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私が1つめを食べ終わらないうちに、マルクル先輩はぺろりと2つも平らげてしまう。

どうしても一口が小さい私では食べるのに時間がかかってしまって、苦労しながら食べ終えた頃にはお腹もいっぱいになっていた。

暫くは食べなくていいかな。でも、美味しかったから必ずまた食べよう。

今、動くのが苦しい私に合わせてここで食休憩をしていくことに。そこでもっぱら話題になったのは、やはりアンドリ先輩からの頼まれごとについてだった。


「もう、あの屋台の無料引き換え券とかでよくないですか?」

「いきなり適当になったな」


それだけは先輩に言われたくない。先輩が何も考えてない分、私が考えてるんだからな!

それに、ほら。こういうものを食べる人って案外、少ないかもしれないし。

その珍しさが喜ばれたりするかもしれませんよ?知りませんけど。

冗談はさておき、あのお宝が匿名であればそれでも良かったのかもしれないが生憎と誰からのものであるかは明示されるらしい。これは明示しなければならない、という方が正しいのだが。

さておき誰が用意したものか分かるのに適当なものを選んでしまうのも、それはそれで問題がある。


「そういうお前はもう決めたのか?」

「私ですか?私は行きつけのスイーツショップのギフトカードとかにしようと思ってますけど…先輩って行きつけとかあります?」


そこで先輩は黙ってしまったので、ないんだなぁとは直ぐに察することが出来た。

物欲がないのか、はたまた欲自体が薄いのか。

それはどちらでも構わないのだけれど、何も思いつかないらしい先輩に私は何を薦めればいいものか。

うーん、そうだな…。


「とりあえず私の行きつけから、いくつか紹介しましょうか?」

「頼む」


もしやしなくとも、それ頼りだったな?

先輩は私が紹介するのを待っているようで、頬杖までついている。なんて、不遜な態度かしら。


「ここらへんで探すのであればアクセサリーかスイーツの、どちらかが無難かと思いますけど…どちらがいいですか?」

「どっちでも」


考える気が全く見受けられない即答ぶりに私は眉間に皺を寄せた。

全部、私任せにするつもりかこの人!そうはさせんぞ!


「今の私に決めさせると、とてもマイナーでニッチなお店に決定します」

「…例えば?」

「効能の程がよく分からない東洋から持ってきたらしい漢方薬を売るお店か、嘘か真か古今東西の様々な呪物を扱っているという骨董店です」

「よし悪かった。俺も考えよう」


流石にそれはまずいと思ったらしい先輩が態勢を改めた。分かってくれれば、それでいいんです。

私の今のチョイスは、おそらく誰が持ってきてもいい顔はされないだろうことを分かって選んだものなので先輩がそう思うのも仕方ない。


「ところで、その店はどこで知った」

「…たまたまです。たまたま」


これは本当。

そもそもこれは立派な店を構えているわけではなく、路上で売られていたのを本当にたまたま見かけただけ。

それを見かけたのもここら辺ではないので、その店がまだ同じ場所に存在しているのかどうかすら怪しいくらいだ。

当然、見ただけで買ってもいない。

急を要するほど病に臥せている知り合いもいなければ、誰かを呪いたいとも考えていなかったので素通りしてしまった。

立てかけられていた看板に今、紹介した内容が書かれていたものだから印象的過ぎて覚えていただけだ。


「もう二度と行くなよ」

「ええ、そうします」


もう見かけることもないと思うので、そこは安心してください。


「これは。何処で買ったんだ?」


先輩はそう言って私が今日、着けて来たヘアピンに触れるか触れないかのところまで手を近づけた。


「これですか…。生前に母が愛用していたものだそうです。父から私へと記念日に渡してくれまして、何処のものなのか父に聞いてみたんですけど父も知らないそうで…」

「そうだったか。それは…惜しいな」


先輩の言葉に私も無言で頷いた。手を引っ込めた先輩に代わって、自分でヘアピンに触れる。

このヘアピンに派手さはなく銀一色ではあるものの、非常に細やかな飾りがついており細部に至るまでの精巧で丁寧な作りは誰か匠の手によって生み出されたのであろうことがよくわかる一品となっていた。

私もこれは特にお気に入りのもので、何処のお店で作られたものか分かれば是非とも通いたいくらいなのだが父も知らないのでは探すのも難しい。

それにこれまで、これに似た作りのアクセサリーは一度も見たことがなかった。

だから分からないことが、とても惜しいと思う。


「そろそろ動きましょうか。まずは私の紹介出来るところから回っていきましょう」

「そうだな」


食休憩なら十分に取れた。

ここで座ったままでは何もならないので、ひとまず広場から出ていくことにする。

この通りからだとやはり飲食に関わるものが多いので、そっちから見ていく方が早いかな。

ゴミを屋台の近くにあったゴミ箱にしっかりと捨ててから、ここから1番近くにあるお店までの道を脳内に描いた。

私の行きつけを回りながらも、やはりなかなか決まらないでいる。

何もしないのに店のものを物色だけして出ていくのも、どうかと思い基本的にウィンドウショッピングで済ませているのがいけないのだろうか。

先輩がヘアピンに言及したこともあったので、アクセサリーショップやジュエリーショップにも行ってみたのだがどうもしっくりこない。

やっぱり私の紹介できるところだと、客層が女の子に偏り過ぎているのが原因ではないかと思われる。

そういうお店は総じて先輩に合わないんだよなぁ。次はどうしようかと、邪魔にならないよう端に寄ってそこで立ち往生。


「私の分は回っているうちに先に決まっちゃいましたけど、先輩はどうしましょうかねぇ」


私の行きつけを回っているのだから問題なく私は決まってしまったが、やはり問題は先輩の方だったか。


「前に連れて行ってもらった、あのジュエリーショップはダメなんですか?」

「あそこは、こういうことは引き受けない」

「そうですかー…でしたら、あのコーヒー専門にしてる喫茶店は?先輩も気に入ってるでしょう?」

「…個人的には、あまり広めたくないな」


先輩は穴場を穴場のままにしておきたいタイプでしたか。私もそうだから、これ以上に強くは薦めなかった。

こうなると本格的に手詰まりだろうか。

マルクル先輩のご家族の行きつけがここら辺に集結しているわけもなく、先輩自身も特に行きつけはなし。

私もそこまでいっぱい紹介出来るほどお店を知っているわけでもないので、もう底をつきかけていた。

闇雲に探していては今日中に見つけることが難しくなってしまう…本当にどうしたものか。

もう先輩にお店が似合ってなくとも、何かは繕えばいいか。

女の子御用達のお店であれば、女の子は喜ぶこと間違いないしで男の子は好きな相手へのプレゼントとかに使えていいんじゃないかな?

私は先輩にそう提案しようと先輩に視線を向けたところで私たち、というよりも先輩に声がかかった。


「お、クラウスはっけーん」


その声には聞き覚えがあった。

私は咄嗟に日傘をより下げて相手が私の顔を見えないようにする。

私からも相手が誰なのか詳しく見ることはできなが、下に視線を向ければ先輩に近づいて来る上等な靴を履いた足元だけを見ることが出来た。


「いるとは思ってたが、本当にいたとは」


より近くで鮮明に聞こえるようになった声が、今そこに居る足の正体がレリオ・キングストンであることを教えてくれた。


「お前が俺との用事断って女の子とデートするっつーから、気になって探してたんだよ」

「俺の言ったことが曲解されているな。そもそも、そんなことで探すな」


デートじゃないです!どちらかと言えば先輩のお守に近い、と思う。

それに本当にそんなことで探さないで下さいよ。暇なんですか?


「兄がすみません。いちおう止めたんですけど…」


どうやらレリオ様の後ろにはエアリスもついて来ているらしい。

姿は見えないが聞こえて来た声に、私はじりじりと先輩の背中に姿を隠していった。

一度、隠してしまった手前バレると面倒だ。私のことは、どうか忘れてくれますように!

先輩の背後に完全に回ってしまえばそう簡単に顔を見られることもないだろう。


「だって面白そうじゃん。あのクラウスと付き合えるとか凄くね?」

「お前も大概、失礼な奴だな」

「貶す意味はねぇよ?お前がいろんな意味で凄いやつだって言いたいだけだから」


付き合ってもないですぅ!誰か助けて…このままではいろんな誤解が生まれそうだ。

余計にバレてはいけないという使命感だけが強くなっていく。


「で、どんなご令嬢を引っかけたんだ?」


ぬわー!先輩の後ろで限りなく気配を消していたはずなのに!お願いだからこっちに話は振らないで!

喋っては一発でバレてしまう私は先輩の服を引っ張って、代わりに答えてくれるように頼む。

その意図を察してくれたのか先輩は私の正体については明言は避けて適当にぼかしてくれた。


「…恥ずかしがりな奴でな。あまり注目しないでやってくれ」


先輩ありがとう!そして、このまま2人と別れを告げるんだ!早々に戦線離脱の許可をっ!


「ふーん…分かった。じゃ、どんなデートしてたかくらいは教えてくれよ?」

「エヴラールの頼まれごとに付き合ってもらってるだけだ」

「あぁ、なんだ用件は俺と一緒なのか」


どうやらレリオ様にも頼んでいるらしい。いろんな人の協力を得たとか言っていたし、レリオ様に頼んでいても不思議はないか。


「エアリスも頼まれたらしいから、ついでに連れて来たんだよ」

「僕としては巻き込まれただけなんだけどね…」


エアリス様もとは、いつの間に!アンドリ先輩の行動力の速さには毎度、驚かされる。


「そんで、もう決めたの?」

「いや、まだだな」


そうなんです、まだなんですよ。先輩に合うものを探そうとすればするほど分からなくなってきまして。

心の中でだけ言葉を返しておく。


「ほーん。悩んでんなら、いいとこ紹介しようか?」


お、レリオ様のお薦めのお店!それなら先輩にも合うこと間違いなし、アンドリ先輩が考えるお宝としても十分じゃないか。

これは正に渡りに船!先輩の背中に「うけろ」と何度も書いたのだが、正確に伝わったかな?


「…頼めるか?」


よーし、ちゃんと通じたようだな。

レリオ様は快くいくつのお店を紹介してくれる。

知っていたが言ったことのないお店やもとから知らなかったお店を教えてもらい、これであれば良さそうなものを確実に見つけられると確信が持つことが出来た。

その中でも最後に教えられていたショコラ店の話は私も聞き入る。

ここの通りとはまた違うところに新しくショコラ店が出来たそうで、味は確かだとレリオ様からの太鼓判を押されていた。なにそれ、行きたい!

先輩はレリオ様から聞かされた全てのお店までの道のりを暗記している最中だ。


「んで、そっちに出たら直ぐ見つけられっから。そこは食べれるスペースもあるし先に行ってみ」

「すまないな、助かった」


やったー!早速、行ってみましょー!

私は美味しいショコラにありつけそうな喜びと先輩の分も目途がつきそうなことに思わず上機嫌だ。

帰る途中だったらしい兄弟は、護衛に着いていたのだろう誰かに促されてそろそろこの場を去りそうでもある。

無事に乗り切れたし、食べたかったハンバーガーも食べれて美味しいショコラにもありつけるらしい今日はとてもいい日な気がしてきた。


「そんじゃあ…」


もう去っていくのだろうことと、日傘と先輩の背後にいることもあって正体がバレることはないと今の私は完全に油断していた。

ばっと屈んで日傘の下を見て来たレリオ様の視線と明らか目が合ってしまってから、慌てて目を逸らす。

いや目は合ったけど一瞬だし、大丈夫。だいじょーぶ!それよりも先輩は私のことをちゃんと守ってくださいよ!


「あー…成程?」

「遊んでやるな。あと言い触らすなよ」

「ぇー…まぁ、今はやめとくか。なんか、ごめんね」


最後の謝罪は私に向けられてのものだったが、私は何も答えないままさらに日傘の下に隠れるだけだった。

先輩が釘を刺しておいてくれたら、大丈夫だと思うけど今からエアリスにまでバレるのは非常に面倒!


「ちょっと兄さん!何してるの!」

「あいあい、これは兄ちゃんが悪かったから怒んないで。お詫びと言っちゃあなんだけど、最後に教えたショコラ店の店主とは知り合いだから俺の名前つかってくれ。そこで食った分、俺にツケといてくれていいから」


私は先輩の背中をぺしぺしと叩いた。これは提案を受けとけ、という意味と理不尽な腹いせの意味が込められている。


「…分かった。そうさせてもらおう」


よし。これでレリオ様の奢り確定か。悪くないお詫びだったので許そうではないか。


「じゃ、話はまた聞かせてもらうわー」

「ちょっと、兄さん!背中押さないでよ!あの、兄がご迷惑おかけしました!」


エアリスからの謝罪を聞き入れながら、私は視界が限りなく遮断された状態で兄弟が去っていく足音に耳を澄ませていた。


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