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「…とまぁ、2人が来るまでにソフィーとはいろいろあったんですよ」

「何というか、思っているよりも大変なことに巻き込まれてるんだね」


そうでしょう。確かに大変ではありましたが、今にしてみれば私にとってはいい思い出です。

かなり掻い摘んでソフィーがいた間にあった、あれやこれやを語って聞かせればリョウが引きつった笑みを浮かべていた。


「まぁ今となってはいいお友達ですから、良ければ学院に戻った時に優しくしてあげてください」

「おっけー。それにしても、壮大な勘違いとはいえ自分を嫌っていた相手とよく友達になろうと思ったね」


リョウがどこか呆れたように、そう言ったので私は逆に首を傾げてしまう。


「そうですか?誤解も勘違いも解けてしまえば、大したことないじゃないですか」

「そうねー。…これはクラウスも心配するわな」


何故そこでマルクル先輩が?確かに先輩には大分、心配もご迷惑もおかけしましたけど…。

こんなことを話しているうちに、実は騎馬戦は始まってしまっていた。

まぁまだお目当ての対戦じゃないから。馬に跨り、刃を潰してはいても本物の剣を手に取って打ち合う選手たちの対戦の様子をリョウと話ながらも観戦している。

今まさに決着がつきそうだ。

手から弾き飛ばされた剣が地面に落ちると、まだ剣を持っている方が相手に剣先を突きつけた。

相手の方は少しの間があってから「参りました」を口にしたことで、審判からも「そこまで!」と声があったことで突き付けていた剣は下ろされる。

大体の決着の流れは、こんなもの。これが最も多い決着の仕方だと言い換えてもいい。

さて、この次がやっとエアリスの1回戦目だ。

12名によるトーナメント形式で争われ、最終的な勝者になるまでには全4回も勝ち進まねばならない。


「エアリスは馬の扱いは、お上手なんですか?」

「んー…まぁ学院では授業のプログラムに組み込まれてるけど、普通じゃない?」

「へー」


学院だと乗馬が授業で習えるんだなぁ。

学園じゃ、同好会なんかの関係で管理している馬が数頭いるだけで授業で教えてもらえるようなことはない。


「じゃあ、剣の方は?」

「どうかな。でも、最近は頑張ってたみたいだよ」


頑張ってたのか…。秘密の特訓という奴だろうか?何にせよエアリスの実力が見れるのは、もうすぐだ。

騎馬戦のために整えられた場は、中央に設置されていたステージが取り払われておりグラウンドが見えている。

決められた範囲内に馬に跨った両者が入場して向かい合う形となった。

騎士が身に纏う服に着替えているエアリスが入って来てから、女子生徒からは黄色い声が多数も上がってきてここまで届いて来る。

この騎士服は騎馬戦に出るものの正装というやつだ。私たちのダンスの時のように、がっつりと着替えて化粧までをするわけではない。

着替えの時間は、場を整えている間の10分で済ませられるくらいの簡易なものだ。

それにしても王族が騎士服を着ているのも、どうかと思っていたけれど運動着よりは遥かに似合うな。


「我が弟は、どうやらクラウスに負けず劣らず人気のようで」

「そうですね。エアリスがモテモテなのは否定しませんが、リョウも女子生徒によく噂されてますよ」

「そうかぁ?そうかぁ…」


どうやらご自分がモテているということには懐疑的なような、それでいてどこか困ったように表情を歪めて頭を掻いていた。

モテる人は何かと苦労が多そうですね。

審判からの開始の合図を待つ間、両者の馬はどちらも落ち着いた様子で静かに待機している。

選手たちが乗っている馬も、学園側が用意した馬を1年生から選んでいくとルールで決まっているものだ。

なるべく大人しい子が用意されてはいるが、中には少し気難しい子や我が儘な子がいたりもするので馬選びも大事な要素の1つである。

ようやく審判からの「始め!」という合図があってから、両者が馬を走らせた。

騎馬戦で最も優先して守らなければいけないことは、馬と人への故意的な攻撃を禁ずるというもの。

そうなると狙えるのは武器のみとなり、自然と打ち合いが多くなり決着の仕方も武器を落として相手に「参りました」と言わせるようにと段々と形が決まっていったのだ。

あくまでも故意的な攻撃は禁止というだけで、故意でないにしても当たるときは当たるもの。

こればかりは、こんな競技をしているのだし仕方ない。


「それにしても、危険だよね」

「魔動祭で危なくない競技の方が少ないような気がしますけど…」

「それはそうかもなぁ」


この騎馬戦では剣での打ち合いがメインとなるため、あまり派手な魔法戦が繰り広げられるわけではない。

地味に思われるかもしれないが、昔ながらの純粋な勝負方法が見られるとあって観客たちの血の気も多くなる。

まぁ魔法が禁止と言う訳でもないので、使う人は普通に使うけどね。

ただこの騎馬戦だけは魔法を使った方が観客たちからブーイングを受ける可能性が高いので、使う人は限りなく少ないというのが現状だ。不思議だよねぇ。

肝心のエアリスの腕前だが私が思っていたよりも余程、強そうだ。

剣で打ち合ってもはじかれることはなく、押し負けることなく鍔迫り合いが出来ているということは相手との力が拮抗しているということ。

馬上では剣を両手で持つことはなく、片手は馬を操るために手綱を握りもう片方で剣を握り相手との剣戟を繰り広げねばならないのだ。

それは私たちが考える予想以上に難しい芸当で、おいそれと出来るようなものではない。

今エアリスと対峙している相手は前回も騎馬戦に出ていた3年生だ。毎年、似たり寄ったりな人選になるため意外と顔を覚えていたりする。

なので相手のことも覚えていたのだが、3年生の彼は決して弱くはなかったはずだ。

エアリスが3年生の剣を見事にいなすと少しバランスを崩して隙が出来る。その隙を逃すことなく3年生が態勢を整える前に武器を叩き落とした。

甲高い音をたてて落ちた剣の音を聞き切る前に、3年生に剣が突きつけられる。


「…参りました」


3年生は両手の平を見せて降参の意を示した。審判からの「そこまで!」の声が聞こえて勝負が決まったと見るや、大いに沸く観客たちに私も声には出さずとも興奮のままにパチパチと拍手を贈ってしまう。

まだ1回戦なんだけどね。


「エアリス凄い!強いじゃないの!」

「だろぉ。流石、俺の弟」


エアリスが掴んだ勝利を我がことのように喜ぶリョウは鼻高々に自慢している。

馬に跨った両者が舞台から去っていくのを、私は目で追っていた。


「確かエアリスが最後まで勝ち上がっていけば、マルクル先輩とは決勝で戦うんですよ」

「クラウスは先輩なんだ。俺も先輩だけど、そこんとこどうよ?」

「リョウはリョウですね」

「あ、そう…」


トーナメントを決めたのは騎馬戦が始まる直前、選手たちにくじを引いてもらい同じ番号同士の者から1回戦が行われる。

あとはトーナメント形式での勝ち上がり戦だ。


「というか、クラウスが決勝まで行くのは信じて疑わないんだな」

「逆にマルクル先輩が負けるところが想像つかないですよ」


話している間に、話題のマルクル先輩が選手として入場を果たす。

騎士服に身を包んだマルクル先輩のとってもレアな姿に女子生徒たちから一際に黄色い声が上がった。

マルクル先輩の方は全くもって静かなもので馬も大人しくしているのだが、相手の馬は少し落ち着きなさそうな様子だ。

どうやらマルクル先輩の対戦相手は1年生らしく、可哀想ではあるがこれは瞬殺だろうな。


「始め!」


審判からの声があってから馬を走らせ猛然と迫っていく1年生とは反対に、マルクル先輩は少し馬を動かして迎え撃つ体制だけを整える。

1年生の上から思い切り振りかぶり勢いをつけて迫る剣をなんなく受け止めると、拮抗するでもなく力任せに1年生の剣を押し返した。

その反動で思い切りバランスを崩してしまった1年生は手綱を持ったまま落ちそうになってしまう。

そのため思い切り手綱を引かれる形となった馬は嘶きを上げながら1年生を振り落とそうと、後ろ足で立ち上がりあわやという場面に複数の悲鳴が上がった。

そんな危機的状況にもマルクル先輩が慌てることはなく、冷静に暴れそうになる馬と落ちそうだった1年生を魔法で浮かせる。

1年生は安全な場所に移動させ雑に地面に落とされると、空中に浮いたまま今度は戸惑っている様子の馬を落ち着かせようとマルクル先輩が何やら声を掛けながら肩や首の辺りを撫でていた。

少しずつ落ち着いてきた様子の馬をゆっくりと地面に降ろしたあたりで審判から遅れて「そこまで!」と

の言葉が聞こえた。

審判はいまだに呆けている様子の1年生に急いで駆け寄り、怪我の確認を行っていたがマルクル先輩は馬に乗ったままもう1匹の馬も連れて後ろに下がっていく。


「はやっ!何あいつ!」

「ねぇ、早いですよねぇ」


たかが一度、剣を交わしただけで終わってしまった。

むしろ剣を交わしている時間よりも、馬を宥めている時間の方が長かったレベルの早さだ。

一瞬のうちについてしまった決着と改めて審判からの「勝者、クラウス・マルクル」という宣言に観客からは盛大な拍手が贈られた。

怪我人を出さなかったこと、馬をそつなく宥めてしまったことなどもあって多数の安堵の声にマルクル先輩に対する賛辞の声や感心も混ざっている。

その中でもやはり女子生徒に留まらぬ保護者の夫人方からのも含められた、黄色い声の大合唱にもマルクル先輩が特に反応している感じは見受けられなかった。


「あれじゃ、オッズが偏るのも当たり前だわ」

「まぁ今のは相手が1年生だということもありましたし、なんというか運が悪かったとしか…」

「確かに。流石、マルクル公爵家だなぁ」


リョウも感心していたが、それには私も同意だ。

マルクル公爵家は代々、己の力のみで今の地位まで上り詰めた家系である。

無論、力だけに秀でているわけではなく多方面において優秀な者を排出し続けているがやはり根底にあるのは力なのだろう。

マルクル家に生まれた男児は幼少より厳しい鍛練が課せられ、誰よりも強くあれと厳命されて育てられるのだそうな。

何と厳しいお家柄だろうか。

マルクル先輩も例外なく、厳しい鍛練を積んできたことは間違いない。なので誰から見てもマルクル先輩の強さというのは、納得の強さなのである。

それでもエアリスには是非とも頑張ってほしいと、そう思っているのだ。


「あれは1位はクラウスで決まりじゃん。あー俺の有り金がぁー」

「何を言いますか。勝負の世界なんて、どうなるか分からないものでしょう」

「そうだなー…なぁ。なんでそんなエアリスの肩、持ってくれるのさ」


リョウは私の方に顔を向けてそう聞いてきた。大した理由はないのだけれど、私もリョウを見返す。


「ちょっとした約束です。私が…私たちがダンスで1位を取れたら、エアリスも騎馬戦で1位を取るって」

「ふーん」

「エアリスがね、皆と一緒に頑張るってことがよく分かってなさそうだったのでそう提案したんです。別に騎馬戦でなくともなんでも、何なら別に1位じゃなくてもいいんですけど…」

「うん」

「エアリスも頑張って、その結果を皆と分かち合ったり褒めて貰えたり。そうすれば実感もわくのかな、と思いまして」

「ははーん。面倒見がいいね」


リョウの言葉に私は目を瞬いた。これって面倒見がいいっていうのか?そうなのか?

自覚はなかったがエアリスの実の兄がそう言うのだから、そうなのかもしれない。


「ふふん、そうですね!なんてたって、私は前世の記憶がある分エアリスよりもお姉さんですからね!」


胸を張ればリョウからは、随分と適当に頷かれた。なんでよ!


「そうねーお姉さんだねー。その調子で、これからも弟のことをよろしく頼むよ」

「…いいでしょう。私がエアリスのお姉さんの座を受け持ってあげましょう!」

「うんうん。いい感じだー」


仄かに馬鹿にされているような気がするのは、気のせいだろうか?まぁ気のせい、ということにしておこう。

2回戦目もエアリスは無事に勝ち進み、マルクル先輩に関しては当たり前のように勝ち進む。

どちらもあと1戦、勝ち上がればいよいよ決勝で相まみえることとなるだろう。

私とリョウは呑気な会話を繰り広げながらも、その時を今か今かと楽しみに待っていた。


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