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魔動祭が終わってしまえば、もう6日後にはサマーパーティーが迫っている。
これまで私とマルクル先輩で地味地味に計画を進めていたので、特に今から何か大きく動かなければならないようなことは残っていない。
これ魔動祭の準備が間に合ってなくてギリギリまでやっていたりすると、後に控えるサマーパーティーの計画が間に合わなくて地獄を見る羽目になるのだ。
あな恐ろしや…。
今回はそんなことにはならなかったので、ゆったりと雑務を処理した後で見落としがないかの最終確認などを行っていた。
「いやー無事に終わって良かったねー」
「サマーパーティーの方は2人で進めておいてくれたから、助かったわぁ」
「感謝しろよ」
だったら私にも感謝してほしいものですね。別にいらないですけど。
先輩方がしている適当な雑談に耳を傾けながら生徒会役員としての業務に今日も今日とて精を出す。
魔動祭の終わりは、実は7の暦を迎えたことを意味している。
つい少し前に6の暦になったと思っていたのだけれど、時の流れは速いもので。もう7の暦なのかぁ。
早いような、そうでもないような。
この感覚で行けば7の暦もあっという間に過ぎて、サマーホリデー期間でもある8の暦に突入してしまうのだろう。
まぁ長いお休み前には定期考査も待ち受けているので、そう浮かれてもいられない。
「そいやさーあの兄弟っていつまでいられるわけー?」
アンドリ先輩の疑問に私は、はたと動かしていた手を止めた。一時編入なのだしいつかは学院に戻るのだと分かっているけれど、期間なんて聞いたことなかったかも。
「一時編入の期間って、最初から決まってるんですか?」
「決まってはいるな」
へーそうだったんだー。初めて知った事実だったが、この言い方はそれがいつまでなのかは教えてくれなさそうだ。
まぁサマーパーティーに参加できるくらいは、学園にいれるだろう。
「何も問題が起こらなければ予定通りになるだろう」
つまりは何か問題が起これば切り上げ、前倒しになる可能性があるということか。
それはそうなるだろうなと納得も出来るので、私では何とも言えないことだ。こればかりは急な別れにならないことを祈ることしか出来ないだろう。
話ながらでもゆるゆると手を動かしているうちに鐘が鳴って、今日の業務を終わらせてしまうことになった。
この日はまだ魔動祭終わりということもあって通常よりも早めに切り上げて、各自で居残りはしないようにとなっていた。
こういう時に魔動祭前にやれることはやっておいて良かったって思うよね。
早々に片づけを終わらせてしまって、皆で揃って学園を後にした。
私は屋敷に帰ってくるとグレタに父からの手紙を受け取った。
そうだ!丁度いいので私からソフィーへの手紙も書くことにしようかな。
最近は魔動祭の関係で忙しかったり疲れていたりで他のことにあまり手がつかなかったので、一段落した今は本当にタイミングがいいと言える。
となれば父からの手紙への返事を書くために、内容を確認しなければな。
父からの手紙には私が贈った万年筆への感謝といつも通りの心配事と、私のサマーホリデーの予定を尋ねる内容だった。まだ父自身のことは省かれてるっぽいなぁ…。
でも万年筆のことは随分と気に入ってくれているようで、よかった。
それにしてもサマーホリデーの予定か。まだ詳しくは決まっていないのだが、まぁ1年のころと変わらず5日程は帰れるように確約しておこうかな。
その旨と一緒に父への手紙にはいつも通りに書いておいた。さてソフィーへの手紙だが。
無難に魔動祭のことでも書いておこうかな。当たり障りのない部分を抜粋して書き綴ってから、そっちの様子はどうですか?お変わりありませんか?とも書いておく。
完成した手紙はグレタに預けておけば翌日には手配してくれることだろう。
今日の分の復習も終わらせてしまってから、襲い来る眠気のままに欠伸を溢す。こうやって遠慮なく欠伸が出来るのも自室にいるからであって、これをグレタに見られると窘められます。
まぁ今日はもう寝てしまおうかな。
その日の夜は夢を見た。どんな夢かって、相も変わらず前世の夢だ。
『ねぇ、それ何やってるの?』
乙女ゲーム好きの友人が、もう放課後になったにも関わらず学校の教室でぽちぽちゲームをやっているものだからそう声を掛けた。
『ん~、あれ。前にお兄ちゃんに押し付けられたやつ~』
あー、あのギャルゲーか。あれだけ散々に文句を言っていたくせに結局やるのかと、なんだかんだ言ってやっぱり仲のいい兄妹だと再認識した。
あの時の文句も長かったんだよ。友人の兄は表じゃオタバレしないようにしてるから、そのあたりで話せるのが実の妹かネットの世界でしかいないとかなんとか。
何だか大変そうだな、という漠然とした感想しか出てこなかったけれど。
『別にゲームするの嫌いじゃないし、これが意外と面白くって』
『へぇー。でも、家に帰ってやればいいじゃん』
『いや!お兄ちゃんにこのゲームしてるのバレたくないの!』
そっかー。何だかよく分からないけど、バレたくないらしい。
私1人で帰ってしまっても良かったのだが、なんとなく横でそのゲーム画面を眺めていた。
ちまちまとキャラを動かして戦っているっぽい画面を見ていると、最後の1人を倒して画面が切り替わる。
今度はキャラの立ち絵が映されて、下の部分には文字で会話が表示されていた。
途中から見ているのでどんな話かはよく分からないが、どうやら突然に表れた刺客を追い払っていたところだったらしい。刺客とか出るんだ、これ。
『こんな感じなんだね。ギャルゲーって』
『んまぁ。ものにもよるよ、これも』
こうやって見ている分には面白そうなんだよなぁ。
シナリオの途中で時折、挟まれる戦闘システムでゲーム性を取っているのかな。
こうやって1つソフトを買うだけで攻略対象の分、複数のストーリーが楽しめる訳だしお得なのでは?
でも、やっぱり私は小説で良いかな。
見ている分にはいいんだけど、自分でやるとなると途端に億劫に感じてしまうのは何故なんだろうね。
隣で見ているうちに段々といつもの意識が遠くなる感覚がやって来て、やがて私は目を覚ます。
慣れたベッドの上で瞼を開き、珍しいこともあるものだと考えた。前世の続き?と言っていいのかは定かではないが、ああやって見ることもあるのだなぁ。
でも、うん。前世の私には同感だ。小説の方が何というか気楽なんだよね。
それ以上、特に思い返すようなことはなく起き上がると制服に着替えた。
それからまた数日が過ぎたある日のこと。
その日は移動教室の帰りであった。魔法の授業があったもので魔法舎まで移動していたのだが、次の授業が始まるまでに早く教室に戻らなければならない。
というのに教師に頼まれごとをしてしまったのだ。どうやらこの後に急いで行かなければならないところがあるらしく大分、申し訳なさそうに頼まれてしまった。これくらいならば、そこまで頼み込まれなくとも直ぐに引き受けるのだけれどね。
友人たちを付き合わせるのも忍びないので、教師に呼ばれた時点で友人たちには先に教室に戻ってもらっている。
1人で頼まれた用事をのんびりと片付けようかと思っていたところに、なんとエアリスが「手伝うよ」と来てくれたのだ。
頼まれた用事というのも本当に大したことはなく、授業で使っていた小道具を準備室にしまっておいてほしいと頼まれただけ。
わざわざ察して1人で来てくれたらしいエアリスに小道具の半分を任せて持っていくことにした。
「僕、こんな風に授業で使ったものを自分でしまうの初めてだ」
「学園でもこうやって頼まれることは少ないけどね。大体は教師が自分で片付けてしまうから、今回は特別」
「そうなんだ。特別かぁ」
特別とは言ったけれどそんな喜ぶような特別ではないと思う、とは言わぬが花というやつだろうな。
この学園には多くのスタッフが常駐しているが、実は魔法とは関係ない一般人が大半だったりする。
なのでこうした魔法関係の小道具は、魔法使いにはあまり触らせないようにしていることもあって教師が片付けられない場合にのみ頼まれることがあるのだ。
そんなわけで準備室に小道具を片付けてしまって、教師から預かった予備の鍵は教師に言われた通り準備室の見つけやすいところに置いていく。
今から戻れば鐘がなる少し前には教室に戻ることが出来るだろう。
エアリスと並んで魔法舎から校舎までの道のりを歩いている間、私はエアリスの魔法の扱いがとても上手なことを褒めていた。
「エアリスは魔法の扱いがとても上手よね」
「そうかな?ラフィは丁寧で繊細だから、見ていて綺麗だよ」
「あら、ありがと。やっぱり学院と学園じゃ教え方が違うんでしょうね」
「それは、そうだね。ここに来て毎日、新鮮なことばっかりで楽しいよ」
「良かったわね」
学園の校舎の壁沿いの道を歩きながらそんなことを話しあっていれば、唐突に私たちに話しかけて来る声があった。
「エアリス殿下とマルティネス侯爵令嬢でいらっしゃいますね?」
話しかけて来たのは、同じ学生でもなくまた教師という感じでもなさそうだ。
おそらくは学園のスタッフの1人なのだろうが、こんな風に話しかけて来るのは非常に珍しい。
基本的には勤務中の必要のない私語は禁止されているらしい彼らは黙々と仕事をこなしているので、内心で首を傾げた。
「どうしましたか?」
「実はあなた方のことをお呼びしている方がいるらしく、ただいま探していたところなのです」
エアリスが口を開くよりも前に、私から話しかけてみるとどうやら誰かが私たちのことを呼んでいるらしい。
その為に探していたのだという話には、特に怪しい点はないように思えた。
私の考えすぎかな。こうやってスタッフに頼むことは珍しいだろうが、ないこともないだろう。
でも話しかけて来たのが現状では正体不明の人物で私たちが誰なのかを正確に把握しており、なおかつエアリスが関係しているとなれば念には念を押しておきたい。
「誰が私たちのことをお呼びしているのか、貴方はご存知ないのかしら?」
「申し訳ありません。私に直接、頼まれたことではないので詳しくは…」
誰が呼んでいるのかは知らない、と。
「では、その誰かが私たちを何処にお呼びなのかは?」
「それは職員室に、と聞いております」
職員室か。なら、もしかしたら私たちが片づけを頼んだ教師が呼んでいるのかもしれないな。これは憶測でしかないので、なんの安心も出来ないが。
「でしたら職員室までは私たちだけで参ります。貴方はここまでで構わないわ」
「畏まりました」
普通に引き下がったか。僅かに感じていた引っ掛かりは、やはり気のせいだったのだろうか?
まぁ後のことは職員室に行ってみれば、全て分かることだろう。エアリスに先に行かせて私が殿を務めることにした。
そんな私のことを気にしている様子ではあったが、逆にエアリスには前に集中していてほしい。
ただ最悪の事態を想定して慎重に動いているだけだから、何もないのが1番なのは確かだけれど。
いちおうスカートのポケットに入れてある笛をお守り代わりに握った。
私は背後に警戒を割きながらも先を歩くエアリスに続いて校舎の曲がり角を曲がろうとしたところで、突如として現れた土壁に私は行く手を阻まれてしまった。
エアリスと分断された!明らかな緊急事態に笛を取り出し、思い切り吹く。
甲高い音が鳴り響き周囲に異常を知らせた。耳を塞ぐ余裕などなかったのだが、確かにこれは耳が痛い。
でも、そんなんことは言ってられないので吸い込んだ息の限り笛を鳴らしてから口を離した。
よし!これで助けは直ぐに来るはず!
後は助けが来るまでの話だが、私は土壁を観察するよりも先に振り返って後ろで立っているはずのスタッフの様子を見た。
すると立っていたはずのスタッフが私に無表情で迫ってきているのが目に入った。
これは助けに入るためとか、そんな感じじゃないな!だったら、こっちくんな!
そんな思いを相手が組んでくれるはずもなく、私は怯みそうになる心を何とか押しとどめ牽制の意味を込めて相手の直線状に魔法で火柱を上げた。
それにも関わらず、するりと横に避けるとまた私に距離を詰めて来るではないか!
私も負けじと牽制し続けるが結果は変わらない。直線で来られるよりも時間は稼いでいるだろうが、相手はお構いなしに突っ込んでくる。
勘弁してよ!こっちは人を物理的に焼きたいわけじゃないんだから!そもそも生物って本能的に火を恐れるものじゃなかったっけ?
エアリスのことも気がかりではあるが、いよいよ私がやばい!気乗りはしないが攻撃に出ようと覚悟を決めかけたところで、窓から飛び出してきた誰かが迫っていた相手を蹴り飛ばした。
横に吹っ飛んでいく相手に私が呆然としていると、窓から出て来た誰かは即座に蹴り飛ばした相手に追撃を加えようと行動する。
最初の不意打ちの一撃から相手が起きてくる前に行動を阻害し、的確に相手の意識を落とそうと躊躇いなく繰り出される容赦のない攻撃に私は途中から目を背けてしまっていた。うわぁ…。
もう動きそうにないことの確認が取れたからか、私に声をかけて来たその人に私はゆっくりと振り返る。
「大丈夫か?」
「はい…。ありがとうございます」
笛の音を聞いてか助けに来てくれたらしいマルクル先輩の声を聞いてから、私は安堵の息を吐いた。
ふへぇー、疲れた。私自身の安心が確保されたからには、やはり気になるのはエアリスのこと。
慌てて土壁のあった方を振り返ると、今まさにその土壁が崩れようとしている所だった。なんで!




