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ステージの上に立つと観客たちの視線が一身に私たちに注がれているのがよくわかる。

今ここに立っているのが私たちだけでなく複数人で立っているからこそ、何も私だけに視線が注がれているわけはないのだと思えた。というか、思いたくもない!

イリーナをエスコートしながら先頭でステージに上がるまでの間に、周りからの黄色い声と声援がどれだけ凄かろうが。

私たちがステージの中央に立ち、その周りを他の子たちで囲むという明らかに私たちのペアが舞台構成の中心だったとしても!

注目されているのは私を含めた皆であって、私だけではないのです。絶対に。

何というか変に意識してしまえばダメになってしまいそうなので、今は意識しないように意識していた。

思い出せ、私は役者だ。違うけど。猫を被るのだけは、そこそこ得意なはず!

まるきり緊張していないような表情を取り繕ってそれぞれがホールドの形を取ると、あとは音楽が鳴るのを待つばかりだ。

演出の子から楽団に合図が送られると一瞬の静寂の後、流れ始める音楽に乗って私たちは動き始めた。

私たちが選んだクイックステップとは、一般的な舞踏会なんかで踊られるようなダンスとは少し異なるものである。

そもそも正式な舞踏会というものは成人を迎えた女と独身の男との見合いの場のようなものだ。

その最初の舞踏会デビューのことをデビュタントというのだが、それはさておきお見合いの場となるとクイックステップのようなアップテンポでスピード感のあるダンスは少し不向き。

やはりお見合いの場ともなると、もっとゆったりとしたテンポで親密になりやすいワルツが人気を博している。

ではこのクイックステップがどこで踊られるのかと言えば、それは競技ダンスの場となるわけだ。

競技と言われるだけあって、基本的に覚えておけば困らない範囲のダンスからは外れた専門的な指導が必要なダンスとなっている。

今回、集まったメンバーは全員が教養として幼い頃からダンスを嗜んでいたこともあって誰もがある程度は踊れる形を持っていたからクイックステップが選ばれたのだ。

私も幼い頃バレエに社交ダンスと教養の一環で習っていたので当然、覚えていたし踊ることも出来た。

なんてったって私の幼い頃の暇つぶしは習い事と読書でもあったからね。母の言葉があってこそのことでもあったので、それが苦痛だということはなかった。

ちなみに競技ダンスは今回のように集団で踊るようなものではなく、男女ペアのカップルを組んで他のカップルとダンスの技術などを競い争うものである。

今回に限っては集団で踊るという目新しさにクイックステップの特徴でもあるスピード感を維持したペア同士の交差と、全員のテンポを揃えることによる一体感の美しさを表現したかったとか何とか。

実際に踊る私たちは大変なものだが、頑張りましたとも。練習をやり切りましたとも。

あとは今までやって来た練習での積み重ねを本番で披露するだけなのだから、どうかうまくいきますように!

音楽に合わせて動き続ける私たちは、ステップを踏みながら右へ左へ素早く移動していく。

ともすれば接触事故を起こしてしまいそうなほどの距離で交差して見せたり、時には綺麗に見える角度で止まってそのままの体制を維持したり…。

やることも考えることも多い!

始まってしまってからは観客の目など気にしている余裕は出てこなかった。今はとにかく自分たちのことに必死で。

辛うじて頭の片隅で審査員が座っている席の位置だけは、何とか把握できていたのでその程度には余裕があった。

ただ全員がそうだとは限らない。

皆がいっぱいいっぱいな中で、音楽的にもそろそろ終わりが近づいていたため最後を綺麗に決めるために一斉に場所移動を行った際に軽い接触が起こってしまったのだ。

イリーナの背中と他の子の背中が当たってしまい、体重の軽いイリーナの方がバランスを崩して私の方に倒れてきてしまう。

このままでは確実に中途半端な位置で立ち止まってしまうか、転倒するかの2択だ。

接触した相手の方は何とか立ち止まらずダンスを続けてくれていることだし、なら私も何とかするために頑張ろうかな。

倒れて来たイリーナの腰を抱いて引き寄せると、耳元で「跳んで」と告げる。

イリーナは瞬時に私の言葉に従って両足を地から離してくれたので、イリーナの全体重を支え受け止めると遠心力を利用してくるくると回りながら最終位置までリフトをしながら足を運ぶ。

中央まで戻ってこれればイリーナの足を地につけリフトの余韻のままに数回、2人で回ってから審査員席に向けて最後の決めをして見せた。

そうしてようやく、全員の決めが完成して最後に演出の子たちによる綺麗な魔法で私たちは彩られて締めとなる。

観客からの拍手と歓声が聞こえてくるまでは、視線は真っ直ぐと前を見据えたまま。

ようやく聞こえて来た拍手の嵐に私たちはそれぞれ頭を下げて最後に審査員の方に向かって、優雅に頭を下げてからステージを降りて行った。

何事もなかったかのように収めることが出来て良かったよー!

私たちが外の待機場所に戻るまでの間なんと有難いことに観客からの拍手と歓声が止むことはなく、待機場所に戻るまで私たちは気を張りっぱなしでもあった。

戻って来て早々、私はイリーナに声を掛ける。


「イリーナ、怪我はない?大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ!ちょっと背中同士が触れちゃっただけ!」

「良かった…」

「ラフィちゃんもありがとう!とってもかっこよかったよ!」

「そう?ありがとう」


本当に良かった。これで頭でも打っていようものなら、流石にダンスは中断していたことだろうから。

さっきぶつかってしまった子のペアは涙を流しながら直ぐに謝りに来てくれた。

幸いなことに相手の子にも怪我はなかったみたいだし、私からは「ダンスを続けてくれてよかったわ」と言えば余計に泣かれてしまった。

結果発表もまだなのだし、そんなに泣かなくとも…。

それにしても咄嗟の判断で本来の構成にはないリフトを入れてしまったことで、私は非常に疲れました。

咄嗟のことだったので魔法を使うことが出来ず自前の力だけでリフトをやったので、もしイリーナを抱えたまま転んでしまったらどうしようかと思っていたのだ。

イリーナの体重が思っているよりも軽かったおかげで私でも何とかなった。

後から他の子たちにも揃って「凄いですわ!」と褒められてしまって、思わずにやけそうになる口元を何とか淑女スマイルで誤魔化しておく。

最後までやり遂げることの出来たダンスに一同、達成感を感じつつも後は結果を待つのみだ。

審査員は公平を期すために急遽、審査員を任された教師1名と女子生徒だけの教科でダンス全般を受け持っている女性教師とそして何故かアンドリ先輩が務めていた。

当然のように審査員席に座っていたので誰も突っ込まなかったが、私はずっと疑問には思っている。

結果は3者の話し合いのもとで順位が決められることになっていた。

最終的な結果が決まったのか、アンドリ先輩が手元のメガホンを手にする。

いよいよだ。結果が発表されるまでの間に高まっていく嫌な胸の高鳴りを抑えながら、アンドリ先輩の声に全員が耳を傾けた。


「栄えあるダンス競技1位の称号を手に入れた学年は審査員、満場一致で2年生に決定でーす!おめでとー!」


そう発表があった瞬間に皆が一斉に喜ぶものだから耳がキーンとする。でも、耳を塞ぐような気にはならなかった。

ぶつかってしまったペアの子たちはずっと泣いているし、何なら今はイリーナまで泣いてしまっているではないか。


「もし私のせいで台無しにしてしまったらどうしようって…」

「私も最後の最後で、本当に…」


その先は2人の泣きが酷くて聞き取れなかった。

ただ安堵からくる涙らしいと分かったので、イリーナも含めて3人で泣いてしまっている様子を放っては置けずポケットから取り出したハンカチで流れる涙を優しく吸い取った。

本当なら表彰が終わるまでは堪えた方がいいんだろうけどね。

今は化粧も落ちてしまってもう素の彼女たちが見えてしまっているが、まぁ悲しくて泣いてるとかじゃないから別にいいでしょ。

全順位の発表が終われば今度は表彰のために、またステージに上がらねばならない。

いまだにぐずぐずな様子のイリーナにハンカチを渡してしまって、呼ばれたのでまたイリーナをエスコートして観客たちの前に姿を現した。

またもや盛大な拍手で迎えられステージの中央に私とイリーナを先頭に皆で立つことに。

このダンス競技で1位を取った証に贈られる特別なメダルは、皆からの猛烈な勧めもあって私が代表してアンドリ先輩から受け取った。

私自身はメダルには思い入れがないので、後でイリーナの首にかけてあげよう。

その前に他の表彰に移っているうちに私は2年背の観覧席に目を向けた。そこに居てくれるといいのだけれど…。

目を皿のようにして探していればハニーブロンドの髪色を持つエアリスの姿は直ぐに見つけることが出来た。

ここからじゃ少しばかり遠すぎて、彼が今どんな表情をしているのかは分からない。

私の視線に気づいているのかも分からなかったが、とりあえず持っているメダルを掲げて手を振った。

これだけだと他からはメダルを自慢するために手を振っているだけにしか見えないだろうが、はたしてエアリスは私の意図に気付いてくれているだろうか。

さ、私は約束通りの1位を取って見せたぞ!今度はエアリスの番だ。

全ての表彰が終わった後はイリーナの首にメダルを掛けて、ステージを後にし元いた準備用の一室まで皆で戻って来ていた。

この後、間もなく騎馬戦が始まってしまう。

急いで戻りたい私は流石に疲れたのかゆっくりしていく皆とは別に着替えを済ませると素早く化粧の手直しをしてもらって、髪はそのままに直ぐに外に向かった。

私も疲れていないと言えば嘘になるが、それよりもエアリスのことが気になるじゃないか。

それに私はダンスが終わってからの午後の間は生徒会の天幕で待機する役目を任されているのだ。

丁度良くゆっくりしながら観戦できそうだ、と運動場に繋がる出入口を出たところで誰かに声を掛けられた。


「お疲れー」

「あ、リョウ!お疲れ様です」


なんと出たすぐ横の扉にはリョウが私のことを出待ちしていた。


「もしかして出待ちですか?サインが欲しければ事務所の方を通してくださいね」

「出待ちって…ちなみに誰に許可、取ればいいの?」

「生徒会長ですかねぇ」


私がマルクル先輩を例に挙げてみれば「じゃあ無理だな」と諦めた様子だった。そうかなぁ?

何故、ここにいるのかを聞いてみれば私のことを待ってくれていたのには変わりないらしく、お昼前に交わしていた口約束を義理堅くも果たしに来てくれたそうな。

だったらとリョウも誘って天幕の方で観戦しながら話をしよう、と誘ってみる。


「それって俺がいてもいいやつ?」

「まぁリョウの立場で文句を言える奴の方が少ないと思いますから、大丈夫です」

「それって大丈夫っていうのかぁ」


細かいことは気にしなくとも、いいんですよ。生徒会専用の天幕なので、一般生徒は基本的には座りませんがね。

首を傾げているリョウを置いて先に飲み物を取りに近場のドリンクが振舞われている天幕に寄る。

後から来たリョウの分も適当にとって手渡してから生徒会用の天幕まで並んで歩いた。


「そういえば、フラグウォーの時にを見つけました」

「あら、見てたの。気づかなかったな…」

「そりゃ、あんだけ楽しそうにエアリスのこと追い詰めてればねぇ」

「追い詰めてはない。ただ久々だったし楽しんではいた」


久々なの?あの光景が久々に当たるの?えぇーこわぁ。学院こわぁ。

あんな実戦形式まがいのことを授業の一環でするというのか。


「学院って怖いところなんですね。私、学院に通ってるお友達がいるんですけど、大丈夫でしょうか?」

「へー学院に…あれ?なんで怖いところって思った?」

「だって久々なんでしょ?過去の授業内容にあったりとか…」

「ああ、違う違う!あれは俺らがちっちゃい頃の話な。学院じゃ、あんなことしたら止められっから」


あ、良かったー。今は学院に通っているソフィーの顔を思い出してほっとしてしまった。

それにしても幼い頃に、あんな危険なことしてたんですね。やっぱ私とは規格が違うわ。


「で、その友達って誰なの?」

「あぁ、彼女のことを語ると少し長くなってしまうんですけど…」


とりあえず天幕にまで来たので席に座れば、先に私からソフィーの話を聞かせることになった。

騎馬戦を始めるための準備は既に整っているようで、審判役を指名された剣術の教師から開始の宣言がなされるまではもう少しだ。


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