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確かに朝から大変ではあったが思い返してみれば、そこまででもなかった気がする。

屋敷に帰ってから一通りのことを済ませ、寝る前の少しばかり何もない時間にベッドの上に寝転がりながらエアリス様から頂いた押し花を見ていた。

本当によく出来てるなぁ。

今度の休みに、これに合うフォトフレームを探しに行こう。

せっかく厚紙に綺麗に貼られていて飾れるようになっているのだから、封筒に入れたままでは勿体ない。

それと明日にでも感想を伝えられたらいいと思う。出来れば直接、言いたいものだ。

それにしても、こんなに綺麗に押し花を作る方法があるとは知らなかった。

ちょっと興味が湧いてきたので明日、図書室にでも行って来よう。調べれば、見つけられるだろうか?

明日のことをいろいろと考えながら一旦、起き上がってから机の上に封筒に戻した押し花を置く。

今日はもう寝てしまおうと燭台の明かりだけを残して部屋の明かりを消してしまう。ベッドの傍に戻ってから燭台の明かりも消してしまえば真っ暗になった部屋で手探りで布団の中にもぐりこんだ。

なんだか今日はいい夢が見られそうだ。


その夜、本当に夢を見た。

友人とのメッセージのやり取りをしているうちに、また夜更かしをしてしまったようで。

見るとはなしに流れているテレビに目をやる。

1人の男の子に複数の女の子が一緒に出掛けている場面が流れていた。

話を聞いていると、どうやら女の子たちは皆その1人の男の子のことが好きらしいことが分かった。

すげーな主人公。

これがハーレムってやつなんだろう。前に乙女ゲーム好きの友人から逆ハーレムなるものを聞いたから知っている。

なんとなく眺めていただけなので全部、見終わる前に眠気に負けて…私は目を覚ました。

またか。また、これなのか。

夢の中で寝たと思ったら現実で起きる感覚は何度、経験しても惜しいような気分を私に味合わせる。

それにしても特にいい夢ではなかったなぁ。まぁ悪い夢でなかっただけ良しとしよう。

惜しい気分を忘れるために私もベッドから起き上がった。


学園に来て、朝からエアリス様が来るのを待ちわびている。

2日目なのでいつ来るのかはまだ定かではない。

そのため教室の扉に少し意識を割きながらも友人たちとのお喋りに相槌を打っていた。

時間も半ばに差し掛かった頃にやっと、やって来たエアリス様はクラスの皆から挨拶を受けている。

私が挨拶をしないわけにはいかないだろう。ついでに昨日のお礼を言ってしまおうと友人たちに断りを入れ席から立ち上がった。


「エアリス様、御機嫌よう」

「御機嫌よう」


私の挨拶に合わせて返してくれたエアリス様に淑女然とした微笑みを浮かべる。

それにしても何故、挨拶をしに来ただけで他の生徒たちは少し距離をとるのかな?

変に囲われる形になってしまったが構わずに私はもう一つの用事の方も済ませてしまうことにした。


「昨日はとても素敵なものを頂きまして、有難うございます」

「あ、気づいてくれたの?」


エアリス様は少しいたずらっ子のように楽し気に笑った。


「えぇ本当に嬉しかったんですのよ」

「そう?それなら良かった。少し自信がなかったんだ」


そっか、そっかー。…ここまでしておいてなんだが少し後悔している。

周りを囲まれている分、周りからの視線が私たちに集中している。

朝の時間ということもあって、ここで手短に済ませてしまおうと考えてしまった私の間違いだった。

私としてはお礼を言っただけなのだし、変に誤解されてないといいけれど。

エアリス様も注目されていることが分かっているらしく、少し困った風に笑っていた。


「では、また何か御座いましたら遠慮せずに私のことを頼ってくださいませ」

「うん、ありがとう。また、ね」


少し急な切り上げ方ではあったが、エアリス様も私の意図を汲んで今は別れることになった。

こう注目されていては普通に話すのも難しい。

自分の席に戻ると私は友人たちに何を話していたのかを聞かれたが、適当に誤魔化しておく。

エアリス様の方を盗み見れば、彼の今の状況も私と似たようなものだった。

きゃあきゃあと声高にはしゃぐ乙女たちに気圧されながらも、とりあえず誤解のないようにだけ私は答えることしか出来なかった。

果たして彼女たちに私の言葉が正確に届いているものかどうか…。問題ないと思いたい。


今日1日騒がれていたおかげで朝以来、エアリス様とは縁がない。

幸いなことに移動教室があってもエアリス様の友人が彼と一緒に移動してくれていたので、私の出る幕はなかった。

このまま何もなく風化してくれることを願う。

私の心情的にも、そう簡単にエアリス様と距離を置こうなどとは思っていないのだがやはり私では些か荷が重いのではないだろうか。

これで私も同性であったならば気兼ねなく話せたものを朝、挨拶ついでに少し話しただけでこれだ。

そもそも人が話している所をそんな見るもんじゃありません!

とは口に出来ないまま心の中で訴えるだけに留めて、あっという間に放課後になっていた。

鞄に筆記用具なんかを片付けながら、エアリス様の方を窺い見る。挨拶だけでもしていきたかったのだが、朝の一件があって地味に近寄りにくい。

仕方ない。今日は諦めて、またどこかでタイミングが合えば挨拶を出来る日もあるだろう。

留め具をして鞄を持つと「御機嫌よう」と友人たちに挨拶をしてから教室を出た。

目的は生徒会室、ではなく図書室だ。

本当は昼休憩に行こうと思っていたのだが、友人から何かと聞かれたおかげで行くことが難しかった。

生徒会へは少し遅れてしまうが、図書室へ少し寄る程度であれば問題ない。

今の時期は定期考査が終わったこともあって人自体の利用が少なくなっている。自然、図書室までの道のりも人は少なくなっていた。

もう少しで図書室へ、というところで後ろから私を呼び止める声が聞こえて振り返る。


「待って!」


そこにはハニーブロンドの髪を揺らしながら走ってくるエアリス様の姿を見つけた。

少し遠くに見えた姿も走っているだけあって、直ぐに距離は縮まっていく。

私の傍まで来ると酸素不足の体に酸素を回そうと数回、深呼吸を繰り返してからエアリス様は眉を下げて笑った。


「ごめん、追ってきちゃった」


申し訳なさそうな、その表情に私も同じように笑い返してエアリス様に正面を向ける。


「いえ、私の方こそ追わせてしまうようなことをしてしまってごめんなさい。声を掛ければよかった」

「僕の方こそ、何だか気を遣わせちゃったみたいでごめん。少し話がしたくて」


話、というとやはり朝の一件だろうか。

ならば廊下で話すよりも、今から行こうとしていた図書室の方が座れるようになっているので都合がいいだろう。


「分かったわ。ここじゃなんだから、図書室に入りましょう」


私が先に入って、カウンターを見れば珍しく誰も座っていないようだ。

今は私たち以外、無人の状態らしい図書室の方が話しやすくていいかと奥の席に向かい入って来ただけでは見えない位置に私たちは向かい合って座る。

座ってから先に口を開いたのはエアリス様だった。


「朝は何だか変な空気になっちゃったから、それを謝りたかったんだ」

「あれは私が迂闊だったのよ。だから、謝らないで。私もあれから、何だか避けている風になってしまったし…ごめんなさい」


私が軽く頭を下げると、エアリス様は慌てて私の肩にそっと手を添える。


「そんな、僕も気にしてないから!」


手に押される形で頭を上げればエアリス様の表情は本当に心苦しそうで、これではお互い謝り倒しになってしまいそうだ。

それは不毛だなぁ。

窺うような視線は止めてしっかりと顔を上げるとエアリス様に視線を合わせた。


「じゃあ、こうしましょう!朝のことはお互いに悪くないということで、もう気にしないこと。これ以上、謝るのもなし。それでどうかしら?」


謝罪ならば初めに彼が駆けてきてくれた時に貰っている。これ以上は必要ない。

それに、あれは私の落ち度だと思っているが相手も同じような考えを持っているのだから、お互い謝っても居た堪れない気持ちになってしまう。

であれば、いっそのことお互いが悪くないのだということにしてしまえばいい。

私たちがどちらも悪くないのは本当なのだから、それを気にしたところで何の得にもならないのだから。


「そう、だね。うん、僕たち悪いことした訳じゃないし」

「そうよ!だから周りのことなんて気にしないの!それよりも、私はもう一度お礼を言わせてほしいわ。本当に嬉しかったんだから、ありがとう」

「本当?よかったぁ」


今は屋敷の自室、机の上に置かれている封筒に入った押し花を思い出す。


「あれって押し花よね?あんなに綺麗に出来るものなのね!すごいわ!」

「あはは、僕もメイドに教えてもらって初めて知ったんだ。でも少し手伝っただけで、あとは他の人が綺麗に作ってくれたから…」

「それでも、すごいわ。それにあれを作るために1枚だけじゃなくて、もっといっぱい集めてくれたんでしょ?」

「うん、まぁ…。やっぱりちょっと恥ずかしいや」


話を掘り下げていくうちに頬を朱に染めて照れているエアリス様の様子が、なんだか可愛らしくてクスクスと笑ってしまった。

そんな私を非難の意味を込めて見てくるので「ごめんなさい」と笑いながら返せば、むくれた様子でそっぽを向くので余計笑えてきてしまう。

そっぽをむいた視線から、そのまま本棚に視線を移しぐるりと見回すともう機嫌が直ったのか私に普通の笑顔を見せた。


「ねぇここは図書室なんだよね?見て回ってもいい?」

「だったら、司書に案内を頼みましょう。その方が分かりやすいでしょ」

「じゃあお願いしようかな」


私の場合は案内できるほど詳しくはないので席を立ってカウンターの方を見やれば、今度こそ学生司書のエレナ・メルメが座って本を読んでいる姿を見つけることが出来た。

良ければ彼女に頼めないだろうか。

それを聞くために近寄っていけば彼女は私に気付いて仄かに笑み浮かべた。


「マルティネス様。この時間帯にいらっしゃるのは珍しいですね」

「昼に時間が取れなくて…ねぇ少し案内を頼めないかしら?」

「案内、ですか?」


定期的に通い詰めている私から案内を頼まれたことに疑問を感じたメルメは、首を傾げて私を見上げる。


「えぇ、私じゃなくて彼の、なのだけれど」


そこで私の背後、少し遠くで本に気を取られているエアリス様の姿をメルメに見せれば彼女は重い前髪越しでも分かりやすく驚いている様子を見せた。


「ママママママルティネスさまっあのかたははわは…」

「少し驚きすぎです。落ち着いて」


いや少しどころじゃない尋常な驚き方をしているが大丈夫か?

読んでいた本から手を離して口元に手を当てるメルメだが隙間から声らしき何かが漏れている。

大丈夫?口から心臓とか出てこないよね?

心配にはなったが、とりあえずエアリス様を呼び寄せて彼女のことを紹介した。


「こちら、学生司書をやっていらっしゃるエレナ・メルメ様です。なんと私たちと同じ2年生なんですよ」

「正確には司書の真似事といいますか…」


小さな声で訂正を入れるメルメだが、十分に胸を張っていいことだと思う。

私の思いと同じ感想を抱いたらしいエアリス様がメルメに輝かしい笑顔を向けた。


「すごいね!うん、是非とも君に案内してほしいんだけど…どうかな?」

「ぁ、はっはい!わた、私で、よければ…」


エアリス様が相手で極度に緊張しているようではあったが、引き受けてはくれるようで安心した。


「あの、マルティネス様も…」

「ごめんなさい。本を借りに来たのだけれど、もう行かなくちゃいけなくて。エアリス様のことをお任せしていいかしら?」

「ぁぅ、あ、…はい…」


メルメには悪いが借りたかった本はまた今度でも構わないし今は生徒会の方を優先したかった。

当初の目的も果たせずに何をしに来たんだ、と言われてしまえばその通りなのだが。

まぁエアリス様との話し合いと引き換えと考えれば、なんとなくいいかと思えた。

エアリス様にも断りを入れれば「分かった。生徒会頑張ってね」と激励を頂いてしまったので図書室を出て生徒会室まで早歩きで向かう。

まだ少し人目が多いため迂闊に走ることは出来ない。

ノックもおざなりに生徒会室の扉を開けば、もう私以外の皆が揃って業務に手を付けていた。


「すいません。遅れてしまって」

「構わないが、何かあったか?」


事前連絡もなしに遅れてしまったせいで、心配をかけてしまったらしくマルクル先輩に訳を聞かれる。


「いえ、ただエアリス様と少し話してまして」

「順調に仲良くなってるねー」


アンドリ先輩が私を揶揄うためか口を挟んできたが、隣に座っていたリュドミラ先輩に即座に止められていた。

流石です、リュドミラお姉様!

鞄を置きながら「今度からは、ちゃんと事前に連絡しますね」とマルクル先輩に言えば、何故か返事が返ってこない。


「マルクル先輩?」

「…いや、次からは気を付けろ」


名前を呼んで、やっと反応があったことに私は首を傾げた。

なんだか先輩の様子が昨日からおかしいような…。

訳を聞く前に先輩は業務に戻ってしまったので、私も遅れた分を取り戻すために席に座った。


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