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プルーストも先輩方には叶わなくとも、十分に人気が高い人間である。
何ならマルクル先輩やアンドリ先輩がアイドル的な人気だとしたら、プルーストは陰からの人気がとても高いタイプだと思う。
そんなプルーストの出番を今か今かと待つ友人たちの様子は姦しく私はそんな彼女たちの声を聞きながらも、500メートルに出場する生徒たちの方を眺めていた。
魔法を使うのが前提なだけあって、どの競技でも基本的に距離が長くとられている。
500メートルだって魔法を使えば、大したことのない距離ということになってしまうのだ。
早速、第一チームがスタートラインに並んだのが見えた。後は教師からのスタートの合図を待っている状態のようだ。
特にクラウチングスタートのポーズなんかをとることもなく、思い思いのやりやすいような立ち方でその時を待つ選手たち。
教師が片手を上げて振り下ろすと同時に笛の鋭い音が鳴らされた瞬間、第一チームは一斉に飛び出した。
やはり安定して早いのは4年生ではあるが、どの学年も自分の速さに自信があってこの種目に出ているものだから競っていたりもしてなかなかに見応えがあって面白い。
まぁ第一チームの1位は4年生が頂いていたわけだが、それでも2年生は2位と悪くない順位をとっていた。
次の第二チームがスタートラインに並ぶと、その中にプルーストの姿を見つける。
友人たちもそれに気づくと何故か私に「次、出ますわよ!」と教えてくれた。うんうん、私も見てるから気づいてるよぉ。
先ほどまでよりも熱を上げて応援をしている友人たちは、まるで私の分まで応援してくれているかのようだった。
それじゃ私は心の中でひっそりと応援しておこうかな。プルーストがんばれー。
また同様に合図があって一斉にスタートを切る選手たち。
今度はプルーストを中心に見ていたのだが私が思っていたよりも圧倒的な速さで、あっという間にゴールを決めてしまった。
そして見事1位を手にしたプルーストに、私は内心で驚いていた。
あんなにプルーストが早かったとはなぁ…。マルクル先輩やレリオ様と同じように、魔法で飛ぶことが出来るプルーストに感心してしまう。
2年生の観覧席でもプルーストが1位を取ったことに対して、歓声が一気に上がっていた。
その中から「すごーい!!」というイリーナの声が聞こえた気した。いや、あれは確実にイリーナの声だな。
それにしてもプルーストのお陰で早速1位が取れたことは、とても幸先がいいと言える。
魔動祭の総合優勝とは、閉会式までに総合の点数が最も高かった学年が優勝となることが決まっていた。
この点数も各種目の順位に応じて点数の振り分けが既になされており、競技に出た生徒たちの結果の順位にあたる点数を学年の点数としてどんどん加算していくのだ。
当然、振り分けられた点数も上位である方が高く設定されている。つまりは上位を取ればとるほど総合優勝が近づいて来るというわけだ。
プルーストの後も1位とまではいかずとも悪くない順位が続いて、皆の自主練の成果を存分に感じられた。
それにしても皆のこの頑張りようには、理由があるのではないかと私は見ている。それもエアリスに関係があるような…。
案外、考えることは皆も一緒なのかもしれない。
第一種目も終わり、第二種目に入ろうとしていた。お次は大岩転がしだ。
魔動祭の大岩転がしは本物の大岩を使ってスタートから指定の位置に運んでいくまでの速さを競うもの。
前世であれば手作りの大玉とかだろうに、まさか本物を使うとは…。こんなところでも前世ギャップを感じるとは思わなかった。
しかもあの大岩、綺麗な円形で作られているわけではないから普通に転がしていくとあらぬ方向に転がっていく仕様だ。危ないなぁ。
こんな風に危険が伴う競技はいくつもあるが、魔動祭での怪我は全て自己責任となっている。
なので自分で対処できないような競技には参加しない、危ないと分かっているのならまず近寄らない。それと競技中は他に気を取られず目を離さない、など気を付けるべき点が多かったりする。
まぁ余程でもない限りは教師も目を光らせているので、大きな怪我をする前には何とかしてくれることだろう。
うーむ、それにしても大岩って。用意できること自体がまず凄いよね。
こちらは苦戦している場面が見られ紆余曲折も有り、結果は順当といったところ。
でも現在までの総合点数だと2年生は2位となっているので、悪くない滑り出しではある。このままなんとか総合1位の4年生に喰らいついていきたいところだ。
もう次の種目でもある移動式玉入れが始まっておりこのままのんびりと観戦を続けていたいところではあるが、この次に行われる借り物競争に私は出なければならないので観覧席から立ちあがった。
友人たちには「ここから応援しておりますわ」との声援を頂き、観覧席を抜けるまでの間にも同学年たちからたくさんの声援を受けてしまった。私には頑張る以外に選択肢はないようだ。
借り物競争の集合場所までは移動式玉入れの様子を見ながら、歩を進めていた。
移動式玉入れは、名の通り玉を入れる籠が移動するのでその名がつけられている。
自分の玉を自分の籠に入れるのではなく相手の籠に入れることでポイントとなり、また籠の移動も自分たちで行わなければならないので意外とやることが多い競技だ
相手の籠に玉を入れようと必死になって自分の籠が疎かになっていると、相手にいくつもポイントが奪われていたりするので攻防の兼ね合いが重要となってくる。
ただ投げられた玉を故意に撃ち落とす、籠の口を塞ぐなど禁止事項もいくつもありその中に玉を投げるのに魔法を使ってはならないというものがあった。
こうなったのにも過去のお馬鹿さんが関係あるのだが今は割愛。
この競技が大人しめだと言われるようになった理由もそこにあるのだ。
なんと玉の投げ方が分からない多くの生徒たちによる大きく弓なりに玉が飛び交い、さらにはヒョロヒョロと情けない玉は失速し途中で落ちて動かない籠にも入らない始末。
あれを外野から見ていると何とも間抜け…いやいや、迫力に欠ける光景なせいでそう言われているのだ。
皆ちゃんと球を投げるなんて経験がないものだから、仕方ない。仕方ないよ、これは。
ちなみに私はちゃんと真っ直ぐに投げられます。エッヘン!
移動式玉入れの結果を見る前にもう集合場所まで着いてしまった。
結果が気になりはしたが借り物競争が始まるまでにルールの確認と注意事項の説明があるので、それを聞かねばならない。
諦めて集合場所で待っている借り物競争の担当している教師に声をかけると、後2人ほども直ぐに来て説明が始まった。
こうして競技開始前に長々と時間を取るのにも、そんなルールは聞いていないと主張する奴がいたからこうなっている。いくつもの過去のやらかしの皺寄せが今ここに来ているのだ…。
魔動祭で教師たちが忙しくしているのには、このごく丁寧な事前説明も関わっていることは言うまでもない。
さて借り物競争のルールだが、特に変わったところは何もないはず。
スタートから借り物でもあるお題が書かれた紙が置いてある場所まで向かい1枚を手に取る。
その紙に書かれている何かを借りてきて判定係をしているアンドリ先輩の元まで行き合格がもらえた者から順位が決まっていくというものだ。
注意事項としては一度として手に取った紙からの変更は不可、紙に書かれている内容の変更不可、選手同士の紙の交換は不可などなど。
私は当然やらないけど、これを言っとかないとやる人が出てくるのがこの学園の生徒クオリティでもある。
後はこんなものもある。何かを借りて来るということなので、途中で物を借りたり拾うのは構わないが度を超して多くの物を持ってこないこと。それらを攻撃用途には使わないこと。
この途中で物を借りたり拾うのは構わない、というのが今の私にとってはかなり重要だったりする。
実は最近、前世の夢から着想を得てあることを出来るように練習していたものが何とか形になって来たところなのだ。
このルールがある競技であればこそ、出来そうなやり方なのでちょっと試してみようかと考えていた。
教師の説明が終わる頃に、移動式玉入れの方にも決着がついたようで私たち選手は早速スタートラインの前まで移動していく。
私は第一チームとして初めに出ることになっているので、そのままスタートラインに他の選手と一緒に横並びに立つと後は教師からの合図を待つだけとなった。
簡単なお題が引けるといいなぁ。教師が腕を上げ、振り下ろすと同時に笛が鳴り私はスタートラインを超えた。
最初の内は普通に風の補助だけを受けて早く走る程度にしながら、周りをきょろきょろと窺う。
何かないか、何かないか……お!発見!
私の視線の先にはスタッフの1人が集めた花びらを袋に詰めている最中だった。
傍の壁には使っていたのだろう箒も立てかけられている。
開会式に使われた花びらは競技に邪魔になりそうな部分だけは粗方、処理がすんでいるものの端っこの方にはまだ残っていたりするのでああして清掃スタッフの方が掃除してくれているのだ。
まだ掃除の最中だったので悪い気もしたが、私はそこの箒に用事がある。
風の魔法を使ってちょいちょいと箒だけを引き寄せれば、清掃スタッフが驚いた声を上げた。
「ごめんなさい!少しお借りしますわね!」
それだけ言うと引き寄せた箒に横向きで乗ってすっと浮かび上がり、さっきまでよりも早い速度で紙が置いてある場所まで飛んでいった。
やっぱり魔法使いと言えば箒で空を飛ぶのが常識と言うものでしょうよ!
まぁこの世界の魔法使いからしてみれば、私のやり方はかなり珍しいものだと思うけれど。
それでも前世の記憶の中で魔法使いが箒に乗って飛んでいる映画を見てからというもの、私の中ではこれ以外に考えられなくなってしまったのだ。
ちなみに私が参考にした映画とは宅急便の少女と額に傷のある少年の両方である。金曜日によく見れるものだからね。
何度か練習してみれば、自分だけで空中に立つ感覚よりも何かに乗っている時の方が安定して空中に滞在出来たものですっかりこのやり方に慣れてしまったのだ。
え、なんで箒に乗るのに跨らないのかって?跨って痛いのは男でも女でも変わらないということさ。
というわけで横向きに乗っている。今の速度だと大体、前世の乗り物でいうところのスクーターくらいの速度は出ているはずだ。
もっと速度を上げようと思えば出来るのだが私、絶叫マシンとかって苦手なんだよね…。
始めは少し出遅れていたものの、箒に乗ってからはあっという間に追いつき紙の置いてある場所までは何とか2番目に到着することができた。
一度、箒から降りると適当に1枚の紙を手に取る。
どの紙を選ぶかで悩むよりも、適当に選んでしまってから悩んだ方がいいだろう。
――さてさて、何が書かれているのかなー。
捲った紙に書かれていた内容に私は思わず眉を顰めてしまった。何と書かれていた内容とは…。
「一番、親しい異性…?」
そんな人、私にいたかなぁ?これはまるきり外れの紙を引いてしまったかもしれない。
全く思いつかなそうな頭を捻りに捻って頭を悩ませること数秒。
何とか絞り出せた頭の中には、とある2人の人物の顔が浮かんでいた。
ともかく浮かんだのなら行動あるのみだ。箒でまた飛び立つと上から探すことに決めて、2年生の観覧席まで一直線に向かった。




