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私の警戒を知ってか知らずか、レリオ様はあるものをポケットから取り出す。


「いんや、ちょっとこれの番人とやらをね」


私の持っているものと同じ包装をされた小包が机の上に置かれたのを見て、ここに居る理由が私と似たようなものだろうと察することが出来た。


「でしたら、私も同じです」

「そうだったんだ。エヴラールも変わったこと考えるよね」

「私もそう思います」


誰もこれの元ネタがパン食い競争だとは思うまい。というか、パン食い競争自体を誰も知らないのだから気づけるわけもないか。

それにしても私の前の席を、選んでわざわざ座って来たのには何か訳があるのだろうか?

1人で待っているのが暇だったとか?まぁそれなら分からないでもないけれど…。

私は小さく首を傾げてレリオ様を見返した。


「それで、その…私に何か御用でしょうか?」

「そうそう。そうなんだけど、そんな畏まんなくていいよ」

「そうは申されましても…」


レリオ様はエアリスと違って割と直球でくるタイプのようだ。

エアリスは一度、窺うように聞いて来て情に訴えてくるタイプなので正反対ともいえるか。

レリオ様はいい意味で常が軽いものだから、皆も同じように返してしまうのだろう。その部分でも兄とは真逆のエアリスは相手に合わせてしまうようだし。

ただ私は年下ということもあるので、そう簡単に今の態度を改めるというのは難しい。


「ま、いいや。そんじゃさ、借り物競争のお題になんて書かれてたのか聞いてもいい?」


あーそれかー。私、流れでお姫様抱っことかされちゃってたしなぁ。

別にあの行動に何か裏があるとかそう言ったわけではないのだが、アンドリ先輩も言っていた通り目立つ登場であったのは確かだ。兄として、これは見逃せないと言う訳か。

私はポケットから借り物競争に使った紙を取り出して机に置いた。


「一番、親しい異性ってお題でした」

「…親しい、かー」


え、、なんかダメなの?紙を手に取って書かれた内容を見ているレリオ様の表情は、何とも微妙なもののように見えた。


「あの、エアリス様とは本当に異性のお友達というだけで…ああやって抱えられたりもしましたけどあれは彼の純粋な善意からくる行動であって本当に何もないので安心して頂ければと…」

「あの弟のことだし、そうなんだろうね。で、肝心のエアリスはお題がこれだって分かってどんな反応してたの?」


エアリスの反応?遠くからだと確かにどんな反応をしていたのかは分かり辛いかもしれないが、そこまで気になるものかね?

レリオ様が持っていた紙が机に戻って来たので、私はまた回収しながらエアリスの反応を思い出していた。


「えっと、喜んでくださってましたけど…」


私の記憶違いでもない限りは大分、喜んでくれていたと思う。自分で言うのもなんだけど…。

6の暦に入ってからより暑くなった気温がグラスに汗をかかせている。

その様子が何だか、今の私の心情を表しているように見えた。


「そっか、そっか。そうなんだー…やっぱ違うんだろうなぁ、うん」


何が?何やら1人で納得してしまったレリオ様の様子に、私はただただ首を傾げるばかりだ。


「もう気にしないどこ。んじゃ、もう1つだけ聞かせて」


えぇ、エアリスのことで他に聞かれそうなことって何だろう?それとも全く別のことだったり…。

これ以上、何を聞かれるのか分からず身構えてしまう。

だがレリオ様からの問いかけは例え身構えていたとしても、受け止め切れないほどの衝撃を私に与えるものだった。


「ぶっちゃけて聞くけど、ジ〇リって何か分かる?」

「はぇ?」


え?今、私この世界じゃもう聞くこともないと思っていた言葉を聞かなかったか?

だって、あれだよね。金曜日の定番ってくらい何度もよく見てた、あのアニメーション映画の製作会社の名前だよね?

私はあまりの衝撃に間抜けにも口をパクパクと動かすだけで、うまく言葉がついてこない。

代わりに震える手でレリオ様を指差せば、そんな私の様子から察したらしいレリオ様から耐え切れずと言った風に笑いが零れた。


「ははっ、マジで?」


言葉もないままに、こくりと私が頷けばレリオ様は咄嗟に自分の口を手で覆う。

そのまま無言で喜びを表すレリオ様だったが、手の隙間から何やら不明瞭な言葉が漏れてしまっていた。

ああやって自分の口を抑えなければどんな言葉が、その感情のままに溢れていたのだろうか。

そんなレリオ様の様子を見ているうちに逆に私は冷静さを取り戻してきていた。

段々と衝撃が薄れていろいろなものが今の自分に追いついてくると、ふわふわと浮かれた気持ちが胸中を包んでいく。

緩む頬が抑えられず私もそれを隠すように口を両手で覆って、何故だか潤みそうになる目を瞬きをして誤魔化した。

傍から見れば2人して口を覆って、何をやっているのかと言われてしまうような状況だったと思う。今この2階席に私たち以外人がいなくて本当に良かった。

表情が自分で取り繕えるようになってきた頃、レリオ様も少し落ち着いてきたらしく口から手を退けると人差し指を立てて私の方を見た。


「じゃあさ、確認なんだけど!猫の?」

「…恩〇し」

「魔女の」

「宅〇便」

「となりの!」

「ト〇ロ!」


わーーい!!

レリオ様の言っている言葉の続きが私には全て分かるぞ!

そして私の答えた言葉が合っていると分かっているレリオ様も。確実に私と同じ前世の記憶を持っているということに他ならない。

特に最後の質問なんて知ってないと到底、答えられる筈のないものだ。

テンション上がって2人でハイタッチして喜び合ってしまったが、それも仕方ないことだと思う。

まさか、本当に私以外にも同じように前世の記憶を持っている人がいるだなんて!

私は前回の1件から、すっかり諦めてしまっていたから本当にこんな奇跡みたいな事ってあるんだね!


「俺、すげくない?」

「すごい、すっごいです。何で分かったんですか?」

「今日、箒に乗って飛んでるの見てさ。なんとなく、そうなんじゃないかと思って」

「やっぱり分かります?でも、参考にしたの魔女の女の子以外にもあるんですよ」

「あの魔法使いの少年の方だろ。あれとここじゃ全く違うけどなー」


前世の話が混ざっているというのに自然と繋がる会話に、何だか不思議な感覚を覚えている。

ただそれは決して嫌なものではなく、むしろ喜ばしいとかそういったものだ。

こんな風に思えるなら、もっと早くに話したかったと思うくらいには今の会話を懐古とともに楽しんでいた。


「正直、お魚クッキー見たときからちょっと疑ってた」

「ああ!だからあんな意味深な言い方を…でも、なんでその時は聞いてこなかったんです?」

「…いやー、諸事情でさっきまで悩んでたんだよ。聞くかどうかはさ」

「やたらエアリスのことを聞いてきたのって、もしかして関係があったり?」

「まぁあるっちゃ、あるんだけど…あれ、エアリスのこと普通に呼んでる?!」

「えぇ、まぁ」

「早まったかなー…」


一体、どんな関わりがエアリスにあると言うのか。

もう隠すこともないかと思って何も気にせず普通にエアリスのことを呼んでしまったけれど、まさかそんなことまで関係あるとは…。

今更、隠されても気になるだけなので聞いてみようと口を開きかけたところでここへと続く階段の方から複数人の足音が聞こえて口を閉じた。


「レリオ!何、呑気に口説いてんだこの野郎!」

「ずりーぞ!」

「クラウスに怒られろ!」

「口説いてねーよ!この馬鹿共め!」


どうやら足音の正体はレリオ様の知っている方たちらしく、マルクル先輩の名前も出ていることからどうやら同じクラスであることが窺える。

ここぞとばかりにやいのやいの言ってくる同級生たちではあるが、レリオ様は無邪気に笑っていた。


「いやいや、お前とじゃれつきに来たんじゃねーんだわ」

「おら持ってるもん出せおら」

「何だこいつら…。俺いちおう王族よ?そこんとこ覚えてる?」

「知ってる知ってる。それより宝よこせ」

「不敬だわぁ。さっさと持ってけ!」


すっかりと忘れてしまっていたけど、そういえば今は魔動祭のトレジャーハントが行われている最中でしたね。

レリオ様が適当な方向に投げたお宝も魔法を使って難なく手中に収めた4年生たち。

そのうちの1人の視線が私の方に向いたことで、私も番人役に任されていることを思い出した。


「そういえば、この子もじゃなかったか?」

「…あ、そうだわ」


片手に持っていた紙を確認した後、今度は私に向けられる複数の視線にたじろいでしまいそうになる。

そりゃ見るよね。私もレリオ様と同じものを持ってるんだものね。

何もレリオ様のように恐喝まがいにせがまれるとは思っていないが、年上の知らない複数人に注目されてるってだけで少し気後れしてしまうのだ。


「お前ら怖いんだから囲ってやるなよ。その子、割と小心者なんだからさ」


誰が小心者か!その通りだけどさ!

小心者故にこうしてレリオ様が私と同じだと分かるまでは無駄に警戒していたわけだしね。

それも今考えると、無駄な警戒だったようだし。


「クラウスより怖いなんてことないから、大丈夫」

「なのに、あいつの方がモテるのおかしいと思わん?」

「逆にクラウスに勝ててる要素がどこだよ…」


マルクル先輩って同じクラスの方たちからはそんな評価を受けてるのか。なんか新鮮だなぁ。


「そんなことより、良ければ君のお宝も僕たちにいただけませんか?」


私としてはそれを断る気はないのでポケットにしまっていたお宝を取り出そうとしたところで、またもや階段の方が騒がしくなる。

何だか一気に騒がしくなったものだなと思いながらも今度は4年生も揃って全員がそっちに視線を向けた。

先頭で見えてきたのは私の知っている姿だったので名前を呼んだ。


「イリーナ」

「ラフィちゃん見つけたー!」


私の声に真っ先に反応して笑顔を浮かべるイリーナだったが、直後この場に先に来ていた4年生たちの存在に気付いて眉を下げた。


「もしかして、遅かった?」


遅かったといえばそうなのだが、でもまだお宝は私の手元にある。

目の前に立っている4年生のことを見上げて、ダメもとでとあるお願いをしてみた。


「あの、トレジャーハンター様?もし許して下さるのであれば、私の持っている宝物をあの子に渡したいのですが…」

「ん?んー、俺はいいけど。お前らどうするー?」


目の前の4年生は直ぐに許可してくれたが、他の方たちにも許可を得ていた。

当たり前だよね。いちおうは競技なわけだし、これを渡すということは自分たちの学年に点数が入らないということになる。

どうなるかなと少し不安に思っていたのだが、他の方たちも逡巡することなく軽い調子で許可を貰えたのでほっとした。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


気のいい人たちのようで良かった。イリーナのもとに駆け寄ると持っていた宝物を彼女に差し出した。


「イリーナ。はいこれ」

「いいの?」

「大丈夫よ。それにイリーナが受け取ってくれなきゃ、あの方たちに渡すだけだから」


イリーナは私の宝物を受け取って私にお礼を言ってから4年生の方々に向けて頭を下げて「ありがとうございます!」と元気よくお礼を言っていた。

イリーナと一緒に来ていた子たちも、それに倣って次々と頭を下げる。


「なんかめっちゃいいことした気分」

「これはモテるな」

「んなこと言ってから、モテねーんだよなー…」


レリオ様と4年生とで何やら話していたようだが、私もイリーナ含む同級生たちに「頑張って」と伝えていたので何を話していたのかは聞けていない。

まだ競技中ということもあり、お喋りもそこそこに食堂を去っていくトレジャーハンターたち。

やっと去っていった嵐に一息ついてから元の席に戻ってくると、目が合って2人して笑いあった。


「俺すっかり忘れてた!ちょっとびっくりしたもん」

「私もです。それにしてもレリオ様のクラスの方には愉快な人たちが多いですね。あと優しいです」

「いや、あれ格好つけたいだけ…そうだ!」


何を思いついたのかせっかく座った椅子から唐突に立ち上がったレリオ様に、私は目を点にする。


「ど、どうしました?」

「あぁいや、あのさ…」


さっきの勢いを何処へやったのか椅子にどさっと座りなおしたレリオ様は、今までの思い切りのいい質問からは考えられないほどに悩んでいるように見える。

意を決したのか、私に視線を合わせたレリオ様は軽く息を吸ってから口を開いた。


「…俺の名前リョウってんだ」

「リョウ、ですか?」

「そう。俺の前世での名前。良かったら覚えといてほしい」


リョウ、か…。

彼は覚えていてほしいと、それだけ言った。私は自分の前世の名前など思い出していないので、何故これを言うことを彼が躊躇ったのかは分からない。

ただこれを言った時の彼の声に縋るような何かが隠されているように感じた。

今、彼の中にはリョウとして生きた前世という過去の記憶がある。

そして今レリオとして生きている記憶が新しくどんどんと刻まれていくわけだ。

これから彼がレリオとして生きていくことは、どうやっても変えられない。

これは憶測だが彼はリョウとして生きていた記憶を忘れてしまうことを恐れているのかもしれないと、なんとなくそう思った。


「分かりました。覚えておきます。そんでもって2人の時はリョウのことはリョウって呼びますね」

「…いいの?ややこしくなんない?」

「大丈夫ですよ。私がエアリスのことエアリスって呼んでるの気づかなかったでしょ?」

「あぁ、ははっ。そうだった」


レリオ様は小さく笑って、私の方を窺うように見上げて来る。


「じゃあ、お願いしようかな」

「任せてください!あ、でも私は前世の自分の名前とか思い出してないので普通に呼んでください」

「じゃあ…ラファエラ?」

「ラフィで良いですよ。長いでしょう?」

「ならラフィで」


レリオ、改めリョウはこれまでとはまた違うとても楽しそうな表情で笑っていた。


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