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「お疲れさん。ホント、突然でごめんな。最初っから来なくていいっつってたんだけどな」


リョウは陛下がいらっしゃる時とは、比べるまでもなく機嫌がよさそうな様子でマルクル先輩に声を掛けた。物凄い、早変わりっぷりだ。


「多少のズレは予想していた。問題ない」


マルクル先輩はここに来た時からずっと調子が変わった様子はなく、平然としている。

えー凄いな…。

さて陛下は帰られたことだし、最後に言われた陛下のお言葉もあるので私たちは学生らしく魔動祭に戻ろうじゃないか。

ここに居る数人は最終競技である学年対抗リレーに参加予定なので、この数人が早く戻らなければ競技の再開が出来ないのだ。

その数人、もといマルクル先輩とリョウにプルーストは早々に戻るためにと理由をつけて窓から出て行ってしまった。

絶対あれは階段が面倒だったからに違いない。

それにしたって皆よく、そんな躊躇いなく飛び降りれるよね。怖くない?

何故か競技に参加しないアンドリ先輩も「じゃー俺も先、行ってるねー」と窓から飛び降りて行ってしまったのだが、盛り上げ役の使命に燃えているのかもしれないな。

残されたのはリュドミラ先輩にイリーナ、私とエアリスの4人だ。


「それじゃ、私たちも戻りましょうかぁ」


リュドミラ先輩の言葉に従って私たちは平和的に扉から部屋を出た。

その道中、リュドミラ先輩とイリーナが前の方を歩いて「何だか疲れたわねぇ」と喋り合っているのを後ろから眺めていた。

私の隣にはまだ調子が戻っていないらしいエアリスがどこかぼーっとした様子で歩いているので、その危なっかしにちらちらと心配げに視線を送ってしまう。

外まで出てくるとリュドミラ先輩から休憩に誘ってくれたのだが、非常に残念なことに私は天幕の方に戻らなければならないので丁重にお断りさせていただいた。

私以外にもエアリスが誘いを遠慮し、結局イリーナとリュドミラ先輩の2人だけで休憩に向かっていくのを先に見送る。

後に残された私とエアリスなのだが、動きそうな気配のないエアリスを1人ここに置いて去っていくのは躊躇われた。

そこまで気にすることでもないような、とは私が当人でないから言える台詞だ。

私でうまく元気づけられるかは分からないが、隣で佇むエアリスに声を掛けた。


「エアリス。陛下が仰ったこと、私もそう思うわよ」

「うん」

「何が、そんなに引っかかってるのかしら?」


エアリスは私の言葉に顔を伏せて、すっかり落ち込んでしまっているような雰囲気だ。

んもー!すっかり自信喪失しちゃってるじゃないですか、あの先輩めー!


「…あんな終わり方じゃ皆、納得できてないんじゃないかなって」


ふむふむ。皆の納得ねぇ…。となると騎馬戦が終わってからエアリスは、余計に人には会ってない感じかな?

確かにそう考えると、どんな反応が返ってくるか分からなくて怖いかもしれない。

伏せられたエアリスの顔からは表情が見えないので、私はエアリスの正面に回ってその頬を両手で挟んで押し上げた。

あ、肌がきめ細かい。しかも透明感があるのでこれは世の女子が羨ましがる肌だな、とか改めて気づいてしまったがそんなことはどうでもいいのだ。

強制的に上を向かされたエアリスは何が何だか分かっていない様子で、少し困惑気味に見えた。

そんなエアリスの頬を両手で挟んだまま私は私の考えを口にする。


「いい、エアリス。正直、周りの皆とかは気にしなくていいのよ」

「…いいの?」

「ええ。勝ちは勝ちだもの。どんな形であれ、ね」


今はエアリスの中で大きな影を落としているだろうことについて、少しでも目を向けさせることが先決かな。


「他の誰かが何か言ってきても、笑って受け流せばいいわ」

「でも、まぐれみたいなものだよ?」

「運も実力の内って言うでしょ。その勝利に胡坐をかいて驕ったりしなければ、それで十分」


まだ納得とは程遠い様子のエアリスに私は頬を挟んでいた両手を動かしておもむろに横に引っ張った。


「いひゃいよ」


そう小さく文句があってからやんわりと外された私の両手は自由に動き出さないようにか、エアリスに取られたままだ。

運も実力の内とは言ったが、これでは納得するには程遠いか。


「あのね誰もが納得するような綺麗な勝ち方って案外、難しいものなのよ。そこに大きく実力の差があったりすれば、叶うのかもしれないけど」

「…」

「どんな勝負事も必ず勝敗がつくってわけでもないわ。だから引き分けっていうものがあるのだしね」


エアリスに取られたままの手は外そうと思えば簡単に抜け出せるのだが、なんとなくそのままにしておいた。


「でも、どんな結果になったからってそれを受け入れることは必要よ。目を逸らすのは違うと思うわ」


私の両手をぎゅっと握って反応を返したエアリスは、一瞬だけ顔を伏せてから意を決したように私に視線を合わせた。


「僕ね、最初に皆に騎馬戦に選んでもらった時から自信がなかったんだ」


それは初めて聞くエアリスの本音というやつだった。私は黙ってエアリスの言葉を聞いている。


「兄さんは基本的に1人で何でも出来る人だったから、僕はいつもその陰に隠れてた」


それはまぁ、リョウは前世の記憶がある分の精神年齢的なアドバンテージがあるからなぁ。幼い頃であれば特にその差は顕著に思えるのかもしれない。


「いつも兄さんの一歩後ろで、周りは僕は弟なんだから仕方ないって言ってくれてた」

「…」

「剣術でも一度も勝てたことはなくて、こんな僕で大丈夫なのかなってずっと不安だったんだ」


それはがっかりさせてしまうんじゃないかとか、周りの期待を裏切ってしまうんじゃないかというような不安なのだろうか。

確かに期待はすごかっただろうし、それをプレッシャーに感じてしまうのは当然のことでもあるだろう。


「でもね、ラフィと約束したときにこのままじゃダメなんだって思えたんだ。改めて剣の扱いを習って、自分に出来ることをしようって」


そういえばリョウがエアリスが何やら頑張っているらしいとか言っていたような、そうでもないような。


「兄さんにもね頑張ってるって褒めて貰えて、嬉しかったんだ」


ほんの少しだけ嬉しそうに笑ったエアリスだったが、またすぐに顔を伏せてしまった。


「でも結果は思うようなものじゃなくて、結局は普通に負けるよりも」

「そこまで。エアリス、私との約束のためにそこまで頑張ってくれたのね」


エアリスが言おうとしていた先はなんとなく察しがついたから止めた。それは私がエアリスの口から聞きたくないと思ったからだ。


「…うん。でも、やっぱり勝てなかったよ」

「いいえ、勝ったの」


なんだかんだ言っていたがやっぱ自分が納得できていないんじゃないか。私はエアリスの手から片手だけ抜け出すと少し上にある頭にそれをポンと乗せた。


「自分がどう言おうと貴方は勝ったの。あの勝ち方に悔しさを感じるのはいいけれど、自分の努力まで否定してしまうのは違うわ」


滑らかなハニーブロンドの髪にさらさらと指を通しく優しく撫でていく。

案外されるがままなエアリスからは、こうされることに慣れている雰囲気を感じさせた。

やっぱり撫でるのはリョウの癖なのだな。


「でも全ての努力が報われるって訳でもないのよ」

「何だか、世知辛いね」

「そうね。それでも貴方がしてきたことが無駄になったわけじゃない、でしょ?」

「そう、かな?」

「そうなの。貴方が積み重ねて来たことは無駄なことじゃない。それに、その努力を見て来た人や認めてくれる人が必ずいるわ」


エアリスが小さく首を傾げて私を見てくるので、私は小さく笑みを返した。


「例えば、貴方が剣を習った方とかレリオ様とか…私、とかね。今は私しかいないから、代わりに私が目一杯に褒めてあげる」


そう言ってから力を強めて思い切り髪をかきまぜた。くしゃくしゃになっていく髪の隙間からエアリスが照れくさそうに笑っているのが見えた。


「褒めてくれるんだ」

「なによ、嫌なの?」

「ううん。そんなことないよ」


笑えるのなら、もう大丈夫そうだ。それにしてもエアリスは分かりやすく弟気質だなぁ。


「よしよし、私の約束に答えてくれてありがとう」

「…どういたしまして、かな」


さて、なんだかんだと話し込んでしまったし学年対抗リレーはもう始まってしまっているだろうな。

最後がどうなるのか、結果を見届けるために私たちは急いで運動場まで戻った。

ここからがと生徒会の天幕よりも2年生の観覧席の方が近い。天幕の方も今更だろうと思い直して、エアリスと一緒に2年生の観覧席まで行くことにした。


「私も一緒に行ってあげるわ!誰も下手なこと言えないわよ、安心でしょ?」

「あははっ、うん。心強いや」


まぁエアリス1人でも大丈夫だと思うけどね。

そんなわけで2人で観覧席の方まで来ると案の定、学年対抗リレーは既に始まってしまっていて今は白熱の中盤戦に入っているようだ。

観客たちの盛り上がりも絶好調で、これでは後から遅れて来た私たちに気付く人もいないのではと思われたが1人が気づくとそこから徐々に話が広がり私たちの存在を認識する人が増えていく。

エアリスに何処にいたのか、心配してた、とか彼のお友達が真っ先に声をかけどんどんと人が増えていくところから私は静かに離れた。

なんだ、やっぱり大丈夫なんじゃん。

エアリスもどこか安心したような表情で、その声の1つ1つに答えていた。

わいわいとエアリスの周りに寄って集っていたお友達たちも終盤が近くなってきたのが分かると、エアリスを中心に観戦へと戻る。

最初のうちに出たらしいプルーストが程よく他の学年を引き離してくれたらしく、現在はまだ1位を保っているようだ。

ただ直ぐ後ろに4年生が迫っているので全く安心はできない状態。

2年がなんとか1位のままで次の走者に変わると、そのすぐ後に4年生も次の走者に変わった。

どうやら4年が次に変わった走者はリョウのようで、あっという間に距離が詰められていく様子に2年生の観覧席から嘆きのようなものまで聞こえて来る。

何とか追い抜かされることはなかったものの2年と4年は同時に最後の走者に変わった。

4年の最後の走者であったマルクル先輩は、圧倒的な速さで2年をぐんぐんと引き離しあっという間にゴールをしてしまう。

その後に遅れて2年生もゴールし、学年対抗リレーの最終結果は1位が4年。2位が2年となった。


「あー…もしかしたら、って思ってたんだけど…」

「ダンスと騎馬戦で1位、取れたもんなぁ」

「あれで流れ来てると思ったのにー」


聞くとはなしに聞こえてくる落胆の声に、なんとなくの結果を悟る。

あの2つの競技で1位を取ったことで一時期の総合点数は4年を抜かしていたのだろう。

騎馬戦以降の競技の結果を私は知らないので推測になるが、多分また抜き返されたか接戦となってこの最終競技が分かれ目となっていたのだろうな。

ま、本当の結果に関しては閉会式で発表されることなのでそれを待つこととしよう。

学年対抗リレーが終われば、待たせることはなく直ぐに閉会式が始まった。閉会式は開会式と違いあっさりとしたものだ。

運動場の中央に集まるわけでもなく、それぞれの学年の観覧席で閉会式を聞いているだけのものとなっている。

アンドリ先輩の司会で最終的な総合点数の発表が行われた。

この総合点数を順位に直すと、私たち2年生は2位。では栄光の総合優勝を手にしたのは、どの学年なのか…。それは予想通り4年生だった。

意気消沈とする2年生一同だったが、2位でも十分に凄い結果である。

表彰のため4年生の代表複数人がステージの中央まで出てきたのだが、その中に随分と嫌嫌な雰囲気で周りに押される形で出て来たマルクル先輩がいて1人で笑ってしまった。

生憎と2年生で考えていたような総合優勝をエアリスに贈るということは叶わなかったけれど、それでもエアリスはすっきりとした笑顔で表彰されている4年生に拍手を送っている。

エアリスが笑っているのなら、結果がどう転んでもいいんじゃないかな。全て結果オーライってことで!


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