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私がソフィーに聞きたいことはいくつかあるが今、一番聞きたいことはこれかもしれない。


『貴方も前世の夢を見ているの?』


ただ彼女が夢の中で見ていたものが前世の記憶だと確信できていない時点で、私がこれを直接聞くことはないだろう。

もし間違えていた場合、私が恥をかくだけなので。

そしてもし彼女が私と同じように前世を見ていたとして、私は…どうするつもりなのだろうか?

ただ答え合わせがしたいだけなのか、それとも…。

今の彼女にとって夢で見たものは、応接室での件を経て悪夢に成り代わっていることも考えられる。

それを掘り返すような真似をしてしまってもいいものかどうかも迷っていて何も整理がつきそうにない。

なので、まずは父との話し合いを終わらせる。

その暁に彼女と会うことが出来たならばおのずと答えが出るはずだ、と信じて。


「お父様。私、気になっていることが御座いまして今お聞きしてもよろしいですか?」


私はこういう駆け引きごとがあまり得意ではない。

父を含めこういうことに得意な人には何人か心当たりがあるが、そのスキルはどこで買えますか?

私の下手で遠回りな言い方に父は直ぐにでも何かを察するだろうが、返事を待たずに先に口を開いた。


「私に手紙を送ってくださった方がいるようなんですけれど、私からお返事がなく嘆いていらっしゃると風の噂でお聞きしまして」

「その風の噂とやらはプルースト伯爵のご子息のことかな?」

「…風の噂です」


あー、なんかすっごく速攻でバレたー!

多分バレたところでプルーストには何もないと思うけど、なんかごめんね!

とりあえず父からの追及には風の噂で押し通しておこう。


「それで、お父様。私に宛てられたソフィー嬢からの手紙が、どこへいったかご存知ありませんか?」


父は手に持っていたカトラリーを置くと口を拭いて、私に視線を合わせた。


「知っているとも、私が保管しているからね。後で全て渡そうか」

「…いいんですか?」


なんか思っていたよりもあっさりと認められて拍子抜けしている。いいんだ。

じゃあ、なんで隠したりしたんだろう?

私のことを思ってのことなのか、それとも他に何か理由があるのか。

ここまであっさり認めるのであれば隠す必要性があったのかどうかも疑問だ。


「何故、私に直接渡して下さらなかったのです?」


これにも父は特に誤魔化すようなことはせず、その訳を聞かせてくれた。


「手紙のことをラフィが知る必要はないと思ったから…いや、知られたくなかったの方が正しいかな。いずれにせよ知ってしまったのなら、無駄に隠すような真似はしないから安心してくれ」


父は一旦そこで言葉を切ると「先に食事を済ませてしまおう」と食事を再開させてしまう。

私も今はこれ以上、何も言えず止めていた食事を再開させた。

知られたくなかった…か。

それがソフィーの手紙の内容を見て、そう思ったのかどうかは後で分かることだろう。

何にせよ父のソフィーに対する印象があまり良くなさそうなことだけは十分に窺うことが出来た。

なんならソフィーと直接、対峙したことのある私よりも印象が悪そうだ。

私自身、彼女のことは苦手ではあるが特段嫌いだという訳でもない。

父がこんなにもあっさりと認めてくれることが分かっていれば、せっかくの夕食の席が気まずい雰囲気に包まれることもなかったのになぁ。

私の自業自得ではあるが、特に会話もないまま食事が早くに終わってしまったことに思わず眉を顰めた。

食事が終われば早速、父の居室にお邪魔して向かい合ってソファに座る。

グレタからお茶を出され部屋を出て行ったところで、改めて先ほどの話の続きをすることになった。


「その…お父様は何を知ってらっしゃるのですか?」

「私の知っていることは少ないよ。ただラフィが彼女との関係で少し煩わしい思いをしていたことは把握している」


印象の悪さにも理由があるだろうと聞いてみれば案の定、私とソフィーの関係を把握していると父は言った。

私からソフィーとのことを父に言ったことも、手紙に書いたことも一度もない。

何処からの情報なのかは定かではないが皆、独自の伝手とか持っててすごいなぁと感心するばかりだ。


「私がここに来た日の朝、ラフィに何があったのかを聞いたね?そこでラフィは怪我した日にあった出来事だけを述べて、彼女個人のことについてはを何も言わなかった」

「そう、ですね」

「その時点でラフィが彼女を責めるつもりが全くないと分かったから、彼女のことを遠ざけることにした。ラフィがそのまま彼女のことを忘れてくれるように」


父はその日にはもう、私がソフィーのことを気にしていることを察していたのか。


「勝手なことをと思うだろうが、今以上にラフィが傷つけられるような可能性は万が一にも避けたかった。それでも今、彼女の話を持ち出してきたということはラフィは彼女に会いたいんだね?」


私は父の言葉に無言で頷く。


「ふむ…いくつか確認させてくれるかい?ラフィの怪我は幸いなことに治癒の奇跡を必要とするほどのものではないね?」

「はい」

「そして彼女はラフィに対して良い感情を持っていないと聞いているけれど、これは?」

「はい。どちらかといえば、はっきりと嫌われているかと」

「それでも、会いたいと?」


父の再度の問いかけにも私は無言で頷いた。

プルーストの言葉を信じるのであれば、彼女は私に直接謝罪したいと考えてくれているらしい。

私にとって謝罪の有無はそこまで重要なものではない。

ソフィーが直接、私に会いたいと思ってくれていることの方が重要なのだ。

私も彼女と話がしたいと思って父とこうして対峙しているのだから、何度問われても何を言われても私の意思は変わらない。

父の無言の問いかけにも私は答えるように、じっと見返す。


「ラフィが勝手に、彼女に面会希望の手紙を送ることも出来たはずだね?どうしてそうはしなかったのかな?」

「それは…お父様が意味もなく私宛の手紙を隠すようなことはしないと、思ったからです。今日お話を聞いてみて、お父様が私のことを心配してくれてのことだと分かりました。でしたら私はお父様に認められたうえでちゃんとソフィー嬢に会いたいです」


父の言うようにマルティネス家を介さず、私が配達専門の魔物使いに直接お金を渡して手紙を任せればそういうことも出来ただろう。

ただこそこそと隠すような真似をして会うのは、何か後ろめたいことをしているようで違うと思ったのも確かだ。

そして今日、父が私とソフィーの関係を憂慮して手紙を隠したことも分かった。

なら余計に父に認められてからでなければ私の納得がいかない。


「そこまで言われてはね…分かったよ。ただし条件は付けさせてもらう。これを守ると約束してくれるならば彼女に会うことをこれ以上、引き止めるようなことはしない」

「ありがとうございます!」


認められたという事実に私の緊張して強張っていた顔に自然と笑みが浮かんだ。

父も優しく笑ってから、また真剣な表情に戻って私に条件の内容を話した。

一つ、二人きりの状況を避け、必ず第三者の目があるようにすること。

二つ、ソフィーとは一定以上の距離を保つこと。それ以上は近寄らない。

三つ、父の指定した場所以外での面会は認めない。

四つ、時間は1時間きっかり。それ以上は1分、1秒でも超えることは許さない。

五つ、ソフィーに絶対、怪我を治させないこと。

以上、五つを守れるのならば直ぐにでも会えるように手配してくれるとのことだった。

私は何れにせよこの条件を飲まなければ父に認められたうえでソフィーに会うことが叶わなくなるので、私は全ての条件を承諾した。


「それにしても何故、怪我を治してもらうのはダメなのですか?確かに私は治してもらうほどのことはないですけれど…ソフィー嬢の力は本物ですよ?」


私の素朴な疑問に父は薄く笑みを浮かべた。


「あぁいや、別にそこは疑っていない」


その表情のままで、ただ声色だけは温度を無くしていた。


「本物とかそういうことはどうでもいいんだ。ただ私が彼女のことを信用していないだけだよ」


私に対して向けられる穏やかな笑みに似合わぬ冷え切った声色にそれが私に向けられているわけではないと分かっていても冷や汗を滲ませた。

そんな父に私は「そうでしたか」と少し固い声で返すことしか出来なかった。

相当に腹に据えかねているらしい、父の様子にもし私がソフィーのことを何か言っていれば父は彼女に何をしたことか…想像だけで震えが走る。

口は災いの元とはよく言ったものだな。なにも言わなくて本当に良かった。


「君には酷なことを言っているように聞こえるかもしれないね。でも、どうか分かってほしい。先の五つを守ること、もう一度誓ってくれるかい?」

「ええ、誓います」


父は私の誓いを信じて頷いてくれた。

部屋から出る前、父からソフィーの手紙を3通受け取る。

ソフィーへの手紙の返事は父が今夜中に送っておくというので、私は待っているだけでいいことになった。

部屋に戻る途中、傍に控えてくれているグレタが少し顔を伏せているようでいつものきびきびと歩く姿とは違う様子に内心で首を傾げていた。

自室に入る前にグレタの方を振り返って「どうかした?」と聞いてみる。

グレタは少しの間を要した後、私の問いに静かに答えた。


「お嬢様、申し訳ございません。旦那様のご命令とはいえ、仕える方に隠し事をするなど…」

「気にしなくていいのよ?お父様に従うのは当然のことだし、グレタにはいつも十分にお世話になっているもの」


私のフォローにもグレタの表情はどこか冴えない。

何も間違ったことはしていないのだからグレタが気にする必要は何もないのだが、これを気にしてしまうのがグレタがグレタたる所以といったところか。


「そうねぇ…グレタ。今度、グレタの作ってくれたクグロフが食べたいわ?他にもキルシュトルテにチーズケーキも」

「お嬢様?」

「私グレタの作ってくれるお菓子が大好きなの。だから今度、私が満足するまでいっぱい作って頂戴。そのお菓子でお茶会を開きましょう」


そうだ、お茶会には生徒会の皆を呼ぼう!今回の諸々のお礼をするのに丁度いい。


「他の人も呼ぶから、その時に自慢できるくらいとびきりの美味しいものを作ってね!それで許すわ!」

「…畏まりました。お嬢様の望まれるもの、私が責任をもって全てお作り致します」


別に罰したいわけではない。

でもそれではグレタ自身が自分を許せないまま、日々を過ごすことになってしまう。

ならこちらから適当に何か用意してあげた方が事は丸く収まるものだ。

グレタ私の言葉に僅かながらに笑みを浮かべ「それでは、お嬢様。お休みなさいませ」と綺麗な角度で頭を下げる。

私が部屋に入って扉を閉めるまでこのままだろうことは分かっているので、さっさと入って扉を閉めた。

自室でソフィーから送られてきたらしい手紙に目を通す。

どれも開けられている様子はなく学院の封蝋が捺されていることから、彼女が今どこにいるのかが少し予想できた。

彼女の字は初めて見たが、書き慣れていないことが窺える少し下手な文字だった。

謝罪から始まり許されるならば私の怪我を治したいこと、また直接謝る機会をくれないかという嘆願が拙い文章で綴られていた。

二枚目も三枚目も似たような内容だったが、どれも今までのソフィーからは考えられないような手紙の内容だ。

もしかして影武者が書いてるとか?

疑ってしまうが、それはまたソフィーと会えれば分かることだろう。

手紙は今まで貰った手紙を全てまとめてあるボックスの中に丁寧にしまって、大人しく父からの報せを待つことにした。


予定日が決まったと言われたのはそれからまた2日後だ。

朝食の席で父から知らされて、私は真っ先に「いつですか?」と聞いてしまった。


「明日の昼過ぎに来るようだから、私が出した条件を覚えているね?」

「勿論です!ご安心ください」


明日の昼過ぎ。場所は、この屋敷の裏庭にある東屋。

いよいよかと考えると楽しみなような怖いような気持ちが半々で、私の心拍数を僅かに上げさせた。


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