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全員が揃ったところでまだ今日は始まったばかりではあるが、本日のメインイベントでも王族からの編入生を迎えるために詳しい話を聞かされた。

朝の早い時間ということもあってイリーナはまだ少し眠そうに目を擦っていたが、じきに目も覚めて来ることだろう。


「最初は応接室の方にお連れすることになっている。迎え役の俺とマルティネス以外はそっちにいてくれ」


マルクル先輩の話を全員が黙って聞いていた。


「そこで所属クラスの決定と学校紹介を兼ねて軽い説明を行った後は1時間目が始まるまで、待機になる」


どうやら1時間目を臨時集会として全学年の生徒を講堂に集め、そこで一斉にお披露目を行うようだ。

残った時間は各クラス自習となるか、もしくは編入生が入るクラスであれば編入生との交流の場に使われることになるだろう。


「臨時集会の間、何かすることはありますか?」

「今回は特に必要ない。後ろで控えてくれているだけで大丈夫だ」

「お茶の用意はした方がいいかしらぁ?」

「ああ、そうだな。2人分頼む」

「なんだ2人かー。だったら違うかなぁ」


ここに来て初めての解禁情報が人数だったのだが、もう答えが目の前に迫っていることもあって誰もそこまで大きく反応することはなかった。

ただ私はソフィーとの、あの一件でなんとなくエアリス様が来るのではないだろうかと考えていたので人数が分かったことで自ずともう1人にも見当がついてしまった。


「誰予想だったんだ?」

「あの目立ちたがり屋だよ。ナルシストの」

「あれか」


アンドリ先輩予想の来ないであろう1人のことを、マルクル先輩とアンドリ先輩の2人で少し駄弁っているうちに窓の外で鳥の高く鳴く声が聞こえてマルクル先輩がその話を打ち切った。


「待たせる訳にもいかんから、もう行くか。あと頼んだ」

「はいよー。歓迎の言葉でも考えて待ってるわー」


マルクル先輩が行くというのなら私もそれについていかなければおかしいだろう。

残る皆に見送られ生徒会室を出れば、人目を避けた道から階段を降りっていった。

今回は表門ではなく裏門の方へ向かう。

こちらは普段、使われることはなく非常時かもしくは外部からの人が多く来る場合でのみ開かれることになっている。

誰に見られることもなく外に出て、裏門へ行ってみれば本来は閉じられているはずの門が開いていて首を傾げた。


「あれ?もう開いてる」

「昨日のうちに話を通しておいた」


どうやら裏門の管理をしてくれている守衛には既に話を通してくれていたらしい。

抜かりない人だなぁ。

常駐しているはずの守衛は今は席を外しているらしく、守衛室には誰の姿もなかった。

表門と違って整備はされているものの、見目好くされているわけではなく並木に覆われ少し薄暗い道の先を先輩と並んで見ている。


「いらっしゃるのはエアリス様とレリオ様ですか?」


到着を待っている間の雑談として私の予想を披露すれば先輩は隠すこともなく肯定した。


「そうだ。ソフィー嬢の一件で予想はついてただろう」

「ついてたというか、そうなのかなって思ってただけで。だからレリオ様も来るって分かったのは先輩が2人って言ってからです」


まさか2人も来るとはなぁ。

エアリス様とレリオ様はご兄弟の関係だ。

いや父である陛下の血をどちらも等しく受け継いでいるのだし兄弟なのは当たり前では?

なんて思われるかもしれないが、王宮での兄弟・姉妹の関係とは生まれの母によって分けられている。

つまりこの2人は母を同じとする兄弟ということになるわけだ。

ちなみに兄がレリオ様、マルクル先輩と同じ4学年。弟がエアリス様、私と同じ2学年だ。

同学年のエアリス様がいるので、もしかしたら同じクラスになるかもしれないことを考えると今から面倒で仕方ない。

レリオ様の方は4学年だし関わることは少ないと思うが。


「どうせならエアリス様のクラスも決めておいてくれたら良かったのに…」

「例えば、誰のクラスにだ?」

「プルーストですね。同年代で男の子同士ですし、何よりプルーストですから安心できます」

「それは否定しないが。なるべく全ての決定を直前にする、と言われているからな」

「うぁー、なんて面倒な…」


何個も大まかな計画を立てておいて、所々の決定を直前にすることによって行動を読ませにくいようにするとか何か理由はあるのだろうが…。

どんな計画にせよ学園からの関係者がマルクル先輩ほぼほぼ1人だったことを考えると、この計画には必要最低限の人数しか関わっていないような気がする。

そのため王宮側から必要なものは全て用意されているので、こちらが何かを用意する必要がなかったことが良かった事といえば良かった事かもしれない。

まぁこっちは何も知らされていないのだから、それくらいはしてくれないとね。


「まだ決まったわけでもないのだから、そう嘆くな」


マルクル先輩の慰めからは雑さが滲み出ていた。先輩は面倒に思ったりしないのだろうか?


「先輩は面倒に思ったりしないんですか?」


そのまま思い切って聞いてみる。先輩は道に先に向けていた視線を、ほんの少し外して私を横目で見た。


「面倒ではあるが、問題ない」

「はぁ…」


思わず気の抜けた返事をしてしまった。

問題ないってなんだ?自分の中の範疇に収まっているとか、そういうことか?

何にせよ先輩基準で考えれば世は並べて事もなし、って感じに捉えられそうだ。

もう前に視線を戻した先輩に倣って私も顔を前に戻す。

すると丁度良く道の先に馬の顔が見えて、段々と鮮明になっていく馬の後ろには馬車の本体が見えて来た。

馬の蹄が地面を蹴る音と車輪が擦る音が少しずつ大きくなっていき、やがて私たちの前でゆっくりと静止する。

馬車は全部で2つ。王族が乗っているにしては地味な見た目の馬車だった。

私たちの前に停まっている馬車の扉が開き屈強な男が降りて来る。

まさかこの人が…なんて疑う余地はなく騎士の格好をしていることから男が騎士であることは間違いようがない。

男に続いて中からもう2人の騎士が降りて来ると、私たちの前に進み出てマルクル先輩に握手を求めた。


「久しぶりですな。クラウス卿」

「お久しぶりです。ご健勝そうで何より」


先輩と握手を交わした後、私とも軽く挨拶を済ませる。

屈強な男は隊長らしく、今回の計画における警備などの大部分を担っている隊を率いている方らしかった。

隊長とマルクル先輩はどうやら顔見知りらしく比較的、気安く言葉を交わしている。

計画の段階で一緒の席にでもなったのだろう。


「殿下方をお連れ致しました。早速ですが、学園の方へご案内頂いてよろしいですかな?」

「それでは先にご挨拶の方、差し上げてもよろしいでしょうか?」

「ああ!これは失礼。では、お二方のもとへ参りましょう」


隊長を先頭に殿を2人の騎士が付いてくる。

私たちはそれに挟まれる形で後ろで停まっている馬車まで連れていかれた。


「いやー、この日を随分と楽しみにしておられましたからな。今も喜んでおられることでしょう」

「そうでしょうか。だと、よろしいのですが」


マルクル先輩と隊長は軽やかに会話を弾ませているが、私は前と後ろを帯剣した騎士に囲まれて何も悪いことをしていないはずなのにどこか居心地の悪さのようなものを感じていた。

内心では、私は何も持ってないですとホールドアップし続けている。

実際は静々と先輩の少し後ろを隠れてついて行っているだけなのだが。

傍に来ると隊長が馬車の扉を叩いて一言声をかけてから少し離れる。

カーテンが少し開いて誰かが外の様子を確認して、数拍あったのち中から扉は開かれた

先に出てきたのはカーテンの隙間からちらりと顔が見えていた方だ。

どうやら女性騎士だったようで髪は短く他と同じようにきっちりと騎士の服装を着こんではいたが、隠しきれない豊満な胸がその存在を主張していたので直ぐに女性だと分かった。

男装の麗人でもある女性騎士は隊長に素早く敬礼を行ってから、すぐ横に退いて軽く頭を下げた。


「足元にお気を付けください」


女性騎士が中にそう呼びかけると、王族に多いプラチナブロンドの髪に透き通るようなブルーの瞳の青年が姿を見せた。

ステップを踏んで降りて来た青年は地面に足を付けると腕を空へと思いきり掲げ体全体で伸びをする。


「いやー疲れた、休みたい」


これが第一声なのも致し方がないと思う。

馬車での王宮から学園までの行程には1日程の時間を要する。

何も休憩なしにここまで来たわけではないだろうが、長く馬車に揺られていたことは間違いないだろう。


「やっぱさ直接、馬乗ってった方が良かったと思うわ。気楽だし、早いし」

「我が儘言わないでよ、兄さん。皆が僕たちのこと考えて動いてくれてるんだから」


続いて出てきたのはハニーブロンドの髪色をした、どこか中性的な顔立ちの少年だった。

兄と呼んだ彼とはあまり似ておらず、同じブルーの瞳だけが彼らを兄弟たらしめる唯一の繋がりのようにも見えた。


「まぁまぁ、結局こうやって馬車に揺られてるわけだし。俺の提案は当分前に却下されたよ」


そこでマルクル先輩の方を見て笑みを浮かべる。


「そこのやつに」


唐突に話を振られたマルクル先輩だったが特別に何か反応を返すことはなかった。

相手もそれを気にすることはなく私たち、というか先輩の方に手を上げて気軽に声をかけながら近づいてきた。


「よぉ、久しぶりだな。今日から世話になるわ」

「久しぶり、というほどでもないが。まぁここでの生活を楽しんでくれ」


マルクル先輩も手こそ上げ返したりはしなかったものの、気軽な応対を返していることに内心で驚いていた。

まさか面識があったとは。それに、そこまで気軽に接せるほどの付き合いがあることにも驚きだ。

まぁこの計画の当人なわけだし、知り合っていてもおかしくはないのかな?


「兄さん、会ったことがあるの?」


どうやら少年の方は先輩のことを知らなかったらしい。兄に少し驚いた顔を向けている。

対する兄の方は「まぁな」と返しただけで先輩の隣にいた私に顔を向けた。


「そちらのお嬢さんは初めまして、だな。俺はレリオ・キングストン。こっちは」

「弟のエアリスです」

「お初にお目にかかります。ラファエラ・マルティネスと申します。以後お見知りおきくださいませ」


制服ではあるが自分でも惚れ惚れするような綺麗なカーテシーを保ちながら自己紹介をする。


「よろしく」

「よろしくお願いします」


2人のそれぞれの返事を聞いてからゆっくりと面を上げて内心でほっと息を吐いた。

良かった。何も粗相をすることなく無事に自己紹介を終えられて良かった

こういうのって一番、緊張するのは私の中では初めましてからの自己紹介のタイミングだったりするので何もなく乗り越えられたことで少しばかり緊張が解けた気がする。


「んじゃ次こっち」


レリオ様が今度はマルクル先輩に振れば、意図を察してマルクル先輩がエアリス様に頭を下げた。


「クラウス・マルクルと言います。ここでは生徒会長という役職についておりまして…」

「そうそう。とりあえず何でもできる奴だから、困ったことがあれば遠慮なく頼ればいいよ」

「えっと…」


レリオ様が先輩の言葉を引き継ぐ形で紹介に割って入ればエアリス様は少し戸惑いを見せて、自分の兄と先輩を交互に見ていた。


「そうですね。遠慮なく頼っていただいて問題ありません」

「分かりました、よろしくお願いします。あと、兄がすみません…」


エアリス様が最後に付け足した台詞にレリオ様が「えー」と不満げに声を上げていた。

一通り自己紹介が終わればここで立ち話をする気もないので早速、応接室までの移動を開始した。


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