表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/112

32


予定よりもだいぶ遅れてしまったが無事、生徒会室に戻ることが出来た。

中にはマルクル先輩以外にも二人、アンドリ先輩とリュドミラ先輩が増えていて私たちのことを出迎えてくれる。


「お帰りー。二人で来たのー?」


アンドリ先輩の言葉に私たちはそれぞれ頷く。

マルクル先輩は私たちが戻って来たのを見た瞬間から立ち上がって扉の方に歩いて来ていた。

私たちの持っているバスケットをどちらも受け取るとソファの方にある低い机にそれを置いて、私たちに声をかける。


「遅かったが何かあったか?」


うーん…。食堂であったことを素直に白状したものかどうか迷って、イリーナと視線を合わせた。


「いえ、イリーナに助けてもらったので大丈夫です」

「です、です!」


結局、私が伏せたのでイリーナもそれに力強く同意してくれた。

イリーナに助けられたのは本当のことだし、まぁ今くらいはマルクル先輩に苦労を掛けるものじゃない。

私たち二人分の視線に見つめられたマルクル先輩がそれ以上、追及してくることはなかった。


「クラウスは今のうちに休憩しなよー。お前、自分の部屋に戻ってもなんかやってんの知ってるからなー」

「お望み通り休んでやるからそこを退け」


一人用のソファに座っていたアンドリ先輩を追い出すと、マルクル先輩は遠慮なくそこに座る。

追い出されたアンドリ先輩はブーイングをかましながらもリュドミラ先輩の隣に直ぐ、座りなおしたのでもとからこだわりはなかったのだろう。

ソファは先輩たちで埋まってしまったので私たちは近くの椅子を引きずって来てそれに座った。

今いる全員で低い机を囲むと、バスケットを開けて中にあるサンドイッチを一口いただく。

もしかしたらと、役員全員分頼んでおいたカップは現在5つが使われリュドミラ先輩が美味しい紅茶を注いでくれた。


「ところで、マルクル先輩が見ていた書類って何ですか?」


マルクル先輩が生徒会室に来て早々、処理しなきゃならないような書類はなかったと思うけれど。

そこまで業務に切羽詰まっていることもなく、問題はなかったはず…とちょっと心配になって聞いてみる。


「あれは別の関連のものだ。他のことはお前らがやってくれているから問題ない」


成程。でもそれは本当に、現在お疲れ中なマルクル先輩一人にしか出来ないものなのだろうか?

微妙に納得しきれていない私にアンドリ先輩はリュドミラ先輩の入れてくれたお茶を飲みながら、代わりに言葉を付け足した。


「一人で出来ることはやっちゃう奴ってだけだから気にしなくていいよー」

「クラウスは秘密主義なところがあるものねぇ。どうかと思うわよぉ」

「なんなんだお前らは…」


マルクル先輩は足を組んで二人からの言葉を気まずそうに聞いていた。

実をいえばこの三人、幼馴染の関係にあたるので遠慮ない言葉を浴びせかけるのも、容赦なく言えるのもひとえに幼少のころからの付き合いがあるからだろうと思う。


「ま、午後の授業まるごと潰して時間取ってるんだし今くらい気ィ抜いたらー。押し掛けてきても俺が応対してやるよー」


わざと押しつけがましくしているアンドリ先輩を無視してサンドイッチを食べるマルクル先輩。

私としては押し掛けてこないことを祈るが、あの感じだとそれもあり得るか…。

いやいや、私が考えると現実になりそうだからやめておこう。

具体的にはプルーストが来るまで休憩となり、お昼ご飯を頂きながら何かと盛り上がっていた。

主にアンドリ先輩が遠慮なく、マルクル先輩にソフィーの話を聞いて。


「普段どんな話してんのさー?」

「さぁ。あれは何を話しているんだろうな」


マルクル先輩、さては全く話を聞いていないのでは?


「あらクラウス。女の子の話にはちゃんと耳を傾けないとだめよぉ」

「いや、普通の話であれば聞いてはいる。が、少し理解不能なところも多くてな…」


理解不能なところ、か。私としても彼女が話していることは、理解できないことの方が多い。

先輩は少し言い淀むと口に手を当てて何やら深く思い出しているようだった。


「あれを彼女は、自分の夢の話だと言っていた」

「夢、ですか?」


夢、というと将来の夢とかそういう話だろうか?

それを学生の男女二人が語るのは何の問題もないように思うが、先輩が言い淀んだからには何か問題でもあるのだろうか?

余程に突飛な夢を語ったのか、それとも実現性の低い夢だったのか。でもそれが理解不能とどう繋がる?

私が聞き返した後、先輩はまた少し黙ってゆっくりと言葉を続けた。


「ソフィー嬢の夢の中では将来、俺と彼女は幸せな結婚をするらしい」


は?将来?幸せな結婚?

「「「えええぇぇぇぇっ?!」」」


驚きに声を上げたのは私とイリーナとアンドリ先輩の三人だけだった。


「あらぁ、女の子にとってそれはさぞ素敵な夢でしょうねぇ」

「勝手に巻き込まれる俺はたまったもんじゃないがな」


なんでそんな淡々としていられるのか…。

イリーナは顔を真っ赤にして指の隙間からマルクル先輩を窺い見ているし、アンドリ先輩なんかは大爆笑だ。

私は声も出ないまま、ぽかんと口を開けてマルクル先輩を見ていた。

夢っていうから、もっと健全なものを想像していた分に超ド級の爆弾でも落とされたかのような衝撃具合だ。

ちょっと余りの衝撃具合に記憶が薄れかけているがもう一度、記憶を反芻してみて思わず表情を歪めた。


「そんで彼女、他になんかいったの?」


笑いの波が引き切らないうちにアンドリ先輩が、さらなる笑いの種としてネタの提供を要求する。


「なんでも他にも男が出て来て、それと愛を誓う合うこともあるだとか」

「あはははははっ!なんだそれっ!」

「でも彼女の中では既に俺と運命で繋がれているそうだから心配しないで、と言われたが…一体なんの心配なんだろうな?」

「そんなん俺にもわかんねぇよ!あはははっ!」


アンドリ先輩なんかは笑いすぎて「腹痛いっ」とお腹を抑えてソファに蹲っている。

ソフィーの夢はある意味で将来の夢ではあったが、おそらくマルクル先輩が言っているのは寝ている時に見る夢のことだろうと思う。

その夢の中では彼女とマルクル先輩は将来、結婚して?他の男性とも結ばれる可能性があると?

なんとまぁそれは、仮に将来の夢だったとしても突飛で実現性の低い夢だこと…。

そこで彼女の過去の発言を思い出した。

もしかして彼女がまだ決定もしていない段階の王族の一時編入の件を知っていたのは、この夢が原因だろうか。

私たちすら姿の知らない王族の方が夢の中に現れて、その方が自分のことをエアリスだと名乗ったからこの学園に来るのを知っているとか?なんだそれ?

彼女の夢の中の設定でエアリスという名前の人物が居てたまたま王族だったと言われた方が、まだ納得がいく。

それにしては、謎の確信に満ち溢れているので怖いのだけれど。


「ねぇねぇ、すごいね!結婚だって!」


イリーナがいまだ赤い顔をして私にこそこそと耳打ちする。


「…えぇ、すごいわね」


少し思考の海に没入していた私はワンテンポ遅れてその言葉に同意した。

ただ私の思っている“すごい”と、イリーナの思っている“すごい”では意味合いが少し異なるだろうが。

何を考えたら夢で見ただけのことをマルクル先輩本人に語れるのか、私にとってはそれが一番分からなかった。

それも他の男性との関係を仄めかすようなことまで…。

例えそれが現実ではないにせよ不誠実を感じるのは私だけだろうか。いや、もしかして嫉妬が目的とか?

いずれにせよ、その度胸だけは感服に値するのではないだろうかと思う。

そこで扉にノックがあって私は少し固まった。

噂をすれば影…ということはなく、「失礼します」とプルーストの声があってから扉が開かれた。


「わ。なんで皆こっち見てるんですか?」

「いやー気にしないでー」


あまりのタイミングの良さに皆よもや、と思って扉の方を見てしまっていたので入って来たプルーストは皆の視線が自分に集まっていることに少し驚いたようだった。


「それにしても、ジャコブ遅いよー」

「え、遅かったですか?」

「いや遅くないな」

「どっちですか…」


アンドリ先輩とマルクル先輩、それぞれの矛盾した発言に翻弄されているプルーストは肩を落として鞄を置くと空いているイリーナの隣まで椅子を引いて来て座った。


「今めっちゃ面白い話してたんだぜー!聞きたいか!」

「いやぁ…」


リュドミラ先輩はプルーストの分も早速、お茶を淹れるとカップを手渡していた。

それを礼と一緒に受け取りながらアンドリ先輩の絡みを曖昧に笑って躱すプルーストではあったが、アンドリ先輩はそんなことお構いなしだ。

ただプルーストが来たことだし丁度、昼休憩の終わりを知らせる鐘の音も鳴ったことでマルクル先輩がアンドリ先輩を止めた。


「その話は後にしろ。そのままでいいから、始めるぞ」


そのままでいいと言われたので全員、今の位置から変わらず今日の目的でもあるソフィーの転校に関する会議が始まろうとしていた。


「今日集まってもらったのはソフィー嬢の転校までの具体的な日取りが決まったからだ」

「いえーい待ってましたー」


マルクル先輩に拍手を送るアンドリ先輩のその気持ちは理解できないでもないが、私はお茶を飲んでそのノリに流されないように気を付けた。

マルクル先輩は懐から取り出した手紙を机に滑らせて中央に置く。

皆の視線が手紙に集まるのはこの流れでは自然なことだろう。私もその例に漏れず、既に開けられている様子のある手紙を見つめていた。

形を崩さず綺麗な状態で残っている封蝋には学院の紋章が捺されており、何処からの手紙であるかは明らかだ。

アンドリ先輩が代表して手紙を手に取り中から上質な紙を数枚取り出すと「この度は…」から始まり上品に並べたてられた遠回りな文言を声に出して最後まで読んでいく。

読み終えたアンドリ先輩の言葉を、ぎゅっとして要約すると『ソフィー嬢の入学を許可する』になる訳だ。


「で、詳しい日取りはー?」


そこで2枚目に手紙は移り、今度は無言で読み込んだアンドリ先輩は明るい声を上げた。


「次の休み明けには、もうソフィー嬢を迎えに来る馬車が来るそうでーす!」


素早く残りの手紙に目を通したアンドリ先輩は全ての手紙を見れるように机の上に並べてくれたので、私も遠目から手紙の内容に目を通した。

予定時間や迎えの人数、必要な書類の用意などの転校に関することが詳細に書かれている。


「無事に決まって良かったですね」

「本当にな」


5の暦に差し掛かるかと思われていたが、これであれば4の暦のうちに事態は収拾することだろう。

マルクル先輩の頑張りを労わると感慨深げに私の言葉に頷いた。


「詳しくは決まったが今日中に各種、書類を揃えておきたい」

「これ外まで出ないと駄目な奴だなぁ。んじゃ、ちょっくら行ってくるわー」

「私もついていくわよぉ」

「やったー!リューダとデートだー!」

「頼むから先に書類を貰ってきて届けてくれるか?」


本来、転校となれば家族の方にそれらの書類を用意してもらうものだが今回はこちらで全て用意してしまう。

その方が早いし確実なので、実際にソフィーの肉親や一時保護者に知らされるのは学院に入学する段階になってからになるだろうか。


「これだと学院の方たちの迎え役が必要ですね。私がやりますよ」

「任せる」


予定通りの時間に来てくれるだろうが、実際に来られる前にはソフィーを呼び出しておかねばならない。

その場にマルクル先輩が居ないことはありえないし、私がその場に長く存在しているのも遠慮したい。

だから進んで、迎え役を買って出た。


「じゃあわたしは、職員室に行ってきます!」

「僕もデレルについていきます」


着々と進んでいく準備は何の問題もなく進んでいく。

誰の邪魔も入らないまま、放課後までに全ての用意が終わるとマルクル先輩は生徒会室を出てソフィーのお守に戻ってしまった。

うーん、なんというか…。あまりにも事が順調に進みすぎて、これが嵐の前の静けさって奴なんだろうかと疑ってしまう自分がいる。


その日の夜、今日も今日とて変わらない時間にベッドに入る。

すやすやと健康的に寝入る私は、最近では珍しくない前世の記憶を夢に見た。


『それ、何見てんの?』


夢の中で私は、スマホを横に持ち画面を楽しそうに見つめる友人に漏れ聞こえる音の正体を聞いた。

イヤホンを使わず音を小さくして動画を見ていた友人はスマホの画面を私に見せやすいようにしてから、また最初から動画を再生する。


『これ今度出る新作の乙女ゲーでね、絵が超好みなの!』

『へー』


その時の私は乙女ゲーとは?と首を傾げていたので適当に返事したのがばれて友人に懇切丁寧に説明を聞かされた。

乙女ゲーム、とは。ヒロインとなる女主人公を通して、攻略対象と言われる複数の男たちとの恋愛を楽しむゲームらしい。

他にも説明されていたが然程、興味のなかった私は聞き流していた。

その後、今度は画面に戻って『この子が今のとこ最推しでぇ』と話が続き『他にもこれが超神作でね!』と止まらないトークに、首を突っ込んだことを後悔している最中ゆっくりと意識が遠のいていき…。

ふっと目が覚めた。静かにベッドから起き上がり流れるように頭を抱える。


「うーん?えぇぇ?…」


一人のヒロインが複数の男性と恋愛する過程を楽しむ…一人の女の子が複数の男性と愛を誓いあう…。

あれぇ?なんか似てないかぁ?

この考えをどう受け止めたものか分からず、私は抑えた声で混乱のままに意味のない言葉を紡いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ