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定期考査も無事…と言っていいかどうかはさておき、終わりを迎えたその日の夜。

いつもの周期と変わらずに届いた父からの手紙をグレタから受け取り目を通していた。

内容もいつもと変りなし。元気にやっているそうな父に笑みを浮かべ早速、手紙を返そうと新しいレターセットを用意して万年筆を手に取った。

今、学園で起こっている騒動やソフィー関係のことを父の手紙に書いたことは一度もない。

ただでさえ過保護気味な父に無駄な心配をかけたくはないし、何より私に直接の被害があるわけでもないので教えることはないだろう。

私も相変わらずです、と当たり障りのない部分だけを書いていれば自然と生徒会での出来事が多くなってしまった。

もちろん箝口令が敷かれている件については言っていないけれど。

最後に「お体にお気を付けください」と書いて締めくくり手紙を完成させた。

これは明日にでもグレタに預けておこう。考査明けだからと言って自主勉強をサボることはなくしっかりとやってから眠りについた。


定期考査が明けたその日からマルクル先輩はもう動いていた。

ソフィーを完全に自分の庇護下に置いたことを知らせるためか昼休みに私の教室を訪ね、自分からソフィーに声をかけ少女漫画が如く颯爽と連れ出していった。

やってることは歓迎会の話を聞きに来た時とそう変わらないはずなのだが周りの反応が何故か桁違い。

前回と何か違ったかなぁ?


「マルティネス様!何か、何か訳がおありなのでしょう!」


これも前回のように何か理由をと縋られたが生憎、今回は何も考えていなかった。

私が曖昧に笑って「申し訳ありません」と肩を下げたので周りはより阿鼻叫喚の大地獄。

彼女たちに限らずソフィーの試験での一幕を知る者は選ばれた教員数名と私たち生徒会のみ。

この件も箝口令を敷かれ訳を話すことも出来ないので、今回ばかりはうまい言い訳が思いつかなかったのだ。

無駄かもしれないが精一杯フォローだけはしておこう。

どうどう抑えてはみるがマルクル先輩の目的としてはソフィーの好意を利用して疑似的にでもそういう関係に見せること、なのだと思う。

このやり方は逆にやっかみが増えるのではという懸念は勿論、あるだろうがマルクル先輩がそこらへんうまくやるだろ。

それにしても、ものすごく自分を使った作戦に私としては感心するばかりだ。そういうのって自分に自信がなければ出来ないことだからね。

さて皆そろそろ嘆き続けてて疲れてきてたりしない?お昼だしご飯食べにいこうよー。


今回は前回と違い昼休憩が終わる少し前にソフィーは教室に戻って来た。

最近は刺すように見るだけだったのに今日はなんだか呪詛が聞こえて来るなぁ。これってマルクル先輩だけで抑えられるのか心配になって来た。

もしかしなくとも、これから視線以外に呪詛が吐かれ続けるのを短くとも15日間聞き続けなければいけないのかと考えたら今から軽くノイローゼ気味です。

もう、こうなったら徹底的に無視しよう。

私は何も見ていない聞こえていない。先輩には近寄るなとも言ってあるしソフィーだって好き好んで私に近づいてくることはないだろう。

そう思っていた時期が私にもありました。


「マルティネス様!クラウス様から聞きました!私、なんだか勘違いしちゃってたみたいですね。これからは仲良くしましょう!」


アウトー!発言の節々がアウトー!

彼女、何を血迷ったのかマルクル先輩が何か言ったかは知らないがあろうことか私に話しかけてきやがりましたよこんちくしょう!

なんだ勘違いって、私が主犯だとか思われてた件か!もう終わったことだからいいよー!

それと何故、ちょっと上から目線なんだ君は!私これでも侯爵家ぞ!

爵位を鼻にかけたいわけではないが平民の彼女が侯爵家の私に気軽に話しかけてくること自体、間違っていると言わざるを得ない。

満点なのはどうしても場違い感が否めない彼女の笑顔のみか。美少女という言葉に違わぬ大輪咲き誇るとても良い笑顔だ。

ならば私もとくとご覧に見せようではないか!

これまでの人生で培ってきた素晴らしきパーフェクト淑女スマイルを!


「まぁ嬉しいわ!是非ともソフィー様と親しくしたかったの!私からもよろしくお願いいたしますわ」


口から出まかせ。心にもないことをほざく自分の口が恨めしい。

薄っぺらぺらな言葉であることなど誰も気づくことはなく私の返答に、より笑みを深くした彼女は可愛らしく手を打った。


「ありがとう!私、貴方にこそ相談したいことがあったんです!」


私の言葉を素直に受け入れて、あろうことか相談とやらを持ちかけて来た。

そういうのってもうちょっと親しい間柄になってからじゃないと重いとか思われるんじゃないかな?

そもそも彼女から相談されるっていう状況が訳わからなさ過ぎて怖いよー!


「私に相談?何かしら?私に解決できることならばいいのだけれど…」

「じゃあ早速!クラウス様って好きな人はいらっしゃるの?」


その言葉に私の完璧な淑女スマイルが凍った。

耳をそばだてていた友人たちも心なしか固まっている気がする。

はー!そんなもん知るかー!

それこそマルクル先輩に直接聞けよとは思うものの、決して口には出さなかった。

さて、どう答えたものか…内心で揺れる選択肢にどうするのかとても迷っていた。

ソフィーの発言は現在、気になる殿方に意中の相手がいらっしゃるかどうかを聞いたもので「いる」も「いない」も言ってしまうのは簡単だ。

ただ「いる」と答えた場合、ソフィーと周りで耳をそばだてている友人たちとに収まらないほどに被害が拡大しそうで「いない」と答えた場合、彼女からの猛アプローチを受けてあらゆる行動が制限されるのは先輩だ。

被害の規模を考えると無難に「いない」と答えるのが正解だろうが、即答がし辛い内容に神の助けが舞い降りた!

昼休憩の終わりを告げる鐘が鳴って私は至極残念そうに眉を八の字に下げた。


「ああ!申し訳ありません、もう授業が始まってしまいますわね!この話はまた今度にいたしましょう!」


ソフィーの返事を聞く前に私は「さぁさぁ!」と周りの友人たちに声をかけ、その流れでソフィーも力技で追い返す。

実際もう五分もしないうちに教師が来て授業が始まるので彼女たちは渋々ながらも大人しく自分の席に戻っていった。

さて私はこの授業が終わり次第、ソフィーに捕まらないように逃げよう。

休み時間の度に逃げて放課後は速攻で生徒会室に逃げる!私は今、そう心に決めた!

私の固い決意の裏は、まさかの休み時間に休むことが出来ないことに地団駄を踏みたいような気分を抱えていた。


なんとか休み時間の度に逃げることが出来たので私は無事です!

放課後になればいつもは友人と優雅に別れを言い合うところだが、今日に限り私は「用事がございますのでー」と言いながら足早に教室を出た。

よしソフィーに気取られる前に生徒会室に一直線だ!

今日ばかりはノックもなしに生徒会室の扉を開けた。素早く入って何人も立ち入れぬよう中から鍵をかけてから私の心に平穏が訪れた。


「どうして鍵を掛けたんだお前は…」

「あれ?先輩いたんですね」


てっきりいないものかと思っていたマルクル先が生徒会室にいて今更ながら驚いた。

そういえば、扉の鍵開いてたな。

先輩はソフィーの件でなにかと忙しくしているもんだとばかり思っていたので、放課後にここに来ることもしばらくは少なくなるかと考えていたのだが。


「さすがに鍵は開けておけ」

「ダメですよ、危険ですよ、危ないですよ!」

「何がだ」

「不審者とか不審者とか、おうちに帰ったら鍵かけないといけないです!」

「ここは家じゃないが?」


まぁまぁ、今日は鍵かけときましょうよ。嫌な予感がするんですよねぇ。


「ところで先輩、一つお聞きしていいですか?」

「…何だ」


マルクル先輩が流されてくれたので、そのまま思い出すことのないように私を一等に悩ませた難題を先輩にぶつけてやろう。


「ぶっちゃけ先輩って好きな子とかいます?」

「…」


これには流石の先輩も絶句。

なんというかもとから無表情だったくせに表情を無くなるというか、色彩が欠けてしまったような先輩の表情にそこまで嫌かと逆に驚いた。ちょっと傷つきました!


「…お前と恋愛話をする気はない…」

「いや私もしたいわけではないですけど…」


これには海より深く山より高い訳があってですね…。

やはり経緯を省くのは良くないな。多少時間はかかるが何故、先輩にその質問をするに至ったかの詳細な説明を懇切丁寧に語ればマルクル先輩は薄く嫌そうな表情を浮かべた。


「というわけで、私が気になっているとかではなくソフィー嬢が気にしてらっしゃるのでどう答えるのが正解か教えて頂きたく」

「そうか。それはまた…面倒なことを聞かれたな」


マルクル先輩は思案顔で何やら悩んでいる様子。どう答えるにしろ先輩の答えには塵ほどの興味はあった。


「で、どうなんです?」


すっかり黙りこくって考える先輩は伏し目がちになって何を考えていることやら。

数秒とも数分ともつかぬ時間が流れ、ふいに顔を上げると私と視線を合わせた。


「いない、と言っておいてくれ」

「分かりました。次にまた聞かれるようなことがあれば、そう答えておきます」


先輩の視線から逃れるように私は目を逸らして自分の席に座った。


「実際のところはどうなんです?」


少し気になったので話の流れついでに聞いてみれば先輩は盛大に眉間にしわを寄せて私を睨んだ。

そこまで嫌か、コイバナは。

マルクル先輩程のお人であれば浮いた話の一つや二つや三つ…と考えたところで一年の頃に密かに出回っていたある噂を思い出した。


「そっか。先輩…私そういうの気にしませんから…」

「待て、何の話だ」


私の曖昧な物言いに少し慌てて反応する先輩に、私はさらに目を逸らし頬に嫋やかに手を当てた。


「先輩が、その…男色だってうわ「お前それどこで聞いた」


先輩のいつにない反応の速さに面白くなってきて上がる口角を見られないようにさらに顔を逸らした。

声だけは笑って震えないように抑えるのに必死だ。


「私が一年の頃に聞いた噂ですから。出処は分からないですね」

「…やっぱあいつ殺すか…」


なんか先輩がぼそっと怖いこと言った気がする。

実際、私が一年の頃に聞いた噂はマルクル先輩に既に思い人がいるという噂が8割。

後の2割が男色だって噂だったので、なかなかに少数派の噂ですしあまり気にしなくていいと思いますよ。

先輩のあらぬ噂で煽っているうちに鍵の開く音がしてプルーストを先頭に皆が一斉に顔を出した。


「あれ?二人ともいる」

「鍵掛かってるけど、どうかしたー?」


マルクル先輩と二人して鍵のことをすっかり忘れていたことを思い出した私は「あはは…」と乾いた笑いを漏らす。


「こいつのせいだ。俺は関係ない」


あ、先輩に押し付けられた!いやまぁ私が悪いのは確かなんだけれど。


「なんかよくわかんないけどもう一回かけとくわー」


全員、中に入ったところでアンドリ先輩が面白がってまた中から鍵を閉めた。

マルクル先輩はもうどちらでもいいようで特に突っ込むこともなかったので鍵はそのまま掛けられた状態になっている。

私としては今日ばかりは、そのままの方が有難い。

こんなこと言うのもなんだが巻き込まれ体質の私が嫌な予感を感じているのだし、確実に何か起こることを予言しておく!

自分で言っててなんだが、悲しい予言だ…。


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