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サマーパーティーを逃げ帰った後の私は屋敷に戻ると何も考えずに不貞寝を決行した。

ただし、そう簡単に事が運ぶわけもなくグレタにあれやこれやと世話を焼かれ私が寝れるまでを整えてもらうまでに結局はそれなりの時間を要した。

そのころには割と冷静になって来ていて、何が起こったのかも私がどうしたのかも全部を正確に把握してしまい鬱々とした気分に陥っていた。

あの時、一瞬とはいえマルクル先輩と目が合った。ただ自分のことに精一杯で先輩の表情はよく覚えていないのだが、なんかちょっと驚いてなかったか?

いや、なんでよ…。驚くのは私の方だと思うし、先輩が驚くのはなんか違うくない?

もしかして“つい”とか“うっかり”とかで、あんなことをしたんですか?馬鹿じゃないですか?

普通はしないと思うんだけど、もう今の私には普通が何かも分からない。

しかも先輩のことを罵倒だけして帰って来てしまったし…。でも、あれは先輩が悪いよ。

ああいうことはあらゆる誤解を生みかねないだろうし、なにより私の心臓に悪い。

あとリョウを去り際に殴ったことに関しては全く後悔していないし、むしろスッキリとさえしている。

ベッドの上に寝転がって悶々とそんなことばかりを考えていたものだから、なかなか眠れなくて苦労した。

これはもう一度、先輩に文句言わねば私の気が済まない。

ただ先輩と顔を合わせづらいんだよなぁ…。どうしよう…。

誰かに相談できるような事でもないし、そうすると自分でどうにかするしかないわけだけど。

気が重いうえに進まない…。はぁ、憂鬱だ。

そんな私の思いが汲まれることはなく、無常に時は過ぎ休みが明ければ学園へと行かねばならず。

サマーホリデー前の定期考査が迫ってはいるものの、まだ考査期間にも入っていないので生徒会室へ向かわなければならないわけだ。どうして…。

こんなにも放課後が来なければいいと、そう思ったのは今回が始めてではないだろうか。

なんでまだ考査期間に入ってないんだろう。入ってたら行かなくても良かったんだけどなぁ…。

マルクル先輩と強制的にでも顔を合わせねばならないことが、憂鬱でしかない。

それでも行かねばならず気持ち友人たちの話に長めに付き合ったりして先延ばしなんかをしてみたのだが、結局のところはいつもの時間とあまり変わらなかった。

渋々と重い足取りでも生徒会室へと向かっていれば、いずれかは扉前まで着いてしまう。

本当にどうしよう…。この際、誰かがいてくれた方が気が紛れたりするのか?いや、でも私の今の気持ちが緩和されるとは思えない。

だとすると、私と先輩の間の違和感だけが皆に伝わって明らかに何かがあったことを言っているようなものなのでは?

そうなると何を言われるか分かったもんじゃない!主にアンドリ先輩とかから!

それに、こんなことで生徒会全体に迷惑かけてしまうのもどうかと思うし…。

とかなんとか、いろいろと考えていたら段々と怒りが湧いてきた。

そもそも私だけ、こんなに悩んでる気がする。あの先輩のことだ。どうせ、けろっとしてるんじゃないのか?

こうなったら、この憤りをぶつけることでしか私の気持ちが晴れることはないのだ!

そう勇んで力強く拳を握り、それはそれは消極的に扉をノックした。

いやそんな、ばっと開けていきなり文句を言ってやるなんてこと出来るはずないじゃないですか。流石にねぇ。

中からの返事は直ぐに返ってきた。

案の定というか分かっていたことではあるが、中から聞こえたのはマルクル先輩の声で私は慎重に扉を開いていき僅かな隙間を作る。

その隙間から実際に中を覗いてみれば奥の席に座る先輩の姿を見つけた。どうやらこっちを見ているようで、隙間の幅を狭める。

これでは非常に見えづらく先輩からも私の姿は見えていないだろうが、私のやることに何かを言うことはなくただ見ているだけだ。

先輩がそんな感じだから私も何も言わないまま数秒が経過。


「先輩のバーカ」


無言に耐えかねた私から喧嘩を売ることにする。

といっても私はあの時に言った罵倒の言葉を先輩に力なくもう一度ぶつけただけで、先輩がそれに大きな反応を返すようなことはなかった。


「…すまなかった」


代わりに先輩は謝罪の言葉を口にしたので、私は言おうとしていた文句の全てを飲み込むことしか出来なくなってしまった。

ずるい。いつもみたいに軽口で返してくれたら私も普通に返せたかもしれないのに。

先輩は私からの言葉を待っているようで、他には何も言わないし。


「…なんで私が怒ってるか、ちゃんと分かってますか?」

「理解している。軽率だった」


くそぅ。しっかりと分かってそうな受け答えの仕方に、これ以上は責めれないと判断した私は扉を開けて先輩の前に姿を現す。

目は合わせないで、扉を背にしたままそれ以上は近寄らなかった。


「今回は私だったからよかったものを、あれを他の令嬢にやってたら誤解されたでしょうね」

「他にはやらん」

「そうですか。そうしてください」


なんだい、なんだい!もっとあれこれ言ってやろうと思っていたのに、先輩がそんな感じなんじゃ私だって調子が狂う。

しおらしい、と言う訳ではないのだが素直に反省しているらしい先輩をちらりと窺い見てどうすれば先輩を許せるのかを考える。

私だって、このまま気まずい思いを抱えているのは嫌だし…。そうだ!


「今回のことは私の寛大な心で許してあげます!その代わり、今度の定期考査が始まるまで私に勉強でも教えてください」


これであれば私にとって得があるし、時期的にもピッタリなので悪くない提案だろう。


「お前がそれでいいなら、そうしよう」

「そもそも先輩に拒否権はありませんよ」

「分かった」


先輩の聞き分けが良すぎて気味悪くなってきた。

何にせよ私は放課後に生徒会の活動が始まるまでの、僅かな間だけ勉強を見てもらうことになった。

やったーと喜ぶ反面まだ先輩との距離感が微妙になってしまうのは、自分でもどうにもならないのでまた徐々に戻していければいいや。


サマーパーティーにてリュドミラ先輩に避暑地に誘われたので、せっかくだからと新しい服を買いに行くために休日にグレタと出掛けに来ている。

今日はベビーブルーのトップスにコーラルピンクのフレアスカートを着て麦わら帽子を被った。

グレタはホワイトのブラウスにモスグリーンのシンプルなワンピースで、やはりどこかメイド服と似たような装いだった。

それも彼女にはよく似合っているので、いいと思うけど…全く違う服を着ている彼女も見てみたい。

今度、私から服を贈ったら着てくれたりしないかしら。

私の服を見て回りながら、それとなくグレタに合いそうなものがないかも探していた。

一通り服を見て回って、必要な分の買い物を済ませたところで歩き疲れたという理由で少し休憩を挟むことにする。

今まで買った全ての荷物はグレタに奪われ持たれてしまっているので私が、というよりもグレタに休憩してほしくてそう提案した。

私から説得してやっとグレタは私の隣に腰かけると荷物を自分の膝の上に置き、決してベンチの空いている場所に置こうとはしなかった。

別に遠慮なく置いてくれてもいいんだよ?

実際に口に出してもグレタは「いえ、問題ありません」と言うだけだったので説得は諦めた。


「買い物はこれくらいかしらね」

「もう、屋敷の方へお戻りになられますか?」

「うーん、そうねぇ…」


買い物は済んでしまっているのだが、せっかくここまで出て来たのにすんなり帰ってしまうのも惜しい気がして悩んでしまう。

でもグレタに荷物を持ってもらっている手前、連れまわすのも悪いかな?

私がこれからどうしようかを迷っていると幼い声が私に話しかけて来た。


「お姉さん!」


声の元に視線を向けると、そこにはいつかに出会った迷子の男の子が駆け寄ってくるのが見えて私はベンチから立ちあがる。

直ぐに私の傍まで来た男の子の視線に合わせてしゃがめば、男の子は嬉しそうに私に抱き着いてきたので少し勢いに押されながらも小さな体を受け止めた。


「どうしたの?また迷子?」

「違うよ、お姉さんに会いに来たの!」


確かそんなことを言ってはいたが、まさか本当に会いに来てくれるとは驚きだ。

でも男の子の周りには親らしき姿の人が見られない。


「もしかして、また1人で来たのかしら?」

「…でも、迷子じゃないよ?」


それは、私の求めている答えじゃないなぁ。

上目遣いで私のことを見つめる男の子は文句なしに可愛らしいが、それで流されてあげるほど私は甘くない。

じっと静かに男の子を見返せばやがて目が泳ぎ始め、ついにはしょんぼりと視線を下げてしまった。


「ごめんなさい…」

「もう!勝手に1人で来ちゃだめよ。今度こそお姉さんとの約束、守れる?」

「はい!」


立派な返事だったので、今回はこれで許してあげよう。

男の子の手を握ると、男の子の方からも同様に握り返してくれる。


「それじゃ、また送っていくわ」

「…」


何故か男の子がショックを受けたように愕然とした表情をしている。えぇー、おうちに帰るの嫌なのかしら?


「やだ!僕、お姉さんとお話ししたい!」

「そうなの?」


だからその表情だったのね。私と話すまではどうしても帰らないと訴える子供にどうしたものかと頭を悩ませる。

そういえば今は丁度3時くらいなのよね。前世で言うところのおやつの時間と言うやつだ。

甘いものは子供も好きだろうし、今の時間からなら多少ゆっくりと話していても問題ないだろう。


「そうね。いいわよ。一緒にお喋りしましょうか」

「本当!やったー!!」


事後承諾になってしまったが私の後ろに立って控えてくれていたグレタに目をやれば、静かに目を伏せるだけで特に反対されることはなかった。

さて、そうと来れば私は男の子に先に聞いておねばならないことがある。


「そういえば、貴方の名前をまだ聞いていなかったわよね」

「名前?」

「そうよ。名前も知らないままじゃ、貴方のことを呼べないでしょう?」

「そっか。うーんと、ね…ジョン。うん、僕の名前はジョンだよ!」


ジョンか。答えるまでに少し時間が掛かっていたみたいだけれど、もしかして急に聞いたりしたから怪しまれたりしたのかな?

まぁ教えてくれたので深くは突っ込むまい。


「私はラファエラ。長いからラフィって呼んで頂戴ね」

「分かったよ!ラフィお姉さん!」


素直にそう呼んでくれる男の子の頭を髪の流れに沿って優しく撫でた。うーん、可愛い!


「で、こっちのお姉さんが」

「お嬢様の侍女をやっております。グレタに御座います」

「グレタはとっても優しくて頼りになるお姉さんなのよ」


ジョンはグレタに礼儀正しく「よろしくお願いします」と言って頭を下げる。

グレタもきっちりとそれに返して一通りの自己紹介が終われば、早速スイーツを食べに…ではなくゆっくりと喋れるところを探しに移動を開始した。

ジョンに食べたいものはないかを聞いてみると「ラフィお姉さんの食べたいもの!」と元気よく言われてしまってまた頭を悩ませる。

うーん、私も嬉しくてジョンにも喜んでもらえるもの…それだったら、こう暑い時期にぴったりのスイーツがあるじゃないか!


「それじゃ、アイスクリームを食べに行きましょうか!」

「あいす、くりーむ?」


どうやらジョンはアイスクリームを知らないようだ。それも致し方ない。

ここらでもアイスクリームが食べられるのは、とある一店舗だけ。

それも多くの人には提供できないため、大々的に売り出すことはなく知る人ぞ知るといった隠れた逸品なのだ。

私は耳ざとくも、その情報を仕入れてから真っ先に食べにいった。

味はバニラの一種類しかないのだがパフェのように果物と一緒にグラスに盛られて出されるそれがもう絶品で。

提供が丁度3時頃からなので、まだ売り切れてはないと思うが寄り道はなしで真っ直ぐにそのお店へと向かう。

お店に着くまでの間にジョンからアイスクリームが何なのかを聞かれていた。

あれって確か牛の乳を凍らせたもの…で、いいんだっけ?

私も詳しくは分からなかったので、合っているかも分からない曖昧な答えになってしまったがジョンは感心したように納得を示していた。

なんだかちゃんと答えられなくてごめんね。こんなことなら前世でアイスの成分表示でも見てればよかった!

話しているうちにジョンの期待を上げてしまったようだが、きっと気に入ってくれることだろう。


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