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目が合った事実を今からなかったことには出来ないだろうか…。

そろそろとマルクル先輩の背中に戻っていこうとする私にレリオ様が首を傾げた。


「あれ?出ておいでー、お兄さん怖くないよー」

「…」


それを自分で言う人は大概、危ない人なんですよ。とりあえずは一旦、止まって様子を窺ってみる。


「何か随分と警戒されちゃったなぁ」

「お前が悪いんじゃないか」


先輩もそんなはっきり言わないの!

確かに警戒はしてますけど…もう見られているのに隠れるというのも、やっぱり失礼だよな。

そう思い直して何でもなかったかのように立ち上がると先輩の背中から出て来て普通に挨拶をした。


「御機嫌よう、レリオ様」

「はい、おはようさん。君は根がいい子だよな。だから賭けとかに関わっちゃ駄目だぜ」


なんか先手を打たれてしまった。別にそんなことしたいとか1ミリほどしか思ってなかったですから、いいですけどねー。

「ほら、もう座りな」とレリオ様直々に許可も頂いたので、自分がもともと座っていたマルクル先輩の斜め後ろの席に遠慮なく座った。


「それにしたって誰かさんの背中に隠れるのが好きな子だねぇ」

「丁度いいところに壁がありますもので」

「誰が壁だ」


マルクル先輩の睨みからは目を逸らして気づかないフリをする。

代わりにレリオ様が先輩のことを指差して笑ったもので、先輩の睨む視線は直ぐにそっちに移っていった。

それにしても何でバレたんだー?

隠れる前から姿を見られてたとか?それとも目立つ髪色の尻尾でも見えてたかな?

後ろで揺れるポニーテールを手櫛で梳いてから、考えても分からんなと諦めて視線を遠くの方へと飛ばした。

何やら話を続けている2人を横目に私はきょろきょろと視線を彷徨わせてエアリスの姿を探してみるが、見つかりそうにない。


「…誰かお探し?もしかして、我が弟のことかな?」


レリオ様に声を掛けられた私は彷徨っていた視線を、レリオ様の方に集中させる。

ニヤリと笑ってみせたレリオ様は私の言葉を待つよりも先に、ある方向をついっと指差した。


「途中で知り合いを見つけたそうでね。あの辺りで別れてしまった」

「そうでしたか。いえ、でしたらいいんです」


毎朝、挨拶をするのが恒例になっていたものだから姿が見えたら挨拶でもしに行こうかと思っていただけなので特に拘りはない。

知り合いを見つけたそうだし、わざわざ話している場面に突撃するほどの用でもないので後でもいいだろう。


「エアリスのこと気にかけてくれて、ありがとね」


気にかける…というほどエアリスのことを気にしているわけでもないのだが、まぁ仲良くはしているわけだし間違いでもないのかもしれない。

でも、お礼を言われるようなことは何もしてないな。


「いえ、お礼を言われるようなことは何もしておりませんわ」

「いやいや、クラウスに比べればね」


そこでマルクル先輩と比べられても…。先輩にちらりと視線をやってみるが特に否定する気はなさそうだ。

だって先輩、誰が相手でも気を許した人の扱いほど雑ですもんね。


「クラウスも少しくらい俺に優しくてもいいんだぜ」

「だったら今からでも、ごく丁寧に接してやろうか?」

「うーん…やっぱ今更、気持ち悪いからなしで」


気持ち悪いって…。そんなレリオ様の散々な言い分にもマルクル先輩は鼻で笑うだけだった。


「さて、そろそろ始まるだろ。じゃ、あっちで始まるまで楽しみに待ってるわ」


それだけ言うとさっさと離れて行ってしまったレリオ様の背中を見送る。

その背中が遠くなっていくのを見ながら、私は首を傾げてとある疑問を先輩に投げかけた。


「私ってなんでバレたんでしょうか?」

「さぁな」


えー。釈然としないままの私は、また反対に首を傾げてレリオ様の背中が見えなくなるまで眺めていた。

もしかしたら第六感とかが凄く冴えてるタイプなのかも。

クラスの方に顔を出していた皆も、続々と帰ってきたのでまずは魔動祭の開会式を無事に乗り切るためにアンドリ先輩を中心に一致団結した。


まだ開会式は始まっていない。

今のところはまだ学園に入って来た、たくさんの保護者達でてんやわんやしているのでそれがもう少し落ち着けば始まることになるだろう。

生徒たちは一度、生徒専用の観覧席の方で出席の確認がなされた後で今はゲートの方に学年順に集まっている。

1人の教師が来てそろそろ…と言われたのでそれぞれ、立ち上がって自分の役目を全うするために動き出した。

開会式の流れとしては、最初に選手入場から行われることになっている。

総合司会のアンドリ先輩だけは先に運動場の中央ステージに姿を現す。

開会式の挨拶と宣言を行うマルクル先輩は今しばらく待機で、残りの私たちは各学年の入場の先導役を任されていた。

プルーストは4年、リュドミラ先輩が3年、私が2年でイリーナが1年の先導役だ。

こういう行事ごとだと決まって活躍するメガホンのようなものを構えたアンドリ先輩は大きく息を吸い込んで声を張り上げた。


「お集りの皆様方、お待たせいたしました!これより魔動祭の開会式を行います!」


その言葉に保護者の方から盛大な拍手が送られた。

アンドリ先輩はその拍手を優雅に頭を下げて受け取り、徐々に拍手が止んできたところで再び言葉を続ける。


「まずは、今回の主役でもある選手たちの入場です!」


アンドリ先輩の言葉を合図に中央のステージとは別の、特設ステージで準備を進めていた楽団たちによる生演奏が始まった。

前世のようにCDを持ってきて掛ければいいだけとか、そんなお手軽なことは出来ないので本当に楽団をお呼びしての野外コンサート状態で演奏してもらっている。

そもそもの話、オーケストラまで呼ぶなんて贅沢な話だよなぁ。まぁ私としてはBGMはある方が嬉しい。

さてアンドリ先輩の司会に合わせて私たちも動かねばならない。

4年から先に入場を果たすことになっているので、プルーストの先導に4年生がぞろぞろと着いていく。

あ、プルーストが上級生に囲まれて可愛がられてるぞ。良かったね!

この入場は別にきっちりとした行進をする訳ではないので学年と言う大きなまとまりはあっても、歩幅も歩み方も自由で列もばらばら。

なんなら自分の親のいる方に向かって手を振っている生徒がいたりするが、この入場で決まっていることはこれ1つだ。

それは先導役の私たちの後についていき指示に従う、と言うことだけが大雑把に決まっているのでそこだけは守ってくれている。

次は3年。同じ3年生のリュドミラ先輩の先導に従っているのでプルーストの時と違って何だかのんびりとしていた。

3年が出たのなら次は私の番。私が先頭に立って前を進めば、その後をぞろぞろと着いて来る2年生たち。

最後は1年になるわけだが先導をしていた私は、どんな様子か見られなかった。

決まった道を通ってから学年ごとの所定の位置に案内しここで待つように言ってから私は1度、生徒会の天幕まで戻っていった。

中央のステージを囲うように学年ごとに集まる生徒たち。

1年も残った位置に全員が収まるとイリーナも戻って来てアンドリ先輩の司会が続いた。

マルクル先輩の出番はここからだ。アンドリ先輩が開会の挨拶のため生徒会長であるマルクル先輩を呼んだので中央のステージへ上がっていく。その時点で楽団の演奏は一旦、止まっていた。

ステージに上がるまでの一挙手一投足を注目されているというのに、マルクル先輩は涼しい顔をしていて全く緊張が見られない。

凄いなぁ。私はあんなに視線を浴びることはしたくない。

アンドリ先輩の横まで行くとメガホンを受け取り、開会の挨拶が始まった。

私たちはこの後に行うパフォーマンスの最終確認のために4人で話し合っていたので、その挨拶は聞いていなかったのだけれど。

話し合いが終われば開催の宣言に合わせて、ちょっとしたパフォーマンスを行うために今度は運動場の隅の方に向かっていた。

すらすらと台本通りの言葉を紡いでいくマルクル先輩の声を聞きながら、位置につくとそこで待機。

これから行うパフォーマンスとは私たち魔法使いが使う4元素を称える意味で行われている毎年の伝統のようなものだ。

何か難しいことをするわけではない。

事前に決めておいた担当する元素の大きな人型を作ってちょちょいと動かす程度なものだ。

ちなみに私は水担当。

水で人型を作り何もせずそのまま魔法を完結させてしまえば普通は運動場が水浸しになってしまうこと間違いなしなのだが、実は魔法は消すことも可能である。

例えば魔法で水の玉を出したとして、それに魔力を通わせ続けている間は自由に動かせるし量を増やすことも減らすことも可能だ。

その通わせた魔力を妖精に渡したままで、魔力の供給を止めてしまえば水の玉は重力に従って落下し地面に水たまりを作ることになる。そして一度、供給を止めてしまったものを再度操ることは出来ない。

では魔法を消す方法とは、どんなものか。

それは魔力を供給し続け自分の操れる状態にある、妖精たちから逆に魔力を全て返してもらうことで出現した魔法を何もなかったかのように消すことが出来るのだ。

この技術は学生のうちにしっかりと学ぶことなので、しっかりと授業を受けていれば大体の生徒は出来ることだろう。

ただ、魔法の規模が大きくなれば魔法を消すのも容易ではないので少し難しくはある。

まぁ火と風は魔力の供給を止めてしてしまえばそのまま消えてしまうし、水も霧状にして散らしてしまうことも可能なので実質は土の魔法専用の技術となってしまうが。

閑話休題。

マルクル先輩の挨拶も終わり、続いて開会の宣言が行われる。

実際の宣言が行われるまでの前置きにこのパフォーマンスをするわけだが最初はリュドミラ先輩の出番だ。

私から見て右の対角線上にいるリュドミラ先輩が土の大きな巨人を作り力強さを演出する。

お次の私は水の女神を作り、まるで水の中を泳いでいるかのように優雅に舞う。

今度は私の左の対角線上にいるイリーナが風の女神の姿を形作ってくるりと一回り。人の目には風の流れは見えないものなので、見えるようにするためにあれには水の魔法も少しばかり使われている。

水をミスト化させて気流の流れに乗せることで風を視覚で捉えられているのだ。

最後に私の対角にプルーストが、轟々と燃える炎の巨人を出現させると荒々しく吠えているように巨人を動かした。

あの炎の巨人は見た目ほど熱くはないものの、傍にいるものは十分に熱いので私たち女子3人が嫌がった結果プルーストが半ば強制的に引き受けることとなった。ありがとうプルースト!

火の演出がこうして最後なのも、安全などを考慮してのことである。


「これより魔動祭の開会を宣言します」


マルクル先輩の開会の宣言を合図に作り出された巨人と女神たちはそれぞれに動くと空から花びらが、ひらひらと舞い落ちて中央のステージに集まる生徒たちに降り注ぐ。

それと同じく楽団による演奏も再開し、生徒たち保護者からもまたもや盛大な拍手があった。

花びらが落ちてきているのも演出として私たち4人と教師方で魔法を使って降らせている。

この演出も私が1年の頃であれば凄いなぁくらいで考えていたのだが、やる側に回ってみて初めて分かる面倒さ!それにしたって何故、始まりに花吹雪なんだろうね?綺麗だとは思うけどさ。

一通りのパフォーマンスを終えた巨人と女神たちもそれぞれ消えていき、開会式はこれにて終了。

いよいよ魔動祭の第一種目が迎えられると言う訳だ。

開会式が終われば生徒たちは自由に解散して退場していくことだろう。

ちなみに運動場の地面に降り積もった花びらはあとで全て燃やされます。競技に邪魔だからってなんだか勿体ないね。

生徒会としての役目を一旦、終えた私は自分の学年の観覧席に向かった。

いちおう生徒会用の天幕には必ず役員の誰か1人が待機するように、となっているが私の番は午後からだ。

観覧席に近づくにつれ自分のクラスの顔ぶれが見えるようになってくると、友人たちが真っ先に私に気付いて話しかけてきてくれた。

「今日は頑張りましょうね」なんてお互いの健闘を讃え合っていると、ふとエアリスの姿を見つけた。

私は友人たちに断りを入れてからエアリスに声をかける。


「エアリス様。御機嫌よう」

「あ、御機嫌よう。今日はお互い頑張ろうね」

「ええ。お互いに」


挨拶してから直ぐに別れ友人たちの方に戻った。。

まぁ欠かしていなかった毎朝の挨拶を今しに行っただけなので、目的は果たした自分としては満足だ。

さて第一種目である500メートルにはプルーストも出ているので、友人たちと一緒に応援でもしておこうかな。


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