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アンドリ先輩が競技を終えてこっちの天幕まで戻ってくると、物凄く良い笑顔を浮かべて私たち3人にVサインを向けて来た。


「俺の活躍どうよー!」

「他の選手が可哀想でした」

「控えめに言って、何かの悪役かと思いました」

「ごめんなさい!見てませんでしたぁ!」

「あれ!珍しくデレルまで辛辣なんだけど!」


イリーナはアンドリ先輩に「あぁ!違うんです!」と見れなかった訳を話していたが、その元凶はアンドリ先輩なのだから気にしなくていいと思う。

私とプルーストからは特にフォローをすることはなかった。

でも、あの地獄絵図を作り出せたことには素直にすごいなって思ってますよ。憧れたりはしませんけど。


「はぁー別にいいけどさー。じゃあ俺はもう行くけど、その前に誰かクラウスのこと見てない?」


マルクル先輩?私は朝以来、観覧席の方に行ってしまってからは見ていない。

確か一番初めにここの待機役を任されていたはずなので、その後を知っているとしたらイリーナになるだろうが。


「見てないです」

「僕も見てないですね」

「じゃあデレルはどこに行ったか知ってる?」


直接、尋ねられたイリーナは眉を八の字に下げて非常に申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ごめんなさい。わたしも交代してからは、どこに行ってしまったか知らないです…」

「そっか、あんがと。別に気にしなくていいからねー。ちょっと予定変えることになるだけだからー」


アンドリ先輩が「ったく、どこでサボってんだあいつめ」と愚痴をこぼしながらも、机に置いていたメガホンのようなものを手に取った。


「そんじゃ、マルティネスはそこにいてねー」

「え、なんでですか」

「まぁまぁ。ただのクラウスの代わりだよ」

「それこそ、なんでですか」


アンドリ先輩がそれ以上、私の言葉を聞くことはなく「よろしくねー」と言いながら素早く運動場の方に行ってしまった。

えー、私マルクル先輩の代わりに何かあるまでここにいなきゃいけないんですか…。


「わたしラフィちゃんと一緒にいれて嬉しいよ!」

「私もイリーナといれるのは嬉しいわ」

「…僕もいるけどね」


大丈夫だって、忘れてないよ。

イリーナから「ずっと一緒にいてくれてありがとう!」と言われてプルーストが嬉しそうにしていたのなんて私は見てませんから。

いつからなんてこと今は聞かないけれど、私はそういう青春とか嫌いじゃないからね。

さておき私はマルクル先輩の代わりを押し付けられてしまったので、今しばらくここに居なければならなくなってしまった。

私の意思じゃないのだから大目に見ておくれ、プルーストよ。次の種目はちょっと過激な障害物競走だ。

過激とは言っても、さっきの競技に比べれば随分と平和なものだ。なんたって人の叫び声が聞こえてくるわけではないから、至って和やかな盛り上がりを見せている。

これが本来の姿であって、あれだけが何かおかしかったのだ。なんであの競技が毎年やられているのかが心底、疑問に思えて来る。

でも私が1年の頃はあそこまで酷くはなかったはずなので、やっぱりアンドリ先輩が悪の親玉なんだと私は思うな。

決して盛り上がっていないわけではないのだが、障害物競争に関しては特筆して語るべきところはない。

ただ強烈な何かを見た後って、その後の印象が薄れることがままあるよね。というだけなのだ。

それにしても今年の2年生は相変わらず波に乗っているようで、さっきの負けを取り返すような奮闘ぶりを見せていた。


「やっぱり今年の2年生は一際に凄いわよね。何か話し合いでも行われた?」

「そこまではしてないけど皆エアリス様に総合優勝を贈りたいって共通認識があるみたいだよ」

「わたしのところだと皆でお話したの!エアリス様たくさんの人と仲良しみたいですごいよね!」


やっぱそうなんだなぁ。そして私が知っているよりもエアリスの交友関係が広そうなことにも少し驚く。

それが不思議だとは思わない。エアリスは他人から好かれる人柄だし、私とは違い他人との関わりを素直に受け入れることの出来るタイプだ。私はそれが出来ないので、少し尊敬してしまう。

何事もなく障害物競争も終わると次は少し変わった競技でもある、お届け便が始まろうとしていた。

この魔動祭で変わってない競技の方が少ないとは思うけれど。

お届け便は借り物競争と似たようなところのある競技だ。

スタートしてから途中の机に置いてある紙ではなく、荷物を1つ選んでそこに書かれてある届け先の人物に荷物を届けるという競技だ。

届けられたらサインを貰いゴールした順から順位が決まっていくことになっている。

私がこっちではなく借り物競争を選んだ理由としては、お届け先に選ばれるのが決して知っている人になるとは限らないからだ。

届け先の情報としては所属クラスと名前だけが書かれているのだが、それが誰か知らない人でも自分で探して荷物を届けねばならないのだ。

ギリでも知り合いで何とかできそうな借り物競争と違って、確実に初めましての相手に声を掛けなければならないことが私にはハードルが高くて選ばなかったのである。

それにしても、机に置かれてある荷物に見覚えがあるのだが…私の気のせいでなければあれはトレジャーハントに使われるお宝では?

もう競技は始まっており次々と荷物を取っていく選手は届け先を探して各々、視線を彷徨わせたり声を掛けたりしていた。がんばれー。

その中からリュドミラ先輩が真っ直ぐに私たちの方に向かってきていることに気付く。


「あれリュドミラ先輩よね」

「この競技に出てたんだ!」


イリーナのはしゃいだ声に同意しつつも私は荷物を持っているらしいリュドミラ先輩に目を向けていた。


「朝ぶりねぇ。ご機嫌はいかがかしらぁ」

「悪くないです。それよりもリュドミラ先輩は誰にお届け物ですか?」

「ふふ、私の可愛い子。貴方にお届け物よぉ。受け取ってくれるかしらぁ」

「勿論です!リュドミラお姉様!」


何とリュドミラ先輩が私にお届け物だと!何という奇跡!

私は急いで席から立つとリュドミラ先輩から差し出された紙に魔法でサインを書き記す。

火の魔法を使って紙を焦がし私の名前をサインしてからリュドミラ先輩の手に返した。


「それじゃ、これが貴方に渡す荷物よぉ」

「はい、受け取りました!頑張ってくださいね!」

「ありがとう可愛い子。それじゃまたねぇ」


去っていくリュドミラ先輩を見送ってから、渡された荷物を見てみる

やはりこの包装はあの日アンドリ先輩が自慢していたものと同じもののようだ。

包装の間に挟まれてある紙を見つけて手に取って目を通してから、直ぐに戻した。


「もしかして、アンドリ先輩の用ってそれ?」

「そうみたいよ」

「何が書かれてたの?」


プルーストの疑問には答えず、私はプルーストの隣で首を傾げているイリーナに声をかけた。


「それよりもイリーナは次の種目に出るのよね?行かなくても大丈夫?」

「そうだった!早く行かなきゃ!」

「次って…あぁ、あれか。デレル行ってらっしゃい、頑張って」

「ありがとう!行ってくるね!」


私の言葉に慌てたイリーナはプルーストの声援を受けながらも急いで行ってしまった。

イリーナを遠くなっていく背中を見守りながら再度、同じことを聞いてきたプルーストに荷物に挟まれていた紙を渡す。


「成程。まぁこの後はリュドミラ先輩が来る予定だし、それまではいるよ。マルティネスも頑張って」

「頑張るものかしらね、これ。ま、後はよろしく」


プルーストから紙を返してもらってから、直ぐに天幕を後にする。

紙の内容をもう一度、確認しながら私は食堂の方に向かっていた。紙にはこう書かれてある。

『貴方は宝物の番人に選ばれました。学園の校舎内が貴方の居場所です』と。

なんか勝手に選ばれて場所まで指定されてしまった。

この役目を本来はマルクル先輩に任せようとしていたわけだ。アンドリ先輩も肝が据わってるよなぁ。

それにしても今、本当にどこにいるんですかね。あの先輩。

まぁ丁度、休憩できる場所でもある食堂でゆっくりしながら番人役に徹してやろうではないか。

小さな荷物を落とさないように気を付けながら、食堂に入った。

食堂には意外と人が少なく、席は十分に空いていた。

今日は外に食べ物も飲み物もたくさん置いてあるので、わざわざ食堂に寄るよりもそっちの方が利用者が多いんだろうな。

私は冷たい飲み物を頼んでから、運動場が見渡せる2階席の1つに座った。

大したこともしていないので疲れはないが、何もしていなくとも喉は乾く。

乾いた喉にジュースを流し込めば潤った感覚があって、ほっと息を吐いた。体は思っていたよりも水分を求めていたのかもしれない。

グレタにも気を付けるように言われていたのに、すっかり忘れていた。これでは怒られてしまうな。

ずっと外にいたせいか、いつもより高く感じる体温を下げたくて冷えたグラスを頬に当てた。

冷たいけど水がつくな、これ。頬から離して水滴を手の甲で拭うと机にグラスを置いて、運動場に目を向けた。

私が移動してからここに落ち着くまでの間に、さっきまでの種目も終わっている。

次の種目は午前に行われる最後の種目となる、アンドリ先輩考案のトレジャーハントがついに行われようとしていた。

このトレジャーハントは私のように人が持っている宝物かどこかに隠された宝物を探し出して、終了までに何処よりも多く手に入れることが目的である。

特に順位というものがあるわけではないこの競技では手に入れた宝物自体に得点がつけられており、それがそのまま学年の点数に加算されることになっていた。

ちなみにこの手に入れた宝物は競技の参加者のものになるか、同学年の皆で分けることが出来るようになっているので多くの人に得がある競技となっている。

ちょっとしたなぞなぞやヒントが書かれた紙が選手たちに渡され、それを解読しながら宝物を探すようになっているのだ。

これに関してはトレジャーハントに参加していない者からも自由な助言が許されており、その部分でも多数で楽しめるように考えられていた。

まぁ私はここで待ち構えて辿り着けた者にお宝を渡す番人になってしまったので、助言も何も出来ないけれど。

流石にこれからトレジャーハントに参加するイリーナにネタバレのような真似を出来るはずもなく、ああして少し無理に話を変えたりしたわけだ。

果たして私のもとまで来る者は現れるのか…。それまでは暇だなぁ。

遠くに見える運動場の様子からもう始まってはいるのだが、まずは紙の解読に取り掛かっているらしく何処も大きく動いている様子は見受けられない。

1人で待っている間は本当に何もすることがないので、窓ガラス越しに外を眺めるだけだ。

ぼうっとしていれば近くから椅子を引くような音が聞こえ、反射的に反応した。

横に向けていた顔を音のした自分の向かい、正面の方に向けるとそこにはプラチナブロンドの髪を持つ青年が頬杖をついて私に視線を合わせていた。


「ここで休憩かい?」

「…えぇ、レリオ様もですか?」


何故か私の前に座ったレリオ様に対して、私は表情には出さずとも少しだけ警戒心を強めていた。


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