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2年生の観覧席に来たのは、私の思い浮かんだ人物のいる可能性が最も高いからである。

その思い浮かんだ人物とは、プルーストとエアリスのことだ。

プルーストは同じ生徒会役員と言うこともあって、悪い関係ではないので否定はしないだろう。

エアリスは言わずもがな。彼とはだいぶ親しい関係だと私は思っている。

他にも同じ役員である先輩2人いるが、なんとなく先輩方をこの紙の書かれたお題の対象として見るには私の中で無茶が生じた。

そもそも私の異性での交遊関係なんて片手で収まる程度しかないのだから、こうして思い浮かんだだけマシなものだ。

というわけで2人の姿を上から探しているのだが、これがなかなか見つからない。

ここに居ないとなると、いよいよ探すのが難しくなってくるぞ…。

そんな心配が頭を擡げ始めるが、それも杞憂に終わった。お目当ての人物を1人、見つけることが出来たからだ。

近くに降りるためにゆっくりと高度を下げていくと下にいた人たちが場所を空けてくれた。

それにはお礼を言って箒から降りると、私は探していた人物の名前を呼んだ。


「エアリス様」


エアリスは唖然とした表情で私のことを見ていたが、私が名前を呼んだのに反応して駆け寄って来てくれた。


「何だか、凄いね」

「お褒めに預かり光栄ですわ。それよりもエアリス様、少し一緒に来ていただけませんか?」


素直に褒められている、と言うことで良いだろう。うん。

エアリスが唖然としていたように、周りからも好奇の目が向けられているのは自分でも分かっていた。

そんなに見ても、いいことないよ?

とにかく早くここから抜け出したくてエアリスに訳を話すことなく、先に誘ってしまえば1も2もなく頷いてくれた。

一緒に来てくれることになったのは有難いのだが、さて私はどうやってエアリスとアンドリ先輩の方まで行ったものか…。

箒に2人乗りでもしていくか?いや、やったことないし不安すぎる。

じゃあ今から2人で走っていく?それだと確実に、私が置いて行かれるだろうなぁ。


「どうかした?競争だし、早く行かなきゃいけないんじゃないの?」


首を傾げて聞いて来るエアリスに私も小首を傾げて、箒の柄を両手で握った。


「そうなんですけど…えっと、箒に一緒にお乗りになりますか?」

「…ぅーん、それは…」


私が自信なさげに言っていることがエアリスにも伝わっているのだろう、眉を下げて言葉に詰まってしまったエアリスになんだか申し訳ない気持ちが出て来る。

うん、遠慮したい気持ちはよくわかる。もうエアリスに先に行ってもらって私が後で追いつけばいいか。


「そうだ。良ければ僕が連れて行こうか?」

「?エアリス様が、ですか?」


私が言うよりも先にエアリスからなされた提案に私は思わず聞き返した。

その疑問に答えが出たのは、それからすぐのことだった。


「あ、急いだほうがいいかも。ちょっとごめんね」

「あの…わぁ!」


エアリスがさらに距離を詰めて来たかと思えば、私の体が勝手に浮いたのでびっくりして箒を落としてしまった。

そこからエアリスの広げた腕に抱えられた私は周りの盛り上がりとは反対に混乱しきりだ。

何故か今、私はお姫様抱っこされている!なんでだ?!


「エアリスッ…」

「少し急ぐから口、閉じてた方がいいかも」


私が静止するよりも早く階段状になっている観覧席から私を抱えたまま飛び降りたエアリスに、反射的に言われた通りに口を閉じた。

それからはもう速いのなんの。全身に物凄い強い風を感じるし、風景も凄い速さで流れるものだから目が回ってしまいそうだ。

私はここまでの速度を出して箒に乗ったことがないので、やっぱ怖いな!

エアリスがあっという間の速さで私のことをアンドリ先輩のもとまで運んでくれるまで、私は何も言えず大人しく固まっているだけだった。


「着いたよ?」

「…ぇぇ。ありがと」


エアリスに降ろしてもらうと、とんっと地面を踏みしめて目を覆った。

今後もう二度と人に運んでもらうまい。やっぱり自分の慣れた速度で飛ぶのが1番いいよ、本当に。


「いやー2人とも!目立つ登場してくれてーナイス!」


何がナイスなんだろう…。目を覆っていた手を退けると、アンドリ先輩がサムズアップをしていたが今の私には元気な反応を返す余裕はなかった。

エアリスはアンドリ先輩の言葉にも曖昧に笑って返すだけで、特に何も言わない。


「滑り込みで最初に来たのが2人だけどー、一体どんなお題を引いたのかなー?」

「はいはい。これです」


ポケットに入れていた紙を取り出してアンドリ先輩に渡すと「ほほう!」と目を妖しく光らせて笑いエアリスに意味深な視線を向けた。


「そんでーこれ今回のお題だけど、どう思う?」

「どう、ですか?」


あれ?そこまで厳密に判定しましたっけ?アンドリ先輩が紙をエアリスに渡したのを、私は黙って見守っていた。

あの紙には『一番、親しい異性』と書かれている。

まさか借り物でもある本人にまで聞かれるとは思っていなかったものだから変に緊張してしまうな。

エアリスは紙の内容を確認してから、驚いたように私の方を見た。


「これ、本当に?」

「えぇ。そう、だけど…もしかして嫌、だった?」


自分でこれを聞くのも何だか恥ずかしいのだが…。

少し不安になってきた私はエアリスのことを見上げる。するとエアリスはぶんぶんと力強く首を横に振って私の手を両手で握った。


「ううん、そんなことない!とっても嬉しいよ。僕を選んでくれてありがとう」


とても明るい表情で嬉しそうに笑ったエアリスに私もゆるゆると笑みを返した。

私の思っていたよりも喜んでいる様子のエアリスに、少しでも不安に思っていたのが馬鹿らしいくらいだ。これはこれで照れてしまうなぁ…。

でも否定されるよりかは全然、安心できたのでそれでいいか。さっきからずっと嬉しそうだし、これはアンドリ先輩も納得してくれることだろう。


「うーん、うん!なんかとんでもなく健全で、これは俺が悪い気がしてきた!」


そうですか。でしたら大いに反省してください。

私はエアリスから紙を回収しながら、アンドリ先輩の方を睨んでいた。


「でも隠しといたほうが面白そうだから、皆にお題は内緒でーす!でも2人とも合格なので見事、1位を獲得ー!おめでとー!」


これはメガホンのようなものを持って全体に知らされた。いや、面白そうだからって…。

「よっし、あっちの方でちょっと待っててねー」と借り物競争に参加している他の選手のもとまで、行ってしまったので文句も言えなかった。

まぁ聞かれれば答えたらいいだけだし、気にしないでおこう。

私は早々に諦めて隣にいるエアリスに耳打ちをした。


「ありがとう。エアリスのおかげで1位が取れたわ」

「なら良かった。それにしても箒に乗って飛ぶなんて面白そうだね」

「そう?私1人じゃ飛べないだけよ。私からしてみればエアリスの方が凄いわ」

「そんなことないよ。学院ではこれしか教えてもらえなかっただけだから」


学院ではそうなんだぁ。学園でも学びはするけど、これと決められたやり方は教えられないものだから出来る人と出来ない人がいるんだよ。

待っている間、2人で話しているうちに他の順位もどんどんと決まっていったらしくアンドリ先輩から「そこの仲良し2人もおいでー」と呼ばれた。はいはい、行きますよっと。

他に一緒に出場していた同学年たちも悪くない順位を取っているようだ。

その同学年からは「1位なんて凄いです!」と言われてお礼まで言われてしまったが、それまで言われるのも何だか違うような気がしてとりあえず謙遜しておいた。

借り物競争の正式な順位発表があってから、さて観覧席に戻ろうかと思っていればアンドリ先輩に呼び止められる。


「どうしました?」

「ちょっと頼みごとがあってー。はい、これ」


渡されたメガホンに私は思い切り眉間に皺を寄せた。これを私に渡して来て、どうしろと?


「なんか勘違いしてるなー。大丈夫。ただこのあと俺、出なきゃいけないからさー。これ天幕の方に置いて来てほしいだけだよー」

「なんだ、そうでしたか。それなら構いませんよ」


てっきり盛り上げ役でも押し付けられるかと思った。

大体、司会が必要なのって開会式と閉会式くらいなものだ。

こうやってメガホンを持って今回の魔動祭の盛り上げ役に貢献しているのはアンドリ先輩の自主行動でしかない。

それでさらに盛り上がっているのだから、流石アンドリ先輩と言っても差し支えないだろう。

とりあえずはアンドリ先輩の頼みを引き受ける。あと私、落としてきた箒も返しに行かなきゃいけないんだよね。

アンドリ先輩は「じゃ、よろしくー」とだけ言って直ぐに集合場所の方へと行ってしまった。


「もういいの?」

「あら、待っててくれたの。ありがとう」


どうやら私のことを待っていてくれたらしいエアリスと並んで歩きながら、渡されたものを見せてさっき頼まれたことを話した。


「だから私、天幕の方に寄らなきゃいけないのよ。箒を返すのが、さらに遅くなっちゃうわ…」

「そっか。だったら僕が箒を返しておこうか?喉も乾いたし、飲み物でも取りに行こうと思ってたんだ」

「本当!なら、お願いしてもいい?」

「任せてよ」


引き受けてくれたエアリスに「ありがとう!」と言ってから、途中で別れた。

私は生徒会専用の天幕の方へ、エアリスは2年生の観覧席の方へ行くので真反対の方向になる。

天幕が近づいて来ると、飲み物を片手に椅子に座って楽しくお喋りをしているプルーストとイリーナの姿を見つけることが出来た。

プルーストはここに居たのか。そりゃ見つからないはずだ。

私はわざとらしくにっこりと笑って2人に手を振りながら声を掛けた。


「調子はどうかしら?2人とも」

「あ、ラフィちゃん!1位おめでとう!」

「…何、考えてる?」


笑顔で私のことを迎えてくれるイリーナ。片やいつもの愛想笑いは鳴りを潜めて私のことを怪しむプルースト。とりあえずイリーナの頭は撫でておこう。


「べっつにー何も考えてないわよー。ただ笑っただけじゃない」

「確実に何か良からぬこと考えてる時の笑顔だったよ」


まぁプルーストがそう考えると思ってわざとらしくしただけなので、私としてはもう目的は果たした。

借り物競争で姿を見つけられなかったら、ちょっと悪戯しただけだ。もう気にしなくていいよ。


「で、2人は仲良くここで休憩かしら?」

「うん、そうなの!わたしが今、ここに居る順番だからジャコブくんがそれに付き合ってくれてるの!」

「へぇーそう…」


イリーナの言葉に私はにやにやと上がる口角を手で隠しながら、プルーストを見やった。

そっかー、そうなんだー。プルーストはイリーナには前から特別に甘いと思っていたけれどねー。

私からの視線にどこか罰の悪そうな顔をするプルーストが何も言えないことが愉快でたまらぬ!


「…でもマルティネスも随分とエアリス様と仲がいいようだね」


おや、反撃かねプルーストよ。ただ、そんなことで狼狽えるような私ではない!


「そうね。さっきの借り物で一番、親しい異性っていうお題で一緒に来てくれたくらいだもの」

「あれ、そんなお題だったの?」

「大したことないでしょ?アンドリ先輩がなんだか面白がって皆には言うことをしなかったけど、ただ異性のお友達ってだけなのよ」

「まぁアンドリ先輩なら面白がるだろうね」


まぁアンドリ先輩だしね。

イリーナなんかは「そうだったの!とっても素敵な借り物だね!」とお題の方を褒めていた。

アンドリ先輩はこういうところをイリーナから習った方がいいんじゃないですかね?


「ま、私はこれを置きに来ただけだから。もう行くわね」

「ええ戻っちゃうの!そっかぁ…」


くっ!イリーナにそう悲しそうな顔をされては私はここを離れられない!

プルーストに悪い気はしたが私もここで一緒にアンドリ先輩の雄姿を見ていくことにした。

とはいえ、もう始まってはいるのだが。アンドリ先輩が出ている種目はプレイハンティングだ。

これはハンティングというだけあって獲物を狩る競技にはなるのだが…肝心の獲物が人間であることが一番の問題だと思う。

全員が狩る側と狩られる側をどっちも兼任し、決められた範囲内を捕まえたり逃げたりする競技となる。

捕まえれば自陣に連れて行くことでポイントとなり、捕まえられた選手はまだ生きている仲間からの解放を待たねばならない。

競技終了までに自陣にいる人間の数と生存数の合計が最も高いところから1位となるわけだが実はこれが一番、危険な競技だと言えるだろう。

いちおう故意に相手を害すことのないようにと決められてはいるが、必ず擦り傷なり怪我をつくってくる選手がいるので血の気が多くないとあの競技はやってられない。


「もう、そろそろかな」

「そうね。私、騎馬戦よりもこっちの方が危険だと思うの」

「あぁ…分かる」

「わたしも、これはちょっと怖いな」


この競技だけは事前の作戦タイムが取られているのだがその時間も、もう終わりついに本番。

さて、どうなることか…。

始まってからは人によっては地獄か戦場か、言い方が分かれるようなそんな有様を呈していた。

スタートの合図と同時に無数に土の壁が作られ早速、逃げ場を無くした哀れな獲物がいたり…。

仲間と分断されて姿の見えない状態の仲間が叫び声を最後に脱落していたり…。

土の壁は上を覆っているわけではないので壁よりも上に出ようとしたところを容赦なく狩られたり…。

なにあれ、怖い。

そして、この土の壁の全ての操作を行っているのはアンドリ先輩だったりする。

上から範囲の全てを見下ろし笑いながら的確に追い詰めて行ったり時折、自分に降りかかってくる火の粉を軽く払ったりとなんかもう圧倒的だった。

天幕からだと全体を詳しく把握することは出来なかったが、むしろそれでよかったような気がしてくるほどだ。

ほぼほぼアンドリ先輩含む4年生の独壇場で終わったプレイハンティングは、誰もが分かっていたことだが大差をつけて4年生が1位を取り他は散々な結果に終わっていた。


「うわぁ…」

「容赦ない…」

「…終わった?」


イリーナは悲痛な叫び声が聞こえてきた辺りから耳を塞いで目を閉じていたので、プルーストが終わったことを教えていた。

1位を取った4年生たちは全員で喜び合っているがあまりに手加減なしのやり方に私たち後輩一同、ドン引きです。

少しは自重してあげてくださいよ…。


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