてきたぞ。


「あらあら。脱がないのかしらぁ?」


2人の方を見て手が止まっていた私はリュドミラ先輩に、そう声を掛けられてギクリと心臓を跳ねさせた。


「いえ、大丈夫ですよ!本当に!」

「ふふっ、ゆっくりでいいわよぉ。先に行っているわねぇ」


先に行く2人を見送って姿が見えなくなってから、私もゆっくりと脱ぎ始めた。

全ての衣服を脱いでしまってから、大きなタオルを巻きつけていくわけにもいかないのでフェイスタオル1枚持ってコソコソと中に入る。

中は本当に広い浴場となっていて、ほけーっと見渡してしまった。


「来たのねぇ。こちらへいらっしゃい」


リュドミラ先輩に呼ばれた方へ行くと、イリーナがリュドミラ先輩に髪を洗ってもらっている最中のようだった。


「先に、ここで体を洗い流していきなさいな」

「はい、そうします」


入っていくのは遅かったが自分で全身を綺麗に洗い終えるのは、誰よりも早かったので先に湯船に浸かりに行った。

花が浮かべられた湯に、先に手を付けてみて程よい温度なのを確認してから足を入れる。

気持ちよく長く入れそうな温度なのは有難い。これなら今、体を洗い合っている2人が来るまでのぼせることなくゆっくり出来そうだ。

それにしても、あの2人を見ていてちょっと思ったことがある。

2人とも胸が大きいんだよなぁ~…。

リュドミラ先輩は知ってた。見るからに大きいって分かってた。

けどイリーナは予想外だ。どうやら大分、着やせするタイプなのかもしれない。私の思っていたよりも大きかった。

一方、そんな私はと言うと…自分の胸を寄せてあげる。いやー、普通。

普通だと思うんだけどあの2人に比べると、物足りないような気がしてしまうと言いますか…。

別に羨ましいとか、そんなこと思ってないから!決して!


「何してるの?」


自分の胸を寄せてあげて無表情で見下ろして馬鹿なことを考えていると、体を洗い終えたらしいイリーナに背後から声をかけられて慌てて手を離した。


「な、なんにも!」

「?そっか、待たせちゃってごめんね!」

「大丈夫よ」


あっぶない!2人に背を向ける形で良かった!完全に油断していたので、顔には出さないものの内心は冷や汗ものだ。

手と首を必死に左右に振る私に一瞬、首を傾げたイリーナだったがそれ以上は追及されることが無くてよかった。


「うふふ、大丈夫よぉ。女の子は大きさじゃないものねぇ」


やっぱ、バレてるー!なんでぇー!!

後から来たはずのリュドミラ先輩にそう言われて、私はもう涙目です。

リュドミラ先輩の微笑から隠れたくて湯船の中にブクブクと沈んでいく私を、イリーナは慌てて助け出そうとしてくれた。ありがとう、イリーナ…。

それからは3人が足をのばしても、まだまだ余裕がある広い浴槽を楽しむ。

私はイリーナに誰かと入るの恥ずかしくないのかを聞いてみると「お姉ちゃんたちと、よく一緒に入るから大丈夫!」と教えてくれた。成程なぁ。

次第に慣れてくると恥ずかしくもなくなって、思っていたよりも長く入りすぎてしまっていたようだ。

出て来たころには揃いも揃って顔を赤くさせていたものだから、使用人たちにいらぬ心配をかけてしまった。

問題ないと伝えてからお風呂上がりのケアをしてもらい、髪まで乾かすとそのまま皆でリュドミラ先輩の部屋に集まる。

大きな一つのベッドに3人で並んで寝転びながら、眠気が来るまで話していた。

一番先にイリーナが寝落ちて、その穏やかな寝息につられるように私もリュドミラ先輩もいつの間にか眠ってしまっていた。

もっと夜更かしになるかもと思っていたけれど、そんなこともなかったなぁ。


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