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休み明けも着々と進む魔動祭の準備はもう終盤も間近と言ったところ。

自主的に行われている生徒たちの練習もその盛況ぶりを増している最中、とある一報が友人たちから齎された。

なんとマルクル先輩とレリオ様が魔動祭の競技練習を行うらしい。

だからどうした?というのが私の正直な感想ではあるが、周りの盛り上がりが凄いせいで何も言えないでいる私。

エアリスの時もプルーストの時も実は言われていたことだが、本当にどうしろというのかね?

そして、この後に言われることなんてこうと決まり切っている。


「ご一緒に見に行かれませんか?」


いや、興味ないんだよぉ。

ただ今回は話題の人物が他学年だとあまり姿を見る機会のない4年生ということもあって、皆からの誘いの圧が強い。

私はマルクル先輩とは生徒会で顔合わせてるのだし、そこらへん考慮してくれ…。

その思いが届くことはなく何度も断ったのだが、これは…うん。断り切れそうにないな。

結局は圧に負けてしまって少しだけならと着いていく羽目になってしまった。

生徒会の方へは少し遅れてしまうことになりそうです…。遅れすぎないようにだけは、気を付けます。

友人たちに連れられて運動場に来てみれば、まだ練習は始まっていないようで4年生が複数人集まっている姿だけは確認できた。

その中にマルクル先輩とレリオ様の姿も発見。

魔動祭の練習に関してだがこれは基本的に生徒たちの自主性に任されており、地味に学年ごとの練習の優先度だけが決まっていた。

4年ともなると魔動祭にも慣れたものということで1年に多く練習の機会が与えられるように配慮されるのだ。

そんなわけもあり4年生の練習風景と言うのは、珍しくはあり集まる観衆の人数も一際に多い。

中には偵察も混じっているような気がするが、偵察行為は禁止されていないので特にお咎めはなし。

何故か前の方が空いていたという友人たちによって最前席まであれよあれよと運ばれていき、図らずも誰よりもいい席から練習風景を眺めることになってしまった。

いや、私は後ろでいいって言ったんだよ。これ私を体よく使って友人たちが便乗してるだけだからね?

とにもかくにも、ぼやっと眺めていれば間もなく始まりそうな雰囲気ではある。

そこそこの人数が集まっていて、マルクル先輩がいるとなるとおそらく学年対抗リレーの練習なのだろう。

前世のリレーというとバトンを受け継いでいき最後の走者がゴールテープを切った順番でそれぞれの順位が決まるものだ。

魔動祭のリレーでは走者は指定されたチェックポイントを通過し、そのうえで次の走者と手を打ち合わせることで交代とし最後の走者がゴールテープを切った順番で順位が決まっていく。

昔は魔動祭でもバトンを採用していたのだが…。

こんなルールに変わったのは過去に悪知恵が働くとある馬鹿が要はバトンさえ次に渡せばいいんだろと、改定前の当時のルールを捻くれた拡大解釈をしたせいである。

スタート位置からほとんど動かないままでバトンだけを魔法を使ってどんどん次へ渡していき、なんとそのやり方で見事1位を取ってしまったのだ。

そんなわけ分からんやり方に負けた他の競技参加者からは当然、文句が入るわけで。

それに対処した当時の生徒会がそれぞれの言い分と当時のルールを見比べて、驚いたことにバトンだけを渡していった学年の1位を認めてしまったのである。

そんなもん断固として認めるな!

認められた理由としては、確かにルールの記載として次にバトンを渡し最終的にゴールテープを切った順から順位が決まるとしか書かれていなかったからとか。

辛うじてルールには則っているということで認められたわけだが、果たして則っているのか?

ただ翌年以降はルールの見直しと改定が行われ、今のルールとなったわけだ。

バトンの廃止とチェックポイントの通過、これをルールとして明確に取り入れて以降は特に大きいルール変更は行われていない。

さてさて遠くに見えるレアでもなんでもない、ただの運動着姿のマルクル先輩とレリオ様。

注目の人物と言うこともあって、目立ってはいるがそんなにはしゃぐほどのことはないと思う。

そう思っているのはどうやら私だけのようで、きゃあきゃあと何でか楽しそうな観衆たちに私は置いてけぼりを食らっていた。

まぁ私が盛り上がらなくともオーディエンスは十分に沸いているので安心して練習に励んでください。

そろそろと本格的に始まりそうだな。

一定の距離にそれぞれスタート位置とゴール位置のラインを引くと、スタート側に5人が並ぶ。

これから4年生がやろうとしていることは、魔法を使った一定の距離のおおよそのタイムを計ろうとしているのだと思う。

リレーの順番を決めるためにそれぞれの速さがどれほどのものか把握しておくのは大事なことだ。

5人並んでから適当な合図で一斉にスタートを決める。流石4年生だけあって総じて早い。

それまで小さな盛り上がりだった観衆がより大きな盛り上がりを見せたのは、本命のマルクル先輩とレリオ様の出番が来てからのこと。

先輩とレリオ様以外にも3人スタートに並ぶと同様に合図があって一斉に地を蹴った。

そこまでは誰も変わらなかったと思う。

ただマルクル先輩が地を蹴った後、まるで地面を滑るようにしてあっという間にゴールラインを越えて1位になっていた。

圧倒的な1位、かと思いきや予想外にもそれに迫る者が1人。

なんとレリオ様がマルクル先輩の直ぐ後にゴールラインを越えて2位の座に収まっていた。

他の人たちもそれに遅れる形でゴールを果たしていたのだが、盛り上がりの最高潮はやはり先輩とレリオ様がゴールした時点で迎えている。

わぁうるさーい。騒ぎの中心に居るおかげで、よりうるさーい。

走っているわけでもないので汗をかくはずもなく、涼しい様子の2人は他の人がゴールするまでを待つ余裕すら見せていた。

これは学年対抗リレーの勝者はもう4年で決定だろう。これに勝つのは相当、至難の業では?

そろそろと生徒会の方へ行かなければ。いちおう友人たちの本命は見届けたわけだし、もういいだろ。

そう考えていると隣にいたマルクル先輩と話していたはずのレリオ様が、急なファンサービスか何かでこっちの観衆に向けて手を振った。

それに呼応するかのように乙女な声ではしゃぐファンたち。

更にはマルクル先輩を引きずって、こっちに近づいて来るものだから乙女たちの黄色い声はより高さを増していく。

まだ高くなるのか…彼女たちの声帯はすごいな。

私は友人たちが落ち着いてくれないと声をかけることが出来ないので、少しばかり困っていた。

ある程度の距離まで来ると、レリオ様は声を張り上げる


「おーい。ラファエラ・マルティネスー。こっちおいでー」

「…」


まさかのお呼び出し、だと!

思わず無言で固まってしまった私と対照的に周りは、さっきまでとは少し違う意味合いのはしゃぎ方をしていた。

彼女たち盛り上がれるなら、もう何でもいいんじゃないかな?

名指しで呼ばれたからには無視するわけにもいかず、周りを囲んでいた友人たちにまで「お呼びですわよ」「行ってらして」と猛烈に推されたので「では、行ってまいりますね」と渋々進み出た。


「お疲れ様でございました。それで、私に何か御用でしょうか?」

「まぁ、ね。それで俺が紹介したショコラ店は気に入ってくれた?」


ぅわーん!やっぱりバレてたよぉ!

なんとなく呼び出された瞬間からそんな気はしてたけど、案の定だよ!

ここからだと普通に話している私たちの声は聞こえないにしても答え辛い質問だ。

私が答えあぐねていると先にマルクル先輩がレリオ様の頭を鷲掴んでギリギリと力を込めていく。

腕に血管の筋が浮いていることから相当な力が込められているように見受けられた。


「あたたたたたっ、ちょまった!ごめんって!」

「生徒会の方に戻らなくていいのか?」


その状態で冷静に私に話しかけるマルクル先輩に声には出さずとも混乱していた。

いきなり何故、そんな暴挙に!私の背中側、観衆からの視線が非常に痛いのですが!


「ま、まぁまぁその辺で。その…レリオ様、大変おいしゅうございました。ありがとうございます」

「…はぁ」


そこで先輩はため息一つ吐いてからレリオ様の頭から手を離したので、レリオ様はようやく解放された自分の頭を手でさすっていた。


「はー痛かった。ていうか、やっぱそうだったんだ」

「…あれ?」


マルクル先輩が哀れと言わんばかりにこっちを見て来るんですけど!やっぱ、ってなに!

もしかしなくともカマかけられましたか、これ!


「ごめんね。こいつ何にも言わないからさ、引っかけるような真似しちゃった」

「あ、はい。いえ、大丈夫です…」


大丈夫ではない。何も大丈夫ではないけれど、なんでかなー…。

マルクル先輩、何聞かれても口割らなかったんだなー。ていうことは私が確信的なことを言ってしまうまでは、疑惑の域を出なかったわけだ。

先輩もこんな場面じゃ、私に口を滑らさないよう言うことも出来ないだろうし…。

そういえば戻らなくていいのかって言ってくれてたなぁ。

悲しい。今の私は、非常に情けない気分でいっぱいです…。


「お前は嘘のつけん奴だな」

「…誉め言葉として受け取っておきます」


嘘なんて本当なら、あんまりつかない方がいいんだからな!だから正直者の私はめげない、挫けない!

責める気はないですけど、それにしたってマルクル先輩の回避方法も物理的すぎませんか?

そこはもうちょっと、なんとかしてほしかった…。


「気に入ってくれたんなら良かった。こいつなんか、助かったーの一言しか言わないんだぜ。後はもうだんまり決め込みやがってよ」


流石マルクル先輩。礼の尽くし方がシンプルすぎる。これを流石と言っていいものかどうかは迷うところだ。


「あと、あの時に話しかけちゃったのも邪魔したよなぁって。それも謝りたかったんだ」

「いえ、邪魔などと…本当に助かりました」


あれは本当に助かった。それはマルクル先輩も言っていた通りだ。

レリオ様が紹介してくれたお店があったからこそ先輩のお宝を見つけることが出来たと言っても過言ではない。

あれが無かったら本当に見つけられていたか、どうか…。


「いやいや。だって、ねぇ…」


うんうん。この際もう、勘違いされ誤解をされていることに関しては目を瞑ろうではないか。

後のことは先輩が私よりもうまくやってくれますとも。なので私はこれだけ言っておこう。


「本当に気になさらないで下さいまし。レリオ様のお陰で決まったようなものですから。それに私こそショコラ店の方では遠慮なくご馳走になりましたので」

「あぁ、うん。それは俺が言ったことだし」


ショコラは本当に美味しかった。なんならお土産のクッキーもしっかりと美味しかった。

そうだ。先輩にもティースプーンのことでお礼を言っといた方がいいのかな?でも今これ言うと面倒になるだろうしなぁ…。

マルクル先輩の方に視線をやってみるが、やっぱりこの状況で言うのは躊躇われる。


「何だ」

「…いえ、もう戻りますわね。マルクル様、後のことはよろしくお願いいたします」

「分かった」


こう言っておけば後は先輩がどうにかしてくれると私は信じている。

あくまで私は先輩の用事に巻き込まれただ。それを必死に私が弁解するよりも、マルクル先輩がバッサリあっさりと切って捨ててくれる方が効果があるはず。

私はレリオ様にも、もう戻らなければならないことを告げれば「引き留めてごめんね」と割とあっさりと解放してくれた。

軽く頭を下げてから2人のもとを離れまずは友人たちの方に一度、戻る。

生徒会の方へ行かねばならないと訳を話せば友人たちからの追及の手からも逃れられて一石二鳥だ。

急いで運動場から学園へととんぼ返りし、階段を上って生徒会室に着いた頃には予定の時間からは大分過ぎてしまっていた。


「遅れてしまってすみません!」


入って早々に謝罪をしながら入っていけば、中にいたアンドリ先輩が軽く手を振った。

中には他にもリュドミラ先輩とプルーストの姿も見える。


「だいじょーぶ。だけど思ってるより遅かったから、ちょっと心配したかなー」


やっぱり!

今日の私は遅れるような予定は入っていないので、いつも通りに来るのであれば早くについていなければおかしい。

なんてったって私は来るのがいつも早いからね!

やはり友人たちに捕まるべきではなかったな。あれがなければ私が口を滑らすこともなかったのに。


「少し友人たちに付き合わされまして…」

「もしかしてクラウスの練習風景でも見に行こうって誘われたー?」


やっぱあの風景って恒例行事みたいなものなのだろうか。あれだけ人も多かったしなぁ。


「そうなんですよ。断り切れなくて…」

「やっぱり!で、どうだったー?」

「どう…人が多かったです」

「そっちかー…」


そっち、とは。

逆にそこ以外の感想は特にないですよ。ただひたすらに周りがうるさい。

あとはレリオ様が意外に早かった、とか?学年対抗リレーの1位は安泰ですよ、良かったですねアンドリ先輩。


「まぁ私の可愛い子に、何もなくてよかったわぁ」

「ご心配おかけしました」


リュドミラ先輩にも心配かけてしまったなぁ。

何だかまだ言い足りない様子のアンドリ先輩ではあったが、リュドミラ先輩が無言で見つめていたのでそれ以上に何か言ってくることはなかった。

唯一、私が来たのを迎えてからは一度も雑務を処理する手を止めていなかったプルーストに気になって聞いてみる。


「ねぇ、何がそっちなのか分かる?」

「ん?んー、気にしなくてもいいんじゃないかな」


あ、プルーストが珍しく有耶無耶にした。こうなると、何も教えてくれないんだよ。

諦めて鞄を机に置くと、私も遅れた分を手伝うためにプルーストの机に積まれていた山から適当に雑務を取っていった。


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